祝杯と神鳴
今回もかなり会話多めです。
誰と誰が話してるのか分かりづらいです……頑張って読んで下さい。
闘王祭が終わり、夕暮れ時……
俺達は、王国ギルド本部内に設置されている酒場コーナーにて祝杯をあげる。
いつもなら色々なギルドの奴等で賑わう場所だが今日に限っては違った。
この日だけは、闘王になったギルドの貸し切りとなるのだが、俺達は5人しかいない。
広いギルド本部なので、なんか勿体無いという話になり、俺達は知人を招待した。
先ずはギルドの受付嬢の皆さん……なんだかんだで、この1ヶ月間依頼を斡旋してくれたように思う。
普通にお世話になってるから感謝の気持ち。
続いてギルド【風林火山陰雷】の6人……色々あったが彼らと予選で競えたのは楽しかった。
トーマスの爺の孫のエルガーは少し気不味そうにしている。
それと、王院生の4人……カルラくん、ルナちゃん、ザナードくん、ファナちゃんだ。
他の子達は気後れしてか、来たのはこの4人だけ。
おまけは……メイちゃん、イエロースライム、メイちゃんのお母さんでもありザイルのおっさんの美人奥さん、レイナがお世話になった店の店長、訛りが凄いアイナさんの彼氏だ。
それとサクヤさん、キョウ、ユイが知り合った人達も何人かいる。
で、最後がギルド【拳武】の精鋭15人……勿論、闘王の部に出たメンバーも込みだ。
負かされた相手の誘いなのに快く来てくれた。
だったのだが……
「なんでいんの?」
「……俺は呼ばれたから来ただけだ」
「も、申し訳ありませんリュート様……お邪魔でしたか?」
「いや、ミラの事を言ったんじゃないんだ……」
眼前に立つ英雄と守護神……
ミラは兎も角、なんでこいつが……
英雄は入り口にて出迎える俺を威圧的に見下ろしてくる。
俺達は睨み合う。
「今日はまだ我がギルドの一員だ。そう邪険にしないでくれ」
「ミロクさんがそう言うなら……」
エンマとミラの後ろから現れたミロクさん。
これで招待した人達は全員揃った。
3人は俺を通りすぎながら中へと入っていく。
「安心しろ……何もする気はない」
エンマは小声でボソリと呟いた。
まぁ……いいか。
何かしてきたらまたぶっ飛ばすだけだ。
俺は外を見回すと、ゆっくりとギルドの扉を閉めて、皆のいる方へと進んだ。
◆
沢山の丸テーブルの上には庶民的な物から高級そうな食事が所狭しと並べられていた。
飲み物もリィンゴのジュースからお酒まで幅広く取り揃えられていた。
皆はそれぞれ丸テーブルを囲むようにして、各々飲みたい飲み物を片手に持つ。
そして全員の視線が一人に集められる。
「え~ごほん……それでは無事、闘王祭が終わった事と勝利を記念して乾杯したいと思う」
サクヤさんはお酒が注がれているグラスを片手に、咳払いを1つした。
緊張からかほんのり顔が赤みを帯びていた。
「俺達は敗けたけどな!」
笑いながらデリカシーのないオッサンが野次を飛ばす。
ぶっ飛ばしてやろうかと思ったが、奥さんに叩かれていたから許してやろう。
「それはすまなかった……我々は王国に来てまだ日が浅い……自分達だけでは、折角用意してくれたココをもて余すと判断し、招待させてもらった次第だ」
サクヤさんは真面目に返す……
ザイルのおっさんだけではなく皆、ポカーンとしている。
キョウとユイは俯いて恥ずかしそうにしている。
すると誰かが吹き出したのを皮切りに皆が一斉に笑いだした。
「最高だぜアンタ!」
「ボケをボケで返すとかやるな!!」
「サクヤさん……素敵だ……」
「やれやれ、馬鹿に付き合って差し上げるとは……」
「おぉい! そりゃ俺の事かガイス!!」
「貴方以外に誰がいるのです?」
「上等だ……」
「ちょっと、止めてよアナタ! こっちが恥ずかしいでしょ!」
「パパ……馬鹿なの?」
「なっ……」
等々……
もうね……
既にどんちゃん騒ぎ……
まだ乾杯すらしてないのに……
「む、なんかよくわからんが取り敢えず…………ギルドに乾杯!!」
サクヤさんはグラスを持つ手を高々と掲げた。
「「「…乾杯っ!!!!」」」
皆も一斉にグラスを掲げた。
「竜斗様」
「レイナ?」
いつの間にかレイナは俺の横に立ち、少しだけグラスを俺の方に向けてきた。
ま、いっか……
飲み会なんてこんな感じだろ……多分。
「……乾杯」
「はい、乾杯」
俺とレイナは小さく互いのグラスを当てた。
超絶うるさい中、何故かグラスを当てた時の綺麗な音がいつまでも耳に残った。
◆
~1時間後~
ギルド本部はまだ飲めや歌えやの大騒ぎ……
だが徐々にだがその数を減らしていった。
受付嬢の何人かや、拳武の主要ではないメンバーも何人かは既に帰っている。
他にも……メイちゃんなんかは既に眠っており、母親に背負われながら家へと帰る。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、久しぶりじゃの~ミランダ王妃」
「止めてください師匠……ここではただの客人ですので」
「何をいう……それに儂の方こそ今はただの隠居爺……師匠は止めぬか」
「隠居した人には思えませんが?」
「ホォーホォッホォッホォっ!」
「ね、ねぇねぇ、あそこ英雄エンマ様が……ハワワッ」
「ほ、本当だ……あ、挨拶した方がいいか?」
「やめた方がいいのではザナードさん……静かに飲んでおられる様ですし……」
「た、確かに……ああでも、話がしたいっ!!」
「怪我は大丈夫ですか母上?」
「心配ないぞカルラ。この国の治癒士は腕がいいからな」
「…………」
「どうした? 敗けた母を不甲斐なく思うか?」
「い、いえ! そんなことありません!! とても立派でした!!」
「そうか……ふふっ」
「サ、サクヤ殿っ!」
「ん? どうしたカイル殿?」
「こ、こ、こ、こ、こ、今度……わ、わ、わ、私と……!!」
「今度私と何?」
「なっ!? 何故フィリスが……サクヤ殿は?」
「サクヤさんなら呼ばれてあっちに行った」
「…………そ、そんな……」
「我が目標にしてきた拳聖を倒すとは……本当に信じられん」
「そんな倒しただなんて……引き分けですよ」
「いや、引き分けでも凄いことだ! ぜひ後日、このラガンと手合わせ願いたい!!」
「は、はぁ……」
「信じられますかリュートさん、ヒック……振られたその日に彼氏が出来るとか、ヒック……」
「ちょ、ちょっとクナさん止めてさい……!?」
「ええい、彼氏持ちはあっち行ってろ! わたひはリュートひゃんと話てんらから……ヒック……」
「もうクナさんたら……」
「ハハッ……」
そして更に1時間後……
「そのなんだ……悪かったな……」
「あ、ううん……もう大丈夫ですエルガーさん」
「だが……!」
「それに貴方が絡んできてくれたから、なんだか吹っ切れた気がするし……」
「そ、そうか……?」
「あ、でも……女の子にあんな言い方したらモテませんよ?」
「……すみません」
「おぉそうだリュート! 俺と勝負しろ!!」
「ちょっとザイルさん!」
「離せガイス! おい、リュート! 闘王を名乗りたかったからな~俺と戦って勝ってからにしろよ!!」
「極みの位 睡・終天……」
「はにゃ!? むにゃむにゃ……なんだか眠く…………」
「後始末よろしくマツゲくん」
「マツゲく……それって、私の事……?」
「久しぶりだなエンマ」
「お久しぶりですエンマさん」
「ガルデアと、フィリスか……」
「なんだ、英雄パーティーの子孫のよしみだろ? そう邪険にするな」
「…………」
「あの男が気になるんじゃろ?」
「それとレーナさんもですね」
「…………」
「我らの先祖が残した記録……あれが間違いでなければ……」
「俺は敗けた……俺が兎や角言えた義理ではない」
「やれやれ……頭でっかちは相変わらずだな」
「私達は後日、リュートさんとお話する場を設けます。既に約束も済んでます」
「!?」
「お主も来いエンマ。リュート殿には話しておく」
「ガルデア……フィリス……」
そしてそして更に1時間後……ようやく祝勝会はお開きとなった。
ギルド内は食い散らかした後で凄惨たる光景だった……
その床に仰向けで大の字で寝転がる5人……
「……勝ったな」
「うん、勝ったね」
「ああ、勝ったな」
「ええ、勝ちましたね」
「勝ちだな」
「色々あった……初めてキョウとユイが、リュートとレーナを連れてきた日から……まさか闘王祭で、それも四傑を倒すとは夢にも思わなかったぞ」
「だね」
「だな」
「あの……」
「ん、どうしたレーナ?」
「……私の本当の名前はレイナ……レイナ・サタン・アルカディアです」
「そう、か……」
「…………」
「あ、俺も……リュートじゃなくて竜斗。天原竜斗。」
「「…………」」
「申し訳ありません……名を偽り……」
「レイナ!」
「は、はい……」
「今はいい……」
「え?」
「今の我々に重要なのはお前達の真実ではない……」
「ですが……」
「今の我々にとって1番重要なのは……」
「「…………」」
「闘王になったのに、誰も我がギルドに入りたいと希望する者が現れないという真実だ!!」
「は、はぁ……」
「これは由々しき事態だぞ! 早急に手立てを考えなければ……っ!」
「…………」×5
俺達は少しだけ間を開けると一斉に笑った。
酔っていたのか、わざとなのかは分からないが本当にサクヤさんは相変わらずだ。
初めて会った時と何も変わらない。
この人がいてくれるだけで、なんだか心が暖まる。
「そういや、なんでサクヤさんはメンバーを集めてるんでしたっけ?」
「以前話さなかったか? Sランクの迷宮を攻略する為だ」
そういや前に言ってたな。
「まぁだが今となっては……今のメンバーだけで攻略出来そうな気がするがな」
「えぇぇ……いくら竜斗くんとレイナが強くても流石にSランクの迷宮は無理なんじゃ……」
「確かに……せめて俺とユイより強い奴が入るか、俺らが今より強くならないとちょっとな……」
キョウとユイもSランクは流石に怖いって訳か……
まぁでも多分楽勝だろう。
俺とレイナも本来の実力を出せば……あれ?
「なんでSランクの迷宮なんです?」
「話しただろ? 夫の……イカルガの形見の神器を見つける為だ」
確かに聞いた。
「でもそれって……迷宮ってSSランクになって数日したら消えるんですよね?」
「その通りだ。中にいた者……つまり攻略出来なかった者も消える」
「なら神器も……」
「いや、それはない」
サクヤさんは言い切った。
「どうしてです?」
「何故なら私が持つ【神吹】と対をなす神器だからだ。もし【神鳴】が壊れたのなら【神吹】も消える様に私達が創造したからだ」
ちょ、ちょっと待ってくれ……
今なんて……?
「つまり神吹が壊れてないという事が、まだ神鳴がどこかに存在……どうした竜斗?」
俺は体を起こして、震えながらサクヤさんを見つめた。
気づいたのかレイナも、驚いた顔をしている。
サクヤさん達も、俺達の異変に気づいて体を起こす。
「…………ります」
「ん、なんて言ったのだ?」
声が震えて上手く喋れない。
キョウとユイは首を傾げる。
俺は深呼吸すると、意を決した。
「か、神鳴…………俺が、持ってます……」
「…………は?」
サクヤさんから聞いたことが無いくらいの間抜けな声が聞こえた。
「か、雷属性の……刀の……神器ですよね……能力は……放電…………そしてSランク…………」
俺の震える声を皆は黙って聞いている。
俺はゴクリと唾を飲み込むと神器を発動した。
刀の神器【神鳴】を…………