闘王祭と闘王⑩
「……俺の姿を見ても驚かないようだな」
「最初から(嘘)、知ってた」
でも皆は驚いているようだ。
『な、な、な、な、なーーーーっ!!!? し、信じられません……あ、あの……あの英雄が…………王国最強の四傑、英雄エンマ様が!? ま、まさかの……まさかの闘王祭参加です!!』
クナさんは一生懸命実況している。
「ミロクの案だ……まさか本当に俺まで回ってくるとはな……」
やっぱミロクさんの策か……
確かこの人は管理はしてるのに所属はしてなかった筈……
多分1日だけとかそんなところか……
「……折角の祭りだ。最後で興醒めさせるのは忍びないからな……早々に終わらせて、後でお前達はゆっくりと連行する」
なるほど……だからさっきも無理矢理俺達を連れて行こうとはしなかったのか。
冷酷無慈悲の剣だっけ……言うほどでもないな。
うん、優しい人だ。
「……まぁ、結果は変わらないと思うけど」
「?」
俺は小声で呟いた。
エンマさんは聞こえなかったのか、僅かに首を傾げた。
だって……闘王祭が終わったら色々と話を聞くつもりだし。
天使とか悪魔とか……天魔戦争とか。
それと英祖ショーマとトウマについても。
つまり俺達の事も話すつもりだ。
だからエンマさんの聞きたい事も、きちんと話すつもりだ。
結果は変わらない……
「折角の祭りの締めくくりなんで全力でいきます。簡単に(心が)折れないで下さいよ」
俺は神器(指輪状態)に魔力を込めた。
「……いいだろう」
エンマさんは小さく笑うと、神器に魔力を込めた。
同時だった。
「「神器、発動!!」」
俺が発動させたのは……【御神木】、【森羅万象】、そして【魔名宝空】。
エンマさんは……天魔シリーズの5つ。頭以外は神器で覆われている。
そして同時に駆け出した。
『!? え、えっと、闘王の部・最終戦……リュート選手対エンマ選手……試合始め!!』
クナさんは慌てて試合開始の合図を告げた。
そしてクナさんが言い終わると同時に……俺の刀と、エンマさんの剣がぶつかり合った。
「八双・水の位 水暴走!!」
「クラフト流剣術……ブレイズスラッシュ!!」
袈裟斬りと袈裟斬りとがぶつかり合う。
すんげぇ力……少しでも力を緩めたら一気に斬り飛ばされそうだ。
「おらぁ!!」
一気に振り抜いた。
エンマさんは少しだけ後方に跳んで躱したが、直ぐに間合いを詰めて、真っ直ぐ振り下ろすように斬りかかってくる。
俺はそれを半身になって躱す。
「流石だ」
「どうも」
斬り合いの中、少し会話する。
「クラフト流剣術、ブレイズストライク!!」
剣を持つ腕を少し後ろに下げて力を溜めると一気に突いてきた。
「魔名宝空」
腕を翳して風属性の球体で防ぐ。
エンマさんは突きを弾かれると、空いてる手を球体に翳した。
「クラフト流体術、ブレイズインパクト!!」
「!?」
球体に衝撃が走った。
球体が揺らぐ感覚。
同じSランクの神器……完璧には防げない。
「これならどうだ……ダブルインパクト!!」
エンマさんはもう一度、籠手から衝撃を放った。
「いっ!?」
まさか2回連続でしてくるとは思わなかった。
風属性の結界(球体)が霧散していく。
初めてかも……
魔名宝空が破られたのは……
「さ、すが……」
「まだ余裕そうだな……」
「!?」
気付いたら巨大な黒い影が俺達を覆っていた。
エンマさんは右手を振り上げていた……その手には巨大な剣が握りしめられている。
「巨大かー!?」
「クラフト流剣術……ブレイズエンド!!」
能力【巨大化】によって巨大になった剣が振り下ろされた。
土煙が上がり誰もが固唾を飲んで見守る。
「はぁ、はぁ、はぁ……あぶね」
俺は【御神木】を横にして、端と端を両手で持って受け止めた。
「…………信じられんな。まさかレア能力【不壊】か?」
「です」
「成る程……だが知っていたか?」
「?」
エンマさんは柄に空いていた左手も添えた。
「所詮はEランク……どれだけの魔力を込めようと大差ない!!」
エンマさんは剣に体重を乗せた。
「がっ!!」
「最初の打ち合いは様子見だ。本気でぶつかれば必ず押し負ける……それが【不壊】の欠点だ。覚えておけ!!」
エンマさんの体重を乗せた剣が舞台を斬る。
俺は横に転がりながらギリギリで躱した。
「まさか不壊に欠点があるなんて……」
「お前ほどの強さだ、Aランク以下なら問題ないだろうが……Sランクには絶対に勝てんぞ」
沈黙のままお互いに睨み合う。
「……あの刀を使え」
「?」
「あの女を制止させた刀の神器だ。あれでなければ俺には勝てんぞ」
「…………」
レイナを止めた時の神器か……
そうだな……
「……俺、全力って言いましたもんね」
「そうだ」
俺はゆっくり立ち上がると【御神木】を解除した。
エンマさんはそれを黙って待ってくれている。
そうだ、どうせ後で皆に全部話すんだ……
出し惜しみは、無しだ!!
「……行きます」
「来い!」
俺は駆け出した。
駆けながら右手を後方に向けると神器を発動させた。
「!?」
「絶刀・天魔!!」
発動させた瞬間にはもうエンマさんの間合いに入った。
【脇構え?】+【雷・地属性】
一瞬で属性を合魔し刀に付加させる。
「陽金・磁の位 デルタ!!」
片手逆袈裟斬りを放つ。
「くぅっ!!」
エンマさんは虚を突かれた様に焦って剣で防ぐ。
悪手です。
俺は瞬時に八双に構えた。
エンマさんの剣は釣られるように【絶刀・天魔】に引き寄せられる。
「なっ!?」
「八双・磁の位 シグマ!!」
剣ごとエンマさんを袈裟斬りで斬りつけた。
「が、はっ…!!」
エンマさんは体から血が吹き出してよろける。
まだ終わらない!
俺は刀を納刀させると腰を落とした。
【居合の構え】+【<水・風・雷>属性】
「抜刀・毒の位 ベノム……」
頬を掠める程度で軽く振るう。
よろけるエンマさんの頬に小さな切り傷が出来る。
終わったな……
スキルを上書きされては流石のエンマさんも終わりだな。
あのガブリエルすら苦しめた技だ。
だが……
「……最後のはよく分からんが、その前の一撃は見事だ……」
「!?」
エンマさんはフラフラになりながらも立っている。
嘘だろ……
3属性を喰らってなんで……?
「あっ……!」
神眼で視て思い出した……
この人には【状態異常無効】があった事を。
そうか……
効かないのか……
『し、信じられません……あの四傑が……あの英雄が……押されているなんて…………リュ、リュート選手……と、とんでもない強さです!!』
黙って観戦していた観客達から歓声が沸き起こる。
「まさか、これ程とはな……過去戦った誰よりもお前は強い。おまけに未だ全力ではないな?」
傷つきながらも、エンマさんはまだ余裕そうだった。
「これを使う事になるとは……」
「?」
エンマさんは剣を解除すると、俺に向けて掌を翳した。
「我が家に代々伝わる神器……この世で最強の神器、その身に味わうがいい!」
するとエンマさんの手に1本の脇差しの様な短い刀が握られた。
短刀……じゃないのか?
「高天原……英雄トウマの使いし最強の神器だ。行くぞ、リュートよ!!」
エンマさんは弓を引くように腕を後方に下げると一気に刀を突き出した。
「クラフト流剣術秘技……次元殺界!!」
突き出すと同時に刃が俺目掛けて伸びてくる。
そういや能力は【伸縮】だったな。
俺は半身になって躱そうとした。
が……
伸びる刃の剣先が俺の眼前で消えた。
「なっ!?」
すると、消えた剣先が俺の後ろから現れ伸びてくる。
俺は咄嗟にそれを躱した。
俺を横切る伸びる刃は、ある程度伸びるとまた剣先を消した。
「まさか!?」
俺はまた半身になって後方から伸びてくる刃を躱した。
伸びては消え、伸びては消えを繰り返す。
そして……
「っ!?」
気付くと俺には逃げ場が無くなった。
無数の伸びた刃によって動けない。
マジか……
少しでも動いたらどこかが斬れる……そんな状態だ。
「終わりだ……」
エンマさんが小さく呟くと、正面から剣先が現れ、真っ直ぐに俺の顔目掛けて伸びてくる。
「っ、魔名宝……」
「無駄だ」
結界を張ったが、まるですり抜けるかの様に球体の中から刃が現れた。
さ、流石【次元属性】……お見事。
でも……
剣先は俺の目の前でその勢いを止めた。
「ぐぅっ……!」
エンマさんは舞台に膝を着けた。
『こ、これは……? エンマ様が優勢の様に思われましたが、膝を着いたのはまさかのエンマ様の方……い、一体何が……!?』
「き、貴様……一体何を……!」
エンマさんは恨めしそうに俺を睨む。
「神器解除した方がいいよ」
「!?」
俺はそう促した。
相手の攻撃を防げないなら、攻撃の手を緩めさせたらいい。
簡単な事だ。
今まで散々やってきた。
相手の神器に属性を付加させる……いや、負荷の方が正しいか。
俺の神器は【絶刀・天魔】と【魔名宝空】だけじゃない。
【森羅万象】もある。
天王の部で何回か見せてきた。
知らなかったか、或いは失念してたか。
「くっ!!」
エンマさんは悔しそうに神器を解除した。
いや~それにしても流石は次元属性……
今のはヤバかった……
これを創造したショーマかトウマかは知らないが、やるな。
でも……
俺の想像力のがすげえぞ!
【無の構え】
俺は脱力した。
【<水・雷>属性+次元属性】
水と雷……2つの属性を合魔する。
「極みの位……」
「っ!?」
俺の小声にハッとした顔をするエンマさん。
察したのかありったけの魔力を腕に付いてる盾に込める。
遅い!
それに無駄だ!
これは2属性最強の属性だ!!
「震・終天っ!!」
ありったけの魔力を込めて刀を振るった。
「がっ-」
エンマさんは最初の1音だけ悲鳴をあげると、それ以上は悲鳴をあげなかった。
エンマさんは倒れることなくその場に立ち尽くす。
俺もそれ以上は追撃しなかった。
暫くすると、俺の後ろからレイナが目覚めた様な気配がした。
でも今はエンマさんだけを真っ直ぐに見つめる。
そして……
「み、見事だ……」
エンマさんは声を発した。
驚いた……
属性【震】は恐らく能力【衝撃】に近い属性の筈……
それをまともに喰らって倒れるどころか、喋れるなんて……
「ま、まさか……こ、これ程とはな……お、お前は一体……ごふっ!!」
エンマさんは口から血を吹き出しよろけた。
「……近いうちにレイナと一緒に訪ねに行きます」
「ふっ……完敗、だな……」
エンマさんは小さく笑みをこぼした。
「リュート……お前の……いや、お前達の……勝ちだ」
エンマさんはそう言い残すと、綺麗に大の字で倒れた。
俺は1回だけゆっくりと大きく瞬きすると、刀を天高く掲げた。
「ギルド【刀剣愛好家】が最強だ!」
俺は高らかに宣言した。
◆
大歓声と拍手に包まれながら、闘王祭は幕を閉じた。
誰が想像出来ただろう……
まさか四傑が2人も破られるという……闘王祭史上、類を見ない結果となった。
【剣王】
サクヤ・レイナルド(刀剣愛好家)
【鎧王】
ガルガガ・ガガ・ガルデア(風林火山陰雷)
【輝王】
フィラ・フィフィフ・フィリス(風林火山陰雷)
【天王】
天原竜斗(刀剣愛好家)
【武王】
レイナ・サタン・アルカディア(刀剣愛好家)
【闘王】
ギルド・刀剣愛好家
お、終わった……です。
長かった……です。
ここまで丁寧に書いたつもりでしたが、最後の最後で少し呆気なかったかもしれません。
まぁ闘王祭で描きたかったシーンは……天王の部、レイナ対ミロク、レイナ対竜斗?……でしたので。
最強が主人公にあっさり負けるのも、これはこれで有りかなと。
そして2属性もこれで一応全部出ました。
煙・灼・爆・鋼・氷・震・沼・嵐・砂・磁。
3属性は状態異常なんで……あまり気にしないで下さい。
あまり出さないと思います(多分)。
もし……知りたいなぁ~って酔狂な方がおられましたら、どこかで纏めて載せますね。
そして……4……