闘王祭と闘王⑨
最初が主人公視点。
◆◆からヒロイン視点。
「よっこいしょ……」
俺は舞台へと上がり、倒れているレイナを抱き抱えた。
「やれやれ……まさかギルマスがな……」
向こうはザイルのおっちゃんがミロクさんを抱き抱えていた。
闘王の部はこれで両ギルド共、1人だけとなった。
俺と、あの人の2人だ……
俺はギルド【拳武】側を見つめた。
「ったく、とんでもない嬢ちゃんだな……」
不意におっちゃんが声を掛けてきた。
「強かったろ、俺の婚約者は?」
「いや、まぁ……ギルマスと引き分けただけでも凄いんだが……それよりもアレは……」
おっちゃんが何かを言いかけると、おっちゃんの肩に手が乗せられた。
「おわっ!? ってアンタかよ……」
手を乗せたのは、フードを被るあの人だった。
いつの間にか舞台に上がってきていた。
「リュート、だったか……? その女を渡せ……」
やっと喋ったかと思えばそんな事かよ……
「あ、遠慮しときま~す」
慎んでお断りした。
俺はサクヤさん達がいる方へと歩き出した。
早くレイナを治癒させてあげたい。
「…………」
あの人は黙ってそれを見ていた。
おっちゃんの方もミロクさんを抱き抱えて、自分達の方へと歩き出した。
「…………なんかどっかで聞いたような声だな?」
感が良いのか悪いのか……結局ザイルのおっちゃんは、あの人の正体に気づかないまま舞台を降りていった。
◆
舞台から降りて、ゆっくりとレイナを抱き下ろす。
「リュート……」
「ほい?」
サクヤさんやキョウ、ユイが俺達を囲むように歩み寄ってきた。
「レーナだが……一体……」
「ああ……やっぱそれですよね……」
うん……
いい加減、正体を隠すのも限界かも……
神眼で視たミロクさんはSSランクになってた。
そんなミロクさんと引き分けたレイナが、Sランクで通る筈がない……
バレるのも時間の問題だ……
「…………闘王祭が終わったら全部話します。俺の事もレイナの事も……」
俺はしゃがみ込みレイナの髪を優しく撫でた。
今はゆっくりと寝ている。
「おまっ……!?」
納得いかなかったのかキョウが叫ぼうとするが、サクヤさんが制止させた。
「サクヤ、さん……?」
「分かった……全部話してもらうぞ」
俺は頷くとゆっくりと立ち上がった。
そして舞台を上がろうとして、サクヤさんに呼び止められた。
「だが忘れるなよリュート。お前達2人も私の大事な仲間だ。お前達がどんな奴だろうとギルド【刀剣愛好家】の仲間である事に変わりはないのだからな。その事だけは絶対に忘れるなよ!」
サクヤさん……
「そ、そうだぞ! 俺とユイはお前らに命を救われたんだ! どんな事情があるか知らねぇが、それは変わんねぇからな!!」
キョウ…………ツンデレかよ!
「う、うん……私はレーナもリュートくんも好きだからね!」
ユイ……
皆なんとなく察してくれているのかもしれない……
本当に良かった……
皆に出会えて……
ギルド【刀剣愛好家】に入れて……
「行ってこいリュート!!」
「勝てよ!!」
「これで闘王だよ!!」
「おうっ!!」
目頭が熱くなったが、腕でゴシゴシと拭き、前を向いた。
大丈夫!
皆なら受け入れてくれる!
舞台上にて待つあの人へと近づく。
「あの女は連行する」
いきなりだった。
問答無用の感じの物言いが、妙に腹が立った。
「させないって言ってるでしょ」
俺の声に若干の怒気が含まれた。
「……俺には勝てんぞ」
「そっくり返す」
「いいだろう……俺が勝ったらあの女と、お前も城へ連行する」
「なら俺が勝ったら色々聞きたいことがあるんで話してもらいます」
「まるで俺の正体に気づいてる物言いだな」
「まぁ」
俺は目の前に立つあの人と睨み合う。
フードを被っているから確信はないけど、あの人が放つ殺気がそれを物語っていた。
視線は反らさない。
『ついに今年の闘王祭も最後となりました! 予選から数々の武勇を上げたギルド【刀剣愛好家】……闘王の部ではいきなりラガン選手と引き分け……レイナ選手の2人抜き……そして遂にはあの四傑であるミロク様と引き分ける結果となりました……』
クナさんは感慨深そうに語る。
『そして両ギルド共、残すは1人のみ! ギルド【刀剣愛好家】はリュート選手……天王の部ではクウマ様の記録を塗り替え、先程はミロク様と引き分けたレーナ選手を完全に抑え込んでみせました! その実力は完全に未知数……一体どれ程の強さを秘めているのでしょうか!?』
徐々にクナさんの実況に熱が入る。
『迎え撃つ王者【拳武】……ミロク様が敗れた?今……勝機は少ないかも知れません……ですが、終始マントとフードを被りその正体を隠す怪しい人物……リュート選手とどの様な戦いを繰り広げるのか本当に楽しみです!!』
闘技場はなんとも言えない雰囲気に包まれた。
王者ギルドが苦戦?したからか……はたまたミロクさんが引き分けで終わったからか……
初参加のギルドが勝てるのか?
そんな、なんとも言えない感じが伝わってくるようだった。
『それでは……闘王祭、闘王の部・最終戦……ギルド【刀剣愛好家】リュート選手対ギルド【拳武】……え? 嘘……』
クナさんの試合開始の合図の前に、突如あの人はフードを逸った。
同時に俺以外は全員が目を疑った事だろう。
正体を知っているレイナと、恐らくミロクもだが……その2人は気絶している。
知っていたのは多分俺だけだろうな……
だから皆が、鳩が豆鉄砲喰らった様な顔をするのは仕方のない事だと思う。
でも俺はずっと変わらずあの人を見つめる。
ホウライ王国・最強の戦士……
四傑【英雄】……
エンマ・H・クラフトを……
◆◆
「…………」
眼前に立つ私は 黙ったままこちらを見ている。
どうしました?
「私の言った通りになったな……まさか3属性で憤怒を抑え込むとは……」
憤怒……?
まさか……発動したのですか!?
「覚えていないか……無理もない……」
そんな……
「抑え込める自信でもあったのか? 愚かだな……私は忠告した筈ぞ私……憤怒は悪魔でなければ制御出来ないと……」
…………
「だがまぁ悲観はしなくていいかもな……」
どういう意味です?
「あの男は強い……いや、強すぎる! 憤怒は他者の命を吸い取り力に変えるスキルだ……それを喰らって平然としていたのだ……恐らく、七大悪魔王が大罪スキルに目覚めても全て抑え込むであろう……全く、とんでもない奴と契約したものだ……」
えっと……
何が何やら分からないのですが……?
私は私から色々と説明してもらった。
七大罪スキルについて……
先程起こった事について……
そしてミロクさんとの決着がどうなったかを……
そうですか……
引き分け、ですか……
「仕方ない……あの女もSSランクに目覚めた……アーシャといい、人の身でSSの領域に踏み込むとは……本当に信じられん……」
そこまで?
「SSランクは……迷宮に存在する魔物を除けば、我々悪魔と天使にしか許されない領域だ。それを人の身で……」
…………
「…………だがこれで確信が持てた」
?
なんの事です?
「世界は変わった……あの時、あの瞬間、あの神器……【変わる世界】によって……」
!?
そうです!!
あの神器は一体っ!?
「アレは……………………の、神器…………だ…………」
?
聞き取れない……
「時間だ……私が目を覚ます……また機会があれば話す」
私……
話す気がなかったな……
最後の言葉はよく聞き取れた……
つまり、私が聞き取れなかったのではなく……最初から聞こえるように喋らなかったのだ……
これだから私は……っ!
◆
「ん……」
どうやら、意識が目覚めたようだ……
なんだか長いこと夢を見ていた様な感覚……
少しだけ頭がボーっとする。
上体を起こして私が最初に見た光景は、目を疑うものだった。
観客達も、サクヤさん達も、ギルド【拳武】の方達の誰もが……文字通り開いた口が塞がらない……そんな状態だ。
闘技場の舞台に立つ、愛しいあの人……リュート様。
そして対峙するあの人……英雄エンマ。
勝敗は誰の目から見ても明らかだった。
多分、次話で【闘王の部】は終わりです。
闘王祭、長かった……
いよいよ王国編も終わり……にはなりません。
まだ続きますよ。




