闘王祭と闘王⑧
HJネット小説大賞、二次落ちてました。
「魔人・崩龍拳……」
小さく呟かれながらも、無慈悲なまでの強烈な一撃が放たれた。
「がっ……!」
ミロクは顔面を守るように、辛うじてその一撃を腕で防いだ。
だが、受け身を取ることすら出来ず、舞台上を転げた。
誰もが我が目を疑った。
声を発する事すら出来なくなった。
あの可憐なレイナが、恐ろしかった。
何故なら……
レイナはユラユラと上体を揺らしながら、一歩一歩ゆっくりとミロクへ歩み寄った。
まるで知性の無い獣の様だったからだ。
そして、ある程度近づくと一気に間合いを詰めた。
「魔人・崩狼牙……」
獣の牙のように爪を立て、レイナは倒れるミロク目掛けて腕を振り下ろした。
それは洗練された技などではなく、ただの暴力であった。
「くっ!」
ミロクはバランスを崩しながらもそれを間一髪躱した。
「…………」
レイナは無言のまま再度ユラユラとミロクへ歩み寄った。
「レイナッ!!」
「…………」
竜斗が叫ぶが、返事はない。
当然であった。
最早、レイナに意識はなかった……
レイナはある程度ミロクに近づくと、その場で歩みを止めた。
脚を開き、腰を落とすと、右拳に膨大な魔力を込めた。
その力は今までのレイナからは信じられない程、禍々しいものであった。
◆
足りない……
足りない……
足りない……
まだ、足りない……!!
◆
今までの力を遥かに凌ぐ魔力がレイナの拳に集約され始めた。
同時に観覧席にいた何人かが意識を失い、全員が息苦しそうにし始めた。
それは次第に王都全域にまで及び始めた……
◆◆
「メ、メタトロン様…!?」
「ああ……遂に目覚めたか……っ!!」
ウリエルの屋敷にいた2人も異変に気がついた。
そして力が抜ける感覚に陥り、膝を折った。
「憤怒……久しく忘れていた感覚です……っ!!」
「これは命を奪う力だ……よもやこの距離にまで及ぶとはっ!!」
すぐにでもレイナを殺しに行きたい2人だが、その場から動けずにいた。
「後は……サタンが力尽きるのを待つしかないな……」
2人は神に祈った。
◆◆
ミロクは強者となって初めて後退りした。
まだ自身がSSランクになった事に気づいていなかったが、それでもミロクの力は限界を超え始めた。
そんなミロクが恐怖した。
「あ、悪魔か……」
自然に口から出た言葉だった。
だが弱音を吐いた事で、ミロクは何故か少しだけ冷静になれた。
レイナが何をしてくるかは一目瞭然だった。
拳一点に集約される魔力……
ミロクは【千手】を解除すると【釈迦】を発動させた。
レイナの攻撃を迎え撃とうと、自分もありったけの魔力を込め覚悟を決めた。
そして……
「真・魔神拳……」
次の瞬間、レイナは拳を突き出した。
突き出すレイナの腕はその威力に耐えきれず裂かれ出血した。
それほどまでの一撃がミロクに向けて放たれた。
「天羅零掌・仏陀!!」
ミロクはそれを迎え撃った。
自身が今出せる最大の掌底を発動させ放った。
互いの攻撃は凄まじく、2人の中心でそれらがぶつかると、衝撃が闘技場を襲った。
「も、もう……駄目……これでは……っ!!」
膝を折りながらも、必死で両手を翳し、盾を維持し続けたミラも限界だった。
次第に、盾が1つ……また1つと……剥がされるように砕けていった。
しかし、観客達は逃げることも出来ず、その場で踞り倒れている。
逃げるわけにはいかない……それが四傑としての、王妃としての役目であったからだ。
だが限界だった……
「だ、駄目です……み、みんな……逃げ、て…………」
遂に、ミラの発動していた【アルテミス】は音をたてて全て砕けた。
なんとか抑えていたが、観客達に衝撃波が襲いかかった。
だが……
「…………えっ!?」
ミラは、気づくと丸い球体に覆われていた。
それも……舞台上にいる2人を除く、闘技場にいた全員に……
「こ、これは……?」
ミラはフィールドを見下ろした。
そこには翼のような盾の神器を発動させる竜斗の姿があった。
全員が膝を折るか倒れる中、竜斗だけがその場で立っていた。
「リュ、リュート様……」
ミラは安堵すると、そのまま気を失った。
竜斗は見つめる。
盾を発動させながら……命を吸われながらも……その場に立ち留まり、ただ舞台を見つめた。
そして……
懐に入れていた指輪を指に嵌めると、それに魔力を込め始めた……
最後に2人の攻撃がぶつかり合う場所が、一際大きな衝撃となって弾けた。
衝撃が収まると、徐々に観客達は意識を取り戻し始めた。
まだ若干息苦しくはあるが、それでも起き上がれない程ではなかった。
そして全員が舞台を見つめた。
そこには……
右手だけでミロクの首を掴み、不気味に微笑むレイナの姿があった。
右手は自身の血で真っ赤に染まっていた。
至る所が裂け出血しているにも関わらず、レイナは意にも介していなかった。
観客達は何が起こっているのか信じられなかった……
まさか、あの四傑であるミロクがやられたとは信じられなかったのだ……
そして、誰かが呟いた……
「も、もう……やめてよ……」
だが、そんな声などレイナに届く筈もなく、無情にもレイナは空いてる左拳を翳した……
誰もが目を背けた……
誰もが思った……
ミロク様が殺される……と。
「終……ワ……リ……ッ!」
レイナから発せられているとは思えない程、低い声が観客達の耳に響いた。
そして、レイナの一撃がミロクに向かって放たれた。
だが次の瞬間、誰もが目を疑った。
ミロクに一撃が放たれた刹那、レイナは斬り飛ばされていた。
斬り飛ばされたレイナだが、瞬時に受け身を取り体勢を整えると、斬り飛ばした相手を唸り声をあげながら鋭く睨んだ。
その者は片手で刀の神器を握りしめており、もう片方の腕でミロクを抱き抱えていた。
「流石にちょっと、やり過ぎかな……?」
「…………」
闘王祭史上初だった……
同じギルドの者同士が相対したのは……
各王を決める予選なら兎も角、闘王の部では有り得ない光景だった。
この日、闘王祭を観ていた王国民は……信じられないものを目の当たりにする。
四傑であるミロクを圧倒したレイナを、同じギルドの仲間が敵側を守るなんて想像もしていなかったからだ。
竜斗対レイナ。
観客達は固唾を飲んで見守った……
◆
竜斗がゆっくりミロクを抱き下ろした瞬間だった。
「魔人・崩龍拳!」
「…陽金・鋼の位 ウルツァイト!!」
レイナは一気に間合いを詰めて、竜斗目掛けて拳を打ち込んだ。
だが竜斗の放つ、脇構えからの片手逆袈裟斬りにより簡単に弾かれた。
体勢を崩されるもレイナは空かさず蹴りを放った。
「魔人・崩麗脚!!」
「抜刀・氷の位 ブリザード!!」
納刀はしていなかったが抜刀のフリをするようにして、レイナの蹴りに合わせ横薙ぎに刀を振るった。
刀の峰の部分がレイナの脚に当たると、レイナの足は勢いよく凍りついた。
「魔人・崩狼牙!!」
レイナはその氷に爪をたてて、氷を砕いた。
自分の脚に爪が刺さるが、お構いなしだった。
「全く……とんだじゃじゃ馬だなレイナは……」
それを見た竜斗は呆れた。
再度レイナは竜斗に襲いかかる……
それを竜斗は6つの構えと様々な属性で軽くあしらっていった。
ミロクを圧倒したレイナを軽くあしらう竜斗。
洗練されてない攻撃など、竜斗にとっては大した事ないものだった。神速も神眼もあるのだから容易に躱せた。
だが観客達には分かる筈がなかった。
ただただ竜斗が強いという事だけしか分からなかった。
そして疲労し呼吸が乱れるレイナは攻撃の手を緩めた。
血に飢えた獣の様に唸りながら竜斗を睨むだけだった。
「なんだ、もう終わり?」
刀の峰を肩に乗せ、余裕で挑発する。
「なら、いい加減終わらせるね。今のレイナとはもう戦いたくないし……」
竜斗は上段に構えた。
空に向かって真っ直ぐ掲げられた刀は天を衝くようだった。
竜斗はそれに氷属性を付加させた。
「これでお仕舞い……」
竜斗は思い出す……
神国に乗り込む際、聖都を覆う結界を壊した事を。
今から繰り出すのはその時の技であった。
「極みの位 氷・終天!!」
空を斬る竜斗の一撃は一瞬にしてレイナを氷浸かせた。
その冷たさは、竜斗の吐く白い息が物語っていた。
だが……!
レイナを覆う氷に僅かに亀裂が走った。
レイナは先程と同様に、辺りから命を吸い取り力に変えた。
そして振り絞る様にレイナが力を込めると、氷は完全に砕けた。
「言ったろ、お仕舞いだって……」
【居合の構え】+【<風・地・雷>属性】
「抜刀・黙の位 サイレント……」
剣先だけがレイナの頬を霞める様に竜斗は刀を軽く振るった。
レイナの頬に一筋の赤い線が出来ると、レイナの神器は解除され、レイナはその場に倒れ込んだ。
「ふぅ……まぁこんなもんか……」
竜斗はレイナを見下ろすと、小さく息を吐いた。
舞台上ではレイナとミロクが倒れ、竜斗だけが立っている。
仲間も観客も全員がそれを固唾を飲んで見守る。
そして……
「ん…………あ、れ…………私、は…………?」
レイナは意識を取り戻した。
その瞬間、静まり返っていた闘技場が沸いた。
何が起こっているのかさっぱりだったが、観客達は取り敢えず歓喜の声をあげた。
何が起こって、どうなったのか、解っているのは竜斗だけだった。
竜斗はガブリエルにした時と同じ事をレイナにした。
一時的で永続ではないがスキルを上書きした。
スキル【憤怒】を、状態異常?のスキル【沈黙】に変えたのだ。
本当なら【枯渇】に使おうと思っていた竜斗だったが、まさかだった……
『どうやらレーナ選手、正気に戻った様子です!! 何が起こって、どうなったのかさっぱりですが……取り敢えず良かったです!!』
クナは若干涙を流し、嬉しそうに実況した。
それを聞いた観客達から、何故か拍手まで巻き起こった。
そして歓声や拍手が次第に落ち着いてくると、クナは申し訳なさそうに喋りだした。
『た、ただ……大変申し上げにくいのですが……ギルド【刀剣愛好家】はリュート選手の介入があったため……申し訳ありませんが規定に則りレーナ選手を失格とさせて……』
「ちょっと待て!!」
『!?』
レイナの失格が告げられようとされたが、それを止めたのはミロクだった。
ボロボロであったが、意識を取り戻したミロクはゆっくりと起き上がっていた。
「確かにリュートは介入したが……それはレーナを制止させるためのものだ……レーナを守ったり、私を攻撃したものではない……」
『た、確かに……で、ですが……』
「よって私は試合続行を申請する!!」
『えっ!?』
闘技場は打って変わってどよめきだした。
「え、あの……私は……一体何が……?」
レイナは訳がわからず辺りを見回した。
「まぁ、何が起こったかは後で話すよ」
「竜斗、様……」
竜斗はレイナをゆっくりと起こした。
これは介入だったかもしれないが、誰も気にしていなかった。
「取り敢えず……ミロクさんと戦うか?って事だよ」
「私は…………はい! 勿論です!!」
レイナはミロクの方へ振り向いた。
ミロクはニヤリと口角を上げた。
『え~と……ええい、こうなりゃヤケだ!! レーナ選手対ミロク選手、試合続行です!!』
クナはもうやけくそだった。
だがこれはお祭り……こんなノリがかえって良かった。
観客達は先程起こった嫌なことを忘れるかのように盛り上がった。
竜斗が舞台を降りる中、再び対峙するレイナとミロク。
お互い満身創痍だった。
身体中がボロボロで、魔力も殆どなかった。
当然、神器を発動させることも出来なかった。
「まぁ……色々と聞きたいことはあるが……これで本当に最後だ……」
「何が何やら分かりませんが……最後のは同意します」
「行くぞ……」
「はい……」
両者は駆けた。
ただ真っ直ぐと……
そして……
「天羅零掌っ!!」
「魔神拳っ!!」
互いの技が炸裂した。
ミロクの掌底は、レイナの顎を捉えた。
レイナの拳は、ミロクの頬を殴った。
最後は己の肉体のみだった……
そして、両者は滑るようにゆっくりと舞台へ倒れ込んだ。
『け……け……け……けっちゃーーーーくっ!! 色々とあった第六試合でしたが……遂に決着となりました!! 第六試合……レーナ選手対ミロク選手…………両者ダウンにより、引き分けとします!!!』
歓声に包まれながら、闘王の部・第六試合は……引き分けで決着となった。
あれ?
なんだか語彙力が……
元々そんなですが、最初の頃の方が拙い文章ながらも良かったような……
ここ最近なんだか毎回同じ事を書いてる気がします……
語彙力って低下するんですね……?