闘王祭と闘王③
二つ目の◆から視点が変わります。
「上がってこいリュート!」
ザイルは俺を睨む。
だが……
「ま、まだっ! 次は私!」
そう言ったのはユイだった。
ザイルは俺から視線をユイへと移した。
「やめときな嬢ちゃん。あんたじゃ俺には勝てん。それに……輝王の時のが全力なら俺には効かん」
「う……」
ユイは言葉をつまらせた。
ユイにも分かっている。
色の違う水属性の球をぶつける攻撃……あれは魅せる技だ。
実際の戦闘ではあまり効果がない。
「悪いけど俺にもガイスの奴にも効くとは思えない。フードの奴はよく分からんが、ミロクさんには尚更だ。あんたはよくやった……が、闘王の部はそんなに甘くない!」
「で、でもっ! 私だけ諦めるわけにはいかないの!!」
ユイは舞台へと上がった。
「…………いいだろう、これ以上は不粋だ。戦う以上は全力でやる、じゃないと相手に失礼だからな」
ザイルは舞台の中央へと戻っていった。
◆
「いいんですかユイさん?」
舞台の端に立つユイに、レイナは声を掛けた。
「う、うん……多分駄目だと思うけど、やるだけやるよ。じゃないと最後に皆で喜べないから」
「どういう意味です?」
「だって……ミロクさんを倒して【闘王】になるんでしょ? 私だけ棄権したんじゃ申し訳ないしね」
「ユイさん……」
レイナの方へ向いていたから、ユイは気づいてなかっただろうけど……この時、聞こえていたのかミロクさんは不敵に小さく笑っていた。
「ま、まぁ勝てるとは思えないから期待はしないでね」
ユイは苦笑いしていた。
「頑張って下さい、ユイさん!」
「頑張れ、ユイ!」
俺とレイナはありったけの気持ちを込めて送り出した。
「うん!」
ユイに迷いはなかった。
戦いを怖がってた、あのユイが。
負けると分かっていて、それでも勝負を投げ出さなかった。
「せーの……」
「「ユイたーーーーん!!」」
観覧席からありったけの声で、ユイに声援が送られた。
どこから出したのか、その一団は全員がお揃いの法被を着ていた。
しかもほとんどの奴等が小太りだった。
はは……
彼らにとって、どうやらユイはアイドルみたいだ。
そんな声援を受けてユイは赤面し、恥ずかしそうに俯きながら舞台中央へと、早歩きした。
「……まぁなんだ、確かに輝王の時の技は俺も魅せられた。ファンが出来てもおかしくはないな……うん……」
ザイルは若干困り顔でユイに話し掛けた。
「うぅ……その優しさが辛いです……」
ユイは更に赤面した。
「まぁ舞台に上がった以上は全力でやるぜ?」
「わ、分かってます!」
ユイはキッと顔をあげた。
『両者、準備が出来たようなので始めます! それでは第三試合……ザイル選手対ユイ選手……試合……始め!!』
クナさんの合図で第三試合が始まった。
◆
「う……」
サクヤは意識を取り戻した。
「ここは…………!?」
横になっていたサクヤは勢いよく体を起こした。
「あ、気がつきましたか?」
「レーナ……試合は!?」
「今は第三試合です」
「第三試合……だと? 第二試合は?」
「……えっとサクヤさんが引き分けた後、ザイル選手とキョウさんが戦ってキョウさんが負けてしまいました」
レイナはサクヤの横で横たわるキョウに視線を向けた。
吊られるようにサクヤも視線をキョウへと向けた。
「そう、か……」
サクヤは視線をレイナに戻した。
「それで今は、ザイル選手とユイさんが戦ってます」
2人は同時に舞台へと視線を移した。
「ユイは……どうだ?」
「はい、頑張ってます……ですが……」
第三試合開始から十数分……
ユイは善戦していたが、徐々に押され始めた。
というより、ユイは攻撃を避ける事に専念していた。
だが徐々に捉えられ、今では最小限のダメージを受けながらの回避となっていた。
「……駄目か?」
「残念ながら……」
2人は視線を舞台から反らした。
「最後までしっかり応援しようぜ」
竜斗はまっすぐにユイを見つめていた。
「リュート……」
「竜斗様……」
2人も竜斗と一緒に舞台を見つめた。
ユイは必死に戦っている。
周りからは当然、逃げてるだけに思われるだろう。
事実避けているだけで反撃もしていなかった。
だが背を向けたり、後退はしなかった。
なんとか……なんとか……ただ必死に前を向いて避けていた。
観覧席にいるユイのファン達は、ただただ涙した。
その避け様に感動していた。
だが……ついに第三試合も決着した。
ユイの足はプルプルと震え出し、1歩も動けなくなって、その場に座り込んだ。
そこへザイルの拳が突き出された。
「…………はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
ユイの息は乱れていた。
眼前で止まるザイルの拳。
「良くやったが……終わりだな」
拳を突きだしたままザイルは静止した。
「はぁ、はぁ、はぁ…………ま、参りました」
ついにユイは降参した。
同時に闘技場全体で拍手が巻き起こった。
歓声はない。
ただ皆、健闘したユイに拍手を送った。
あのミロクも、フード被った者も、マツゲも、ミラも……全員が。
ただ……ユイのファン達だけが涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら拍手していた。
ザイルはユイに手を差し出した。
ユイはその手を掴むと、引っ張られるように体を起こした。
「歩けるか?」
「は、はい……」
ザイルはその場に残って、ユイはゆっくりと竜斗達の元へ歩き出した。フラフラしていたが転けることは無かった。
「ご、ごめんね……やっぱダメだったよ。なんとか反撃しようとしたんだけど、やっぱ隙が無くて……」
ユイは皆に向かって苦笑いした。
そんなユイをサクヤは抱き締めた。
「いや、よくやった……お前は私達の誇りだ」
「う…………はい……」
ダムが決壊したようにユイは泣き出した。
見られたくないからかユイはサクヤの胸に顔を埋めた。
サクヤは優しく更に抱き締めてあげた。
「頼んだぞ」
サクヤは、竜斗とレイナに託した。
「了解!」
「はい!」
ギルド【拳武】は残り4人。
対するギルド【刀剣愛好家】は2人。
竜斗達は追い詰められた。
そして……
ギルド【刀剣愛好家】の4人目が舞台へと上がった。