闘王祭と武王④
ぼちぼち学生の子達は夏休みかな?
羨ましいです……
ーー魔神牙(極弱)ーー
気づくとレイナの腕は体の前で交差し、爪は牙みたいに鋭く、地面に突き刺さっていた。
舞台はレイナを中心にヒビが入り、そこにはレイナ以外誰も立っていなかった。
レイナはゆっくりと顔を上げ、上空を見上げた。
◆
俺がエルガーをぶっ飛ばした時以上の高さと数の人が舞った。
観覧席から観客達を見渡すと、誰もが唖然とし、口が開いたままだった。
驚きすぎて顎が外れるのでは?
次に俺は未だ宙を舞う選手達を見つめた。
神眼のお陰か、まるで静止画をコマ送りするみたいにゆっくりと眺めた。
時が止まった様な感覚に陥った……流石は俺の婚約者だ。
にしても……また一段と技が凄くなってないか?
あの一瞬で、襲い掛かる選手達を纏めて上空へと吹き飛ばしたのだ。
両腕を振り上げてから、地面に突き刺さるほど一気に振り落とす……手加減してるのに、あの威力だ。
ーウズー
やば……またレイナと戦ってみたくなった。
その時だった……スキル【聴力】もないのに、僅かに嫌な音が聞こえた気がした。
ーピキッー
まるで、何かにヒビが入った様な音だった。
舞台からではない……確かにひび割れて僅かに砕けているが、もっと高い音……まるで金属にヒビが入った様な音だった。
結局、いくら耳を研ぎ澄ましても、音の出所は分からなかった。
そして、吹き飛ばされた選手達が、地面に落下する。
レイナは神器を解除すると、自身の服をパンパンとはたく仕草をした。
いやいや、絶対汚れてないから。
あの一瞬で吹き飛ばしたのに埃が付く訳がない。
誰もが呆然と眺める中、最初に口を開いたのはクナさんだった。
『い、一撃……た、たったの一撃です!! レーナ選手、目にも止まらぬ速さで、舞台上にいた他の選手達を一瞬にして吹き飛ばしてしまいました!! これがSランク!! これが拳姫!! これが、レーナ選手の実力だーーーっ!!』
『ふががーーーー!!』
闘技場が湧いた。
歓声と拍手が飛び交う。
レイナを称賛する声があちこちから。
レイナは頬を僅かに赤らめて一礼すると、舞台を降り、控え室に繋がる通路へと向かった。
『これで武王の部の予選は全て終了いたしました! 明日、いよいよ、武王が! 闘王の部へ出場するギルドが決まります!!』
興奮冷めやらぬ中、クナさんは実況し続ける。
『ふがぐふごふご……ふががご!!』
『成る程、本当に楽しみですね。トーマス様率いるギルド【風林火山陰雷】か、はたまた新進気鋭のギルド【刀剣愛好家】か……本当に楽しみです!』
◆
【観覧席】
「あ、有り得ない……」
「う、うん……」
ザナードくんとカルラくんは未だ呆気に取られていた。
ちらほら観覧席を後にする者がいる中、未だに呆然と舞台を眺めていた。
「あ、あれが拳姫……レーナさんの実力……?」
「…………す、凄いですわ」
ルナちゃんとファナちゃんも、2人の横で余韻に浸っていた。
「ほ、本当に……母上と互角に戦えるかも……」
「バカな!? 強いと言っても流石に【四傑】に匹敵する……なんて事は……」
ザナードくんは言葉を濁した。
それほどまでにレイナは強く、自分ではその力を計れないと判断したからだ。
「……どうやったらあんなに強くなれるのかしら?」
「同じ女性として憧れずにはいられませんわね」
ルナちゃんは唾を飲み込み、畏怖すら覚えた。
ファナちゃんは僅かに頬を赤らめ、ウットリとした。
「……迷宮」
ザナードくんは小さく呟いた。
「「!?」」
「俺達が強くなるには……迷宮しかない」
「で、でも……流石に僕達に迷宮は……」
「そ、そうよ! 無謀もいいとこだわ!」
「ですわね。大体、王院生の私達に迷宮攻略が許可されるとは思いませんわ!」
「なら、どうする……俺達はいつになったら強くなれる?」
「「そ、それは……」」
ザナードくんの言葉に、3人は言葉をつまらせた。
(……あの御方に報告しなくては。もしかしたら……上手くいくかもしれん)
ザナードくん達の少し離れた後ろの席で、怪しい笑みを浮かべる影があった。
(それにしても……まさかこの王都に来ていようとは! 狙いはなんだ!? くそっ、どちらにせよ今は手が出せんか……)
影は静かに立ち上がると、人混みに紛れるようにして、その場を後にした。
◆
【ギルド用観覧席】
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、流石はレーナ嬢……凄まじい【牙】であった! あの年で糞爺を超えるとはのぉ」
かつての【守護神】トーマスは、顎髭を擦りながら高笑いした。
「笑い事か糞爺……どうすんだあの強さ? レイブンさんが負けるとは思えねぇが、苦戦は必須だぜ?」
トーマスの孫、エルガーは顔に包帯を巻いて、面白くなさそうな顔をしていた。
「まだまだじゃのぉ馬鹿孫よ、儂は言うたぞ。恐らく儂らは負けると」
「ちっ」
「で、ですがこれはバトルロイヤル……何が起こるか分かりませんよ?」
「いやいや、あの強さ……他の選手達でどうにか出来る強さではないぞ」
「た、確かに……流石はサクヤ殿のギルド……」
フィラ、ガルデア、カイルも、レイナの強さを目の当たりにし、考察するがいい案は出てこなかった。
「ちっ、カイル……てめぇそればっかだな? あのオバサンに惚れたのか?」
「なっ!? い、いえ私は……決して……その様な……」
明白だった。
カイルは否定するが、顔を真っ赤にさせていた。
「カイルお主……」
「最低……」
ガルデアとフィラは、冷ややかな眼差しでカイルを見つめた。
「わ、私の事はいいじゃないですか!! ど、どうされるおつもりですか……レイブンさん!?」
カイルが勢いよく振り返ると、後ろの席には、レイブンと呼ばれる男が座っていた。
【火】の称号を与えられた男……レイブン。
長い髪を逆立たせ、前髪はオールバック……筋肉もゴツく、一見すると獅子族みたいな男だった。
だが、れっきとした人間である。
「…………さあな。戦ってみんことには分からん。が、強い! 相手にとって不足なし!」
レイブンはスッと立ち上がると、その場を後にした。
「ちょっ!?」
エルガーは引き留めようとしたが、既にレイブンは立ち去っていた。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、どいつもこいつも負けず嫌いじゃのぉ。明日が楽しみじゃわい」
◆
【貴賓席】
基本的には貴族専用の観覧席……そこでも、レイナについて話し合う者達がいた。
「くくっ、どうだミラ? レーナは強いだろ?」
「ミロクさん……笑みが怖いですわ……」
ミロクは嬉しそうに笑う。
ミラはそれを見て、一瞬だけあきれた。
「でも確かに……それにあれが実力とは思えませんわ」
「その通りだ。魔物を倒した時もそうだが、彼女の本当の力は拳にある! ああ……本当に楽しみだ!!」
「まだ彼女が勝つとは決まってませんよ。それに……」
「それに?」
「いえ……確信は有りませんが、何か嫌な音が聞こえた気が……」
「ふふ、流石はミラだ。スキル【聴力】もないのに、あの音が聞こえたか」
「ミロクさんも聞こえたので?」
「ハッキリと聞こえた訳ではない。だが……拳法家として何となく察しはついてる」
ミロクは笑みを止め、真面目な顔で舞台を見つめた。
「レーナが気づいてるかは知らないが……ミラの言う通り、もしかしたら一波乱あるかもな」
ミロクは立ち上り、ゆっくりとその場を後にした。
ミラも後を追う様に立ち上がると、少しだけ舞台へ振り返り、そのままミロクに付いていった。
◆◆
【控え室】
「お疲れ様レイナ」
「はい、お疲れ様です竜斗様」
俺達は微笑みあった。
俺はレイナにタオルを渡すと、汗は掻いていないがレイナは顔を拭いた。
「皆さんは?」
「ああ、先に宿に帰ったよ。あんな一瞬で終わったら疲れてないだろうから、俺だけ迎えに来た。祝杯は宿でしようって」
「そうですか、なら……帰りましょうか」
レイナさんは本当に疲れてないご様子だ。
既に身支度に取りかかり、荷物を纏めだした。
帰る気満々。
「明日は決勝だね?」
「はい」
「まぁなんの心配もしてないから、適当に頑張って」
「はい」
「明日勝ったら、いよいよミロクさんとだな」
「はい」
「…………」
「…………」
話すことがなくなった。
レーナは荷物を纏めている……
俺はレイナの背中を見てる……
「レイ……!?」
「竜……!?」
同時だった。
俺がレイナの肩に手を伸ばそうとしたのと、レイナが振り返り俺に近づこうとしたタイミングが。
ぶつかりそうになったが、そのまま優しく抱き締めた。
「…………」
「…………」
互いに、優しく小さく微笑みあった。
「…………あ、汗臭くないですか?」
「レイナはいつもいい匂いだよ」
レイナは焦った様に尋ねてきた。
俺は鼻をクンクンさせたが、汗臭くない……寧ろ花の様な甘い香りがした。
「も、もう……竜斗様ったら……」
レイナは顔を赤らめた。
どうやらかなり恥ずかしかったみたいだ。
「ねぇレイナ?」
「はい、なんでしょう?」
「いい加減さ……竜斗様っての止めない?」
「何故です?」
「え~と、何か恥ずかしいし……それに俺ら婚約者だろ? 様って呼ばれるのは……」
「なら、何とお呼びしましょう?」
「う~ん……」
提案したのはいいが、いい呼び方が思い付かない……
レイナは少しだけ俺から離した。
「竜斗様がいた世界では、何と呼ばれてましたか?」
「え……そうだな……学校の奴等からは【天原】って呼び捨てかな? 後は【天原くん】とか【天原先輩】とか? 翔兄と智姉からは【竜】って呼ばれてた」
「で、では……私も……お兄様方と同じでも良いですか?」
「竜って事?」
「は、はい……」
レイナは少しだけ恥ずかしそうにした。
「いいよ」
全然問題ない。
「…………りゅ、竜……」
「うん、レイナ」
俺は恥ずかしそうにしているレイナを抱き寄せた。
暫く抱き締めた後、俺はゆっくりと見下ろした。
レイナはこっちを見上げると、少しだけつま先立ちをした。
そして、そのまま顔を近づけていった……
控え室の廊下では未だに他の選手達の声や音が賑やかに聞こえる。
だが、俺達のいる控え室だけは静かな、穏やかな時が流れていた。
◆
「リュートさん、レーナさん、いますか!?」
「さっきの……!?」
「きゃっ!?」
「っ!?」
突然、控え室のドアが開かれた。
入ってきたのは、将来の王国を担う若者4人組。
4人は控え室の入り口で立ち止まった。
見てはいけないものを見てしまった……そんな感じで。
反対に俺とレイナはえらく落ち着いていた。
見られても全然問題なかった。
「ノックするのがマナーですよ?」
レイナはゆっくり俺から顔を離すと、優しく4人に注意した。
「えっ……お二人って……あれ?」
「うそ……」
「まさか……」
「で、でも……え……」
4人は、スライムが豆鉄砲喰らったみたいな顔をしている。
「言ってなかったっけ?」
「えっと……」
「な、何を……?」
「ですか?」
「俺とレイナ、婚約者だよ」
し~ん…………
俺は確かに感じた。
時が止まったのを。
「「ええええええっっっ!?」」
4人の大きな声がハモった。
それはもう綺麗なまでに……
夏休みの宿題……今なら速攻で終わらせられる自信があります!
まぁ、高校の時は読書感想文しかなかったですが(笑)→友人は【〇太郎】で書いてました(笑)自分は【〇ンダム】で書きました(笑)
読書感想文……なろうの作品を書いたら面白いかも。