闘王祭と武王②
「なんで……これが……」
「ん? お前さん知ってんのか?」
「あ、いや……」
しまった……思わず呟いてしまった。
でも仕方ないだろ……
だってガブリエルが使ってた、今はネムリスが持ってる筈のこの神器がここにあるんだから……
「私と竜斗様は神国(側)から来ました。この神器は1度、神国でお見かけしたことがあります」
「レーナちゃん、この神器知ってんのか!?」
「はい、今は亡き女王ディアネイラが持っていたものです」
「なっ!?」
レイナは知ってる事を、店長のおっちゃんに話始めた。
勿論、天使の事や……俺達がランクSS以上の事は黙ったままで。
嘘は言ってないが、本当の事も隠した。
「そうか……なら女王ディアネイラはランクZEROだったのか?」
「いえ、それはないです……ディアネイラはランクAです」
「ならなんで、女王はこの神器を……」
「私達も詳しいことは……」
するとモブリンさんとアイナさんも、いつの間にか話に加わってきた。
「そういや……オラ達はネムリス陛下に頼まれて、物資を王国に届けただ。中には王様への献上の品もいぐつかあっだと……」
「魔物に襲われたとお聞きしました……もしかしたら、その時に紛れ込んだのかもしれませんね」
「んだ」
あれ?
そう話す2人の距離がやけに近い。
この短時間でかなり仲が良くなったようだ。
早くね?
俺の気のせいか……?
「うむ……そう言うことか……」
おっちゃんは頭を悩ませてる様子だった。
「どしたの?」
「リュート、この神器買う気はないか?」
「「は!?」」
「いやな……本当なら貴族さんに高値で売るか、家宝にでもしようか考えたんだけど……国王陛下の献上品かもしれないんだろ? なんかお偉いさんに知られて打首とかになりたくないから、お前さんに譲ろうかと……」
おい!
俺が打首になってもいいのか!!
「レーナちゃんに迷惑はかけたくないし、お前さんなら……いいかなと」
ふざけんな!
「そんな物騒な神器いらねぇよ!! それに俺は刀派だ!! 大体Sランクの俺には発動すらできねぇよ!!」
すんません……最後は嘘つきました。
発動出来ます。
でも、これで俺がランクZEROだということは誤魔化せたかな。
「馬鹿野郎! 善良な一般市民の俺が死んでもいいのか!!」
「どの口が言ってやがる!! 自分の体を見てみろ!!」
おっちゃんの肉体は鍛え上げられ、ムキムキだ。
しかもテカッてる。
ボディービルダーだ。
「ごほん……まぁそれに理由はそれだけじゃねぇ」
おっちゃんは、わざとらしく咳き込む。
「?」
「お前さんなら、いつかこの神器を使いこなすんじゃないか……そう思ったから提案したんだ」
「…………」
何なんだ……
何故この世界の人達は、こうも勘が鋭いのだろう……
「でもな……」
俺は思わず照れてしまった。
まさか、おっちゃんの俺への評価がこれほど高いなんて……
「籠手や具足だったらレーナちゃんに薦めてる。お前さんは剣士なんだろ? お前さんが持っとけよ、強いんだし」
なるほど……
ただの相性か……
つまり俺は、おっちゃんにとってレイナのバーターって事ね……
俺は頭を掻いて諦めた。
「分かったよ……いくら?」
「お、買う気になったか! まいどあり!!」
おっちゃんは……強かだ。
一気に商売人の顔になり、ヘラヘラと笑ってる。
そして……かなりのお金を徴収された。
ぐっ……お金袋がスカスカだ。
涙が溢れそうになった。
だって……表立って使えない神器を高値で買わされたんだからな……
「丁度いい、レーナちゃんも買っていくか?」
おっちゃんは俺が項垂れているのを無視して、レイナに振り向いた。
「何かあるのですか? 正直、このお店で働かせてもらっていましたが、良い神器は無かったかと……」
「ぐっ……手厳しいなレーナちゃん……だが、今ならある!」
おっちゃんは自信満々に答えた。
おっちゃんは、厚い胸板から神器を取り出した。
「これだ!!」
おっちゃんはレイナに手を差し出す。
「……………………はぁ」
レイナはめっちゃ受け取りにくそうに、神器を受け取り指にはめた。
【銀華】<兜/無/守護/S>
レイナは神器を発動させた。
その神器は、兜とは名ばかりの髪飾りだった。
一輪の大きな華と、リボンを合わせた銀色に輝く神器だ。
レイナの左耳の上辺りに装着され、レイナの美しさを更に際立たせた。
いい……
「ど、どうです竜斗様?」
レイナはクルリとその場で回って見せた。
可憐だった。
「いい」
俺は、おっちゃんにグッジョブをした。
おっちゃんも、ニヤリと笑うとグッジョブし返してきた。
「では、これ買います」
「まいどあり!」
「今のSランクだろ? どうしたの?」
「ああ……昔の【美麗杯】に出てた骨董品だ。知り合いの金持ちが持ってたけど、要らないから譲ってくれたんだ」
「へぇ……」
「何でも英祖ショーマのパーティーにいた奴のとか何とか……本当か知らないけどな」
俺はレイナの方に振り向いた。
店に置いてあった鏡を見て、レイナは嬉しそうに確認している。
余程、気に入ったようだ。
◆
そういえば、俺とレイナがスキル【邪眼】の力でステータスを変えていた事は、サクヤさん達にもバレてしまった。
当然、デモンストレーションや天王の部で活躍してしまった俺だ……Aランクで通すのは限界だ。
というわけで、この際Sランク仕様に変えてみようと思う。
レイナに耳打ちして変えてもらった。
【リュート・テンゲン】(18)
種族
【人間】
クラス
【天剣】
ランク
【S】
先天スキル
【剣神】
後天スキル
【五光】【魔曲】【神速】【合魔】
特殊スキル
【観察眼】
神器
【御神木】<刀/無/不壊/E>
【森羅万象】<籠手/炎水風雷地/付加/S>
【1783】<袋/次元/収納/D>
【魔名宝空マモルモノ】<盾/風/守護/S>
【神鳴カミナリ】<刀/雷/放電/S>
【帰巣本能マクロ・ス】<門/次元/転移/S>
※【絶刀・天魔】<刀/次元/巨大化/ZERO>
※【天の剣】<剣/水/伸縮/ZERO>
【レーナ・サタルディア】(21)
種族
【人間】
クラス
【拳姫】
ランク
【S】
先天スキル
【魔皇】【枯渇】【身体強化】
後天スキル
【崩拳】【??】
特殊スキル
【魔眼<王>】
神器
【銀鶴】<具足/無/衝撃/S>
【大和】<籠手/無/衝撃/A>
【巴】<薙刀/無/属性無効/A>
【銀華】<兜/無/守護/S>
【??】
【??】
※【崩龍】<籠手/次元/衝撃/SS>
ふむ……大分、元のステータスに近づいた。
俺が変えたのは……クラスとランク、それと【森羅万象】のランクくらいだ。
後天スキルの【王気】と【変化】は隠したままだ。
レイナも……クラスとランク。後はそのまま……あれ?
「レイナ……歳が……21?」
「あ、はい……そうですよ。【三ノ月】の【三ノ日】が生まれた日です」
レイナは当然のようにシレッと答えた。
て、数日前じゃん!!
鎧王の部の予選じゃん!!
キョウが敗けた日じゃん!!
「何で言ってくれなかったの!?」
俺は焦りまくって声を荒げた。
「何でと申されましても……別に、1つ年を取っただけですよ?」
レイナはシレッと答えた。
つまりあれか……
魔族には、誕生日を祝う習慣がないのか……
または、アルカディア国にはないか……
はたまた、レイナが気にしてないか……
レイナは2つ上ではなく、3つ上だった。
衝撃の事実だった……
「はぁ……」
「?」
俺が深いため息を溢してもレイナはキョトンとしている。
くっ、俺は……
婚約者失格だ……
婚約者の誕生日を知らなかったなんて、男として最低だ……
でも仕方ないじゃないか……
今まで彼女とかいたことないし……
言い訳?
するよ!
させてよ!
じゃないと、罪悪感で押し潰されそうだ……
「今度何かプレゼントしなくちゃ……」
俺は小声で呟いた。