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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第八章【闘王祭】
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秘めたる決意と新たな決意




「ごほっ、ごほっ……!」

 1人の男性はその場で咳き込むと、口に手を当て、必死に堪えようとした。



「だ、大丈夫ですか!?」

 男性に付いて歩く女性が駆け寄ろうとするが、男性は手を翳し制止させた。



「問題ない……」

 男性は咳が収まると、再び毅然と歩き出した。





 アーク帝国、皇帝の住まう天城……


 綺羅びやかな廊下を闊歩するのは、この国の皇帝……アーサー・アーク・ベオウルフ。

 少し後ろを付き従うは、六花仙が1人……桜花セツナ。



 皇帝は深紅のマントを靡かせながら足早に歩いた。



「それで……【天宮軍】は?」

 皇帝は前だけを見据えて、セツナに問うた。


「はっ……【破軍】【魔軍】共に予定の8割程です。しかし直ぐに準備を終わらせてみせます」

 セツナは付いて歩きながら答えた。


「よし……【天災(ディザスター)】は?」

「それが……【凶星】は良いのですが、【破星】のパワーが4割程しか……」



 皇帝は足を止めた。



「ちっ……仮に4割だとどうなる?」

「恐らく、王国に到達する前に消滅すると研究者達は……」


 セツナは申し訳なさそうに答えた。



「まだ足りぬか……」

「いましばしの猶予を……研究者達も必ず成し遂げると申しております」


「…………なんとか7割までにしろ。そこまで溜まれば充分な筈だ」

「分かりました……」



 皇帝とセツナは再び前へと歩き出した。



「して、【凶軍】は?」

「は……恐れながらかなり制御の方に問題が……押さえつけるのもそろそろ限界です」


「だろうな……【服従】のスキル持ちがいればまだ違ったのだろうが……ゼータを追放させたのは間違いだったか……」

「いえ、恐らく【服従】持ちでも雀の涙かと……」


「そうか……」

「探させますか?」


「いや、いい……ゼータもお前もよくやってくれた……」

 皇帝はいつになく弱々しく呟いた。



「ま、まさか……オルスとイルミナを解任させたのも……?」

「……そう言うことだ。最後の攻撃を行うと同時に、六花仙は解散させる」


「!?」

「お前達が俺の怨恨に付き合う必要はない」


 皇帝は、再度歩みを止めると、今度はセツナに振り返った。



「し、しかし……」

「分かっている……これは罰だ……堕落しきった人も魔族にも罪を償わせる。勿論、この俺もな……」

 皇帝は悲しげな瞳でセツナを見つめた。


「皇帝陛下……」

「お前達、六花仙だけだ……この屑みたいな俺に真に従い、屑みたいな国を真に護ってくれたのは……」


「そ、その様な事は……!」


 セツナは声を荒げたが、皇帝は首を横に振った。



「まぁどうするかはお前らに任せる……【桔梗】と【牡丹】にも秘密裏に伝えておけ」

「か、畏まり、ました……」



 皇帝は勢いよく振り向くと、今度は立ち止まることなくただ真っ直ぐと前へ歩き出した。

 セツナはその場に留まり、皇帝の背中が消えるまで、ただただ見つめていた。




(ああ……姉様……メタトロン姉様……どうか……どうかこの愚かな妹をお許し下さい……私は……サンダルフォンめは……あの方を愛しております……)



 セツナ……サンダルフォンは懺悔した。



(我らが主である、唯一神アルカ様の神託を全うすることなく……私は……私は……)



 サンダルフォンは天使の身でありながら、人に恋をした。

 下等種族如き人に恋をした。

 そして覚悟も決めていた。


 あの人の為なら……と。



(私は嘘をつきました姉様…………ですが……仲間達だけは……必ず復活させてみせます…………ああ……アルカ様……どうか……どうか愚かな私の最後の望みだけでもお聞き届け下さい……!)



 サンダルフォンは心から懺悔し、その場でしばしの祈りを捧げた。

 まるでサンダルフォンを祝福するかの如く、天窓から光が指し込み、サンダルフォンを優しく包み込んだ。



(セツナ……貴女も私も惨めなものです……愛するあの御方の心を得ることが出来ないと分かっていて、何と愚かなのでしょうね……)



 サンダルフォンは自分に問いかけた。



(ですがセツナ……せめて貴女の最後の望みだけは叶えてみせます……必ず……きっと……)



 サンダルフォンは立ち上がると、真っ直ぐに歩き出した。



 その瞳は、既に覚悟を決めた眼だった。

 どの様な事になっても己の信念を曲げる事はない……そう物語っていた。

 愛する人の為なら、この命を捧げる……と!



「誰か! 桔梗と牡丹を今すぐ私の部屋に呼べ!」



 サンダルフォンに迷いはなかった。







 ある屋敷の一室にて、ゴソゴソと荷物を纏め、袋の神器に仕舞う者がいた。



 名をクウマ・ランドベル。



 ホウライ王国に仕える、四傑が1人、死神と呼ばれる人間の男性であった。

 しかし外見と違い、中身は全くの別物であった。



 天使ウリエル。


 七大天使の一柱であり、かつては四大天使として数多の敵を屠りし者でもあった。

 そんな彼が、自室にて荷物を纏めていた時だった。



「!?」



 不意に空間が揺らぐと1つの門が現れ、向こうから1人の女性が姿を現した。


 女性の名は、ハクア・ホーク……ではなく、天使メタトロンであった。



「お帰りなさいませ、メタトロン様」

 ウリエルは手を止め、メタトロンに一礼した。


「…………」

 メタトロンは黙ったまま何か考え事をしていた。


「ど、どうかされましたか?」

「…………」


 ウリエルが尋ねるが、それでもメタトロンは黙ったままだった。



「ま、まさか……ミカエルさんに何か…!?」

「いや……それは大丈夫だ」


 メタトロンはようやく重たい口を開いた。

 ウリエルはそれを聞いて胸を撫で下ろした。



 メタトロンは先刻サンダルフォンと再会した後、霊峰アルカへと向かった。

 そこに封印されているミカエルを確認する為だった。

 その確認を終え、今はウリエルの屋敷に戻ってきたのだった。



「いや、大丈夫ではないな……」

 メタトロンは頭を悩ませた。


「ど、どういう意味です?」

 ウリエルの額に汗がつたった。



「ショーマ・H・クラフト……とんでもない人間だ! 人の身でありながら、あのミカエルをあそこまで……!!」


 激昂するメタトロンを、ウリエルは初めて見た。


「ふ、封印……それほど酷いのですか……?」

「いや、それもそうなのだが……」



 メタトロンは自分が見てきたことを、ウリエルに全て伝えた。




「な、なんてことだ……」

 ウリエルは頭を抱えた。


「我々、六柱がいなければいけない意味が分かった……! ミカエル復活には、間違いなくラファエルとサンダルフォンが必要だ!!」


「で、でしたらいっそ……その肉体を捨てさせた方が……」

「いや、我々もそうだが……これは【転生】だ。魂と肉体とを分離させる事など不可能だ……お前が言った通り、主かミカエルでなければ不可能だ」


「サンダルフォン様の【天檻】、或いはガブリエルさんの【天啓】を用いれば……」


「どうかな……」

 メタトロンは小さく苦笑いした。



 2人は少しだけ黙り、お互いに思案していると、思い立ったようにメタトロンが口を開いた。




「我々の転生は……ミカエルのスキル【天生】と、主のお造りになった【迷宮】を介する事で初めて可能となっているのだ」

「そ、そうだったのですね……」


 そこでウリエルは気づいた。


「ん? で、でしたら……サンダルフォン様の【天檻】で、ガブリエルさんとラファエルさんの転生は可能なのですか?」


 そう、サンダルフォンのスキル【天檻】にその様な効果はない。

 あくまで……傷ついた魂を封じ込めるか、中で癒すことしか出来ないのであった。



「サンダルフォン様が嘘を……!?」

「いや、それはないな。恐らくミカエルとガブリエルと何らかの契約を結んでいると我はみている」


「契約を?」


 ウリエルの問いにメタトロンは頷いた。



「千年前……恐らく妹のスキル【天檻】に、ミカエルのスキル【天生(転生)】の影響を受けれる様、ガブリエルのスキル【天啓】で契約したのだ」


「な、なるほど……天啓は理をねじ曲げるスキル……か、可能かもしれませんね」


「ミカエルの事だ……自分にもしもの事があった時を考えて、サンダルフォンに託していると我はみている」

「ですね、あのお二人の関係もまた特別ですから……」




「それで、ラファエルの肉体は?」

 メタトロンは近くにあったソファに腰掛け話を変えた。


「申し訳ありません、今は闘王祭の最中……終わり次第接触します」

 ウリエルは準備だけは済ましておこうと、再度荷物を纏め始めた。


「祭りか……その者は祭りに参加しているのか?」

「いえ、参加はしてないと思います」


 メタトロンは顎に手を当てると一考した。


「ふむ、人間の祭りか……我も観戦するか……」

 メタトロンは興味深そうに呟いた。



「確か明日からは【武王の部】……拳で戦う競技が行われます」

 ウリエルは先刻、部下からの報告をメタトロンに伝えた。


「面白そうだな……お前はどうする?」


「私は直に迷宮に向かいます」

「何故だ?」


「ラファエルさんの為に神珠を手に入れておこうかと……」

「……成る程。確かにな……」


 見るとメタトロンの指には、ハクアが使用していたSランクまでの神器しかなかった。

 ランクZEROのメタトロンにとっては、物足りない神器であった。


「我も迷宮攻略しなければな……」

 対魔族の為にも強力な神器が必要であったからだ。



「でしたらこれを……」

 ウリエルは私室に隠してあった神珠を手に取り、メタトロンに差し出した。


 メタトロンはそれを受け取ると、じっと神珠を眺めた。


「ほう……悪くないな。ランクZEROに……属性も私に合う【光属性】か……」

 メタトロンは小さく微笑んだ。


「以前に手に入れておいて良かったです」

 ウリエルは誇らしそうに小さく微笑んだ。


「お前が龍種を倒したのか?」

「ええ。皆さんを探すのと同時に……皆さんが復活した時を考え、いくつか入手してあります」


「ランクZEROの龍はどうであった?」

「たかが魔物です……我々にとっては、倒すことなど造作もありません」


「そうか」

「しかし……」


「ん?」

「アルカ様のお造りになられた遊技場に、我々が赴く事になるとは思いもしませんでした……」


 ほんの僅かに沈黙が流れた。

 私室の窓は少しだけ開いており、そこから風が吹き込むと2人の髪を靡かせた。



「…………アルカ様はこうなると読んでいたのでしょうか?」

「どうかな……我々に、その御心を知る(すべ)はない」



 ウリエルとメタトロンは、ほんの僅かだけ不安になった。


 もし、そうなら千年前の天魔戦争にて天使が敗けると予想していた事になるからだ。

 神器やスキルもそうだが、迷宮とは……まるで七大天使(じぶんたち)を転生出来るようにするためのシステムだったのでは?……そう思わざるをえなかったからだ。


 そうだとしたら……

 天魔戦争とは一体なんだったのか……



「……だが」

「ええ」


「我々のすることは1つだ」

「はい」



「「悪魔の根絶!!」」



「幾億の時がかかろうとも……」

「必ずや……!」



 ウリエルとメタトロンは不安を薙ぎ払い、決意を新たにした。




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