闘王祭と天王⑤
『な、何が起こったのでしょう!? スタートと同時にリュート選手以外、その場で踞っています!』
『……恐らく、リュート選手が何かしたのでしょう……』
アイナさんの実況と、コザーク?……の解説で、闘技場内はザワツイている。
そんな中……
「早く神器解除した方がいいよ」
「「!?」」
俺は皆にアドバイスすると、軽いジョギング感覚で走り出した。
選手達は戸惑いつつも、慌てて神器を解除した。
よしよし……誰も死んでないな?
下手したら死ぬ奴が出てたかもしれないからな……
俺は後ろをチラチラ見ながら走る。
そんな俺を、皆はフラフラになりながらも、なんとか付いてこようと駆け出した。
「く、くそったれ……!」
誰かがそう呟くと……腕輪と思われる神器を発動させ、俺に向かって炎の球を発射してきた。
「おっと……」
俺は軽く躱す。
それを見た他の選手達も一斉に、再度神器を発動させて俺を攻撃してきた。
俺は盾の神器を発動させて、難なく防いで見せた。
緑色の球体が俺を護ると、俺は霧散させるように風を散らした。
「「ぐっ……!!」」
鎧王のデモンストレーションで大活躍の神器を目の当たりにすると、選手達は悔しがり、攻撃の手を緩めた。
諦めの早い奴等だ。
「糞餓鬼がぁああっっ!!」
エルガーは叫ぶと、手を翳してきた。
「お前は大人しくしてろ……!」
俺はバック走しながらエルガーに手を翳した。
「なっ!?」
風の球体がエルガーを包むと、エルガーはその場から動けなくなった。
宣言通り、サクッとブッ飛ばす…………事にはならなかったが、これでエルガーは最下位になった。
2番手辺りにいたが、次々と他の選手達が抜いていく。
『おおっと!! リュート選手、予選で見せた球体を、決勝でも使用してきました!!』
『何故、エルガー選手にだけ?』
『開始前に何やらあったようですし、その辺りが関係しているのでしょうか?』
『かも知れませんね』
「くそがーーっ!!」
エルガーが風に護られながら、中で叫んでいる。
天王の部は、最速を決める競技……なのだが……
何故か誰も神器を発動させない。
完全にただの200メートル走と化した。
しかも、エルガーを除く皆はフラフラしながら走っている……
過去の闘王祭がどうだったかは知らないが、過去最高に遅いのではなかろうか?
まぁ決勝がこれで終わったら味気無いからな……
俺はエルガーを護る風を解除した。
そして遥か前方からエルガーをチラ見する。
「な、舐めやがって……糞餓鬼が……!!」
エルガーの怒りはマックスとなり、巻き返そうと神器を発動させ駆け出した。
雷属性の具足の神器。
雷がフィールドを駆ける。
その速さは流石と言わざるを得ない。
アトラス、羅刹王、ジェガンには劣るものの中々だった。
『エルガー選手、驚異の速さだ!! 最後尾からグングンと差を縮めて来てます!!』
『ここからならまだ逆転を狙えますからね』
「うおぉぉおおお!!」
エルガーは叫びながら駆ける。
『エルガー選手、9位のモブリース選手の背中を捉えた!!』
「俺様はトーマス・エルガー!! ギルド【風林火山陰雷】の【雷】を司る男だーー!! 雷属性は最高最そ……ぶっ!?」
エルガーは壁?に激突した。
「な、なびが……!?」
エルガーは鼻から垂れる血を抑えながら戸惑っていた。
『こ、これは……再びリュート選手による結界でしょうか!?』
『ですが……何やら黄色?……の粒が輝いているように見えます』
さっきまでの普通の風属性の球体ではないですよ。
風と地属性を合魔させた【砂属性】です。
まだ剣技には試していない俺のとっておきだ。
ただでさえ破れないのに、雷属性に強い地属性を織り交ぜたんだ……光栄に思えよ。
俺はエルガーに向けて小さく微笑んだ。
「糞餓鬼がぁああああっっ!!」
エルガーは最高に悔しがっている。
悪いな、俺まだ18ちゃいの餓鬼なんだ。
エルガーは中から球体を蹴るがビクともしていなかった。
それを確認すると俺は、砂塵を撒き散らせながら最後の加速をした。
ートンッー
ゴールラインを踏むと、ゆっくりと神器を解除させた。
フィールドの半分を覆うほどの砂埃が徐々に晴れていく。
8人の選手達はまだ後方にいた。
そしてエルガーだけ、息を切らしながらへたり込んでいた。
勝った。
『リュート選手、ゴールです!! この瞬間、リュート選手が天王の座を獲得しましたーー!!』
『文句のつけようのない圧倒的な差でしたね』
俺の勝利が告げられると観客達は大いに湧いた。
俺は仲間達を見つけると、大きく手を振った。
予選の時とは違い、今度は皆も喜んでいる。
レイナと目が合うと、俺達は微笑みあった。
◆
少しして……
『次々と他の選手達もゴールしていきます』
『他の選手達も諦めずに最後まで頑張りました』
振り返ると……既に何人かはゴールしており、最後の9人目の選手もゴール間近だった。
ただ一人……エルガーを除いて。
『これで……ギルド【刀剣愛好家】は、【剣王】と【天王】の2つ。ギルド【風林火山陰雷】は【鎧王】と【輝王】の2つを。最後の【武王】で全てが決まります』
『ええ』
『しかし、武王の称号を手にするのは他のギルドかも知れません』
『その通りです、本当に明日からが楽しみ…………ん?』
『こ、これは……!!』
9人全員がゴールし、俺達が解散しようとした時だった。
エルガーが、俺に向かって攻撃をしてきた。
鋭利な神器が、俺の頬を……霞めなかった。
神眼はエルガーの動きを捉えており……てか、最初からエルガーから目は離していない。
エルガーの手には、雷を帯びた短剣が握られていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……糞、餓鬼が……殺して……やる……」
そして……息を切らしながら笑みを浮かべて、危ない顔をしていた。
◆
「あの、馬鹿孫めっ! やらかしおったわ!!」
トーマスは観覧席から立ちあがり、激昂した。
「ど、どうしますかトーマス様!?」
「い、いくらなんでもあれは……」
エルガーと同じギルド員でもある、フィラとカイルはどうすればいいか戸惑った。
「決まっておるわ!! 今すぐにリュートの援……護に……?」
今にもフィールドに飛び降りそうなトーマスを制止させたのはレイナだった。
「レイナ嬢?」
「大丈夫です、見ていて下さい」
レイナはトーマス達に向けてニコッと微笑むと、再び竜斗の方へ視線を戻した。
◆
『な、なんて事でしょうか!? 栄誉ある闘王祭……その天王の部が終了した直後に、エルガー選手……し、信じられない事に……リュート選手を攻撃してきました!!』
『これはいけません!! すぐにでもリュート選手の……っ!』
実況席は慌ただしくなった。
当然、それは闘技場全体で巻き起こった。
ブーイングの嵐。
エルガーに向けて、罵詈雑言が浴びせられた。
◆
「いいのかよ?」
俺はエルガーと対峙し問うた。
「うるせー糞餓鬼……どのみち決勝であんな惨めな負け方したんだ……俺様はもう終わりだ……」
なんて悲観的な奴。
天王の部で負けただけだろ……
「なら……仕方無いな……」
俺は懐に入れていた神器を1つ取り出して指に嵌めた。
「発動」
させたのは刀の神器【御神木】と【森羅万象】。
「…………どこまでも舐めた野郎だっ!」
御神木を見てエルガーは歯軋りする。
何故に?
「いいからかかってこい、性根の腐った奴にはお仕置きが世の常だ」
「……く、くそったれがーーっ!!」
『ああっ!? エルガー選手がリュート選手に向かって駆け出した!!』
『リュート選手はあの木の刀で迎え撃つ気ですね!?』
エルガーは駆ける…………が、全然洗練されてない、ただの突撃。
見るに耐えない……
これなら天王中の走りの方が全然マシだった。
俺は御神木に属性を付加させた。
そして、下段の構えをとった。
【下段の構え】+【嵐属性】
エルガーが迫る。
「死ねぇええっ!!」
短剣の剣先が、俺の顔面を突く僅か数センチ……
「下段・嵐の位 タイフーン!!」
真っ直ぐに刀を振り上げた!
御神木の先端が、エルガーの顎を捉えて、一気に吹き飛ばした。
全員が空を見上げた。
弧を描く様に、エルガーは宙を舞った……
観客達はそれを目で追った……
そして……放物線を描きながらエルガーは観覧席へと落下した。
落下地点にいた観客達は僅かに体を動かし、避難する。
エルガーが落下した箇所はボロボロに壊れ、土煙が舞っていた。
土煙が晴れると、そこには顎の骨を砕かれたエルガーの姿があり……
奇しくも……エルガーが見上げる位置にはユイの姿があった。
「ず、ずびばぜん……でじだ…………」
「あ、はい……」
エルガーは顎が割れたくせに、上手に声を出し、ユイに謝罪した。
それを受けたユイはただただ戸惑っていた。
謝罪したエルガーは、それはもう見事なまでに綺麗に気を失った。
闘技場は沸いた。
『なーーーーーーーっ!! こ、これが……これが天王……いや、天剣の剣技!! エルガー選手の攻撃を物ともせず、アッサリと吹き飛ばしてしまいましたっ!!』
『いやはや……お見事としか言いようがないです……はい……』
闘技場の至るところで盛り上がっている。
いや全体でだった。
なんにせよ……
これで俺が最速だ!!
…………あれ?
なんか違う気がする……
タイトルを「彼方とカナタ」にしようか、凄く迷いました……くっ!
ま、まぁ……これで天王の部は終わりです。
閑話?を数話書いたら、いよいよ武王の部……やっとヒロイン登場?です!!
ネタバレ?を少し……
楽しい時間が終わりを迎える感覚……
まぁ……闘王祭が終わるまでは大丈夫です(苦笑)