闘王祭と天王②
闘技場は未だ静まり返っていた。
そんな中、
『な、な、な、な……』
な?
アイナさんが、壊れたロボットみたいに、なを繰り返している。
『……わ、私は、夢を見ているのでしょうか?』
んな馬鹿な。
『圧倒的……そう、圧倒的としか言い様がありません!』
『……ですな。他の選手は未だ結界?に閉じ込められたままなのだから……』
『き、記録は……』
アイナさんはゴール付近に設置されている神器……最後の測定器を見ている。
『言うまでもありませんね……』
『本当に信じられん……』
測定器にはデカデカと数値が表示されていた。
その数値を見ていた全員が固唾を飲んで見守っている。
『リュート選手、余裕で予選通過です!! お、おまけに……過去最速だったクウマ様の出された記録を、ぶっちぎりで更新の、歴代最速記録まで出してしまいましたーー!!』
アイナさんは高らかに、俺の勝利を告げてくれた。
割れんばかりの歓声を浴び、みんなに向かって愛想よく手を振った。
おっと、忘れない内に神器も解除しなければ。
にしても、やっぱ【嵐属性】の結界は誰も破れなかったか……
Sランクの神器が二属性により、SSランクへと変化したのだから破られる訳がない。
スタート位置では唖然としている選手……悔しがる選手……そそくさと立ち去る選手……等々。
ふむ……
余裕だったな。
俺は観覧席にいる仲間に向かってブイサインをした。
皆安心した顔で喜んでいる。
はとが豆鉄砲喰らった様な顔をしていない。
ないったらない……そう思いたい……
だが実際にはレイナ以外は、驚きのあまり開いた口が塞がっていない。
そんなに驚く事かな?
まぁ歴代最速記録なのだから、驚くのは無理からぬ話だが、流石に驚き過ぎの気がする。
俺は指で矢印を作り、レイナに控え室に行くと口パクで合図した。
レイナはコクリと頷いた。
よし、控え室で合流だな。
固まったままの3人はレイナに任せて、俺はゴール付近にある通路を通り、控え室を目指した。
◆
「お前、マジでなんなんだ!!」
「ふぅむ……勝つだろうとは思っていたが、よもや最速記録までだすとは……」
「凄すぎ……」
控え室で寛いでいると、3人は勢いよく飛び込んできた。
その後ろからレイナが微笑ましく見つめていた。
「いや、ぶっちぎりで勝つって言ったよね?」
「それにしたってお前……」
「はは、もうね……苦笑いしか出てこないよ……」
「これなら天王は間違いなさそうだな……」
「まぁ明日の決勝は、エルガーには何もさせずに勝つよ」
「あの結界か?」
「う~ん、いやチョット違うかな? 俺が勝って、アイツを最下位にさせる」
「そんな事出来んのかよ?」
「そうだよ……あれだけ大口叩いてたんだから、多分かなりの実力者だよ?」
「その通りだ。順位を調整する前に勝つことを優先するべきだ」
「そっか……アイツが予選で負ける可能性もあるもんな」
「え、無視……?」
「ダメだ……もうアイツを負かすことしか考えてないな」
「……だが、あの記録を出した後だと何も言えんな……」
その通りです。
「まぁ観ててよ」
「頑張って下さい、竜斗様」
「おう!」
◆
「す、凄かったです……!」
「ああ、流石はサクヤ殿のギルドに属する人だ」
エルフのフィラと、カイルは自分達のギルドの控え室にて未だ興奮していた。
「天剣の名は伊達ではなかったですね」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ、ふぉ……? それは関係なくね?」
ドワーフのガルデアと、ギルドマスターであるトーマスもであった。
「ところで……エルガーさんと、レイヴンさんは?」
フィラは分かっているのに、控え室内を見回すした。
「エルガーさんは直に予選第4グループが始まる。レイヴンさんなら最初から来ていない」
カイルが答える。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ……予想通りであったが想像以上じゃったな」
「笑い事ですかギルマス……あれほどだと、恐らく天王は……」
ガルデアは、開きなおっている感じのトーマスを見て呆れていた。
「まぁ、これでエルガーも上には上がいると思い知ったじゃろう」
トーマスはこれで孫が成長してくれるだろうと期待した。
が、
「簡単にいけばいいのですが……」
「確かに……」
「何かしでかしそうだな……」
3人は不安そうに呟いた。
◆
闘技場内は興奮冷めやらぬ中、着々と闘王祭が進行されていった。
そんな中、ある観覧席では……
「…………」
ザナードの口はあんぐりと開けられたままだった。
「本当に凄い……あんなアッサリ、叔父様の記録を抜くなんて……」
ルナはゴクリと唾をのみこんだ。
「アッサリかは分からないけど、本当に凄い……それにあの盾……防御の結界をあんな風に使うなんて……能力【噴射】もないのにどうやってあんなに風を……?」
カルラは驚きながらも冷静に分析するよう努めていた。
3人は並んで観覧席に座っていたが、最早、フィールドを駆ける他の選手の事など目にも入っていなかった。
「いえ、恐らく【球体の結界】にする一歩手前で止めているのです。それがあの盾から吹き荒れる風の正体ですわ」
そんな3人の後ろから不意に声がした。
それは結界を知るからこその言葉だった。
3人は聞き覚えのある声に振り向いた。
「「ミラ!?」」
「ミラちゃん!? それに……」
「ふむ。それを速度上昇系のスキルを駆使することで、あのような疑似飛翔を可能にしている訳か……」
ミラの隣にはよく知る人物もいた。
「「ミロク様!?」」
「母上!?」
3人のあまりにも大きな驚きの声に、誰もが気づきザワザワと騒ぎ出した。
当然である……この国のトップである4人の内の2人がいるのだから。
しかし、2人はカルラ達の事すら相手にもせず、冷静に分析していた。
「しかし気になるのはあの籠手だな……?」
「ええ。それに、風の吹き荒れる大きさが尋常ではありません……」
2人は席には座らず立ったまま闘技場、フィールドを眺めていた。
正確には今行われている第4グループの試合など観ておらず、フィールドを眺めることで、先程行われた竜斗の試合を思い出していた。
「あの籠手は恐らく……能力【付加】か……」
「ミロクさん……まさか魔眼を……?」
「いや、私に魔眼がない事は知っているだろう? 能力【付加】の神器は何度か見たことがある、経験からそう判断した」
「では……2つの属性を……?」
「どうかな……それに以前、エンマ殿がリュートを視た時にレアスキルが異常に多いと言っていた……」
「?」
「ミラ覚えているか? 機械国の、機械王アトラスの側近……ヒュースという魔族を……」
「……はい、昨年のオークションを潰されましたから。まさか……!?」
「あやつは恐らくスキル【合魔】の持ち主だ。その証拠に見たこともない【氷】属性を扱っていた。恐らくリュートも持っている筈、あの風はただの【風属性】ではない……!」
「……エンマさんに聞いてみますか?」
「ああ、何か分かるかもしれん」
2人はここでようやく、前に座る3人に目を向けた。
「……ふふ、どうだカルラ? やはりリュートは凄かっただろう?」
「は、はい!」
「……聞いたぞ、ランクが上がったそうだな?」
「はい。リュートさんに修練してもらいました」
ミロクはポンッとカルラの頭に手を添えた。
一見すると妹が兄の頭に手を乗せたように見えるが、この2人は親子である……
「いい顔になった、精進しなさい」
「っ、はい!!」
暗く俯いてばかりの息子の成長を、母としてミロクは喜んだ。
リュートの存在は気になる……だがそれでも母として息子を成長させてくれた事は、心から感謝していた。
「では皆さん、また……」
ミラは3人に小さく手を振りながら、ミロクと共に立ち去っていった。
◆
「「ぽかーん……」」
ザナードとルナは呆気に取られていた。
「ザナードくん、ルナちゃん……!」
カルラは意を決し立ち上がった。
「どうしたのカルラくん?」
「今から王院に行って修練しよう!」
「……今からか?」
「うん! やっぱ見てるだけじゃ、いつまでたってもあの2人やリュートさん達みたいに強くなれないよ」
「……いいだろう」
「私も!」
ザナードとルナも笑顔で立ち上がった。
「それなら私も参加しますわ」
「ファナちゃん……?」
今度は同じ王院生のファナが、3人に声をかけた。
「抜け駆けは許しませんわ」
「はいはい、取り巻きもいないことだし……別にいいわよ」
「何故貴女の許可が? 私はカルラさんの修練にお付き合いさせて頂くだけですわ」
「あんたってホント……っ!」
相変わらず睨み合う2人……
「なら行くぞ!」
「「っ!?」」
ザナードは2人の服を掴むと引っ張っていった。
「ははっ……」
カルラは苦笑いしながら後を付いて歩いた。
「ちょっ!? ザナード離しなさいよっ!」
「わ、わたくしを引っ張らないで頂けますっ!!」
4人は怒りながら、笑いながら、ふざけながら、王院の訓練場を目指した。
必ず強くなると胸に秘めて……
それは4人にとって……
かけがえのない……
黄金の様に眩しい時間……
青春だった……
◆
そんな4人を……ただただ、じっと……気配を消して見つめる影があった……
申し訳ありません……
凄く悩んだのですが、敢えて記録の数値(秒数)は書きませんでした。
書き手として技量があれば良かったのですが……数値化すると、今までの動き(速さ)に辻褄が合わなくなるのではと感じたからです……
勢いで2秒とか1秒とか書けばテンションは上がったかも知れませんが……これからの事を考えると、戦闘力みたいな事になったら目も当てられなくなるので……
竜斗の速さは皆さんのご想像にお任せします……凄く速いとだけ!
本当に申し訳ありません……