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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第八章【闘王祭】
200/318

闘王祭と輝王⑤



 闘技場の中心のサークルまで歩くと、ユイは神器を発動させた。



【虹】<杖/水/形状変化/B>



 水晶のように透明で美しい神器だ。

 創った自分で言うのは恥ずかしいが、それでもかなりの出来だと自負している。

 それに能力は形状変化。

 バアルの神器にもあったが、この能力がダントツで汎用性が高い。

 使い手次第では上のランクとも戦えるのではなかろうか?





「ふー……」


 ユイは小さく息を吐いた。


 大勢の視線が自分だけに注目している。

 普段なら発狂し卒倒しそうだが、今は不思議と落ち着いている。

 目の前には人形が1つ、それに攻撃するだけだ。


 それに、大事な人を馬鹿にされたまま終わりたくない気持ちがユイの中では大きかった。

 今なら分かる。

 自分に出来る事はただ1つ。


 仲間の為に戦う事だと。


 ユイはこの時、本当の意味で仲間を守るためなら戦えると自覚した。

 もう怖いものはない。

 後は……なるようになるだけだ。



「行くよ……発動!」


 ユイは杖の神器を発動させた。

 透明で綺麗な神器は、すぐに壊れそうな儚さがあった。

 だが、だからこそ観る人の目を奪った。



『綺麗……』

 実況を忘れアイナは呟いた。



一色(いっしき)・赤!」

 杖の先端から、赤色の水玉がフワリと現れた。


「いけっ!!」

 ユイが杖を人形に翳すと、赤い水玉は勢いよく人形目掛けて、地面を這うように低空で発射された。

 人形に命中すると同時に水玉は霧散し、赤い水飛沫となった。


「まだまだ! 二色(にしき)・橙!」


 今度は橙色の水玉が低空で、人形目掛けて発射された。

 そしてユイは休むことなく次々と水玉を発動させた。


「三色・黄!」

「四色・緑!」

「五色・青!」

「六色・藍!」


 ユイが叫ぶ色と同じ水玉が順々に発射され、人形を攻撃した。


七色(ななしき)・紫!」


 最後に紫色の水玉が人形を攻撃した。




「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 ユイは辛うじて立ったまま息を切らしていた。



『こ、これは!?』

『綺麗……』


 アイナとミラ……だけではなく観客の全員がその鮮やかさに驚いていた。


 ユイと人形との間には、七色の水で出来た路が、真っ直ぐ出来ていた。

 決して威力がある訳ではない。

 Bランクの神器で、水玉で順々に攻撃しただけだ。


 それでも……真っ直ぐ伸びる七色の路。

 その先には、七色の華が咲いたように水飛沫が飛散していた。



「ぜ、零色・虹…………出来た」



 ユイはその場にへたり込んだ。


 バアルみたいに、スキル【増殖】や【分裂】もない神器で6つや7つの巨大な炎球を同時に発動させる事は不可能に近い。

 それはスキル【魔皇】による膨大な魔力があって初めて可能となる。

 ユイに可能な数は精々2つ。限界まで頑張っても3つが関の山だった。

 ならばせめて順々にと思って、竜斗と編み出したのがこの技だ。





『実に見事でした』

『はい、とても幻想的で美しい神器(わざ)でした。【美麗杯】に出てきてもおかしくない程の神器でした』


 アイナさんとミラの評価は高い。

 うっとりと見とれていた観客達も、徐々に拍手と歓声をユイに送った。


 気になる審査は……



 9点

 7点

 7点

 5点

 6点


 計……34点!



『この瞬間、ユイ選手の準決勝進出が確定しましたー!!』



 アイナさんの実況で、歓声は最高潮を迎えた。



「ははっ、ユイの奴やりやがった!」

 キョウは小さくガッツポーズしながら喜んだ。


「とても綺麗でした」

 レイナも嬉しそうに喜んでいる。


「流石、俺考案」

 俺は照れ隠しで喜んだ。


「ふむ、天晴れだ。惜しむらくは刀ではないことだな」

 サクヤさんはブレなかった。

 だが心の中ではめっちゃ喜んでいるように思う。



『輝王の部の予選はこれで全選手終了となります。一時間の休憩の後、再度抽選を行い50名による準決勝を行いたいと思います』


 アイナさんのアナウンスで、観客達の中には立ち上がりその場を後にする者もいた。

 食事を摂る者や、トイレに行く者、話を咲かせる者。

 ギルドの連中は、自分達の控え室に戻る者や、観覧席で作戦を練り出す者もいた。



「我々も控え室に戻るとしよう」

「ですね、ユイさんも戻っているかと」

「俺は腹減ったぜ、何か買ってくるわ」

「あ、俺のも」


 俺達も控え室に戻ることにした。



◆◆



 空が茜色に染まりだした頃……



「流石、リュート様(あのひと)と同じギルドに属する方。輝王の部に相応しい綺麗な技でした」


「その通りですわ、ファナ様」

「あれで34点なんておかしいですわ、審査員の方は見る目がないのでしょうか?」


「ところで……私達はどうしますかファナ様?」

「そうですね……」


 カルラやザナード、ルナの同級でもあるファナは、取り巻きの女子達と輝王の部を観覧していた。

 今後、どうするか決めようとした時だった。



「あ、ファナちゃん」

「!? カルラさん!?」


 目の前を通りすぎようとしたカルラがファナに気づき声をかけた。


「ファナちゃん達も輝王の部、観てたんだ」

「え、ええ……勿論ですわ……」


 ファナは暫くカルラを眺めた。


「どうかした?」

「え、あの……その……立っているのですね?」


 普段は車椅子に乗るカルラが、事も無げに具足の神器を発動させて立つ姿に、ファナは違和感を感じていた。


「えっと、ランクが1つ上がったんだ。そのお陰か結構楽になったから慣らしておこうと思って」

「さ、流石カルラさんですわ……」


 神器のお陰かは分からないが、立った時のカルラの背は高い。ファナはそれに男らしさを感じていた。

 それに昨日とは打って変わってカルラの口調が自信に満ちている様にも思えた。


「そうだ! 今からご飯食べに行こうと思うんだけど、ファナちゃん達もどう?」

「なっ!?」


「い、嫌だった……?」

「そ、そ、そんな事ありませんわ!! そのお誘い是非お受けいたしますわ!!」


「良かった……なっ、とか驚いてたから嫌だったのかと思った」

「と、突然のお誘いで……吃驚しただけですわ……」


「なら行こうか」

「は、はい!!」


 そして返事をしたファナは、カルラには気付かれないよう、取り巻き達を【きっ】と睨んだ。


「わ、私達は遠慮しときますわ……」

「あまりお腹が空いてないもので……」

「ダイエット中ですので……」


「そうですか、残念ですわ……では皆様、また後で……」

 ファナは「ホホホ」と笑いながら、カルラについていった。



 カルラとファナの姿が見えなくなると……



「「お姉さまって……絶対カルラさんの事好きだよね……?」」


 取り巻きの女子達は小さく呟いた。





「……で、なんで貴女もいるのですか!!」

 ファナの体は震えていた。


「はぁ~? 言っとくけど先にカルラくんを誘ったのは私だからね!」

 ファナに相対するルナは睨んでいた。


「馬鹿言え……俺達が食べるのに勝手に付いてきただけだろ」

 ザナードは呆れていた。


 闘技場内にある屋台の前で3人は言い争っていた。


「まぁまぁ、皆で食べようよ」

 カルラは困り顔で3人を宥めた。



「楽しそうですね?」


 不意に4人に声を掛ける女性がいた。

 勝手に割れていく人垣を悠々と闊歩して歩くのはこの国の王妃だった。


「ミラさん!?」

「ミラちゃん!?」

「ミラ!?」

「なんだミラか……」


「ふふっ、お久し振りです」


 かつての同級がここに揃った。


「噂ではあまり仲が宜しくないと伺っていましたが、仲良しでなによりです」

 ミラは微笑んだ。


「ま、まぁ色々あってね……」

 カルラは苦笑いで応えた。



「な、なんでミラ王妃が……!?」

「誰だ、あの餓鬼共……?」

「馬鹿! あの褐色の小僧、ミロク様の息子だ!」

「いぃ!?」

「それにランドベル家の……」

「クウマ様の血縁か!?」

「ああ、それに……この国で一、二を争う貴族……ジークハルト家の御子息と、ユレイナ家のご令嬢だ……」

「す、すげぇ……」

「なんて豪華な顔触れだ……」



 当然、周りにいた人達が騒ぎだした。


「うるさくなってきたな……」

「でしたら場所を変えましょう」

「だね。久しぶりにミラと話したいし」

「なら、母上のギルドの人達に頼んでみるよ」

「お手数おかけしますわ、カルラさん」



 5人は場所を変えて改めて話す事にした。



 時として子供とは無邪気であった。

 迷惑をかけてないつもりが、迷惑をかけている時もある。


 ギルド【拳武】の1人は、カルラに頼まれるとギルド用の控え室を1つ、5人に宛がった。

 ギルド【拳武】を頂点とするなら、二軍・三軍とでも言うべき下部ギルドが存在する。

 拳武の精鋭メンバーの1人、ガイス・ナイ……彼も元々は下部ギルドに所属しており、闘王祭で活躍することでギルド【拳武】に昇格した男だった。


 つまり5人が宛がわれた部屋のギルドの人達は、一軍である【拳武】により追い出された訳だ。

 普通なら反論もしたくなるが……5人の名を知ったとき、ギルドの人達は快く譲り渡したのであった。


 決して迷惑には感じていなかったのであった。






 控え室のテーブルを囲んで、5人は飲食をしながら会話を楽しんでいた。



「……今年のリィンゴは質が良さそうですね」

 ミラは椅子に腰掛けるとリィンゴのジュースを一口飲んだ。



「いえ、今年のは余り質がよろしくなかったですわ」

「そうなのですか? でも……」

「これは神国産のリィンゴですわ」


 答えたのはファナだった。



「神国産……?」

「そうよ、この紅茶も神国の茶葉……スレヌティーヌよ」

「魔物も引き寄せる程、甘美な香りと噂の!?」

「今年から神国は和平を唱え出したからね……輸出は親和の為だそうよ」


 ルナは、紅茶の注がれたカップを小さく掲げた。



「何も知らないんだな」

「…………」

「王妃は塔に幽閉されているという噂を聞いたが……本当なのか?」

「…………」


 ミラを心配してのザナードの質問だったが、ミラは答えなかった。

 部屋は沈黙に包まれた。



「……そう言えば!」

「?」

「母上に聞いたけど、その神国からの商人を魔物から護ったのが、リュートさん達のギルドらしいよ」


 カルラは重たい空気を打破しようと話題を切り換えた。



「「!?」」


 全員が驚いた。



「流石リュート様ですわ」


「まぁ……あの強さはヤバイわ……」

「う、うん……」

「死ぬかと思ったな……」


「戦った事があるので?」

「まぁね、ちょっと修練してもらったの……」

「馬鹿か……あれは叩きのめされただけだ……」


「そうですわ! 3人だけズルいですわ! 今度は私も参加しますからね!」

「うるさいわね……分かったわよ……」

「ま、また頼んでみるよ」

「俺は……暫く遠慮したい……」



「リュートさま……さんは、どの様なお人ですか?」

 ミラは、エンマやミロクの疑いを晴らしたく自分なりに竜斗に関する情報を集めようとした。


「鬼畜……」

「変態……」

「化物……」


「…………」

 ミラは絶句した。


「なんて失礼な……それでもファンなのですか!?」

 ファナは憤慨した。


「だって! ずうぅぅぅぅ……………………っと、修練するのよ! それも途中から休みなし! あ、あれは……マジで死ぬかと思ったわ……」

「しかも楽しそうに刀を振るうんだもん……変態だよ……」

「王院の教師なんかより間違いなく強い……手も足も出なかった……しかも……容赦がない……鬼教官だな」


「…………っ」

 ファナは僅かに身震いした。



「天剣……でしたね……。どなたがお付けになった【二つ名】なのでしょうか?」


「さあね……【天剣】と【拳姫】の名が王院で知られる様になったのはカルラくんが言い出してからでしょ?」


「僕は母上から聞いて勝手に憧れただけだから……広めたのはルナちゃんじゃなかった?」


「俺が使用人から聞いた話だと、剣で天を()いたから天剣だと……まぁこれも使用人が誰かから聞いた話らしい」


「お二人のファンの方に聞いた話だと……舞うように拳を奮う様があまりに美しかったからとか……」



「まぁ誰かが広めたのは間違いないですね」

「だね」


「でも、よく考えたら……リュートさんもレーナさんもそんな大した事はしてないよね?」

「確かに……凄いことをしたのは闘王祭の、あのデモンストレーションからだな」


「それだけ素晴らしいと言う事ですわ。注目される前から注目される、傑物とはそう言うものなのです!」

「……まぁ、言えてるわね」


「あら? ルナさんと意見が合うなんて珍しいですわね? 天変地異の前触れでしょうか?」

「ぶっ飛ばすわよ!」


「まぁまぁ……」

「ふふっ」

「やれやれ……」



 5人の話は弾んだ。

 久方振りの再会ではあったが、それはまさしく昔からの友だから出来る会話であった。

 ふざけ合い、戯れ合う、15才の5人の男女。

 将来の王国を支える若者達だが……今はまだその才能を開花させてはいなかった。





良かったです。

ギルド【拳武】は無敗のまま挑戦される側なのに、ガイス・ナイ(まつげ君)はどうやって闘王祭で記録を出せたのか……指摘される前に補填出来て良かったです。


それとも、どうでもいいキャラだから無視されたのでしょうか……?


それにしても……闘王祭編、長っ!

少しダルくなってきましたが、ゆっくり丁寧に書きたいと思います。

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