スタイルとクリア
迷宮の揺れを区切りに俺達は休むことにした。
俺の出した提案は取り敢えず保留になり後日、再び話し合うことになった。
俺達は一頻り休んだあと、迷宮を進むことにした。
ガオウが荷物を袋の神器に収納している。
レイナはストレッチみたいな事をし体をほぐしている。
どうやら体が動かせる程には回復したみたいだ。
【レイナの胸】は終了みたいだ。
俺達は陣形を変えた。
前衛がガオウとゼノ、中衛が俺、後衛がレイナとルルだ。
勿論、戦闘はガオウとゼノが戦い基本的に俺は手を出さない。レイナは体が動くと言っても万全ではないので、2人の護衛の為だ。
そして戦い方も少し変えた。
【ニーズヘッグ】×3
俺は【森羅万象】を発動させ【風属性】をガオウとゼノの神器に付加させる。
すかさず2人はニーズヘッグを1体ずつ攻撃し、これを撃破する。
鉄球の神器
【グランドハンマー】、属性【風】、能力【鎖】、ランク【S】
双剣の神器
【光闇双剣】、属性【光闇・風】、ランク【S】
無属性のグランドハンマーは風属性になり、光闇双剣には風属性が追加され、それぞれSランクになっている。
残った1匹は俺が倒す。
【中段の構え】+【雷属性】
「中段・雷の位 雷怒死!!」
某RPGの技、秋〇雨みたいに連続での突きを繰り出す。
ニーズヘッグは感電し穴だらけになり、そのまま倒れていった。
剣道にある基本的な構えと、こっちの世界にある属性との複合技は使えた。
結果的に俺の好きな漫画みたいな技になったのだ。
ここにきて俺の戦闘スタイルは確定した。
後は、下段に八双、脇構えとかかな……水属性と地属性も試してみたいな。
そして1番肝心なのは技名だな!
俺の頭の中はワクワクで一杯だった。
ガオウとゼノは地面に座り込んでいる。
2人に駆け寄り声を掛けた。
「大丈夫か?」
「ああ、なんとかな」
「だが、かなりきついな……」
「少し休みましょう。ルル、2人の回復をお願いします」
「かしこまりました」
レイナの提案で、2人にSランクの神器を慣れさせる作戦みたいだ。
今後【Sランク】の魔物が出た際、ぶっつけ本番でレイナみたいになられては困るとのことだ。
強制的にSランクになった神器は、ガオウとゼノが神器を解除することで元のランクに戻った。
Aランクの魔物に止めを刺す時だけ、この戦い方をするようにした。
2人とも潜在ランクがSSあるとはいえ、現時点で上のランクの神器を扱うのはやはり堪えるみたいだ。
俺達の進み具合はかなりペースを落とした。
今までと違い1日10フロアは止めて、細かく休むようにした。
しかし、そのかいあってかガオウとゼノは一瞬とはいえSランクの神器に徐々に慣れていった。
「……なんか倒れた私が情けなく思えてきました」
レイナは急に自虐し始めた。
「いやいや、レイナの時は突然だったし……相手もSランクだったからね。状態異常もしてたし、ダメージも負ってたから仕方ないよ」
俺は畳み掛けるようにフォローした。
「竜斗様がそういうなら……」
なぜか納得しきれないレイナであった。
◆
そして3日目、4日目と過ぎ、俺達は遂に目標の迷宮地下49階に続く階段の前にまで来た。
今までと違い階段の前には大きな扉が閉ざされていた。
残念ながらここまでSランクの魔物が出ることはなかった。
Sランクの魔物が出たのはレイナの時のあの1回だけであった。
「ホントにギリギリになりましたね」
ルルがレイナに話しかける。
「ええ、結局Sランクの魔物は出てこなかったし、あのペース(1日10フロア)で行っていれば、地下49階になる前に到着していたかもしれませんでしたね」
「ガオウ将軍」
レイナがガオウの名を呼ぶ。
「はっ!」
「50階には後どのくらいでなりますか?」
「フロアが49階になってから大分経っているので、あまり時間はないかと……」
「そうですか……なら急ぎましょう」
ガオウが扉を開け、俺達はボスモンスターのいるフロアへと降りていった。
-ボスモンスターのフロア-
他のフロアとは桁違いであった。
長い階段を降りただけはあり、天井は高くフロアも広かった。
フロアの真ん中に座すのはバジリスクが2頭。
【バジリスク】
属性
【地】
弱点
【風】
スキル
【猛毒、石化】
ランク
【S】
「丁度2対2だな」
「ああ、やるしかないな」
「ルル、回復頼むぞ」
「任せて下さい、お2人は必ず守ってみせます」
「姫さんと竜斗は援護を頼む」
「分かった」
「無理はしないで下さい」
「いやいや、何のためにここまできたんだよ。最後くらい無理するさ」
「……気をつけて下さい」
「了解した」
俺達は神器を発動させた。
俺が、【森羅万象】。
レイナが、【巴】。
ルルが、【アクエリアス】。
ガオウが、鉄球の神器【グランドハンマー】と鎧の神器【黒鎧武】
ゼノが、双剣の神器【光闇双剣】と首輪の神器【幻影魔】。
ガオウの普段している黒い鎧が形状を変えた。
丸くてシンプルだった鎧は至るところから角みたいな刺々しいものが生えてきて、見てて痛々しい形状になった。
鎧の神器なのに能力が【付加】って意味が分からなかったが、面白い想像をするなぁと感心する。
鎧そのものを、普段している鎧に付加させるのか……
てか、こうしてみると魔獣だな……
ゼノの【幻影魔】は俺から取り上げて創造した神器であった。
ゼノの体が闇と同化した。
ゼノの体は虚ろなものになって、ゆらゆらと揺れていた。
-バジリスクも臨戦態勢に入った-
ふと眼前からゼノの姿が消え、バジリスクの背後に突如現れた。
閃光ならぬ閃闇、黒い閃光がバジリスクを斬り裂く!
同時にガオウが脚に力を溜め、もう1体のバジリスク目掛けて高く跳んだ。
そのままハンマーを降り下ろす。
バジリスクは地面に叩きつけられた!
2人はバジリスクから距離をとり、人一人分くらいの距離で並んだ。
土煙でバジリスクの姿は見えなかった。
「……やったか?」
漫画によくある、倒せてないのに言うセリフを俺は呟いた。
バジリスクは2体とも2人に目掛けて突進する。
2人も神器でバジリスクの攻撃を防ぐが弾き飛ばされる……が、2人とも受け身をとりすぐに立ち上がる。
お互いのファーストアタックは引き分けであった。
バジリスクの方も対したダメージにはなっていないようだ。
「ふむ、さすがSランクの魔物だ……ならこれはどうだ!」
ガオウは、腕輪の神器【フォールストーン】を発動させた。
突如何もない空中から、いくつかの巨大な岩石が現れ、バジリスク目掛けて落下していく。
1体は岩石を躱していく。
もう1体は岩に押し潰されたが、すぐに岩を砕くように起き上がる。
「やはりCランクの神器では全然駄目だな」
「いや、ようは使い方だろ♪」
次はゼノが籠手の神器【バースト・レイ】を発動させ、高速移動してガオウの出した岩に触れていく。
「おっさん、離れてろよ! バースト・レイ!!」
岩石は破裂し、無数の石礫となってバジリスクを襲った。
バジリスクが2体とも叫ぶように鳴き声をあげ、よろけた。
いけそうだな。
俺は内心、安心した。
するとバジリスクがお互いを追いかけるように、円を描くようにして高速移動し始めた。
「何をする気だ?」
瞬間、バジリスクから噴き出すように灰色の息が2人を襲った。
「しまった! 石化か!?」
「ルル!」
「はい!」
ルルは急いで籠手の神器【アクエリアス】を2人に向けたが、バジリスクの動きはルルよりも早く、下半身が石化された2人目掛けて体当たりしてきた。
「ぐはっ!」
「がっ!」
2人は勢いよく壁に叩きつけられた。
バジリスクはその勢いのまま、更に2人に追い討ちをかけようとした。
「させるか!」
俺は【絶刀・天魔】を発動させバジリスクと2人の間の空間を斬った。
斬撃が地面を斬り裂いた。
バジリスクは急停止し、こちらを睨んできた。
俺は神眼を発動させ睨み返した。
バジリスクがこちらに攻撃してくることはなかったが、鳴き声をあげ、威嚇してくる。
「ラミアとは違うみたいだな」
次の瞬間、時間にして僅かな一瞬であったが、レイナはバジリスクの尾を巴で切断した。
尾を切断されたバジリスクは痛がり、もう一体のバジリスクに倒れかかった。
2体が地面に倒れこんだ。
「今です竜斗様、2人に森羅万象を!!」
「ルル!」
俺はルルの方を向いた。
「はい、解除終わってます!」
同時にガオウとゼノが立ち上がった。
「森羅万象!」
俺は叫んで2人の神器に風属性を付加させた。
ガオウとゼノはSランクになった神器に魔力を込める。
バジリスクも起き上がり、かつて戦ったドラゴンのように口の中に丸い球体を作り出していた。
禍々しく濃い紫色の塊だった。
「毒の塊か……?」
するとレイナがバジリスクと2人の間に入るように走っていた。
瞬間レイナと目があった。
俺はすかさずレイナの神器【巴】に【炎属性】を付加させた。
【巴】はランクSになり、刃には炎を纏っていた。
バジリスクが毒の塊を噴射するように2人に向かって吐き出すと、レイナが2つの毒の塊を斬り裂いた。
斬り裂かれた毒の塊は、そのまま燃えるようにして消えていった。
「今です!!」
レイナは叫ぶと、そのまま地面に座り込んだ。
「いくぜ! 双天剣技・沙羅双樹!」
ゼノは下から掬い上げるようにして剣を振るった。
光と闇の二連撃(+風)がバジリスクを斬り裂いた。
ガオウは両手で柄を握りしめ、グランドハンマーを円を描くようにして自分の頭上で振り回す。
柄と鉄球は鎖で繋がれており、鎖はどんどん伸びていく。
描いていた円は徐々に巨大になっていく。
ハンマー投げだな……
俺は心の中で呟いた。
「砕けろ! タイタンノヴァ!!」
鉄球は鎖から解き放たれ、弾丸のようにバジリスクの顔面に目掛けて発射された。
あまりの速さに鉄球が消え、一瞬にしてバジリスクの顔が砕け散った。
鉄球はそのまま反対側の壁に轟音とともに埋め込まれた。
思っていたよりも呆気なく、俺達は迷宮地下49階層を攻略した。