闘王祭と輝王④
久々、夜勤です。
間違えました……久々、更新です。
いけ好かない奴が立ち去り、周りの連中も解散し始める中、俺達はその場に佇んでいた。
誰1人、喋ろうとしない。
そんな中……
「リュート・テンゲン……」
不意に呼ばれ、声のする方へ振り返った。
「何?」
声の主は先程、ユイとサクヤさんに絡んできた……ギルド【風林火山陰雷】の1人、ドワーフ族のガルデアだった。
「先程はすまぬ……」
見るとガルデアだけではなく、カイルと連れの法衣を纏った女性も謝罪してきた。
「すみません……」
「ご、ごめんなさい……」
「…………俺に謝っても仕方なくない?」
後で我ながらよくない態度だったと反省する……
この時は八つ当たりに近い、返しだったと思う。
「……その通りだな」
ガルデアは頭をガリガリと掻いた後、ユイに謝罪した。
「なんなのだアイツは!」
サクヤさんは【剣王の部】で戦った相手……カイルに当たり散らした。
「申し訳ありません、トーマス様のお孫様で……正直、自分達も手を焼いています……」
「君がアレと同じギルドとは思いたくもない!」
サクヤさんのカイルへの評価は高い。
本気で戦ったからこそ、カイルの強さを誰よりも感じて、認めているのだろう。
「レ、レイヴンさんがいれば……まだ、大人しいのですが……」
法衣の女性はオドオドしながら喋っていた。
「レイヴン?」
「あ……私達のギルドの【火】の称号をトーマス様より授かった人です。レイヴンさんは私達のリーダーで、次のギルマスになる予定の御方です」
なるほど、さっきの……エルガーって奴も、そのレイヴンさんには頭が上がらない訳だ。
ところで……
「あ、申し遅れました……私はフィリオスの娘、フィラ・フィフィフ・フィリスと申します」
「フィ……! 長っ! 多っ!」
あまりのフィの多さに驚いた。
フィラは名乗りながら被っていたフードを剥ぐった。
「「!?」」
その姿に誰もが驚いた。
フィラの髪は綺麗な金髪で、耳が尖っていた。
顔も整っていて綺麗だった。
「エルフ!?」
「はい」
「彼女も自分と同じで、祖先に英霊を持つ者だ。彼女の祖母も英祖ショーマのパーティーに属していたそうだ」
ガルデアが説明してくれる。
そうだ、この機会に是非ショーマについて聞いてみよう。
「良かったらショーマについて教えてくれない?」
「それは構わんが……出来たら闘王祭の後が良いのだが……」
「なんで?」
「一応、今は戦う者同士だからな」
確かに。
「なら闘王祭が終わったらで」
「了解だ、我もそなたと話してみたいと思っていた」
ガルデアと約束を取り付けた。
すっかり忘れていたが、やっと王国に来た目的の1つを達成できそうだ。
一頻り話し終わると、3人は謝りながらエルガーって奴の後を追っていった。
「大丈夫かユ……」
「ホント、ムカつく!!」
サクヤさんがユイに声を掛けようとしたが、黙りだったユイは突如大きな声で怒鳴り始めた。
「なんなのよアイツ!」
「ユ、ユイ……?」
「いいわよ! やってやるわよ! 見てなさい!」
ガルルと狂犬の様な声を出しながら、ユイはエルガーが立ち去っていった方を睨んでいた。
不意にユイと目があった。
「なによ?」
「いえ、別に……」
「ならさっさと観覧席に行く!」
「は、はい!」
めっちゃ睨まれた。
こえぇ……
「サクヤさんもレーナも!」
「「は、はい……」」
俺とレイナとサクヤさんは駆け足でその場から立ち去った。
チラリと後ろを振り返ると……まだこっちを睨んでいた。
でも……
「あの様子だと、案外いけるかもな」
「ですね」
「ああ、あんなユイは見たことがないな」
何かが吹っ切れたのかもしれない。
キョウの事であんなに怒るなんてな。
そういや2人って幼馴染みらしいけど、実際のところどんな関係なんだろ?
今度聞いてるか。
3人で微笑み合いながら観覧席に向かった。
◆
「お待たせ」
「おう、遅かったな」
キョウを見つけると、横の椅子に腰掛けた。
「ユイの奴どうでした?」
「ん? ああ、もしかしたら大丈夫かもしれん」
「どういう事です?」
「実はな……」
サクヤさんは、事の顛末をキョウに話した。
「へ、へぇ……そんな事が……」
怒ったユイなんて見たこと無いからか、話を聞いただけでキョウも驚いていた。
「ところで、今は何グループ目?」
「ああ、直に8グループ目が終わるところだ」
「結構終わってきたな」
昼も過ぎた頃で、かなりのハイペースで輝王の部は進んでいる。
あまりの人数に3日かけて行われると思ったが……聞いたところ、夕方と夜にかけて準決勝も行うそうだ。
昨日を休みにせず、輝王の部にすれば良かったのに、かなり詰め込んだ1日になりそうだ。
「まぁ実際のところ、1回で終わる奴も結構いるしな」
「そうなんだ?」
「ああ。準決勝までに魔力を温存しときたい奴もいるだろうし、なにより……1回で進出を決めたら2回目はしなくていいしな」
確かに……
そして輝王の部は着々と進んでいった。
9グループ目の後半に入り……その24人目……事件は起きた。
◆
闘技場は歓声に包まれていた。
「す、凄いな……」
「ああ……」
「なんて奴だ……」
「かなりの腕ですね」
俺もキョウもサクヤさんもレイナも驚いた。
闘技場の中心にいるのは、ギルド【風林火山陰雷】の1人……【林】のフィラだった。
彼女の神器は弓。属性は水。
矢に刃は付いていないとの事で失格にはならなかった。
しかし、水を矢に変えると、上空に向け一射する。
まるで豪雨の様に、人形に水の矢が降り注ぐ。
矢が降り止むと、そこに人形は残っていなかった。正確には塵からゆっくりと自動修復されたのだが、降り終わった直後はフィラの姿しかなかった。
矢を射る姿は凛としており、美形のエルフもあってか……得点は驚異の40点。
5人の審査員が全員8点を出した、今日1番の得点だった。
「広域攻撃だな」
「はい、対多数を想定されていますね」
「ああ、しかもアレを一撃に込めたらかなりの威力になる。一対一でも有効だ」
「ですね……それに……」
「何と言っても命中精度だな」
「リュートの言う通りだ。人形を中心に、水の矢が降り注いだ箇所が綺麗な円になっている。見事だ」
流石、爺のギルドだ。
どいつもこいつも、一筋縄ではいかない。
にしてもだ……
エルフと弓……
似合いすぎだろ!
本人が選んだのか、誰かが選んだのか知らないが、分かってらっしゃる。
ん……?
ふと気になり、隣に座るレイナに顔を向けた。
「不潔ですよ竜斗様……」
「レ、レイナさん……?」
顔は笑っているが、目が笑っていない。
マジ怒状態。
心でも読めるのだろうか……?
「そんなスキルは有りませんよ」
「!?」
怖い……
「私がですか?」
「!?」
…………。
「人は考える事を放棄してはいけませんよ」
「!?」
すみません……
「……まぁ、いいでしょう」
会話してないのに会話している……
俺はレイナ一筋なんだけどな?
なんで怒られるのだろうか?
◆
『流石の一言ですね。フィラ選手、初出場にして驚異の40点。余裕で予選を勝ち進みました』
『そのようですね……ちなみに彼女が決勝まで勝ち残ったら、もっと凄いものが見れますよ』
『と、言いますと?』
『彼女の祖母が愛用していたと言われる神器の1つ……【神弓・与一】です』
『!? あの【四神器】に次ぐ……?』
『ふふっ……楽しみですね』
アイナさんとミラ王妃のやり取りで、輝王の部は更に盛り上がり始めた。
というより……ここまでが長すぎて、皆疲れていたのもあり……これからやっと盛り上がる、といった感じだ。
やっと予選が終わる……皆の心境はこれかな?
ふむ……にしても与一か……
もうね、名前だけで凄い弓だと想像出来る。
ユイが同じグループじゃなくて良かった。
それだけ勝率も減るしな。
でもユイの神器だって負けてない筈だ。
キョウのと一緒で俺が創造した神器だし、上手くいけば凄い事になる……筈……だと思う。
そして、輝王の部は予選最後の10グループ目に突入した。
観客達もやっと予選が終わると思ったからか、大いに盛り上がっている。
24人が終わり、最高得点は32点。5位は27点。
つまりユイは28点取れば予選通過だ。
『いよいよ、輝王の部最後の1人となりました。最後はこの方……ギルド【刀剣愛好家】の1人、ユイ・カナタ選手です!』
あれ?
アイナさんの実況が心なしか気合いが入っているような……気のせいか。
『彼女はどのような技をするのですかね? あの方のギルドですから楽しみです』
『?』
ミラの意味深な言葉にアイナさんは首を傾げる。
盛り上がる闘技場の中、ユイはゆっくりと人形が置かれている中心へと近づいた。
遠くからだが、ユイの体が震えている様子はない。
頑張れユイ!