闘王祭と輝王②
ホウライ王国には3つのイベントがある。
王国三大行事。
最大規模で行われる……【オークション】
価値ある神器を決める……【美麗杯】
そして……【闘王祭】
王国にて誰もが思いもつかない催し物を開始した……英祖ショーマ。
彼の残したイベントで、今も全国民規模で行われているのが、この3つである。
その1つ、闘王祭……5つの部門に別け各種目で争うお祭り。参加するギルドは、それぞれの王を目指して日々精進している。
王を取った者は、1年間、名誉と地位を約束される程だ。
そして、前年度の王者ギルドに勝てば、富と栄光を、そして新たな王者の称号を手にする。
勿論、防衛に成功したギルドは更に1年間の地位が約束される。
長く続く闘王祭……見るものを熱くさせる戦いのイベント。
今年は例年にないほどの盛り上がりを見せている。
今の王者ギルド……【闘王】を冠する、ギルド【拳武】。20年連続無敗のギルドだ。
メンバーは毎年増減し、精鋭5人も年によってガラリと変わる……が、変わらない人物が1人だけいる……
ミロク。
三代目拳武ギルドマスター、拳聖、Sランク、四傑、闘王、等々……彼女には様々な呼び名がある。
近年は帝国や神国との小競り合いで、中々出てはこれなかったが、それでも……初参加から無敗の女王である。
そんな彼女が率いるギルドを、もしかしたら……と思わせるギルドが現れた。
彗星の如く現れたそのギルドの名は……
【刀剣愛好家】
闘王祭初参加で、王国ギルドに登録したのも約1ヶ月前。
大した活躍もしていないのに、何故か大物に注目され、それが段々と一般人に周知され始めている。
そのギルドのギルマス……サクヤ・レイナルドは、5つの内の1つ【剣王】の称号を獲得した。
続く、キョウ・シグレは【鎧王】は取れなかったものの善戦した。
そして驚くことに……【天王の部】に出場する筈のリュート・テンゲン(天原竜斗)は、鎧王のデモンストレーションでとんでもないことをしでかした。
巷では【天剣のリュート】、【拳姫レーナ】と呼ばれ既にファンクラブまで存在する様な人物がそのギルドには2人もいる。
そんな彼らのいるギルドだ……
確かに誰もが注目せざるを得ないだろう……
でも……
私は……
私、ユイ・カナタは……ごく普通のごく一般的なごく当たり前の人間だ。
スッゴい美人でもないし、スタイルが言い訳でもない。
オーラもないし、才能もない。
所持神器も特にだし、スキルも並みだ。
もうね……モブの1人。
あ、モブってのは英祖ショーマが生み出した言葉で古語の1つ。
そんな私は小さい頃からいつも幼馴染みのキョウにくっついて遊んでいた。
ある日、外で遊んでいた時に魔物に襲われて、そこをサクヤさんと、サクヤさんの旦那さんであったイカルガさんに助けられた。
キョウはイカルガさんに憧れてギルドに入るため、日々修練していたけど……私は正直戦うのが怖い。
でも私だってサクヤさんに憧れなかった訳ではないし、恐怖を克服できるかもとキョウにくっついてギルド入りを果たした。
もうね……最悪の一言だった。
初迷宮の時なんて、ガチガチに震えて、頭が真っ白になって、何も覚えていない。
ただ、皆に滅茶苦茶迷惑をかけた事だけは、なんとなく覚えている。
それでも皆は私を見捨てず、変わらず接してくれた。
私はそれが嬉しくて頑張ろうって決めた。
徐々にだけど、迷宮にも魔物にも慣れてきた……本当は今でも怖いけど……
そんなある日、イカルガさんが迷宮から帰ってこなかった……
種類は【城】で【鬼種】のSランク迷宮。神国と帝国の国境辺りに度々出没する迷宮だった。
【雷王】を弟子に譲ったイカルガさんは、精鋭を引き連れ挑んだけど……ついに帰ってこなかった。
その日から【刀剣愛好家】はバラバラになった。
精鋭メンバーは死に、数多くいた残りのメンバーも次々と辞めていった。
私は失いたくなかった。
どうしようもない私を見捨てなかったこのギルドが好きだ。
私とキョウは最後まで残った。
なんとか5人のギルド……
風前の灯だった……
それに追い討ちを掛ける日々は続いた。
神国女王崩御による、神国ギルドの統一化。
サクヤさんの提案で住み慣れた故郷神国から、王国へと移ることにした。
そんな時に新たに2人のメンバーが加わった。
男と女の二人組。
まだ私達のギルドは終わっていない。
希望を胸に、依頼を兼ねて神国での最後の迷宮攻略をする事にした。
シュウとレンとキョウと私の四人。
でも現実は残酷だ。
希望を胸に抱いた迷宮攻略で、レンが死んだ。
なんとか迷宮攻略したものの、別種の魔物に襲われてシュウも死んだ。
私とキョウもその時、命を諦めた……
そこからだった。
私の……私達の……ギルド【刀剣愛好家】の運命は変わった。
私達は出会った。
太陽の様に明るく眩しい2つの存在……
リュートくんと、レーナだ。
だけど私には眩しすぎた……
だって二人共凄すぎるよ……
私よりも若いのに、なんだろう……覚悟が違いすぎる。
彼らが口にする言葉はどれもでかすぎて眩しくて憧れずにはいられない。
彼らといたら私だって……と、思わずにはいられない。
でも打ちのめされる……私はなんの取り柄もないただの女だ。
彼らみたいに強くはなれない……
でも、彼らは私を見捨てない……
かつての仲間と同じだ……
私にはそれが何より苦しい……
何故こんな私を見捨てずに信じるのか……
一言、弱くて役に立たないって言ってくれたら……どんだけ楽か……
そんな私が闘王祭にて、期待されてるギルドの1人として、【輝王の部】に参加する。
正直、駄目だと最初から分かってる。
なのに、今だって……
「ほら、あいつが今年の【剣王】サクヤだ……」
「なら横の女も刀剣愛好家のメンバーか」
「一昨日のデモンストレーションの……天剣のいるギルドだ」
「……あいつもどんだけ強いんだろうな」
「てか、なんで天剣が鎧王に出なかったんだ?」
「さあな……余程、他の部のが自信あったんだろうぜ」
「マジかよ……」
「今年の【闘王の部】は下手したら……【刀剣愛好家】か【風林火山陰雷】のどっちかかもな」
なんて周りが噂する。
もうね、最悪……
それに気付いた周りの人達もこっちをチラチラ見てくる。
闘技場の広い待合室?では皆が私とサクヤさんを見ている。
早くグループ分けして終わらせたい。
……それにしても多くない?
ざっと見ても200人近くはいるように思える。
「大丈夫かユイ?」
不意にサクヤさんが声をかけてきた。
「えっ?」
「聞いてなかったのか? 今年の輝王の部の参加者は250名。25人ずつの10グループに分けるそうだ」
嘘でしょ……
てか、いつの間に説明を……?
私もリュートくんの事、笑えないや……
「今年の鎧王が少なかった分、死ぬことのない輝王の部に人が集まったそうだ」
にしても、多すぎない……?
あ、でも……それなら私にはあまり注目されずにサラッと終わってくれるかも……
どうせなら、2、3グループ目辺りで早く終わってほしい。
「ちなみにユイは10グループ目の25番目……1番最後だ」
あ、ありえない……