隠し事と若い芽
視点・場面がコロコロ変わります。
ミロクさんの拳が炸裂した。
属性も能力もない無駄な神器だけど、Sランクなだけはあって、そこそこの威力だった。
いや寧ろミロクさんが使うことによって120%の力が発揮されたのではないだろうか……
俺の神器から発せられる風は、闘技場内全体に吹き荒れた。
間違いなくキョウの時の風の数倍はある。
属性を付加させてないし、スキル合魔を使ってないけど、嵐と呼んでいいレベルの風だ。
『ぶはっ!? な、なんて風でしょうか!? ま、前が……見えな……目が……開けれないです!?』
『ふぉーふぉっふぉっふぉっ……こりゃ凄まじいのぉ』
そこかしこから悲鳴が飛び交う。
暫くして風が落ち着くと……当然、誰もが舞台上に眼を向けた。
『なーーーーーーーっっ!?』
『こりゃ……たまげた……』
俺を包む、緑色の風で出来た球体は完璧にミロクさんの攻撃を防いでいた。
遠くから見れば、前方に翳す俺の右手がミロクさんの拳を受け止めている様に見えるが……実際には、ミロクさんの拳は風の球体に阻まれていた。
『し、し、し、し、し、信じられません!? あ、あの……ミロク様の攻撃を……Sランクの神器を……か、片手で受け止めるなんて!?』
『いや……よぅ見てみぃ……あれは……風属性で防いでおる……能力は守護かのぉ……?』
『そ、それでもです!! それでもあの、ミロク様の攻撃を防ぐなんて!!』
「ははっ、驚いたな……よもや、結界に傷1つ入れられぬとは……」
ミロクさんの額から冷や汗がつたっていた。
風の結界は破裂するように霧散していった。
同時にミロクさんは後方へ……元いた位置へと飛び退いた。
闘技場いた観客達は最初驚きのあまり声も出ていなかったが、次第に状況を理解すると割れんばかりの大歓声を響かせた。
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ーギルド専用観覧席ー
「す、凄い! 凄すぎる!! いや、凄すぎるってもんじゃない!!」
「おば様の攻撃を防ぐなんて……リュート様って本当に凄い……Aランクであれを……」
「無理だよルナちゃん……よほど神器が凄くないと、とてもAランクでSランクを防げるわけがない……いやAランクでも……」
「確かに……Aランク以下とSランクには、生半可な魔力では埋まることのない差がある……それほどまでにSランクは別次元だ……」
「なら……リュート様のあの神器が凄すぎるの?」
「かもしれない……母上やミラちゃんの持つ【四神器】クラスかも……」
「ならそれは必然的にリュートさんがSランクということになるぞ」
「ザナードの言う通りよ」
「う、うん……でも確かリュートさんのステータスのランクはAだった……は……ず…………!?」
「どうしたカルラ?」
「も、もしかして……じゃ、【邪眼】?」
「嘘っ!?」
3人は尋ねるような視線をレイナに向けた。
が、そこには席を1つ分空けたユイしかいなかった。
「えっと……私は……知らないや……」
ユイは3人の質問に答えれず苦笑いしてた。
「レーナ……さんは……?」
カルラは辺りを見回したがレイナの姿はなかった。
「あ、レーナなら控え室に戻るって言ってたよ」
「そう、ですか……」
カルラ、ルナ、ザナードの3人の中には、なんともモヤモヤした気持ちだけが残った。
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「…………」
レイナは控え室前の廊下を歩きながら、先程の攻防を思い出していた。
「あの程度の神器では、ミロクさんの実力は測れそうにないですね」
そしてレイナは更にちょっと前の事を思い出していた。
「金色の3つの拳……」
レイナは、初めてミロクに出会った時に見た神器を思い出した。
「Sランクの魔物を握りつぶせる程の神器……あれで殴られたら……?」
レイナは自分では気づかなかったが、笑っていた。
冷や汗をかきながら、口元は緩んでいた。
ランクは自分の方が上……普通なら勝負にはならない……だがレイナは確信した。
ミロクは間違いなくSSランクに限りなく近いSランクだと。
そして拳法家としての実力は自分より上だと。
「勝っているのは魔力量と神器【崩龍】だけ……か……」
レイナは自分達のギルドの控え室へと向かった。
「王国に来て……竜斗様についてきて良かった…………もっと……もっと……私はもっと強くなりたい……!」
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「まぁ……こんなもんかな」
俺は神器を解除した。
「?」
ミロクさんは怪訝そうな顔をしている。
「あ、俺、今ので終わりまーす」
俺は手を降りながら棄権するとクナさんに告げた。
『えっ!?』
『ふぉ、ふぉ、ふぉ』
観客達はざわついているが、これ以上はあまり神器を見せたくないし……まぁ手遅れだけど。
俺は舞台上から降りようとした。
するとミロクさんは少しだけ不満そうな声を出した。
「もう終わる気か?」
「はい……申し訳ないですが、その神器だといくらやっても俺の盾は破れないっすね」
「…………」
「ミロクさんの神器だと……流石の俺も本気出さないといけなくなるんで……」
「まだ上があるのか?」
しまった……失言だった。
「はは……」
まぁ、もういいか。
Sランクを防いだ時点で俺のステータスが邪眼によるものだってバレただろうし。
「でもそれをすると反則になるんで」
「反則?」
「だって鎧王は盾と鎧と胸当だけでしょ?」
籠手の神器は反則だ。
使えたら多分、ミロクさん自身の神器も防げるだろう。
現状だと壊せるのはレイナとアーシャ、それと天使くらいか。
「分かった……まぁデモンストレーションだし今回はこれくらいで終わっておこう」
「助かります」
「だが……」
「?」
「必ず君もレーナも……本気の実力を出させるからな」
「…………」
流石ミロクさん……レイナとはまだ戦ってもないのに、実力を隠してるってバレてるか……
う~ん……トーマスの爺にはバレてるし、ミロクさんにはレイナが魔族だって教えても大丈夫そうだけど……
まだ油断は出来ないか……ミロクさんはいい人だけど、四傑って立場があるしな……もうちょっと様子をみるか。
俺は舞台を降りた。
あ……どうしよう……
このまま観客席に戻ったら大混乱になりそうだな……
カルラくんやザナードくんはどうしようかな?
まぁちょっとほとぼりが冷めるのを待つか。
俺は観客席には上がらず、そのまま通路に入って控え室に向かった。
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「戻りました~……」
俺は控え室のドアを開けて、中に入ろうとした。
「リュートさん先程の神器は!?」
「リュート様って本当はSランクなんですか!?」
「ザナードくん……ルナちゃん……あっ、リュートさんのステータスって邪眼なんですか?」
控え室に入るやいなや質問責めを喰らった。
「…………ユイか?」
「いや~ごめんごめん……3人がどうしてもリュートくんと話したいって……」
ユイは全く悪怯れる様子がない。
どうやら予想通りユイが、カルラくん、ザナードくん、ルナちゃんを連れてきたみたいだ。
「教えてください! レーナさんはあれから黙りで……」
「…………」
レイナはニコニコと微笑んでいた。
うわ~俺に丸投げか……
俺はレイナに近づいて耳打ちした。
「どうする?」
「任せます。Sランクの神器を公衆の面前で本気で使用したのですから……私は竜斗様に任せます」
レイナは小声で即答した。
ですよね~
責任は俺にあるから俺がなんとかするしかない。
「……よし分かった」
俺は3人に振り返った。
「教えてくれるんですか!?」
3人がめっちゃ食い付いてきた。
「俺と勝負して一本とれたらな」
「「えっ!?」」
「今日は、もう遅くなるし……明日は丁度、闘王祭も休みだから……稽古がてら勝負しよう。それで俺から一本取れたら、1人につき1つだけ何でも質問に答えてあげる」
俺は悪そうな顔で微笑んだ。
「そ、そんな……ズルい……」
ズルくないよルナちゃん。
「…………一本取れたら……か……」
諦めるのか、ザナードくん。
「わ、分かりました……リュートさんと……勝負します!」
うん、戸惑いもあるけどいい覚悟だカルラくん。
「場所は……どうしようか?」
「王院の訓練場はどうですか?」
「いいよ、そこにしようか」
「…………はい」
「ザナードくんとルナちゃんはどうする? 勿論ハンデとして3人がかりでいいよ……どうする?」
「や、やります!」
「わ、私も……!!」
はい、決まり。
別に素直に話してもいいけど……これでバトルも出来るし、なにより3人が協力するってのがいい。
仲良くなってくれればいいけど……てか既に仲良くね?
カルラくんの座る車イス的なのをルナちゃんが押しながら、3人は控え室を後にした。
「はぁ~……リュートくんって本当にバトル好きだね」
「まぁ、若い芽は早めに潰しとかないとね」
「……冗談だよね?」
「うん、冗談」
流石にそこまではしない。
3人が、強くなる切っ掛けになればいいかな。
「ところで……今日もここに泊まるの?」
「いや、私もキョウも少しなら動ける……今日は宿に戻ってゆっくり休むとしよう」
様子を伺っていたサクヤさんはベッドから起き上がった。
「ところで……リュートとレーナはSランクなのか?」
「「…………はい」」
俺とレイナの声がハモった。
まぁ本当はそれも違うけど、流石にSSランク以上とは言えないしな。
「そうか……分かった」
サクヤさんは納得してくれた。
「……いいんですか?」
「まぁ誰でも隠し事の1つや2つあるものだ……それが2人の場合ランクだっただけの事だ」
サクヤさんは言いながら軽く体を動かしている。
どうやら体の方は大丈夫そうだな。
「5つくらいあってもですか?」
「そんなにか!? うぅむ……ま、まぁ……良しとしよう!」
相変わらずこの人は……
「それに2人の実力でAランクの方が違和感があった。Sランクの方が納得出来る」
「「確かに」」
ベッドにいたキョウと、ソファに座るユイの声がハモった。
俺はレイナと顔を見合わせた。
もうね、苦笑いしか出てこない。
「「……ありがとうございます」」
「ただし! 嘘をついていたのだ……闘王祭が終われば、私のSランクの迷宮攻略を手伝ってもらうぞ!」
サクヤさんはニヤリと笑った。
キョウとユイも微笑みながらこっちを見ている。
本当にこのギルドに入れて……この人達に出会えて良かった。
「「はい」」
0008「わ、わたくしとした事が……」
取巻き達「どうされたのですか、お姉さま……?」
0008「あの強風で声援はおろか……横断幕すら貼れないとは……なんとも情けない……」
取巻き達「そんな、お姉さま……」
0008「これは……訓練しなくては……あの風に負けない強靭な肉体が必要です……」
取巻き達「特訓ですね、お姉さま!」
0008「ええ、明日は幸いにも闘王祭が休み……明日は王院で秘密の特訓ですわ!」
取巻き達「了解ですわ、お姉さま!」
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次話を書いたらいよいよ【輝王の部】。
多分短め……予定。
作者的には……闘王祭は今までの雰囲気とは全然違ってほのぼの回ばかり。
闘王祭が終われば今までみたいなシリアス?展開に戻します。
それまではフザケながら楽しく書きたいと思います。