闘王祭と鎧王⑥
『ガルデア選手、ミロク様の拳を受け止めたーー!!』
はっ!?
気がついたら、ガルデアは舞台上で少し後ずさっただけで、見事、攻撃を耐え終えた後だった。
割れんばかりの大歓声。
『やりましたねトーマス様』
『ふぉ、ふぉ、ふぉ、贔屓はしたくないが、ここまで誰も耐えれんかったからのぉ……中々にやりおるわ』
解説の爺は嬉しそうに顎髭を撫でていた。
『これでガルデア選手に8ポイントが入ります!』
あれ?
Bランクって4ポイントじゃ?
まさか……
「そのまさかだよリュートくん……」
ユイが呆れた目でこちらを見ていた。
「まさか、今の防御を見ていなかったんですか!?」
カルラ君が驚いた表情でこちらを見ていた。
「えっと……今のって……」
「「2回目」」
ですよね。
しまった……見てなかった……
「信じられません……今の見事な防御を見ていないなんて……」
「カルラ君……」
ユイは首を横に振る。
「初出場で、ルールも聞かない……それがリュートくんだから……」
諦めた表情でカルラ君に話すユイ。
いや、あれは大会長の説明が長……っ!
いや、言い訳は駄目だな……
「すみません……」
深々と頭を下げた。
あれ?
なんで謝ったんだ俺?
『次で3回目……下手したらこれで鎧王が決まるかも知れませんね』
『まぁ後一人おるし解らんがの……』
『おっと!? ガルデア選手が選んだランクは……なんと、Aランクだーー!!』
「ふぅむ……あれに耐えれるかのぉ?」
ーーーーーーーーーーーー
「見事だガルデア殿」
舞台上でミロクはガルデアに称賛の言葉を送った。
「なぁに、トーマス様の弟子としてこれくらいは……それに最低でもAランクを耐えなければ鎧王の名は名乗れまい」
「見事!」
ミロクはAランクの籠手の神器を発動させた。
ガルデアは鎧の神器の上に、更に鎧の神器を発動させた。
少し部位が足りない様な鎧は、二つ目の鎧で補填された。
「多重発動か!?」
「いかにも!! 来い、拳聖!!」
閃光にも似たミロクの拳が、ガルデアの腹を貫いた。
「ぐぅぅ……う……」
ガルデアの膝が折れた。
『ああっと、流石のガルデア選手もAランクの攻撃には耐えられなかったか!?』
『流石じゃわい……だが』
ガルデアはゆっくりと立ち上がった。
「な、なんとか……」
ふらつきはあるもののガルデアは確かに立ち上がった。
舞台上からも落ちていない。
寧ろ、先程までより動きはなかった。ほぼその場に留まる事が出来ていた。
「見事だ!!」
ミロクは高々と宣言した。
その瞬間にガルデアに5ポイントが付与され、計13ポイントとなった。
大歓声の中、ガルデアは勢いよく、その場に座り込んだ。
「なんと凄まじい威力だ……多重発動の鎧まで砕くとは……」
「いや、我が拳を防いだのだ……見事だガルデア殿」
ミロクは座り込むガルデアの前に手を差し出した。
「……四神器【釈迦】だと私は死んでいたか?」
「だろうな……あれはミラでも防げるかどうかだ」
「なんと【守護神】でもか……まだまだだな……」
ガルデアは差し出された手を掴み、ゆっくりと立ち上がった。
惜しみない拍手が2人に送られた。
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「キョウ……死ぬ?」
「キョウ死ぬ」
「今日? 誰の事です?」
「キョウの事」
「今日の事?」
「いや、キョウ……」
「今日?」
「いや、今日キョウが死ぬかもって話……」
「恐々?」
「…………」
「…………」
「?」
俺とユイとカルラ君の噛み合わない会話は終った。
『さぁ、鎧王の部最後の選手は……』
俺はクナさんの実況に違和感を感じた。
え、最後?
予選1グループの最後って意味だよな?
いやぁ、まさかな……
『ギルド【刀剣愛好家】、キョウ・シグレ選手だーー!! 昨日、見事【剣王】の座を獲得したサクヤ選手率いるギルド!! ここで、もし鎧王の座を手にすることが出来れば王手! 【闘王】へのチャンスも間違いないものとなります!』
『ふぉ、ふぉ、ふぉ、ステータスのランクはBらしいのぉ……なら、無理をしなければ鎧王にはなれんが……どうするのか楽しみじゃわい』
俺とユイは精一杯の声でキョウの名を叫んだ。
頑張れキョウ……
俺の創造した神器よ……キョウを守ってくれ……
舞台上でキョウが指定したランクは……
Aランク。
頑張れキョウ!
ーーーーーーーーーーーー
「いいのか?」
ミロクはキョウに尋ねた。
「ああ」
「レーナのいるギルドでも手加減はせんぞ」
「じゃないと困るな」
「?」
「俺は刀剣愛好家の古株なんでね……このギルドがリュートやレーナしか強い奴がいないとか思われたくないしな」
「心意気は良し!」
ミロクは金ピカの拳の神器を発動させた。
相対するキョウは、鎧の神器だけ。
「……死ぬぞ?」
「試してみて下さい」
「いいだろう」
ミロクは駆け、瞬時にキョウの視界から消えた。
「っ!?」
「(反応が)遅い!!」
キョウの眼前には、既に拳を振り上げたミロクの姿があった。
ミロクは降り下ろすように、拳を突きだした。
ミロクの強大な拳がキョウへと炸裂した。
『なんと!? キョウ選手……呆気なく終わってしまったーー!!』
『この程度か……』
タメ息混じりの歓声が闘技場に響いた。
誰もが終ったと感じた。
2人だけを除いて……
最初に違和感に気付いたのは、試拳官であるミロク本人。
「なっ!?」
ミロクの拳は霞でも殴ったかの様に、虚しく突きだされたままだった。
そのミロクの拳、僅か数十センチ、ズレた所にキョウは飄々と立っていた。
【霞の王】<鎧/風/蜃気楼/B>
相手から自分の認識を僅かにズラす能力【蜃気楼】。
ミロクは誰もいない所を殴った。
いや、僅かにキョウの肩を霞めていた。
キョウはその場から動いていない。
ミロクが勝手に致命打にならない所を殴ったのだった。
まさに、鎧王の部を根底から覆す様な神器であった。
耐えるでも、ましてや避けるでもなく……相手が勝手に変な所を殴ってくれる神器であった。
「一応、(肩に)当たってますし……これって5ポイントですよね?」
キョウの問いに、ミロクは唖然としていた。
『な、な、な、なんてこったーー!!』
『こりゃなんとも……』
『ミロク様が、まさか、攻撃を外すなんてーー!?』
『一本とられたのぉ……ふぉ、ふぉ、ふぉ!』
反則スレスレだった。
いや、キョウは反則していない。
きちんと鎧の神器を発動し、黙って殴られたし、避けてもない。
外した試拳官が悪い。
ーーーーーーーーーーーー
『…………あっと、ここで審議、審議です! 皆様、少々お待ちを!!』
クナさんの周りに偉そうな人達が集まっていた。
「リュートくん……」
「まぁ、キョウが耐えるにはアレしか思い付かなかったからな……こうなることは予想できた」
「あれは……いやしかし……ルールは破っていない……だけど……」
カルラ君もブツブツと呟きながら一人検証している。
鎧王の部は……言わば耐えるだけの種目。
人が吹き飛ばされても良し、立ち上がっても良し、完璧に防いでも良し、マンネリしなければ、どのような結果になっても大抵は盛り上がる。
しかし、どうやら試拳官が攻撃を外すなんて事は過去になかったらしい。
闘技場内はどよめいている。
審議もかなり話し合っている。
中々、話が纏まらない様子だった。
すると……
『みな、聞いてくれ!』
マイクの神器を持っていたのはミロクさんだった。
『私は試拳官失格だ! 今のは完全に私に非がある! 彼はルールを破っていない! よって……彼に5ポイントを付与したいと思う!』
俺とユイは喜んだ……が、他の観客達はどうも納得していない様子だった。
ちょっとヤバい雰囲気……?
『だが!』
ミロクさんは言葉を続けた。
『次は外さん!』
その瞬間、闘技場内は歓声に包まれた。
惚れ惚れする程、マジでカッケーなあの人。
「かっこいい……」
ユイが呟く。
その気持ち分かるぞ。
今のはカッコよ過ぎだ。
「流石……母上……」
カルラ君も誉めている。
盛り上げ上手な人だ。
でも……マジで次は当てそうだ。
どうする気だキョウ?
キョウが次に指定したランクは……
Aランク。
勝負に出るみたいだ。