闘王祭と鎧王②
本日、二話目。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ……神器発動、【眠くな~る】!」
元・守護神トーマス……いや、爺は両手を翳すと、いきなし神器を発動してきやがった。
椅子に腰かけていたキョウとユイは、カクッと項垂れて眠りについた。
俺とレイナは身構え、腕で遮るような仕草をしたが、特に変わりはなかった。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ……やるのぉ~お主ら……」
バルタン爺は顎髭を擦りながら感心していた。
「爺……てめぇ……」
憤慨し、神器を発動しようとしたが、爺は片手を翳しそれを制止させた。
「まぁ待て……眠らせただけで、危害を加えるつもりはないわい」
それが危害だ!
「この神器は儂と同格以上の者には効果がない」
「なら、なんでこんな事を……」
「まぁ聞け……最近の若いもんはせっかちで困る……」
爺はどっこいしょとか言いながら、空いていた椅子に腰かける。
「それで御老人……何ようでしょうか……?」
レイナが冷静に尋ねる。
「ふぉ、ふぉ……小僧と違って、お前さんは冷静で見所があるのぉ~ミロクが気にかけるだけはあるわい」
悪かったな、見所がなくて……
「で?」
「ふむ……単刀直入に聞こう……お前さんら、闘王祭をどう思う?」
単刀直入すぎだろ!
意味が分からん!
「どう……とは?」
「ふむ……優勝出来ると思っておるのか?」
「当然です」
「根拠は?」
レイナがチラリと俺の方に視線を送った。
俺に説明しろと……別にいいけど。
「サクヤさんが【剣王】になった時点で俺らの勝ちは確定した」
「ほう?」
「仮にユイとキョウが負けても、俺とレイナが勝って、3つの【王】を獲る。で、最後にギルド【拳武】に勝って俺らの優勝」
「ふむ……最後のは説明になっておらんが、拳武戦までは概ね儂と同じ意見じゃの……」
ん?
「それは……敗けを認めると?」
「まぁ……儂の【眠くな~る】で眠らなかった者が2人おったら終わりじゃと思っておったが……本当におるとはのぉ……」
爺は困った顔をしている。
「まこと世界は広いのぉ……未だ見ぬ強者がおるとは……」
爺は長い髭をゆっくりと擦る。
「……因にだがお前さんら2人はどの部に出るつもりじゃ?」
「武王です」
「天王」
「ふぉ、ふぉ、ふぉ……こりゃまいったな……小僧が遅いのを期待するしかなさそうじゃ……」
「なんで? レーナに勝つつもりは?」
「頭悪いのぉ~お主、Sランクの儂の【眠くな~る】に耐えれるお嬢ちゃんに、儂の弟子が勝てると? ミロクが惚れ込む程じゃ……当然、武の心得も?」
「あります」
「ほれ、詰みじゃ」
爽やかな程、爺はあっさりと諦めた。
「それで、俺が遅いの期待するしかないって訳か……」
「そう言う事じゃ……ちなみにじゃが、お主【速度上昇】系のスキルは?」
「神速」
「終わた……」
爺はテーブルに置いてあった、湯呑みにお茶を注ぐと、両手を添え丁寧に飲み始めた。
めっちゃ、くつろいでる。
「クウマの小僧がおればのぉ~……ズズッ」
「それって四傑の死神?」
「そうじゃ、あやつも儂の弟子でのぉ~ギルドで【風】の称号を与えておった……まぁ本人の属性は【地】じゃったがのぉ~……ズズッ」
爺はアッサリと四傑の属性をバラした。
俺とレイナは話を聞きながら、お茶を自分の湯呑みに注いで飲み始める。
「確か【天王の部】の最速記録保持者……ズズッ」
「その通りじゃ……ズズッ」
「何故ギルドをお辞めに?」
「王の……ああ、この国の本当の王の事じゃが……王の命令を無視してギルドを脱退させられたのじゃ……まぁ強さは本物じゃから【四傑】ではおれたのじゃが……」
「どんな命令を?」
「なんじゃったかのぉ~?」
爺……
「おお、そうじゃ! 確か魔族を捕らえよ、の命令を無視して殺したのが原因じゃ」
爺は思い出せた事でスッキリしたのか、妙に嬉しそうだ。
「何年前じゃったかの~当時、絶世と謳われたアリス・ベルフェゴールと言う機人族の女を殺したんじゃ」
「っ!?」
知ってはいたが、思いがけず出てきたその名を聞いて俺は、驚いてしまった。
「あれは酷い作戦じゃった……魔族博愛のこの国で魔族殺しは御法度じゃ……それを、あんな……」
ん?
ちょっと待て……
変だ……今違和感が……
「魔族博愛……?」
「そうじゃよ」
爺は首を傾げた。
「でも奴隷オークション……」
「ああ、あれか……あれは今の王が悪い……確かにホウライ王国は過去数百年魔族を奴隷にしてきた……それは良い意味で魔族を守るためじゃ……」
でも確かホウライ王国は、魔族を愛玩奴隷にしてきたって……
「まぁ……見返りを求める者は数多くいると言う事じゃ……神国は殺し、帝国は労働に…………守ってやる代わりに……と思う下衆な輩はどこにでもいる訳じゃ……」
「……この国で働く魔族は?」
レイナが重い口を開いた。
「……あれは正確には奴隷ではない……過去にこの国が雇った魔族の子孫じゃ……」
「でも首輪や鎖が……」
「そりゃ魔族が悪い! いや、すまん……正確にはアリスを殺したクウマが悪いのじゃ……アリスの兄である機械王アトラスを怒らせたからじゃ……この国は、何度もアトラスの襲撃にあってのぉ~……最近はめっきり無くなったが、そりゃもう鬼気迫るものじゃった……去年の奴隷オークションは途中で潰されたしのぉ~」
そうか、その時にアザゼルとリリスは逃げ出したのか。
【七ノ月】に行われる【美麗杯】……その後に行われる奴隷オークション……正確には分からんが時期的には合ってるか……
ん?
なんだ、今のもなんか違和感が……?
なんで爺は謝ったんだ?
「まぁアトラスが攻撃してくるから、用心の為に仕方なく、首輪をつけさせたのじゃ……」
「そうでしたか……」
なるほど……だから、王都にいる魔族はそこまで悲観していなかったのか……念のための鎖や首輪で、実質的には奴隷の扱いを受けてはいないのか……
「まぁ……実際に陰で魔族に何をしているか分からん連中は沢山おる…………腐った国じゃ……」
爺は最後、小声で呟き聞き取れなかった。
「おっと……儂はそろそろ行くかのぉ~【眠くな~る】の効果も切れる頃じゃわい」
爺は本当の意味で重い腰を上げた。
腰をトントンと叩いている。
でも分かった……やはり、この国はまだ希望がある。
魔族を保護しようとする良い国だったんだ。
それを一部の人間が勘違いし……徐々に広がっていって……今に至る訳だ。
魔族に対する偏見は神国程はない。
今の元凶……俺の予想ではこの国の…………そいつを何とかすれば何とかなるかも……
多分……英雄エンマが奴隷売買に関わっていたのも、そいつが原因だ。
根は深そうだけど……意外にも原因がわかった事で、少しだけモヤモヤしていたことが晴れてきた。
爺には感謝だな。
俺とレイナは爺を見送ろうとした。
「おっと……! 大事な事を忘れるところじゃったわい……」
爺は惚けたように立ち止まった。
「「?」」
「頑固爺はまだ生きとるか?」
爺はレイナに尋ねる。
「?」
レイナは何の事か分からず首を傾げた。
「ロウガ・アルカディア……お前さんの爺の事じゃよ、レイナ嬢」
本当に最初から最後まで爆弾をぶっ込んでくる爺だった。