夜風と結婚
俺はホテル【刀治場】の最上階……の更に上、屋上にレイナと来ていた。
闘王祭について話し合った後、夕食を摂り、今は2人で夜風に当たっている。
屋上の端に座り、足をブラブラとさせながら、隣り合わせで座っている。
「どれくらいで帰れそうですか?」
「ん~Aランク以下なら1週間はかからないんじゃないかな?」
「なら、その間は姿を隠しておきますね」
俺のスキル【変化】の効果は1日。レイナはその間、姿を隠して鍛練するそうだ。
次のバイトまでは2週間あるし、多分問題ないとの事。
「ん……レイナが大丈夫って言うなら……」
「問題ありません」
即答された。
なら信じるしかない。
「ところで……良かったのですか? 剣王の部に出られなくて?」
「ああ、いいよ別に……折角の祭りなんだし、皆で楽しみたいしね」
「竜斗様がそう仰るなら……」
「ちょっとね……俺がいた世界の剣道の大会を思い出したんだ……」
「?」
レイナは首を傾げた。
「それもね、団体戦だったんだけど……俺だけが勝って、皆は負けて、結局チームは負けたんだけど…………やっぱ皆で勝ちたいなぁって……だから皆が出たいのに出て、そんで皆で勝ちたいなって思ったんだ」
「……大丈夫です。ギルマスもキョウさんもユイさんも、皆さんお強いので、きっと楽しんで勝てますよ」
レイナはニコリと微笑んだ。
俺は愛おしくて堪らなくなりレイナを抱き寄せた。
「ありがと」
「……はい」
「ところで……今頃皆はどうしてますかね?」
「ん? ガオウ達の事?」
「はい」
「どうしてるかな? 一月経つけど……まだ復興作業してるかもね」
言ってて申し訳なくなった。
俺は復興を放棄してレイナを拐った。
多分……いや絶対に皆怒ってるだろうな……
「ほんとですよ……せめて復興作業だけは手伝いたかったですね」
「う……」
拐ったことは後悔してない。
だから俺はレイナに謝らなかった。
「でも……お陰でユイさん達と出会えましたし、検問も通れましたし、人間の国も知ることが出来ましたし……何より、【拳聖】と戦えるのは楽しみです」
レイナがいつの間にか戦闘民族になってしまった。
「なら、良かった」
「はい……」
本当に今頃皆どうしてるかな?
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アルカディア国、アルカディア城、地下【修練の間】。
竜斗とレイナがアルカディア国を飛び出して約1ヶ月、【闘王祭】に向けて2人が行動している時、修練の間では2人の人物が修練に励んでいた。
【七大悪魔王】
獅子族のガオウ・レヴィアタン。
八咫族のサラ・アスモデウス。
国の復興作業も順調で、今後SSランクの迷宮攻略を目指す2人は珍しく修練に励んでいた。
ガオウは斧の神器を振るい、サラは鎌の神器を振るっていた。
「珍しいですな……サラ殿が我と修練するなど……」
「ふふっ、そうですね……大概はレイナかルキさんとしますからね」
2人は互いに向かって駆けると、遠慮なく神器を振るった。
互いの神器がぶつかると珍しく鍔迫り合いになった。
「くっ……やはり勝てませんか……」
サラは斧を受け流すと、ガオウから距離を取った。
「本当にどうされたので? いつものサラ殿らしくない……かような無茶な攻撃をされるなど……」
ガオウは、サラの動きにいつもの流麗さがない事に疑問を持った。
「…………1つガオウさんにお聞きしたいことが……」
「なんですかな?」
「竜斗さんがレイナを拐った事について、どう思われてます?」
「? どういう事ですか?」
「私も含めてですが……皆さんの意見は【竜斗さんが何かをしたくて、レイナがそれに付いていった】と言いましたが……ガオウさんはどう思われてます?」
サラは神器を解除した。
「ふむ……我もそう考えてます。まぁ本当に拐った可能性もありますがな」
ガオウも神器を解除し、顎を擦りながら答えた。
「ですね……竜斗さんなら本当にしそうです」
「全くです」
「で、ここからが本題です……」
「ん?」
「竜斗さんがレイナを拐ったとして……ガオウさんはどう思われてます?」
「それは、とんでもない事をしでかしおったと……まぁ今はそれほど怒ってはいないのですが……」
「…………嘘ですね?」
サラは少しだけ俯いた。
「!?」
ガオウは一瞬だけ体をビクリと動かした。
「ガオウさんは誰よりも1番長くレイナと一緒にいたと聞いてます……」
「それは……陛下が生まれた時から、お仕えしているので……」
「…………す、好きだったのでは?」
サラは意を決して尋ねた。
「…………勿論、臣下として慕っております……」
だがガオウは珍しくサラが何を聞きたいか察した。
「ですが、そうですな…………ふむ…………そうかもしれませんな…………」
ガオウは初めて自分の気持ちに気づいた。
いや、サラのお陰で気づかされた。
自分が誰を慕っていたかを。
「初めて皆さんに出会った時……竜斗さんとゼノさんが、ガオウさんをからかっていましたが……私はなんとなく、そうではないと思ってました……」
竜斗やゼノ……いや、皆がガオウはサラの事が好きだと思っていた。
だが、サラだけはそうではないとずっと感じていた。
ガオウは照れたように鼻をかいた。
「私には……ガオウさんは、レイナと竜斗さんのために身を引いたのだと感じてました……」
「まぁ陛下からしてみれば、我の事は眼中になかったでしょうな…………よくて兄ぐらいでしょうかね?」
ガオウは微笑した。
「ただ、サラ殿は勘違いしておられる」
「?」
「確かにサラ殿に言われて気づきました……自分が誰を慕っていたかを……」
「…………」
「ですがそれは身を引いたのではなく、それ以上に大事にしたいモノが出来たからです」
「大事にしたいもの?」
「はい」
ガオウは真っ直ぐにサラを見つめた。
決して視線を逸らすことなく、ただサラだけを見つめた。
「わ、私……ですか?」
サラはキョドった。
「はい、我にとっては陛下もアルカディアも民も……皆が大事です……ですが……その……1番は…………そ、その……あ、貴女です……」
ガオウは恥ずかしさから、最後の方はなんとか絞り出すように声を発した。
「!?」
ガオウの言葉にサラの顔は一瞬で真っ赤になった。
「わ、我は……サラ殿の事が好きです……陛下や誰よりもです……この気持ちに嘘はないです」
ガオウはハッキリと言葉にした。
「わ、私もです……ずっと……ずっと前から慕っていました……」
サラは俯いたまま答えた。
この言葉にガオウの体は熱くなった。
自分のせいで、大事な人が胸の中に想いを秘めていたのだと。
申し訳なさと嬉しさで体が熱くなった。
「サラ殿……?」
「……はい」
「我と……結婚して下さい!」
「!?」
ガオウは漢らしくプロポーズした。
そして……
「はい」
サラはそれを承諾した。
数日後、復興作業の最中、アルカディア国では2人の結婚式が行われた。
復興中にも関わらず、街は沢山の花飾りで彩られ、簡素ではあったが、この世界で1番花びらが舞った美しい式が執り行われた。