各部と概要
まだ日が高い内に、俺とレイナは一緒にギルド本部を訪れた。
一応仲直りした後、店主であるガチムチのおっちゃんに迷惑料としてタダ働きさせられた。
まぁいい経験になったから、それはいい。
取り敢えず……超がつく程忙しかったとだけ言っておこう。
おっちゃんの雑貨屋は本当になんでも売ってた。
果物や日用品……アクセサリーに少量だが神器まで。まぁ神器はそれほどランクが高いものではない。
良いものが欲しかったら、専用の店か迷宮に行けと言われた。
そんでまぁ、客が途絶えない。
レイナ目当てで客が来る。レイナが笑顔を向けたら、皆鼻の下を伸ばしていた。
だが何故か昨日と違い、今日は女性客も多かったそうだ。
お陰で商品が売れに売れて、早々に店じまい。
だから予定より早くレイナの仕事が終わったので、こうして一緒にギルド本部へ報告に向かっている訳だ。
まぁ俺もサーペント討伐が確認されたかの確認をしにいかないといけないし。
「魔物討伐、行ったのですね……二人で行くって……」
レイナは頬を膨らませてムスッとしている。
「ご、ごめん……でも大した事ない魔物だったし……」
ヤバイ……また怒らせた……
「ふふっ、冗談です。そもそも魔物討伐なんて竜斗様からしたらどれも大した事ないに決まってます」
レイナは小さく笑った。
良かった……冗談で……
「そうなの?」
「当たり前です……SSのウロボロスを二振りですよ。それにスキル【五光】は5属性スキル。どのような魔物が出てきても大概対処出来るのでは?」
確かに。
「しいて挙げるなら……竜斗様が苦戦するかもしれないのはアンデット・ファントム系か光属性の魔物ですかね?」
「おぉ……ガイコツか……」
「今述べた魔物はゼノが得意としていますね」
「なるほど……」
確かに唯一……唯二? 持っていない属性が【光・闇属性】だからな。
三属性をスキル【合魔】で合わせたら出てくるかと思ったけど……まさかの【状態異常属性】だとは思わなかったし。
なら……それ以上?
「あ……いま私、竜斗様が何を考えているか分かりました」
「へ?」
「属性を試すおつもりですね?」
レイナはニコッと微笑んだ。
心を読まれた……
「ま、まぁその内ね……」
「無茶はしないでくださいね」
「うん」
そう言うとレイナは、歩きながら腕を組んできた。ついでに頭を俺の肩に乗せてる。
幸せだ……
昼間の喧嘩?が嘘のようだ。
で、そのままギルド本部に到着すると、流石にレイナも恥ずかしかったのか俺から少し離れた。
「あ……リュート様、レーナ様お疲れ様です」
アイナさんがカウンターで出迎えてくれた。
「あ、これをお願いします」
レイナは何やら紙をアイナさんに手渡した。
どうやらガチムチのおっちゃんから、二日目を終えたサインが記入された紙らしい。
「畏まりました、拝見させて頂きます…………はい、二日目無事に終了とします」
アイナさんは紙を確認すると、サインを記入し、それをレイナに返した。
期間内まで、それを繰り返すそうだ。
なにその、【夏休みのラジオ体操システム】!?
いや……お店の【スタンプカードシステム】か!?
まぁなんだっていいや……めんどくさそうな事に変わりはない。
「あ、リュート様が昼間行われた依頼も無事に完了しておりました。水質も段々と透明に戻りつつあるそうです」
「おぉ~良かった」
俺の方も無事に終わっていた。
俺とレイナは、アイナさんからそれぞれ11000エンと15000エンの報酬を頂いた。
所持金は……俺が16000エン、レイナが25000エン。
倍近いとまでは言わないが……まぁまぁ、差がある。
「リュート様は後4件、レーナ様は後5件……Dランクの依頼をこなして頂くと、こちらが指定する【特別依頼】を受注して頂きます。それを完了されると【ギルド個人ランク】がCランクへとなります」
あれ?
結構簡単そうだな……
これなら直ぐにキョウとユイに追いつきそうだな。
「はい」
「了解です」
「では、頑張って下さいね」
アイナさんお決まりの営業スマイル。
俺とレイナはアイナさんに手を振りながらギルド本部を後にした。
アイナさんも小さく手を振り見送ってくれた。
俺とレイナは我がギルドの拠点でもある……ホテル【刀治場】へと帰る事にした。
もうね、あそこはホテルと呼ぶことにした。
再びレイナと手を繋いでホテルまで歩いた。
ホテルに到着し部屋に入ろうとしたら、キョウの大声が廊下まで響き渡った。
「マジっすかギルマス!?」
俺とレイナは顔を見合わせると、少しだけ廊下を駆けて部屋へと入った。
「どうかしたのですか!?」
「おぉ、レーナ帰ったか……リュートも一緒みたいだな」
俺とレイナの心配を他所にギルマスであるサクヤさんは落ち着いてお茶を飲んでいた。
「あ、リュート君、レーナお帰り~」
ユイもソファに腰掛けたまま、のんびり茶を飲んでいた。
「あ、ただいま……です……」
「キョウの大声が廊下まで聞こえていたけど?」
「わ、わりぃ……つい興奮しちまって……」
立っていたキョウは、ドカッと勢いよくソファに腰かけた。
「ふむ、全員揃ったことだし改めて【闘王祭】について説明しよう」
サクヤさんは、俺とレイナにも座るよう促した。
テーブルにはお茶とカップが置かれていたので、レイナが、俺と自分の分を淹れてくれた。
俺はお茶を啜りながら、思案を巡らせた。
さて【闘王祭】か……
どんな感じの大会かな?
個人トーナメント?
それともギルド対抗戦?
はたまたバトルロイヤル戦?
まぁどれにしたって楽しみなのは変わりないけど。
「闘王祭だが……細かく分けて5つに分類される」
?
リーグ戦って事か?
「剣技を競う【剣王の部】、己の拳で戦う【武王の部】、速さを競う【天王の部】、耐久力を競う【鎧王の部】、技の美しさを競う【輝王の部】……この5種目を競い合うのだ」
「「は?」」
俺とレイナの声が揃った。
「各ギルドからは何人出ても構わないそうだが、出ていいのは1人1種目までだそうだ」
「「は?」」
今度はユイとハモった。
「そうして各ギルドで最も【王】が多いギルドが……拳聖ミロクが率いるギルド【拳武】と、【闘王の称号】を懸けて5対5のバトルをするそうだ」
「…………マジか」
「つまりだ……リュートやレーナが拳聖と闘うためには……我々5人で各種目の【王】の座を取らなければ、拳聖のいるギルドとは戦えないという訳だ」
「かなり厳しいな……」
キョウが呟いた。
「それってつまり……私も出ないとダメなんですよね?」
ユイが怯えている。
「いや、出なくても大丈夫だが……なるべくなら3つの王を取る事が望ましい……勝率を上げるためには、全員に出てもらうつもりだ」
「やっぱり……」
「で、皆はどれに出たいか意見を聞こうかと……」
「私は武王の部です! 正直、拳聖以外に負ける気はしません」
レイナは即答した。
「私は……輝王かな……多分戦わなくて済むし……速さには自信ないから天王はちょっと……」
「リュートは?」
ふむ。
剣王は絶対負ける気がしない。
鎧王と天王は【魔名宝空】が使えたら、これも負ける気がしない。
だが、出れるのは1つか……
「俺は武王と輝王以外ならどれでも」
「なるほど……因にだが、私は刀しか能のない女だ。私は剣王の部に出たいと思うのだが……」
「なら天王は俺が出ます、多分勝てるかな」
スキル【神速】があれば勝てるだろ。
「なら俺が鎧王の部か……」
消去法でキョウが鎧王の部に出ることになった。
剣王の部……サクヤさん。
武王の部……レイナ。
天王の部……俺。
鎧王の部……キョウ。
輝王の部……ユイ。
なんとか出場種目は決まった。
「後、使用神器だが……1人2つまでだそうだ」
あ、俺勝ったな。
俺は確信した。
魔名宝空に森羅万象の属性を付加させたら絶対負けない。
「それと使用神器には各部門で種類が指定されている……確か……」
サクヤさんが説明してくれた事を纏めてみた。
【武王の部】……籠手と具足の神器のみ。
【鎧王の部】……盾か鎧か胸当のどれかの神器。
【剣王の部】……上の5つの神器以外で刃がついた神器。
【輝王の部】……刃がついてない神器ならどれでも。
【天王の部】……なんでも。
二勝は確実だな。
俺とレイナは間違いないな。
サクヤさんは相手次第。
キョウとユイはちょっと厳しいかも……
「ねぇリュート君……相談があるんだけど……」
ユイが、レイナではなく俺に話があるのは珍しいな。
「どした?」
「どんな技がいいかアイデア頂戴!」
「別にいいけど……なんで俺?」
「えっとね……前に殺人蜂と戦った時に出してた盾(翼)があるでしょ?」
「うん」
「あれ、凄く綺麗だったから、もしかしたらリュート君に神器を創造してもらったら結構いけるんじゃないかなって……どう?」
「う~ん、俺なんかでよければだけど……それなら神珠を手に入れないとだね」
「なら皆で迷宮攻略に行くか? 俺も盾か鎧の神珠が欲しいし……ついでに俺もリュートに創造してもらおうかな」
「なら2回は迷宮に行かないとね」
あ、そっか……基本的には迷宮は1個ずつだもんな。
Sランクだと二個出るんだけど……
キョウとユイは新たな神器が欲しいそうだ。
「私は……久しぶりに1人で鍛練がしたいです」
レイナは闘志を燃やしていた。
俺と一緒にいたいと言っていたが、拳聖とは戦ってみたくなったみたいだ。
「う……む……どうするか……迷宮攻略を手伝いたいがレーナを1人にはさせたくないし……」
サクヤさんはどうするか悩んでる。
「Bランクの迷宮なら3人で大丈夫ですよ」
「……リュートはAだしな……よし、なら3人は迷宮攻略。レーナと私はここに残り鍛練と依頼をこなすって事でいいか?」
「「はいっ!」」
闘王祭か……思ってたのとは違ったけど楽しみだな。
まぁ、本当は剣王の部に出たかったけどいいか。
皆で勝って、拳聖の率いるギルドと戦いたいな。
どうせなら異世界で最速記録を叩き出してやる!