不要と付加
俺達はひたすら走りながら迷宮を進んでいた。
迷宮内の構造は【塔】の時と違い、まるで洞窟みたいだった。だがやはりこの迷宮にも【光玉】が至るところに設置されており、明かりがなくても進めた。
今のところは問題なく進めており、フロア内にある階段を見つけては、地下へ地下へと降りていった。
--現在、迷宮【地下4階】--
目の前で対峙している魔物はこれまた巨大な蛇であった。
【ニーズヘッグ】、属性【地】、弱点【風】、スキル【猛毒】ランク【A】
俺達の戦闘フォーメーションは、前衛が、ガオウとゼノ。中衛が、レイナ。後衛が順に、ルルと俺。
最後尾の主人公……
剣士なのに……
今まではこのフォーメーションで問題なかった。
出てきた魔物もランクが【E~C】だけだった。
しかし【蛇種】の持つ先天スキル【猛毒】……喰らった箇所から体が紫色へと変化し、徐々に体力を奪われていく。
さすがに【A】ランクの魔物相手に無傷という訳にはいかなく、前衛の2人が毒に侵される。
治癒師であるルルが神器を発動しガオウとゼノを援護する。
籠手の神器【アクエリアス】、能力【状態異常解除】、ランク【B】
しかし魔物のランクは【A】で、ルルの神器はランク【B】。相手の猛毒の方が強く、戦闘中もあってか中々回復出来ない。
「くっ……」
ルルは苦しそうに回復し続ける。
前衛の2人も動けずにいた。
俺の出番かな……?
俺が前に出ようとしたら、レイナが俺を制止した。
レイナは俺に微笑むと、ニーズヘッグに振り返り神器を発動させた。
籠手の神器【大和】、能力【衝撃】、ランク【A】
警戒したからなのか分からないが、ニーズヘッグは勢いよくレイナに向かって噛みつこうとした。
しかしレイナはその攻撃を容易く華麗にかわし、ニーズヘッグの顔面に掌底をおみまいした。
壁に叩きつけられたニーズヘッグは、ブルブルと震えだし、そのまま破裂した。
衝撃の〇ルベルト……!?
確か翔兄が観てたアニメにそんなキャラがいたような……てか、レイナ強すぎ!
「す、凄いな……まさか破裂するなんて」
「いえ、2人がニーズヘッグに手傷を負わせていたから一撃で倒せましたが、一人ならこうはいきません」
「ドラゴンの時に薙刀の神器使ってたから、てっきり薙刀使いかと思ってた」
「あれは属性を斬り裂く能力があるので気に入って使いますが、私本来の戦闘スタイルは格闘家です」
グラップラーレイナ……
等と考えながらレイナと、3人のもとに駆け寄った。
「大丈夫ですか?」
レイナは心配そうに2人に声をかけた。
「ああ、姫さんに美味しいとこ持っていかれたな」
軽口は叩いているが、まだ少ししんどそうであった。
しばらくするとルルの回復が終わった。
「ふー、終わりました」
ルルは額の汗を拭った。
ガオウとゼノはスッと立ち上がった。
「助かったぞルル」
「いえそんな、もっと早く回復出来たら良かったのですが……」
「何言ってんだ、回復してくれるだけで助かってるよ」
ゼノとガオウはポンッとルルの頭に手を置いてお礼を言った。誉めてもらえたからかルルは少し嬉しそうだった。
「3人とも大丈夫ですか? 大丈夫なら先に進みたいと思うのですが……」
「ああ、問題ない」
「大丈夫です」
「私も平気です」
3人とも問題ないらしく俺達はそのまま進んだ。
基本的に陣形はそのままだが、ニーズヘッグ戦から徐々にレイナも戦闘に参加しだした。
俺は相変わらず回復に専念するルルの護衛だった。
しかし魔物の攻撃がルルにまでいくことがなく、俺は何もしてなかった。
その後も3人が魔物と戦い、ルルが回復、俺が護衛……そんな走っては戦い、走っては戦い、を繰り返した。
俺は走りながらルルに話しかけた。
「ねぇ、俺っている?」
「……正直、今のところ、いらないですね」
ルルはズバッと返答してくれた。
「だよね…………なんかみんなが苦戦する、みたいなこと言ってたから、もっと出番あるかと思ったけど、Aランクの魔物も倒せるし問題ないんじゃないかな……」
ついつい愚痴ってしまった。
「そんなことはありません。竜斗様がルルを護衛してくれてますし、後ろに控えてくれていると思うから安心して戦えるのです」
レイナはフォローしてくれたが、マジでここまで何もしていない。
しかも、もうすぐ地下10階に到達する。
「でも確かに変です。以前Aランクの迷宮に挑戦した時はもっと苦戦しましたし、こんなに順調に行くとは思いませんでした」
「それは我も感じていました。まるで力が漲るようです」
「……もしかしてだけど、竜斗の後天スキル【王気】か【魔曲】のおかげかもな」
「どういうこと?」
「【王気】のスキル効果は、人を惹き付けたり圧倒的な気で相手を従わせる真の王のみが持つことを許された激レアスキルだ」
「ちなみにだが我が知る限りスキル【王気】は、アーク帝国の皇帝、スレイヤ神国の女王、ホウライ王国の国王の3人しか持ってないスキルだ」
俺は少しだけビビった…………俺にそんなスキルは勿体ないように感じた。
「で、確か【魔曲】は勝利を呼び込む的なスキルだっけ?」
「ああ、その2つのスキルのおかげで、俺達はいつもに比べて、楽にここまで来れてるのかもな」
まるで甲子園常連高の魔曲〇ョック〇ックだな……
そんなことを考えながら進んでいると地下10階へと続く階段を見つけた。
長い階段を降りると、地下10階は巨大な空間だった。
俺達が降りてきた階段の入口とは反対側に地下11階に続く階段があった。
しかし階段の目の前には巨大な3頭の蛇がいた。
-神眼、発動-
【バジリスク】、属性【地】、弱点【風】、スキル【猛毒】【石化】、ランク【S】
【ニーズヘッグ】×2、ランク【A】
計、3頭。
中ボスってところか……やっと出番がきそうだな。
少しだけホッとした。
まさかこのまま49階層まで行くんじゃないかと思った。
なのに……
レイナVSバジリスク。
ガオウ、ゼノVSニーズヘッグ×2
の、構図になってしまった。
余ったルルと俺。
ルルは籠手の神器【アクエリアス】を発動する。
ルルが3人に大声で叫んだ。
「援護は任せて下さい」
3人はこちらを見ずに軽く手を挙げた。
先制攻撃はニーズヘッグ2頭による噛みつき。
ガオウは神器【レギオンバスター】で受け止める……少し後退りはしたが攻撃には耐えた。
ゼノはニーズヘッグの動きを見切って紙一重でかわす。
2人とも先の戦いでニーズヘッグに馴れたようだ。
これならなんとかなりそうだが、問題はレイナの方だ。
相手は完全に格上の【S】ランク。
相手のスキル【猛毒】と【石化】。
レイナの売りである華麗な動きがいちいち石化で止められ、かなり苦戦しているみたいだ。
ルルが必死に【アクエリアス】で状態異常を解除する。
それでも徐々にレイナの攻撃がバジリスクに届かなくなる。
「レイナ!!」
俺は心配になりレイナに加勢しようとした。
「こないで下さい!! わ、私は大丈夫です……ルルを守っていて下さい」
どうみても大丈夫そうではない。
「ひ、1人で倒せないようでは到底【S】ランクになど……なれません……」
「…………」
それ以上レイナを説得出来そうになかった。
鬼気迫るものがあった。
「竜斗様……」
ルルは心配そうに俺の方を見た。
「もう少しだけ様子を見よう」
ルルは少ししてコクリと頷き、回復に集中した。
しかし、レイナの攻撃はやはり当たらなくなり、当たってもダメージにはならなかった。
俺はせめて弱点で攻撃出来ればと思い、神器を発動させた。
籠手の神器【森羅万象】、属性【炎、水、風、雷、地】、能力【付加】、ランク【S】
【森羅万象】の能力【付加】により、属性【風】をレイナの神器【大和】に付加させる。
「!? こ、これは……」
レイナは驚いていた。
籠手の神器【大和】、属性【風】、能力【衝撃】、ランク【S】
「嘘だろ……」
俺も驚いた。
ただ【神器】に属性を【付加】させるだけのつもりが、まさかランクまで上がるとは……
だがレイナ自身のランクがあがった訳ではなく、上のランクの神器は負担でしかなかった。
「うっ……」
石化や猛毒より苦しそうだ……レイナは膝をついた。
【森羅万象】を解除したが、神器【大和】には属性が付加されたままだった……
「レイナ! 1回神器を解除してみてくれ! 俺じゃあ解除出来ない!!」
「いえっ……大丈夫で、す……」
全然大丈夫そうじゃない……やらかしてしまった。
「姫様!」
「姫さん!」
「姫様!」
みんなが心配して叫ぶ。
レイナはゆっくりと立ち上がった。
レイナの目にはまだ力があった。
そしてバジリスクに向けて左手を突き出し、右手に力を溜める。
レイナはゆっくりと呼吸を整える。
「スーーーーーハーーーーー」
(確か竜斗様も、こんな感じで息を整えてました……)
レイナとバジリスクが睨み合う。
バジリスクは紫色と灰色の息を吐き出した。
レイナの顔の半分が紫色になり、猛毒に侵される。そして下半身は石化により動けなくなる。
だがレイナは微動だにせず、バジリスク一点に集中する。
動かなくなったレイナを確認してバジリスクがレイナを襲う。
バジリスクがレイナの間合いに入った刹那、レイナが叫び右拳を突きだした。
「終わりです! 烈風龍拳っ!!」
竜の形をした衝撃がバジリスクを襲う。
一瞬にしてバジリスクは跡形もなく破裂した。
ルルの解除が効いてか石化は砕けるように解除され、レイナはその場に倒れこんだ。
我先にと、俺は必死でレイナの元に駆け寄った。
ニーズヘッグがガオウとゼノの攻撃を掻い潜り、倒れたレイナを襲う。
「しまった!!」
ゼノとガオウが叫ぶ。
俺は刀の神器【絶刀・天魔】を発動し、走りながら刀を横薙ぎに一閃する。
ニーズヘッグ2頭は斬り裂かれ、そのまま消えていった。
ルルが「凄い……」と呟いていたが、俺には周りの音が何も聞こえていなかった。
そのままレイナの元まで走り、レイナを抱き抱えた。
「レイナ!!」
俺が叫んで、少ししてレイナの目が開いた。
「りゅ、竜斗さま……」
「良かった……意識はあるな?」
「はい……なんとか……」
「ルル! 急いできてくれ!」
「は、はいっ!」
ルルが【アクエリアス】で状態異常を解除した後、籠手の神器【オリオン】で傷を手当てした。
籠手の神器【オリオン】、能力【回復】、ランク【B】
レイナは寝た状態のままルルの回復を受けていた。
ゼノとガオウも駆け寄ってきた。
「たくっ、無茶しすぎだ姫さん」
「申し訳ありません……あの時はいけそうな気がしたんです」
「おいおい、俺にあれだけ説教してきたのに自分が無茶してどうする」
「すみません……竜斗様のがうつったんです」
みんなで小さく笑った。
冗談が言えるなら大丈夫だ。
ー少ししてからレイナはそのまま眠ったー
◆
「で、どうする?」
俺はガオウに尋ねた。
「うむ……とりあえず一日目の目標であった地下10階には来たし、姫様にも休息が必要だ」
「だな」
ゼノが返事すると神器を発動させた。
腕輪の神器【聖なる領域】、能力【不可侵】、ランク【A】
辺り一体を聖なる光が包み込んだ。ランク以下の魔物を寄せ付けない神器らしい。
「まぁ、この階はこの空間しかないし……必要ないかもだが一応な」
ガオウも自分の、袋の神器【1980】を発動させて、中からテント等を取り出し、簡易休憩所を手際よく設置していった。
俺はレイナをチラ見して、ガオウを手伝うことにした。
お疲れレイナ……
ゆっくり休んでくれ……
そしてレイナのランクが【S】になっていたことに俺達はまだ気づいていなかった。