疑心と検問
「おっと誤解しないで欲しい……愛していると言っても、刀の神器を使っているのか、というだけの事だ」
サクヤさんは、何故か焦るように取り繕った。
まるで、今の条件が凄く厳しくて、ハードルを下げるかの如く。
まぁどっちにしろ無問題。
これで俺も晴れて、異世界ギルドデビューだ!!
「あの……」
レイナが申し訳なさそうに、控えめに手を挙げた。
「どうしたのレーナ?」
ユイが不思議そうに尋ねた。
「私……持ってません……刀の神器…………ギルドに入れないのでしょうか?」
「なっ……そ、そうなのか……!?」
サクヤさんが尋常じゃない程、驚いている。
「私は格闘家ですので……籠手か具足の神器しか……」
「うそでしょ……?」
ユイは、レイナが格闘家なのが信じられない様子だった。
無理もない……レイナは超絶可愛い……言ったら、世界レベルの美女なのに、世界最強レベルの格闘家でもある。
誰が信じられるだろう……
「な、なんということだ……せ、折角メンバーが増えると思ったのに……」
サクヤさんは、膝から崩れ落ちた。
どんだけショックを受けてるんだ、この人。
だが、実際どうしようか……?
俺一人、ギルドに入るわけにはいかないし……
残念だけど、今回は諦めるしか……
「短刀の神器は知人に譲りましたし……あとは薙刀の神器しか……」
「!?」
「薙刀の神器は持っているのか!?」
「え、ええ……」
サクヤさんは勢いよく立ちあがると、勢いよくレイナの両肩を掴んだ。
顔が近い……
「薙刀なら問題ない!!」
「そ、そうなのですか……? あまり得意ではないですし……それに刀では……」
「何を言う! 薙ぎ払う刀と書いて【薙刀】!! あれも立派な刀だ!!」
「は、はぁ……」
尋常じゃない程、サクヤさんが興奮している。意外だ……もう少しサラみたいなお淑やかな人かと思った。
てかレイナと顔が近い……唇が触れそうな程……
「よし、これでメンバーが7人になったな!」
ようやくレイナから離れたサクヤさんだが、ガッツポーズまで決めている。
せめてキャラは決めておいて欲しい……イメージが崩れる。
「7人だと何かあるんすか?」
「いや、特に意味はない!」
「…………」
「…………」
「…………」
酒場内の雰囲気とは裏腹に、俺達は静まり返った。
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「では、改めて自己紹介する……ギルドマスターのサクヤ・レイナルドだ、皆よろしく頼む!」
「メンバーの、キョウ・シグレだ……マスターに次いでこの中では古株になるな」
「同じく、ユイ・カナタよ……キョウとは幼馴染みなの」
「あ、天原竜斗です……よろしくお願いします」
「えっと、レイナ・サタン・アルカディアです……リュートさんとは婚約者です」
「自分は……って、え?」
ずっと座っていた男性が漸く口を開いて自己紹介しようとしたが、何故か止まった。
レイナ変なこと言ったか?
「……レーナ……リュートくんと……婚約してる……の?」
ユイの体が尋常ならざる程、震えている。
「はい、そうですが……何か?」
レイナは首を傾げている。
「ま、また……私よりも……若い子が……先に……ブツブツ……」
なんかユイにスイッチが入った。小声で鬱気味に何やら呟いている。
どうやらこの世界で20代は、まぁまぁ行き遅れているみたいだ。
なら、アーシャやサラさんも?
怖くて聞けないな……
てか、話が進まねー!!
「自分はユダ・ヨーデスです……先日このギルドに入ったばかりなので……よろしくお願いします」
寡黙そうな男だった。
ハゲてはないがベリーショートで、なんか軍人みたいな男だ。鎧の隙間から見える筋肉もゴツゴツしてて、傷だらけだ。
てか、言いにくそうだ……よく噛まなかったな。
ユダって……裏切り者みたいな名前だな。
「私はカーラ……私もユダさんと同じく最近入ったばかりなんです」
カーラさんも、物静かな人だった。
なんだろう……凄く違和感がある人だ。
着てる鎧が恐ろしく似合わない。着られてる感が半端ない。それに目に覇気もない。
こんな人でも刀が好きなのか?
ちょっと神眼を……
「よし、なら早速王国を目指すぞ!」
サクヤさんは皆を纏めて押し出すようにして酒場を出ようとした。
すっごく明るい笑顔だ。
メンバーの二人が死んで悲しいけど、敢えて明るく振る舞ってる感じ……居た堪れない。
でも俺達が入ってきた事は本当に嬉しいみたいだ。
なんか毒気を抜かれた。
そうだよ、こんな人が選んだメンバーなんだから皆、刀好きのいい人に決まってる。
神眼で視ようとするなんて、俺はなんて失礼なんだ……もう仲間なんだ、疑うのはよそう。
俺達は酒場を後にし、さらに国境警備基地から外へと転移した。
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俺達は検問場所……国境付近を目指し北上していった。
この辺りは、荒れ地に若干の草が生えてる……そんな場所だった。木も少し涸れ気味だ。
「同じ国境でも、帝国側は草木が一杯で風が気持ちいいのにな」
キョウは歩きながら愚痴ってる。
だが同意見だ。
確かアーク帝国って別名【緑の国】って呼ばれる程、緑豊かなんだよな。
前にゼータだったかレインバルトだったかが言ってた気がする。
「思ったのですが……皆さんは王国ギルドに移ることに抵抗はないのですか?」
レイナが皆に質問した。
だがそれは俺も少し気になっていた。
「レーナは知らないのね」
ユイがほんのちょっとだけ悲しそうな顔をした。
「何をです?」
ユイは申し訳なさそうにサクヤさんの方に視線を送った。
「構わない」
サクヤさんはそれだけ言って、後は黙っていた。
「えっとね……この【刀剣愛好家】ってギルドは……サクヤさんの旦那さんが立ち上げたギルドでね……その人が最初のギルドマスターだったの」
「そうなんだ……じゃあサクヤさんは2代目?」
「うん」
あれ?
確か前ギルドマスターって……
「イカルガ・レイナルド……は流石に知ってるでしょ?」
誰それ?
「確か雷王ライガ・ヴァーミリオンの師で、【前・雷王】ですね」
「うん」
レイナが答えた……知ってたんだ。
「彼は雷王であり、ギルドマスターでもあり、サクヤさんの夫でもあったの」
「そうだったのですか……それは知りませんでした……」
「昔……小さい頃、俺とユイは魔物に襲われてる所をイカルガさんに助けてもらったことがある」
「うん、それで私もキョウも【刀剣愛好家】に入ろうって決めたの……」
「でも確かさっき……」
「うん、ある時……イカルガさんはSランクの迷宮に行って……それきり帰ってこなかったの……」
重たい空気が流れてる。
サクヤさんは黙したままで、キョウとユイは悲しそうな顔をしている。
俺は一瞬、天使の仕業かと思ったけどSランクなら多分違う。天使の……ランクZEROの迷宮はEランクの迷宮にしか出てこないみたいだし。
「だから私はこのギルドを消すわけにはいかないんだ……彼の大切な場所を消すわけには……」
サクヤさんがゆっくりと口を開いた。
「例え彼が神国の騎士だったとしても……祖国を裏切ることになったとしても……私にはしなければならないことがある」
「サクヤさん……」
「サクヤさん……」
「私は彼の創った……愛刀を見つけるまでは……Sランクの迷宮攻略を諦めない」
サクヤさんは、左手の薬指に嵌まっている神器をさすっていた。
サクヤさんは俺の視線に気づいた。
「ふふっ、可笑しいだろ? Sランクで私には使えない、おまけに物騒な刀の神器が婚約指輪なんて……」
「いえ……」
【神吹】<刀/風/斬撃/S>
「彼の創った愛刀とは?」
レイナがサクヤさんに質問した。
「ああ、Sランクの雷属性の刀で……銘は……か」
「ギルマス、見えてきましたよ」
ユダさんの声で前方を見ると、巨大な岩と岩とが連なっている間に巨大な門が設置されていた。
前には大きな台車を引く沢山の人が列になって大荷物を運んでいる。
商人かな?
そして門の前では大勢の騎士達が、検問を取り仕切っていた。先頭の小肥りの男は騎士達に証?らしき物を見せており、騎士達は運ばれる荷物を一つ一つきっちり調べていた。
ヤバイ……神眼が見知った顔を見つけた。
【炎王ヒレン・シュティンガー】
【闇王プリンガ・ノーズ・ヒュバイン】
ヤバイ……バレる……