異世界と二人
夜が明けた。
アルカディア国を北上し、アルカ大森林を抜けた先を暫く飛んだ先に、ボロ小屋を見つけたので、俺達はそこで一晩を明かした。
裸体をシーツで包み、無防備な横顔を晒しながら、未だ横になって休む婚約者をじっと見つめる。
「ん……」
僅かに吐息が漏れる。
やっべ……幸せすぎだ。こんなに幸せでいいのだろうか?
ヤバイ……顔がニヤける。
「ん……もう、起きてらしたのですか?」
彼女も、ようやく目を覚ました。
「おはよう、レイナ」
爽やかに挨拶をするオレ。
「……おはようございます」
まだ少し眠そうだ。
彼女は体を起こすと、シーツで体を包んだまま器用に着替え始める。
「…………」
レイナはじっとこちらを睨んでくる。
「何?」
「何って……いつまでこっちを見てるんですか?」
「別にいいじゃん今更……」
「親しき仲にも礼儀ありです……!」
レイナは拳を振りかざした。おまけに神器まで発動させようとしている。
「ごめんなさい!」
俺は一度小屋から出ることにした。
朝陽が気持ちよく俺は思いきり背伸びした。
「ん…………くぅ~…………」
背骨の骨が少し鳴った。
よし、朝飯でも作るか!
申し訳ないが、食材はかなりくすねてきたので食事には事欠かない。
俺は定番の味噌汁的なスープを作ることにした。
「お待たせしました…………良い匂いがしますね」
レイナは着替えて小屋から出てくると、鼻をスンスンとさせている。
どの仕草も可愛い。
「随分と時間掛かったね」
「申し訳ありません、まだ慣れなくて……違和感が……」
レイナが本当に申し訳なさそうしている。まぁでもそれは仕方ないことだろう。
俺はレイナを爪先から頭の先まで見回した。
ないのだ!
今のレイナにはアレらがない。そう、角に羽に尻尾がないのだ。どう見ても綺麗で可愛い人間の女性にしか見えない!
原因は俺のスキルにあった。8つ目の新スキル【変化】。対象の部位を一日だけ変化させる、驚異のスキルだった。決して幻ではない。
「まさかこんなスキルとはな……」
俺はお玉でスープをかき混ぜながらレイナを見つめた。
「ホントですね……見たことも聞いたこともないスキルです……」
レイナは角があった箇所をさすっている。
今のレイナは俺のスキル【変化】と、自分のスキル【魔眼<王>】の1つ【邪眼】で、見た目的にもステータス的にも、どこからどう見ても完全に人間であった。
勿論、俺のスキル【神眼<覚醒>】は、レイナの本当のステータスを捉えているので意味ないが、他の人間からは人間に見えている。
ちなみに今の俺たちのステータスはこうだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【リュート・テンゲン】(18)
種族
【人間】
クラス
【魔剣士】
ランク
【A】
先天スキル
【剣聖】
後天スキル
【五光】【神速】【合魔】
特殊スキル
【観察眼】
神器
【森羅万象】<籠手/炎水風雷地/付加/A>
【1783】<袋/次元/収納/D>
【魔名宝空マモルモノ】<盾/風/守護/A>
【神鳴カミナリ】<刀/雷/放電/A>
【帰巣本能マクロ・ス】<門/次元/転移/A>
【レーナ・サタルディア】(20)
種族
【人間】
クラス
【魔拳士】
ランク
【A】
先天スキル
【魔皇】【枯渇】【身体強化】
後天スキル
【崩拳】
特殊スキル
【魔眼<王>】
神器
【銀鶴】<具足/無/衝撃/A>
【大和】<籠手/無/衝撃/A>
【巴】<薙刀/無/属性無効/A>
【??】
【??】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
こんな感じ。
絶刀・天魔は一応、外している。まぁ【鑑定眼】所持者がいたらばれるけど、【神眼】が防いでくれるから問題ない。
ステータスが視れないとか怪しまれるからな。
それと神眼は【観察眼】に変えておいた。【魔眼<人>】だと人間ではないと言っているようなものだからな。前にマナさんから聞いておいて良かった。
レイナの方も大丈夫な筈だ。
レイナにも一応、【崩龍】を外してもらった。
それと、短刀の神器【天竜】はネムリスにあげたそうだ。正確にはネムリスから譲ってほしいと頼まれたみたいだけど。
後は、神器のランクも変えておいた。
この世界で最強クラスに位置する、Sとか有り得ないからな。更にその下のAにしておいた。
クラスも種族も変えたし完璧だ。二人ともどこからどう見ても、鍛えまくって旅をしている人間(設定)にしか見えない。
おっと、最後に……俺の瞳も、金に限りなく近い黄色の瞳に変化させた。これなら神眼を一瞬使えば問題ない。邪眼でいくら隠しても、変化で色を変えても、何故か【金色に輝く】という現象だけは変わらなかった。
まぁでも、これで基本的にはなんとかなる筈だ。
俺達は朝食を食べ終え、片付けが済むと、ゆっくりと立ち上がった。
「それで、どこにいきます?」
「ん~先ずはホウライ王国」
「帝国ではないのですね?」
「ん、アリスの事聞きたいから皇帝にも会いたいけど……先ずはホウライ王国の【英雄エンマ】に会いにいく」
「!?」
「それと、昔の英雄【トウマ】の事を調べる」
「エンマとトウマですか?」
「そ、アーシャが言ってたろ? エンマはランクZEROの迷宮にご執心らしいし、トウマの父親は神話について調べ始めた第一人者だって」
「それで?」
「え~と、多分だけどトウマの父親は、神話というより天使と悪魔について調べたかったんじゃないのかなって……」
「…………」
「この旅の最大の目的は、【天使の迷宮……ランクZEROの迷宮を……龍を倒すこと】なんだ」
「なっ!?」
「だから、ランクZEROや天使と関わり合いがありそうな、王国を目指すって訳」
「……結構考えてらしたのですね」
「今、馬鹿にしたろ?」
全く失礼しちゃうぜ。
「俺の、本当の最終目標は天使を倒すことなんだ……多分、天使を倒さないと……本当の意味で魔族が安心して暮らせる世の中はこないと思うんだ」
ついでに、最強になる。流石にこれは恥ずかしくて言えない。中二病っぽいしな。俺、高3だし。
「竜斗様はやはり凄いです……こんなにも考えて行動してらしたとは……」
「どしたの急に? 褒めてもなんもでないよ」
「でも、でしたら……それこそ皆で探した方が……」
「う~ん、俺もそれ考えたんだけど……皆で行動したら絶対また誰かに襲撃されるって…………それで2回も攻撃許した訳だし……同じ鉄は踏まない」
本当はレイナと二人きりになりたかったから。
言い訳も完璧だ俺。だてにあの世は……じゃなくて、だてにここ最近ずっと考えていた訳ではない。
「よし、じゃあ行くか?」
「はい!」
俺達はその場を後にして、更に北を……ホウライ王国を目指した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アルカディア国、アルカディア城にある一室。
国を守る主要メンバーは、そこに集まり、会議を行っていた。
「あの……戯けがっ! 遂にやらかしおったわ!!」
獅子族のガオウは、壁を思いきり殴り付けた。
部屋の中に轟音が響き渡った。兎人族でスキル【聴力】を持つララとルルは耳を塞いだ。
「まぁまぁガオウさん……落ち着いて」
隣に立つ八咫族のサラはガオウを宥めていた。
「いや事態はかなり深刻ですサラ殿……なんせ王を拐ったのですから」
竜人族のルキは、表には出していなかったが内心はかなり憤慨していた。
「そうか? 竜斗も姫さんもランクSS以上、なんの問題もないだろ」
堕天族のゼノは呑気に構えていた。
「やれやれ、王が1年も国を空けるのだ……大問題に決まっている」
機人族のアトラスは目を閉じ、静かに怒りを顕にした。
「だね……一体何がしたいんだか」
蟲人族のバアルは呆れ返っていた。
「何かあるのでは?」
軍の総隊長である機人族のヒュースは冷静に思考を巡らせていた。
「ゲロ……」
大臣である蛙人族のローゲも頷く。
「「…………」」
各隊の隊長である、シューティングスター、アザゼル、ガーベラ、イヨ……そして、隊長候補であるリリスは黙して皆の様子を伺っていた。
「た、確かに竜斗様は変態で鬼畜で阿呆ですが……私達の、ためにならないことをするでしょうか?」
「「…………」」
ルルの言葉に、皆は黙して考えた。
「なら、なおさら我らに相談もしないとは!?」
ガオウは再度壁を殴ろうとして、思い止まった。
「…………もしかして私達に何かをして欲しいのでは?」
「何かとは?」
サラの言葉にアトラスが返す。
「例えば、自分達の力でSSランクになれとか?」
「有りうるかもね」
ゼノの意見にバアルは同意した。
「それと同時に何かをしたかったのでは?」
「…………確かに、ここ最近のあやつの様子はおかしかった」
ララとルキは最近の竜斗の様子がおかしかった事を思い出していた。
「しかし、だからと言って……陛下を拐う理由には……」
「信じましょうガオウさん……」
「サラ殿……」
「竜斗さんにはきっとしたい事が……いえ、しなければいけない事があるのです……」
「なるほど、恐らくそれはあまり時間がない……急を要することなのだろう」
「ルキの言う通りかもな……それを姫さんだけが気づいて竜斗についていったのかもな」
「有り得るな……レイナは竜斗の事をよく見ているからな」
「ああ」
「だが一年したら帰るとメモには書いてあったぞ? 急な事なのに、そこまで時間を要するのか?」
「僕らに不安を与えたくなかったから、あんな書き方をしたのかもね」
「…………あやつらしいな」
「だね」
皆は勝手な妄想で竜斗を美化させていった。
勿論、竜斗の考えと全く違う訳ではないのだが、当の本人は【レイナといちゃいちゃしながら世界を回って、ついでに天使をぶっ倒す】これだけであった。
皆に内緒にしたのは、その方がカッコいいから……だった。
「な、なら……尚更探さなくては?」
ガーベラが口を開いた。
「いや、今の我々では竜斗と陛下の足手まといだ」
ガオウは悔しそうにしていた。
「だね。竜斗はここ最近ずっと思い詰めていた……余程の覚悟がいることなんだ」
「…………」
バアルの言葉に、リリスの拳を握る手に力が入った。そしてそんな様子をバアルはただじっと見ていた。
「なら、決まりだな。俺らはSSランクになる。それもあの二人抜きで」
「あいつらを捜索するのはそれからになるな」
ゼノとルキは互いの顔を見合わせて微笑んだ。
「中途半端な強さであの二人を見つけても、足手まといになるだけか……」
「ですね」
サラもアトラスに同意した。
「竜斗様を信じましょう」
ララの言葉に皆が頷いた。皆が、自分がしなくては、と強く心に秘めた。
国を復興・強化し、いついかなる奇襲にも全て防衛出来る状態を作る、そして自身のランクを上げ竜斗の想いに応えられる強さを手に入れる。
自ずとやるべき事が見えてきた。
竜斗とレイナがいない……結果的に、この事が皆を飛躍的に強くさせるのであった。