確認と惚れ
「うるせーーっ!!」
俺の声が響くと、みんな黙り込みこちらを見つめていた。
俺はそのまま【王の間】へと入っていった。レイナとアーシャは冷静さを取り戻したのか、先程までの自分を恥じるように俺の後ろをついて歩いた。
本当に五月蝿かったので、俺は【神眼<覚醒>】を発動し、皆をひと睨みした。俺からは見えないが、両の眼が金色に輝いている筈だ。
皆はただただ黙って俺が近づくのを待っていた。
直ぐに皆に近づくと、俺は腕を組みそのまま皆を見回した。
うん、結構な数だ……
【アルカディア側】
レイナ、ガオウ、ゼノ、サラ、ルキ、バアル、アトラス。
ララ、ルル、ヒュース、リリス。
【スレイヤ神国側】
アーシャ、地王ガイノス、炎王ヒレン、雷王ライガ、風王クリスティーナ、闇王プリンガ。
大臣が19名。
それと……ネムリス、レインバルトだ。
俺を含めて39名……多いな。それに、なんといっても広い。この城の【王の間】は広くて綺麗だ。イメージ的には白くて透き通っている感じ。奥にある玉座も綺羅びやかで豪華だった。
でも先ずは、
「良かった皆無事で……」
ララとヒュースの傷も、ルルのお陰か殆どない。
「大丈夫ララ、ヒュース?」
「あ、はい……」
「あ、はい……」
ん? なんか二人が余所余所しい……どうした?
「竜斗様……【王気】が発動されていますよ」
隣のレイナが小声で教えてくれた。
「うおっ!?」
ビビった。よく見たら無意識に発動していたみたいだ。体がうっすらと光っていた。どうやらここにいる全員を威圧していたようだ。
「…………どう?」
俺は光を抑え込んだ。
「はい、大丈夫です」
レイナがにこりと微笑んでくれた。
「焦った……皆を洗脳したらどうしようかと……」
俺は額の汗を袖で拭った。
「大丈夫です、今のは<解放>程度なので、意識すればコントロール出来る筈ですよ」
反対隣にいるアーシャが説明してくれた。
「ん、了解」
後で検証しようと思っていたのに……締まらない自分が恥ずかしい。
「え~と……レインバルトも無事で良かった」
俺はネムリスの隣にいるレインバルトに振り向いた。
「はっ、すみません……地下に捕らえられており先程釈放されました……」
うん、この中ではレインバルトが1番傷だらけだな。まだ応急的にしか治癒されてない感じだ。
「いや、無事で良かったよ……皆を護ろうとしてくれたんだろ?」
「…………まだまだです、精進します……」
レインバルトは申し訳なさそうにしている。
だけど多分ガブリエル相手に生きていただけ奇跡だと思う。現状、SSランクのレイナとアーシャでも勝てない相手だ。
それに、いつまでも謝られそうなので、取り敢えずこいつはもう放っておこう。
「他の皆は?」
確か別室にいる筈だけど……
「それなら心配いりません」
サラが答えてくれた。
「そうなの?」
「ああ、僕の結界で部屋を護っている。侵入なんかしたらたちまち状態異常のフルコースだ」
どうやらバアルの神器で皆を護っているようだ。
「それに【千里眼】でも常に確認している」
「了解」
でもバアルはうっかり屋さんだから心配だ。だからか傍にリリスを連れてきているのは。
「あれ? 光王がいないな?」
アーシャは元だから、今の光王がいない。
「ああ、戦闘後から行方不明だ」
ゼノが腕を組んだまま、深刻そうな顔をしていた。
「ゼータじゃないのか? そういやゼータもいないな」
「ゼータにはアルカディアに残ってもらった。今はローゲと部隊長と共に皆の護衛をしてもらっている」
ルキが教えくれたのだが、ルキからゼータへの信頼感が半端ないな。まぁ宿敵だったからこそ、誰よりもゼータの強さを信頼してるんだろうな。
「ゼータも関与していないと言っていたな」
「そうか……サンキュー、ゼノ」
貴重な情報だ。多分、いや……間違いなく嫌な予感がする。
「そういえば戦闘中に異物が紛れ込んでいると……」
レイナがアーシャに尋ねた。
「そうなのかアーシャ?」
「ええ、知っているような知らないような何者かがいる……そんな不思議な感覚でした」
「どういうこと?」
全く意味がわからん。
「あなた方の仕業でないのなら……恐らく【光王ハクア】は何者かに連れ拐われたのでしょう」
「…………嫌な予感しかしないな」
「あ、アーシャ様……」
すると神国側の大臣の一人がアーシャに恐る恐る声をかけた。
「どうしました?」
「そ、その事と関係しているのかは知りませんが…………ダコバス殿もあれ以来行方が……」
大臣の一人が行方不明らしい。ダコバスって確かララを捕らえようとした奴か。
「分かりました……ギルドのメンバーに探させるように命じておきます」
光王ハクアと大臣ダコバスが行方不明か……誰かが連れ去った? 誰が? アルカディアでも神国でもないなら……【アーク帝国】か【ホウライ王国】になる……皇帝と六花仙、国王と四傑……或いは……天使か?
「あんま長居は出来ないな」
「そうですね」
俺の小声にレイナが頷いてくれた。
全く……こいつらは主力メンバー全員で神国に来るとかアホなのか?
本当に魔族は仲間を助ける事に必死だ。
この間に敵に攻められたらどうする気なんだ。
まぁこれが魔族の良いところなんだろうけどさ……反省は活かさないと意味がないぞ。
しばしの沈黙が流れた。
「……で、これからどうするの?」
なんかいつの間にか話が始まっていて、いつの間にか終わっていた。
こんな時は普通「会談を始めます」とか何かしら合図があるのでは?
なんにせよ、俺的には気になることは聞けたので、もう充分なんだけど。
叫んで威圧して気になる事だけ聞いて、あとは好きにしてくれ……そんな態度が皆に伝わったのか皆は呆れた顔をしていた。
「ごほん、では私から……」
咳払いを1つして、口を開いたのはヒュースだった。
流石は頼れる総隊長。堂々とした姿勢で、神国側を見つめている。
(ん?)
ある人物が目に留まった。
(……マジ……か?……なんか……ララがヒュースを見つめる瞳が、てか顔が乙女……なんだけど……)
赤面した顔でヒュースを見つめるララの姿を【神眼<覚醒>】が捉えた。
(ん?)
神眼は更に微妙そうな顔で姉を見つめる妹も捉えた。
(ルルも気づいた……?)
て、事は……ま、まさか……ら、ララはヒュースに……ほ、惚れた??
(ま、マジかあぁぁぁああああああっっ!!!!?)
(マジか!?マジか!?マジか!?マジか!?)
あ、ヤバイ……ヒュースが神国側に何か話してるけど、全く耳に入ってこない!
俺はニヤつきそうになる顔を、手で押さえて隠した。
(マジか!?マジか!?マジか!?マジか!?)
いつの間に……いや、捕らえられている間にヒュースが男らしくララを助けたのなら……あながち……うん、あり得る……そうか……もし、本当にそうなら……可哀想に……
(シューティングスタぁぁぁぁああああっっ!!)
折角、隊長の一人としてAランクへと至り、いよいよ告白だけだったのに……まさかここにきてララに好きな人が出来るとはっ!!
間違いない……だってララ、あからさまに両手を組んで祈るようにして【カッコいい……】視線をヒュースに送っている。
(ベタ惚れだ……)
やっべ……マジで、ヒュースと神国側との会話が耳に入ってこない。時折、神国側が怒って叫んでいるがアーシャが宥めている。逆も然り、バアルやルキが怒鳴っているがレイナが落ち着かせている。
でも内容は全く頭に入ってこない。やべぇ、ヒュースってララの事、どう思ってんだ?
今の俺はそれだけが気になる。
「…………で、どうでしょうか竜斗殿?」
「ん?」
不意にヒュースから話を振られた。
「……聞いておられましたか?」
ヒュースに睨まれた。
「ごめん、聞いてなかった……」
うぉい、こんな時に話を振ってくんじゃねー!