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どうせなら異世界で最強目指します  作者: DAX
第六章【聖都】
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魂魄と叫び



「こ、ここ……は……?」

 私は気づくと見知らぬ場所にいた。


 正確には誰かの掌の中だった。



 私の声は虚ろで、姿も虚ろ……剥き出しの魂に(なび)く風が突き刺さる。私の魂を握る手は、優しく私を包み込み、その風から私を護ってくれている。


 だが、私は自覚した。



ー私はもうじき消滅するのだとー



 剥き出しの魂のまま、気を失う前の記憶を思い出す。

 私は敗けた。それも護るべき人間の手により。

 神の怒りを彷彿とさせる雷をその身に浴びた。

 私の魂は焦がされ、まさしく風前之灯だった。

 直に私はこの世界から消滅する……



「大丈夫です」

 ふと、(わたし)を優しく握る手の持ち主から声がした。



 私は魂のまま、その者を見上げた。



「あ、あなた……は?」

 私は尋ねた。


 彼女は甘い果実のような桃色の髪を後ろで纏めており、吸い込まれそうな程の鮮やかな紫色の着物を纏っていた。



「……悲しいですね、私の事を忘れてしまわれるとは……」



「!?」

 その言葉に私はハッとした。



 そう……私は知っている。遥か昔からこの者を知っている。



「ま、まさか貴女様は……!?」



 見ると、私を握る手とは反対側の彼女の肩に見知った人物が担がれていた。



「思い出して頂けましたか……お久しぶりです、ガブリエルさん」

 彼女はニコリと微笑んだ。


「め、目覚めておられたのですね……!?」

 嬉しい誤算だった。


「はい、訳あって隠していました…………それにしても、間一髪でした」

 彼女は先程の戦闘の事を言っているのだろう。


「も、申し訳ありません……【神託】を全う出来ず、世界から消える私をお許しを……」

 私は懺悔した。


「先程も申しましたが大丈夫ですよ……私のスキルをお忘れですか?」

「!?」



 私は思い出した。確かにこの方のスキルならまだ望みはある。



「それにしても……とんでもない【人】が現れたものです」

 きっとあの若者の事を言っているのであろう。


「…………はい」


「あと僅かに遅れていたら、貴女の魂は本当に消滅するところでした」

「…………も、申し訳ございません」


「いえ、いいのです。お陰と言ったら失礼なのですが、あのタイミングだったからこそ、気づかれる事なく貴女を助ける事が出来ました。それに……」

「それに?」


「収穫もありました」

 彼女は肩に担いでいる人物に視線を送った。



 なんとも恐れ多い事を……気を失っているとはいえ、堕落しきったその体型で、この御方に触れるとは……自国の者だったのが恥ずかしい。



「ん? 収穫ですか?」

「ええ、彼のランクは低いですが……適正としては申し分無いです……」



 まさかカスみたいな人間だったのに、この御方の眼に止まるとは。



「迷宮を見つけなければ話になりませんが……ラジエルさんでどうでしょう?」

「…………異存ありません」



 ふむ、流石だ。ラジエルさんの器としてなら申し分無いかもしれない。



「うっ……!!」

 魂に痛みが走った。


「すみません、長話し過ぎました」

「い、いえ……」


「ガブリエルさんが助かる道は2つです。迷宮に転生し直して器を待つか、私のスキルで器を待つかです」


 即決だった。


「貴女のスキルでお願いします」

「分かりました……では私が器を見つけるまで暫しの休息を」



 魂だけの存在だが、私は目を閉じ、この方に身を委ねた。



「ひ、1つだけ……【四傑】の【死神】が、ウリエルさんです……」

 これだけは伝えておかなければ。



「ありがとうございます、では…………スキル【天檻】」

 この御方に感謝されるとくすぐったい。



 私は見えない檻へと吸い込まれた。

 そこは世界から隔離された別空間……何処までも黒く染まった世界。魂だけが存在できる世界。

 私の【天水】【天啓】と同じ、神より授かりしこの御方だけのスキル。



 ふと私は強烈な睡魔に襲われた。


 眠い……



「ゆっくりと傷ついた魂を癒してください」

 世界の外から声がした。


「す、すみま……せ……ん…………サ……ダル……フォ……さ……ま……」




 消え行く意識の中、私とは別の魂の存在がある事に気づいた。


(だ……れ……?)


 誰かは判らず、私はそのまま深い眠りに落ちた……





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー





 スレイヤ神国・聖都スレイヤ【純白の神城(ホワイトパレス)



 俺達はそこの最上階に位置する【王の間】へと向かっていた。



「もう大丈夫」

 俺の体を支えながら歩くレイナから少し離れた。


「ホントですか?」

 レイナは心配し、まだ俺の体に手を添えてくれていた。


「ああ」

 本当に大丈夫。体に力が入るし、もう痛みもない。



「ふふ、クラスとは裏腹に甲斐甲斐しいですね魔神王レイナ」

 先頭を歩くアーシャが微笑ましそうにこちらを見ている。


「……そういう貴女はどうなのです元・光王アーシャ……」

「どういう意味でしょうか?」


「いい歳なのに男気の1つもないのでは?」

「年齢を出してくるとは、喧嘩を売ってるのですか?」


「ええ、私よりも年が上のようですがどうなのです?」

「3つしか違わないでしょう」


「……おばさん」

「なんですって……?」



 アーシャは23か…………それにしても……恐い……女の喧嘩がこれ程とは……二人とも立ち止まり、その場で眼に見えない火花がバチバチと散り合っている……何故こうなった?



「お言葉ですが……こう見えて男性経験は豊富ですよ」

「見栄を張らなくていいのですよ」


「ギルドの長で、姉王と同じ血が流れているのです……多少は顔に自信があります……そんな私を男が放っておくと?」



 ま、まさか……

「逆ハーレムか!?」



「……意味は分かりませんが、あまり良くなさそうな響きですね」

「貴女の言葉が本当なら当然です、男を取っ替え引っ替え……不潔です」


初心(うぶ)ですねレイナ……貴女の方こそ男を知らないのでは?」

「し、失礼な!」


 えっ!? まさか知っているのか……? そうだとかなりショックなんだけど。


「おやおや、焦るところを見ると……」

「た、確かに私は竜斗様しか知りません! ですがそれで充分です! なんせ竜斗様は最高なのですから!」



 良かった……しかし、ちょっと待ってくれレイナ……それ以上は褒め?ないで欲しい……段々俺の方が恥ずかしくなってきた。



「と、取り敢えず王の間に行こうぜ……皆待ってんだろ?」



 俺達は再度歩き出した。



「大体貴女はーー!!」

「貴女こそーー!!」



 まだ続いてる……いい加減にして欲しい……まぁ皆と合流すれば、後は皆が(なだ)めてくれるか……それまでの辛抱……



 そうこうしていると俺達は王の間の扉の前に到着した。しかし、二人は未だに言い争っている……ここに来るまでが異様に長く感じた。


「あ、開けるよ……?」

 俺が尋ねるが二人は無視して言い争っている。疲れた……


 俺は二人を無視して、重たそうな扉をゆっくりと開けた。



 中に入ると……そこは……



「貴様ら魔族の分際でっ!!」

 赤い服を纏った複数の男達が、対峙している魔族に暴言を吐いていた。


「なんだとっ!!」

 赤い髪の竜人族の女性……いや、ルキが反抗しており今にも飛びかかりそうだった。



 暴れそうな者、それを抑える者、宥める者や、一緒になって言い争う者、我関せずを貫く者……神聖な城は大混乱だった。



「…………」

 うるせー。



「大体っ……!」

「貴女は……!」

「貴様らっ!」

「殺してやる!」

「まぁまぁ」

「み、皆さん……」

「だから僕は言ったんだ!」

「落ち着けお前ら」

「やれやれ……」

「黙っていろ!」

「なんだとっ!」

「…………!」

「…………!」



「…………」

 もう訳が分からない……隣でも王の間でも皆がわめき散らしている。しかも終わる気配がない。




「……うるせーーっ!!」



 俺は叫んだ。




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