討論と限界
しばらくアルカ大森林を歩いていると、目の前が少し拓けてきた。
「ここは?」
「あっ、ちょっと待ってくださいね」
レイナに止められた。
レイナは目線でルルに合図を送った。すると、ルルは一つの神器を発動させた。
門の神器【ゲート】、属性【次元】、能力【転移】、ランク【B】
突如、目の前に大きな門が出現した。
「でけ~……これは?」
「はい。門と門とを繋ぐゲートです。これで一気に森の外、【アーク帝国】領内まで飛びます」
なんと!?
どこでも〇〇まであるのか……
神器の種類が扉だったら完璧だったのに……
ただ発動から門が繋がるまで、もうしばらく時間がかかるみたいだ。
発動に集中しているルルを除く俺達は少し離れた場所で休むことにした。
「でも、そんな便利なのがあるのに、なんで城から一気に飛ばなかったの?」
「単純に距離的な問題です。アルカ大森林の外に設置した【門】は3ヶ所あって、今回行く迷宮に1番近い門は、この場所に来なければ、距離的に届かないのです」
話を聞くと、アルカディア国は【スレイヤ神国】よりかは【アーク帝国】に近いらしい。今回の迷宮攻略をアーク帝国内のにしたのも、あまり時間をかけたくないとのことだ。
ちなみに残りの2ヶ所の門は両方ともスレイヤ神国領内と繋がっているらしい。その門を繋げるにはアルカ大森林を後1日程度は歩かないといけないらしい。
アルカ大森林はどんだけ広いんだ……
スレイヤ神国が軍を派遣するのに意見が割れていると言っていたが、その辺りが理由っぽいな。
多分……
「へ~、じゃあアルカ大森林は2国の国境にあるんだ?」
「その通りです。正確にはアルカ大森林とアーク帝国の間には更に【霊峰】が聳え立っております。人間にとって2つの立入禁止区域があるので2国は大規模な戦を仕掛けられないのです」
「…………えっ!? 2国は争ってるの? それってかなり重要な事じゃない?」
「…………」
「……レイナさん?」
「…………テヘッ」
舌を出して誤魔化そうとするレイナさん。
くっそ可愛いな!
これじゃ、教えてくれていなかった事を責めれないじゃないか!
「皆様! あちらとの門、繋がりました! いつでも行けます!」
ジャスト?なタイミングで、ルルが大声で俺達を呼んだ。
門とやらが繋がったようだ。
「で、では竜斗様、とりあえずあちら側に行ってから説明しますね」
「了解……」
レイナにそう言われ渋々納得した。
レイナの少し後ろに付いて門に向かって歩くと、ガオウとゼノが両横に並んできた。
「すまぬな、竜斗」
「悪ぃ~な、竜斗」
「いや、もう若干馴れてきたよ。別に気づいてたならガオウ達が説明してくれてもいいんだけど……」
「いや我々もすっかり忘れていたのだ。こっちでは当たり前の情報だから、竜斗も知ってると思い込み、つい話すのを忘れてしまうのだ」
「【つい】で何かあったら洒落にならないから……」
「……すまぬ」
「まぁでも、1度に全部説明すんのはやっぱ無理だろうけどさ……せめてさっきみたいに会話の途中で話すの忘れてました……みたいなのは勘弁して欲しいな」
「……うむ、善処しよう」
あ……ダメなヤツだこれ……
今、ゲームでいったらフラグがたったな……
スレイヤ神国とアーク帝国は現在、戦争中らしい。
なんでも思想の違いからくる意見の衝突が最初の原因みたいだ。
アーク帝国は魔族を労働奴隷や兵士として扱っているらしい。底辺ではあるが、ある程度の地位は与えているそうだ。
スレイヤ神国の方は、魔族は根絶やしにするべきだといい、自分達の快楽や道楽などを満たすと、ゴミのように捨てたり殺したりするそうだ。
中には国中を挙げての公開処刑まですることもあるそうだ。
スレイヤ神国からしたら、魔族に【ある程度の地位】を与えることすら、許せないみたいだ。
逆に、アーク帝国の皇帝は使えるものはなんでも使う主義らしい。ある程度の地位は与えてやるから自分の為に働けと公言しているらしい。
俺の中ではアーク帝国の皇帝の方が若干好感が持てた。
まぁ魔族にとってはどちらの国も、自分達を物扱いしている訳でどちらにも好感が持てる筈がない。
結局俺は、門を渡る前に簡単に2国について説明してもらった。
「スレイヤ神国はなんでアルカ大森林に軍を派遣するんだろうな?」
俺は質問した。
今まではアルカ大森林と霊峰を避け、お互い遠回りして長年小競り合いを繰り返してきたそうだが、それがここにきて急にであったからだ。
「さあな……単純に奇襲をかけるためなのか、小競り合いに疲れて、一気に勝負に出るためなのか……」
ゼノが答える。
「う~ん、多分後者は違う気がする」
「なぜ、そう思う?」
「前者はまだ分かるよ。今まで森と霊峰を避けて戦ってたのにいきなり大軍が霊峰側から出てきたら、どうしても対処が遅れると思う。でも後者はわざわざ森や霊峰からじゃなくてもいいと思う」
「まぁ確かにな」
「……なんとなくなんだけど、魔族をあぶり出す為なんじゃないかな?」
全員が一斉に俺に振り向いた!!
「どういうことです!?」
「スレイヤ神国は魔族を根絶やしにしたいんだろ? だから広大なアルカ大森林に魔族がいると仮定して、それを見つけ出すための軍派遣じゃないかな?」
「!?」
全員が驚いている……が、俺はそのまま喋り続けた。
「だからアルカ大森林への軍派遣の情報を敢えて流して、魔族に動きがないか探ってるんじゃないのかな。動きがなくても軍派遣はどのみちするし、ただ本当にアルカ大森林に魔族がいるのかがわからなくて、軍派遣に対して意見が割れてるんじゃないの?」
俺の頭は今世紀最高に冴え渡った。
「ありうる! スレイヤ神国の女王の魔族嫌いは有名だ。神国内でも狂ってるほど魔族を殺すことに飢えているらしい」
「なるほど、魔族は現在そのほとんどが身を隠して生活している。それを見つけるための軍派遣か……」
「しかし、アーク帝国との戦時下で、そこまで軍を割くことができるのでしょうか?」
「だから進軍の話が中々決まらないのでしょう」
「あっ、なるほど」
5人の討論が白熱してきた……するとレイナが確信を突いてきた。
「ですが……スレイヤ神国の進軍が魔族を見つける為の物だとしても、私達はどうすればいいのでしょうか……遅かれ早かれアルカ大森林には攻めてきそうな気がしますし、なら迂闊に動いて、ここに私達がいるって教えるわけにもいきません……かといって何もしないわけには…………」
「…………」
全員が一斉に黙った。
「だからこそ、【S】ランクの迷宮を攻略しに行くんじゃないか」
俺は答えた。
「えっ?」
「3人がSランクになれば、相手とも互角に戦えるんだろ? なら今はその事に集中しよう」
俺は言ってて、この討論の発端は自分の質問からだと言うことに気づいた……なんか申し訳ない。
「そうだな。今はあれこれ考えても仕方ないし、とりあえず目の前の事を1つずつこなしていこうぜ、姫さん」
ゼノもフォローしてくれた。
「ただ、これからは細心の注意を払おう。ここに俺達がいるってバレたら、それこそ直ぐにでも軍を派遣してくるかもしれない。だから今は隠れながらこっそり強くなろう」
俺はみんなに注意を促す。
「魔族にはAランクしかいないと思って、Sランクが3人もいたら腰を抜かすであろうな」
ガオウも面白そうな想像をしてくれた。
「そうですね……フフッ」
レイナにも笑顔が出てきた。
みんなの表情が明るくなった。
しかし、そこで俺はあることを思い出した。
ずっと心の中で気にはなっており、それがなんなのか分からなかったのだが、なぜかガオウの言葉でそれが何かはっきり分かった。
「そういえば前に人間と正面から戦ってる魔族の国が2つあるって言ってたけど、なんで戦えてるんだ?」
「急にどうしたのだ?」
ガオウが聞いてくる。
「いや、レイナ達【A】ランクが3人もいるのに、敵の中に【S】ランクが1人いただけで負けるみたいなこと言ってたけど、その2国はどうやって戦ってんだろうと思って……その2国には【A】ランクの奴が沢山いるのか?」
「いや……それほど多くはないはずだ。寧ろアルカディア国に3人も【A】ランクがいる方が多いくらいだ」
「やっぱり……」
俺の予想は間違ってない。
英雄と呼ばれたトウマがランク【S】。
ならばその次に強い【A】ランクがそれほど多いはずがない。
アルカディア国の魔族を【神眼】で見たが、そのほとんどが、ランク【E】~【C】なのだ。
ならばどうやって、その2国は人間達と戦って滅びてないんだ……?
「うむ。なんといったら言いか……現状上手いことバランスがとれているのだ」
「どういうこと?」
「アーク帝国の皇帝は世界の覇権を握ろうと、スレイヤ神国、ホウライ王国、魔族の2国それぞれと戦っておるのだ」
俺は驚いた。
世界征服を夢見る奴がいるなんて……てか、どれだけ巨大な軍なんだ。
「それに対してホウライ王国は侵攻に対して迎え撃つ程度の対応しかしておらず、理由は分からぬが現状、魔族に対しても自ら打って出るようなことはしておらぬ。一方スレイヤ神国は魔族の2国を攻め落としたいらしいが、アーク帝国との戦争により、戦力をそちらに回し魔族の国を責めあぐねている」
なるほど。
スレイヤ神国からしてみれば獲物が目の前にいるのだから、そちらを攻撃したいわけだ。
「肝心のアーク帝国だが、その戦力の殆どをスレイヤ神国に向けている為、魔族の国への攻撃も牽制程度なのだ」
俺は話を整理し思ったことを口に出した。
「ごめん、少し嫌な言い方するけど、魔族が憐れだな……」
「ああ、詰まるところ魔族は遊ばれているのだ。我が国もそうだが、我々魔族はまともに人間の戦にも介入できず、身を守ることも出来ず、自分達の存在を証明することも出来ず、人間達の掌で遊ばれているのだ」
「………………」
またしても皆の中に暗い沈黙が広がった。
だが今度はレイナが明るく希望を口にした。
「でも大丈夫です。私達には竜斗様がいます。竜斗様がいてくれたら私はずっと闘えます。皆の為にも、竜斗様の為にも、自分自身の為にも」
俺はなんだか嬉しくなった。
悪くいえば依存に近いのかもしれないが、頼られてるんだと感じた。
「ああ、約束したしな。レイナの傍でずっと戦うって」
「はい!」
レイナの笑顔は明るかった。
「やれやれイチャイチャしてから」
ゼノは茶化してきた。
「まだ契約(仮)だがな」
ガオウが余計なことを言う。
「……そうでした! 早く条件を決めて下さい!!」
「……はい、考えときます」
だから、レイナとイチャイチャするのが条件じゃダメなのだろうか?
なんだか少し面倒臭かった。
毎日必ず【レイナの胸】することにしようか……?
それもいいな…………考えておこう。
「あの! いいでしょうか!!」
ルルが急に大声をあげた。
そういえば途中からずっと黙ったままだった。
「どうしました?」
レイナが尋ねた。
「あの……いい加減、門を渡りませんか……発動し続けるのも限界です……」
本当に申し訳ない。