地下道と不気味
「ここは?」
城に転移したと思ったら俺は、少し開けた森の中にいた。
「おいゼータ、城に転移しろっ……」
言いながら辺りを見渡すと、大勢の魔族の姿があった。
「竜斗殿っ!」
先頭にいた見慣れた蛙人族の老人が吃驚していた。
「ローゲ?」
見るとローゲの両手にはルークくんと、ソラちゃんが手を引かれていた。
更によく見ると少し後ろには、マナさんやボブおじさん、ジュンちゃんの姿もあった。
「お兄ちゃん」×2
ルークくんと、ソラちゃんは俺(の足)に抱きついてきた。
「ルーク、ソラちゃん!?」
2人は嬉しそうな顔をしていた。
「ごめんなさいね竜斗ちゃん、レイナちゃんからここに転移する様に頼まれてたの」
どうやら俺の知らないところで秘密の作戦が遂行されていたみたいだ。ゼータ曰く、あれでも情報が漏れるのを防ぐためだそうだ。もしかしたら杞憂で終わる可能性もあったから、とかなんとか。
俺を信じてない訳では無いそうだが……それでも俺には言って欲しかった。実際に逃げることになってるみたいだし……
「あれ?お姉ちゃんは?」
ふと、ルルはララの姿がないことに気づき、辺りをキョロキョロと見回していた。
「も、もしかしたらまだ修練の間に……」
ローゲが焦りながら説明してくれた。
どうやら侵入者が来たみたいで、レインバルトが撃退しに行ったそうだ。それからヒュースの指示で避難を開始し始めたみたいだ。
「分かった、なら俺が行く」
俺は2人を優しく引き剥がすと、神器【魔名宝空】を発動させた。
「転移しなくていいの?」
ゼータが、いつでも転移出来ますみたいな口調で尋ねてきた。
「いや、まだネムの姿がないし、地下道を通りながら確認してくる」
ヒュースの作戦ではネムリスは要らしいから、しっかり確認しとかなくては。
「ゼータは、シューティングスター達をここに転移させてから修練の間に転移してきてくれ」
「了解よ」
運よく地下道は結構大きめに作られているので、皆の上を飛翔すればなんとか通れる。飛翔がてらネムリスの確認と、敵がどこまで迫っているかの確認だ。
ゼータが転移すると俺も直ぐに地下道を飛翔していった。道中、皆が俺を見て「えっ?」とか「あれ?」とか言っていたけど、全部無視して俺は急いだ。
狭い通路の中を嵐属性で飛翔するから皆は相当びびってるみたいだ。
すると、地下道を少し進んだところにネムリスがいた。弓矢五人衆の一人が護衛するように一緒に出口に向かってきていた。
「ネム!」
俺は飛翔しながら強く叫んだ。
「えっ、あれ? 竜斗さん?」
ネムも俺の姿を見て焦っていた。
「良かった無事で……ララは?」
ネムリスの姿は確認したが、俺がよく知る人物では、まだリリスとララがいない。
「え、っと……私にもよく分かりません……レインバルトさんが出て行くと同時に、ヒュースさんが避難を開始し始めて、私に絶対逃げるよう言われたので」
ネムにも何が何だか分からない状況みたいだ。
「分かった、俺はこのまま修練の間に行く。皆はこのまま外に向かって避難してくれ。ゼータがナスカ達を転移させてると思うから外は大丈夫な筈だ」
俺は兵士達とは言わず、ナスカ達と言ってネムリスを少しでも安心させた。
ネムリスだけではなく、避難している皆も不安そうな顔をしている。俺は修練の間を目指しながら皆の不安そうな顔をただ見ることしか出来なかった。
でも改めて思う……転移の神器って相当ヤバイ。折角護っていても、いきなりそこに敵が現れてきたら正直ヤバイ。こっちが使う分には良いけど相手が使ってきたら作戦もくそもあったものではない。
某テレビ番組みたいに、
「きゃーーー!?〇〇太さんのエッチ!!」
では済まないと思う……小さい頃は笑って観てたけど、ハッキリ言って犯罪レベルだ、いやハッキリと言わなくても犯罪だ。
くそ、前の襲撃から何も活かせてない。また皆が傷つくかもしれない。レインバルトはSランクで頼りになるし、七極聖やアーシャも戦場にいるから、襲ってきた奴はそれほど強くないとは思うけど、それでも……またこうして易々と襲撃を許してる。
やっぱり俺が戦って、ガオウ達が護ってくれる方が良かったんじゃ……いや、まだ間に合う筈だ……それに、何事もなく終わる可能性だってある。
そんな事を考えながら先を進んでいると、地下道の終わりが見えてきた。避難している中にララとリリスの姿はなかった。
「着いた! おわっ!?」
広い修練の間に出ると同時に何かがぶつかってきた。
「がはっ!!」
「ヒュース!?」
宙に浮く俺にぶつかってきたのは傷だらけのヒュースだった。
「りゅ、竜斗……殿……」
「一体、何……!?」
俺の眼がどす黒い魔力を感じた。寒気というか、直感でヤバイと感じた。俺は勢いよく振り向き、そこに視線を送った。
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【ディアネイラ・スレイヤル】
種族
【人?】
クラス
【??】
ランク
【?S?S】
先天スキル
【属?<?光>】【王?<覚醒>】【?元】【操?】
後天スキル
【天?】
特殊スキル
【?眼】
神器
【天の裁き】<腕輪/光/??/??>
【天の扉】<扉/次元/??/S>
【ーー】
【ーー】
【ーー】
【ーー】
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「つっ!?」
右眼の神眼から痛みを感じた。俺は咄嗟に右眼を抑えた。
ヒュースを抱えながらゆっくりと地面に着地したが、右眼は未だに痛い。
「誰かしら高貴な妾を覗こうとした愚か者は? 魔眼如きで妾の深淵を覗こうとは浅ましい」
その女性は、俺が神眼でステータスを覗こうとした事に気づいた。
てか、何だこれ?
ステータスがまともに視れない。ノイズというか、フィルターがかかってる感じというか、靄がかかっているみたいだ。
【人間】……【女王】……【属性<聖光>】……【王気<覚醒>】……【復元】……【操作】……【天啓】……【邪眼】……なのか?
きちんと表示されるようでされない。眼が痛い……
でも、どれも違う気がする……眼が痛い……
「…………! 貴方が、天原竜斗ね……アーシャの言っていた」
「…………っ!…………ディアネイラ……スレイヤル……」
まさかと思ったけど、どうやら敵の王が攻めてきていたなんて。しかも相手からは俺が視えるみたいだ。体が感じてる、俺の方は無理矢理ステータスを覗かれてるって。
「「!?」」
まだその場に残っている魔族の皆は、俺が呟いた名を聞いて驚いていた。
「それにしても凄い人物ね貴方……レアスキルの宝庫……【王気<解放>】に……まぁ【神眼】まで持ってるなんて驚愕の一言ね」
何故かディアネイラは嬉しそうに喋っていた。
「でも1番驚いたのは貴方……ZEROの領域に到達しているのね…………! ああ、なるほど…………」
「?」
「何ヵ月か前にラファエルさんの存在が世界から消えたのは貴方のせいだったのね」
ディアネイラが何を言っているのかさっぱりだった。ラファエル?それって天使……?
「本当に信じられないわ……彼に取り込まれずに逆に彼を消すなんて……まぁ彼って戦闘狂だったし、トウマっていう最高の依り代すら喰った…………いや、もしかしたら記憶が? 有りうるわ……奴らの攻撃を1番喰らったのは彼だったし、転生の際に記憶が? それならトウマに乗り移らずに倒したのも頷けるわ……」
ディアネイラは急にぶつぶつと独り言を呟き始めた。
「竜斗様っ!!」
ふと、ディアネイラの近くでララが俺の名を叫んだ。
「ララっ!?」
俺は未だに右眼が痛み、その場から動けずにいた。
「ふふふふフフフフ、そうそう目的を忘れる所だったわ。妾の使命は魔族を根絶やしにすること……」
ディアネイラは我に返ったのか、不気味に笑いだし片手を高々と挙げた。
ディアネイラの手が不気味に光だした。