深紅と掃除
新年おめでとうございます。
謹賀新年
恭賀新年
賀正
新春
迎春
「ふぅ……」
息を1つ吐いてから俺は刀を納刀し、神器を解除した。
「お、終わりましたかね?」
ガーベラ・ドレインが疲れたように尋ねてきた。
「多分」
俺のこの言葉に、テトラだけではなく、周りにいた兵士達も皆、胸をなでおろした。その場にへたり込む奴や喜ぶ者もいた。
アルカ大森林にて、侵攻してきた神国騎士は全員洩れがなく倒せたと思う。
少しして俺とテトラ以外にもシューティングスター、アザゼル、イヨ、ナスカと、各隊長達もその場に集まってきた。
「終わりましたかね?」
シューティングスターが神器を発動させたまま尋ねてきた。
うん……それ、さっきも聞いた。
「す、すみません……」
いきなり謝られた。
どうやら声に出てたみたいだ。気をつけよう。
改めてみても隊長5人は強くなった。怪我らしい怪我も特にない。数日前に5人ともAランクへと至り、今では頼もしい仲間となった。部下達からの信頼も厚い。
まぁ正直に言ったら5人ともAランクだが、最初に出会った頃のレイナ達の方が確実に強かったと思う。
まだまだだな。
「「す、すみません……精進します……」」
5人に謝られた。
気をつけよう……
「で、これからどうします竜斗様?」
イヨが尋ねてきた。
「確か……ゼータが迎えに来てくれて、レイナ達と合流するんじゃなかったか? 神眼で七極聖を見ないといけないし」
確かそんな作戦だったと思う。
この後は迅速に態勢を整えて、神国の……聖都スレイヤに一気に侵攻する筈だ。そんで、女王を倒してネムに新・女王になって貰う予定だ。
その為にも七極聖が味方になってくれるのか神眼で見る予定になっている。う~ん遠目でよく分からなかったけど、多分大丈夫な気がする。
「それならいいのですが……」
ナスカが不安そうに呟いた。
マジで気をつけよう…………!?
俺は勢いよく振り向き、ここからでは当然見えるはずもないがアルカディア国が……城がある方角を見つめた。
「なんだ……なんか、嫌な感じがする……」
占術眼は持ってないし、神眼にそこまでの能力は無かったと思う。
気持ちが張り詰めているからか? 俺の気のせいであって欲しい。でも、堪らなく不安だ。
「お待たせしました竜斗様」
「はぁ~い、竜斗ちゃん、お待た……」
「ゼータ、城に転移だ!」
暫くしてゼータとルルが転移してきたが、行き先変更。俺はゼータに城に連れていってくれるよう頼んだ。
「え、えっと……ごめんなさいね……初めからその予定だったのだけど知ってたの?」
「そうなのか? 兎に角急いで城に転移してくれ! 何か嫌な感じがする!」
一気にその場の空気が張り詰めてきた。フザけた態度だったゼータも、最初から真面目だったルルの表情も険しくなってきた。
「ごめん、ルルも来てくれ!」
「何かあったのですか?」
「分かんない……俺の気のせいなら笑い話で済むんだけど……堪らなく不安なんだ……」
「……分かりました、行きましょうゼータ」
「了解よ、直ぐに城に転移するわ!」
俺は皆を森において、ゼータとルルと城に転移した。
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アルカディア城の地下【修練の間】には、沢山の魔族がぎゅうぎゅう詰めで、身を寄せ合うようにして過ごしていた。
少し前にヒュースの指示でレインバルトが城門へと向かったのを機に、魔族の民は修練の間の奥から順番に城の外へと抜け出し始めていた。
ドワーフ族のラスとカル兄弟による、覚醒した建築技術によって、外への抜け道が新たに増設されていた。
「急げ! 敵はすぐそこまで迫っているかもしれん!」
ヒュースの声は修練の間に響いた。
「ヒュース殿……」
アルカディア国の大臣である蛙人族のローゲが、ヒュースに近づいてきた。
「ローゲ様は皆を牽引して下さい」
「ゲロリ」
「子供、女性から優先的にお願いします」
「ゲロリ」
ローゲは言われて即座に行動に移した。一瞬の躊躇いも許されない状況だと判断したからだ。
そしてヒュースの判断は迅速かつ的確で既に半数ほどが修練の間を後にしていた。
「五人衆!」
「「はっ、ここに!」」
ヒュースの声に、機械国のBランク戦士、弓矢五人衆が駆けつけた。
「お前達は、等間隔に散り民を護れ」
「はっ! ヒュース様は?」
「私はもしもを考えて殿を務める……優先順位をつけるのは申し訳ないが、ネムリス殿は絶対護れ! この戦の要だ!」
「「御意!!」」
五人衆は即座に散っていった。
「ヒュース様……」
入れ替わるようにララがヒュースに歩み寄ってきた。
「ララ殿も、急いでお逃げ下さい……Sランクのレインバルト殿がいるので、万が一はないと思いますが……それでもレインバルト殿の隙をついてここに来ないとも限らないので」
「いえ私も最後まで残ります。ここは陛下や皆様、竜斗様が帰ってくる場所です。私は皆様を迎えるという役目があるので…」
「駄目です! 1ヶ月前の襲撃の際も、人質のせいでサラ殿が思うように力を出せなかったと聞きました……もし敵が来たなら、正直に言って足手まといです!」
ヒュースは強い口調で、ララに逃げるよう促した。
「っ……」
ララは力のない自分が歯がゆく、何も言えなくなった。
「…………ですからネムリス殿や他の方を頼みます。戦いは戦士に任せて下さい。ララ殿は全て終わった後に何事もなかったように笑顔で皆様を迎えてあげて下さい。それが戦士にとって最大の褒美です」
ヒュースはニコリと微笑んだ。
「ヒュース様……」
「行きましょう、ララさん」
「リリスさん……?」
ふとララの後ろにリリスが現れ、リリスはララの両肩にそっと手を置いた。
「大丈夫です、レインバルト殿が無事に戻ってくれば、この避難は徒労に終わります。後で私を笑ってください」
ヒュースは小さく笑みをこぼした。
「ヒュース様……」
ララは小さく呟くと、ヒュースの元に駆け寄りギュッと手を握りしめた。
「ら、ララ殿っ!?」
ヒュースは赤面し握られた手を離そうとしたが、ララは離そうとしなかった。
「笑いません! それに……どうかご無事で!」
ララは察知していた。上の階より聞きなれない声が聴こえた事を。
レインバルトはSランク。普通なら何も心配する必要はない。だがララもヒュースも神国を甘く見ていなかった。特にヒュースは考えられる最悪を常に想定していた。
「わ、分かりました……で、ですから……その……」
ヒュースは照れながら、ララから視線をそらしていた。
「? あっ!?」
ララは自分がしている事に気づき、頬を赤らめ握った手を離した。
「す、すみません……」
「い、いえ……大丈夫です…………速く逃げてください……抜けた先は森の中になっています。そこにゼータ殿と竜斗殿が来る予定になっています」
「分かりました……本当にお気をつけ…………!?」
突如、轟音と共に扉が壊され何かが吹き飛ばされてきた。
何かは、ヒュース、ララ、リリスの足元まで転がってきた。
「レインバルト殿っ!?」
「そ、そんな!?」
「う……く……ひゅ、ヒュース殿……も、申し訳ない……私では……あの方を…………」
レインバルトは傷だらけで生きているのが不思議な程だった。
「くっ! 一体誰がっ!?」
ヒュースは想定していた最悪の事態になったと確信した。
「急げ!! 敵はそこまで来ているぞ!!」
ヒュースは未だ修練の間に残っている民達に急ぐよう急かした。
慌てて逃げ惑う人々。大混乱の中、ララだけがその音を聴き取った。
カツ……カツ……カツ……
誰かがゆっくりと静かに階段を降りてくる音を。履いている靴の音だけでララは、その者に畏怖した。
「あああ……臭い臭い臭い臭い、スキル【嗅覚】がなくても分かるわ……悪臭を放つ穢らわしい魔族の存在を……」
汚い言葉とは裏腹に、魔族でも見惚れるほどの女性が、純白のドレスに身を包みゆっくりと階段から降りてきた。その女性はヒュースが想定していた最悪より遥かに最悪なものであった。
「き、貴様……一体何者だ!? 七極聖ではないな!」
ヒュースは、ララとリリスを庇いながら恐怖を隠すように尋ねた。
「こんなにも蛆が湧いていたなんて穢らわしい……いや、これも神が妾に与えた試練なのでしょう……清浄なる世界のために」
女性は不気味な笑みを浮かべ、ヒュース達魔族を見つめた。どす黒いオーラを撒き散らしながら。
その場からまだ避難が出来ていない魔族達は恐怖で足がすくんだ。
「逃げろぉぉぉおおおっ!!」
ヒュースは唇の端が切れるほど強く叫んだ。
その声で魔族達は再度駆け出し始めた。
「ふふふふフフフフふふふふ…………今からこの部屋を綺麗にきれいにキレイにして差し上げます。彩りもなく、汚ならしい臭い空間を美しい深紅の色にね…………勿論……お前達の血で、ね」
女性は魔族に向かって手を翳した。
どれも、若干意味は違いますが、日本語だけでこれだけもあります。まだあるかも……漢字や日本語って奥が深いですね。
ちなみに紅組おめでとうございます。ついでにDAX教・信者の皆様、今年もよろしくお願い申し上げます。
追伸 あけおめ、ことよろ(笑)