拳閃と終結
今年もあと僅か……
誰もが徐々に気づき始めた。
「あ……れ……?」
「何か……」
「おかしくないか……?」
アルカ大森林前にて拡がる極聖隊の騎士達から、そんな声があがり始めた。
七極聖達がいなくなった事に……勿論、どの騎士も誰かの戦いは観ていた筈で、敗けた後に消えた事は知っていたが、いつの間にか魔族の姿も無くなっていた。
ただ中心からは、時折戦闘らしき音が聞こえていた。
森の前にて命令通り森に進むか悩む騎士達、中心へと向かう騎士達。指揮系統の無くなった騎士達の多くは立ち往生していた。
「進もう!」
騎士の誰かが叫んだ。
その言葉は徐々に拡がっていた騎士達に届き、中心を囲む騎士達以外は森の前に集結し始めた。
「よし、行こう」
誰かが言った。
整列し始めた騎士達は森への進軍を開始しようとした。ただその人数は最初とは打って変わって少なくなっていた。
魔族と戦闘し倒れた者、七極聖と七大悪魔王の戦闘に巻き込まれて倒れた者、未だに中心を囲む騎士達……今回で言えば、圧倒的に二つ目の理由が大きかった。
七極聖の姿はどこにもない。それでも騎士達の多くの士気はまだそれほど低くはなかった。
それは、どの騎士達も歴然の猛者であることの証明でもあった。多くの戦場を潜り抜けてきた証。
だが、それだけではなかった。
今回の戦争に限って言えば、それは自分達が仕える御方が……あの神国女王が、血眼で探し殺したい程の魔族への侵攻であったからだ。
ドラグナー国と機械国への侵攻は、戦争を仕掛けるアーク帝国に阻まれ、何年も停滞していた。
しかし今回の戦争は違う。阻む者はいない。ならば女王の命により、ただ進むのみ。
だが、そんな騎士達の美しいまでの使命感は、僅か数歩の進軍で歩みを止めた。
「止まれ!!」
咆哮が響いた。
騎士達が進もうとしていた行く手に、6人の魔族が横一列で立ち塞がった。
「ここより先へは進ません!」
中心に立つ、巨大な斧を片手に仁王立ちしていた獅子族の男が叫んだ。
騎士達の誰もが先刻見たことのある魔族を見つけた。
「ガオウだ……」
「ガオウ……」
「漢……」
「竜騎士……」
「ドラグナーの……」
「戦乙女……」
「機械王……」
「(背丈が)で、でかいな……」
「ライガ様を倒した……」
「蟲人族か?」
「炎使い……」
「ヒレン様に勝った……」
「堕天族……」
「イケメン死ね」
「イケメン死ね」
「死神」
「死神」
「死神」
騎士達はざわついた。
「って、誰が死神ですか!」
着物を着た八咫族の女性は、思わず突っ込んだ。普段の彼女からは想像できない程の慌てようだった。
「流石サラ殿、1度の戦闘で騎士達を恐怖させるとは」
竜人族の女性は尊敬の眼差しでサラを見つめた。
「ルキ、君だって戦乙女とか言われてるよ……ぷぷ」
蟲人族の男性は、からかうようにルキを笑った。
「なっ、ばっ、バアル殿!」
ルキは顔を真っ赤にさせた。
「まぁルキは可愛いからな」
「!?」
ゼノは納得しているのか、ニヤリと笑った。
「…………よそでやってくれ」
アトラスは腕を組ながら、若干呆れながら呟いた。
「可愛い……可愛い……可愛い……」
ルキはうわ言のように小さく呟いた。
「……………………お主ら」
ガオウは仲間達のしょうもないやり取りを、顔に手を当て唯一人嘆いた。
するとガオウ達の少し前に、ゼータとルルが転移にて現れた。
「お待たせしました」
「お待た~」
ルルは皆にお辞儀し、ゼータは手を降りながら体をクネクネさせていた。
「…………皆さんの治癒終わりました」
ルルは言いながら、ふざけた態度のゼータをじっと睨んだ。
「んもう、ルルちゃん怖いわよ。折角の可愛い顔が台無……何でもないです」
ゼータはルルが更に鋭く睨んできたので、言いかけて止めた。
「あ、あれは……!?」
「まさか!?」
「て、帝国の!?」
「六花仙!?」
「薔薇!?」
「薔薇の!?」
「「薔薇のゼータ!!」」
騎士達の驚きは、マックスだった。
「この戦争は帝国が関与しているのか!?」
「な、なら……こいつらは帝国の奴隷!?」
「バカな!?」
「だ、だが鎖も首輪の神器もつけてないぞ!!」
「ノンノン……私は帝国の六花仙じゃなくて、アルカディアの人間よ」
ゼータは、人差し指を振り騎士達の言葉を否定した。
同時にゼータは1つの神器を発動させた。すると、そこに鎖で繋がれた七極聖の内の5人が姿を現した。
「ガイノス様!?」
「ヒレン様!?」
「ライガ様!?」
「クリスティーナ様!?」
「プリンガ様!?」
「あ、あれ? ハクア様は?」
騎士達はその時全てを悟った。
ー敗けたんだとー
その場にへたり込む騎士達は少なくなかった。
「ゼノ……光王は?」
ルキは一緒に戦っていたゼノに尋ねた。
「……やっぱ、いないみたいだな」
ゼノは七極聖の中に自分が倒した筈のハクアの姿が無いことに不安を募らせた。
「サラさん、光王の気配は?」
「…………多分、この辺りにはいませんね」
ゼノの問いにサラは首を横に振った。
「そうか……何か嫌な予感がするな」
ゼノは最後にそう呟いた。
騎士達は項垂れ、七極聖は鎖に繋がれ、ガオウ達は黙ったままの……静寂の中、突如大声を出す若き騎士がいた。
「ま、まだです! ま、まだ終わってません!」
若い騎士は体を震わせながら、剣の神器を強く握りしめ立ち上がった。
誰もが彼を注視した。
「な、七極聖の皆さんは生きてますし……じょ、女王陛下の命は……ぜ、絶対です! ま、まだ……あ、諦めるには早いです!!」
無謀だが勇敢な騎士は声も震わせながら、強く叫んだ。
「ほぅ、まだ気持ちが折れておらぬ奴もおるか…………光王隊のとこの騎士か」
「彼、伸びる…………ハクアは?」
「だが、無謀だな…………俺は知らん」
「ちっ、こんな時まで冷静ぶりやがって根暗イガ…………殺されたか?」
「ですがライガさんの言う通り、彼女らに勝つのは難しいかと…………いえ、彼らの口ぶりですと行方が分からないみたいですね」
ルルによりある程度治癒された七極聖は、軽口が言えるくらいには回復していた。
「う、うぉぉぉぉおおおお!!!!」
若い騎士は剣を振りかぶりながら、七極聖を救おうと真っ直ぐに、ゼータとルルの方に目掛けて駆け出した。
ー拳閃ー
騎士の勇気は呆気なく吹き飛ばされた。
いや、若い騎士だけではなかった。自分達の後方より森に向かって巨大な1つの道が出来ていた。
拳閃により多くの騎士は吹き飛ばされ、折角整列していた騎士達は拳閃により2つに割れたのだ。
「む!」
ガイノスは勢いよく立ちあがり、少しだけ横に駆けた。ガイノスは拳閃がくる方から何かが吹き飛ばされてくるのを察知した。
「ぬぐおっ!!」
何かは、思いきりガイノスにぶつかった。ガイノスの体に凄まじい衝撃が走った。ガイノスは鎖に繋がれた体だけで、何かを必死に受け止めた。
「ぬうぅ……!」
ガイノスは後退したが、気づくと自分の背を支えてくれたガオウの姿を見た。
「すまんなガオウ」
「なに、構いません」
いつの間にか師弟にも似た関係が二人の間で出来ていた。
「そ、そんな……!?」
「おいおい嘘だろ!?」
「あ、あり得ん!!」
「プリンガ……信じない……」
「ふぅむ……俄には信じ難いのお……」
受け止めたガイノスも、その場に座っていた七極聖……いや、全騎士が、自分が見ているものを信じられなかった。
先程吹き飛ばされてきた何かは、ガイノスの体で受け止められ、そのまま気絶していた。
「「「アーシャ様っ!!??」」」
全員が叫んだ。
「がはっ! かひゅ……かはっ……はっ……は……はぁ……はぁ……」
その声により、吹き飛ばされてきたアーシャは辛うじて意識を取り戻した。
そして拳閃により出来た道を、多くの騎士達が見守る中、1人の女性が闊歩してアーシャ達に近づいてきた。
女性は銀色に輝く神器を腕と脚に纒っており、堂々と歩く姿は凛としていた。
誰もがその姿に見惚れた。
女性はアーシャに近づきながら、仲間の無事、七極聖の様子を見て、大体の状況を把握した。
「……どうやら、この戦は私達アルカディアの勝ちのようですね」
女性はアーシャに近づくと歩みを止め、本当に小さく微笑んだ。
「………………ど、どうやら……その……ようですね…………レイナ…………」
アーシャは息も絶え絶えに呟いた。
「「アーシャ様!?」」
七極聖全員がアーシャの元に駆けた。
「す、すみません…………皆さん…………ま、敗けてしまいました…………」
何故かアーシャは少しだけ晴れやかな顔で呟いた。
「ルル。申し訳ありませんが、アーシャの治癒をお願いします」
「畏まりました姫様」
ルルはレイナに一礼し治癒に取り掛かり始めた。そして最早、陛下と言う気は更々なくなっていた。
「勝ちましたか陛下」
「流石だな姫さん」
「凄い拳閃であったな」
「そうだね、今ならあの変態にも勝てるかもね」
「私もまだまだだな」
「そうですね、精進しなくては」
七大悪魔王の6人は笑顔でゆっくりとレイナに歩み寄った。
「皆さんも無事で何よりです」
レイナは皆に満面の笑みで答えた。
一つ目の、ジェガンがマナさんを斬る話(本当はソラちゃんが)から……ようやく二つ目の書きたかった話が書けました。
ここまでくるまで長かったです。
さて、いよいよ神国・聖都編……三つ目の書きたい話に向けて頑張ります。タグ通り残酷描写になるかな……?
追伸 来月の夜勤は7回……7話以上更新出来ればよいのですが(笑)ちなみに12時に次話予約投稿しました。




