魔神王と超越者②
「…………?」
アーシャは少しだけレイナから視線を逸らした。
「どうかされましたか?」
レイナはアーシャと対峙したまま尋ねた。
「……どうやら異物が紛れ込んだ様ですね」
「?」
レイナは小さく首を傾げた。
「なに、この侵攻を待ち伏せていたのは貴女方以外にもいるということです……」
アーシャは小さく微笑んだ。そして徐ろにゆっくりと深呼吸し始めた。
「……スーーーーハーーーー」
「……全く……世界とは何なのでしょうね……」
「…………」
アーシャは深呼吸し終えると、空を見上げながら溜息混じりで呟いた。
「レイナ・サタン・アルカディア」
「はい?」
「貴女はSSランクですね?」
「はい」
「やはり……SSランクの私と互角なのです、気づかない私が愚かでした……」
「……お互いに邪眼を使っていましたから仕方ないのでは?」
「それにしても…………いえ……儘ならないものですね」
アーシャは何かを言いかけて、それを口には出さなかった。代わりに自分の思い通りにならない事に対する不満を、少しだけ悟ったかのように呟いた。
そして、真っ直ぐに澄んだ瞳でレイナだけを見つめた。
アーシャは同時に2つの神器を発動させた。
Sランクの錫杖の神器【聖神杖】と、SSランクの剣の神器【聖神剣】を。
聖神杖を左手で持ち、先端にある輪形近くの柄を握り水平にした。右手には聖神剣を携え、逆手で持ち体で隠すように構えた。
「レイナ・サタン・アルカディア、貴女に敬意を表して……」
刹那、一陣の風が吹き、アーシャの顔を隠していたフードが揺れ、その顔を露にした。
「ギルド【魔族狩り】、ギルドマスター……アーシャ・スレイヤル! 私の全壊を見せてあげます!!」
「「!!!!????」」
レイナとアーシャの様子を、遠くから取り囲むようにして観ていた騎士達から、声にならない叫びが聞こえた。
「なああっっ!?」
「あがががが……」
「お、俺は……」
「夢じゃねーよ!」
「あ、あ、あ……」
「信じられん!」
「何故あの人が!?」
「嘘だろ嘘だろ!?」
「えっ……なら……ギルマスって……」
「こ、光王様……?」
「王女様……?」
透き通る程綺麗な銀髪、根元は地毛である黒茶色の髪が少しだけ覗いていた。そして姉王と同じぐらいの、服に隠れていた長い髪が風に靡いていた。
「「アーシャ様っ!!!!」」
歓声にも似た割れんばかりの声が、多くの騎士達から挙がった。
しかしアーシャに騎士達の声は届いていなかった。いや、聞こえてはいたが最早その眼差しはレイナだけに向けられ、騎士達など眼中になかった。
「……好敵手と認めてくれたのでしょうか?」
レイナはアーシャに尋ねた。
「ええ、寧ろ貴女しかいません」
アーシャは小さく微笑んだ。
「……分かりました」
レイナは少しだけ嬉しそうに噛み締めながら、ゆっくと目を閉じた。
レイナもSSランクの神器、【崩龍】を発動した。
銀色に光る籠手と具足をその身に纏い、半身になり脚を拡げ、少しだけ腰を落として構えた。
「今の私に出来る、最攻の崩龍を貴女にぶつけます!!」
多くの騎士達が固唾を飲んで見守っていた。ただ、その手には誰もが己の神器を握りしめていた。今から起こるであろう惨劇から少しでも自分の身を守るために。
「絶死・崩龍拳!!」
全力の戦闘開始は、レイナの光速にも似た拳打から始まった。
「がっ!?」
アーシャは訳もわからないまま後方へと一直線に吹き飛ばされた。
それは多くの騎士達を巻き込むほどであった。ただ騎士達と違いアーシャは受け身を取り即座に立ち上がった。
「つっ……一体、何を……!?」
アーシャは頭を振って、少しでも受けた衝撃を緩和しようとした。
「流石です、咄嗟に後方に跳んで躱すとは」
レイナは既にアーシャの眼前に迫っていた。
「絶海・崩麗脚!!」
「くっ、聖神杖!!」
アーシャは、レイナの後ろ廻し蹴りを錫杖にて受け止めた。
「分かっています! その神器は【衝撃】なのでしょう!」
レイナは空かさず180度回転の飛び後ろ回し蹴りを繰り出すが、これもアーシャは錫杖にて受け止めた。
それでもレイナはお構いなしに技を繰り出した。
360度回転の飛び後ろ回し蹴り。
「しつこい! 【守護】の聖神杖に【衝撃】は……!」
540度回転の飛び後ろ回し蹴り。
「なっ!?」
レイナの連続蹴りに、ついにアーシャは聖神杖を手離してしまった。
「絶爪・崩狼牙!!」
レイナは両の手爪で、挟むようにアーシャの両の脇腹を抉った。当然、神器の能力にてアーシャの体に2つの衝撃が走った。
「がっ……は……!!」
アーシャは膝から崩れ落ちようとした。
「崩龍双拳!!」
レイナは間髪入れずに、両拳をアーシャ目掛けて突き出した。
「な、舐めるなっ!! 聖神剣!!」
アーシャの逆手による一閃がレイナの拳より速くレイナを捉えた。
「くっ!!」
レイナは咄嗟に拳を止め躱そうとするが、閃光の如き一閃はレイナの左腕を掠めた。
「聖神棍!!」
アーシャは神器を発動させ、空いていた左手で棍を突き出した。
アーシャはここにきてやっと本来の戦い方をし始めた。剣、槍、棍、杖……七極聖時代なら盾と、代わる代わる神器を交換する変則的な戦い方で相手を翻弄するのが、アーシャ本来の戦い方であった。
だが、
「崩流掌」
レイナは握り拳や爪を立てるのを止め、アーシャの棍を横から掌底打ちにて弾いた。
「ちっ! これならっ!!」
アーシャは神器をどんどんと変えて怒濤の攻撃を繰り出した。
剣……棍……槍……杖……と。
だがレイナはそれらを全て掌底にて受け流し、弾いていった。
「ば、ばかな……!? こんな短時間でもう防御の型を!?」
アーシャから焦燥の色が見て取れた。
「感謝します! 貴女のお陰で私はまた少し強くなれました!」
レイナは少しだけ微笑むと、更に連続技を繰り出した。
「絶龍崩拳!!」
正拳突き……廻し蹴り……掌底打ち……爪技……アッパー……踵落とし……握撃……裏拳……など、多種多様な技を。その全ての攻撃が衝撃となってアーシャを襲った。
アーシャだけではなかった。一つ一つの技から発せられる衝撃波は周りにいた騎士達にまで及んだ。
「真・崩龍拳!!」
連続技の最後の正拳突きがアーシャを吹き飛ばした後、もはやその場に立っていたのはレイナ唯一人であった。
「が、はっ……ま、まだ……まだです……」
アーシャはふらふらと立ち上がった。その手には剣の神器だけが握られていた。
だが眼光だけは鋭く、レイナを僅かながら射すくめさせた。
「まだ立ち上がるんですか……」
その執念にも似た眼差しにレイナの額から汗がつたった。
「これで……最後です……貴女は……本当に……強かった……ですから……私の……ただ1つの……技で……殺して差し上げます……」
アーシャは、竜斗の脇構えと似た構えをとった。そして聖神剣は、その能力で巨大な刃と化した。
「スーーーーーーハーーーーーー」
レイナは深呼吸した。
「今こそ私は……全ての技を1つにして……貴女を超えてみせます!」
レイナは腰を落とした。左手は掌底の形を作りアーシャに突き出すようにし、右手は握り拳を作り腰の位置に置いた。
僅かに静寂が流れた。
そして遠くの方から風に乗って、微かに他の騎士達や魔族が戦う声が聞こえた……刹那だった。
「天ツ光ノ御劔!!」
アーシャは巨大な光の剣を、閃光の如く横薙ぎに振り抜いた。
レイナはギリギリまで微動だにしなかった。
魔力も集中力もかつてない程、研ぎ澄ませていった。
(今こそ全てを1つに……狼牙も、麗脚も、龍拳も、流掌も……私の全てをこの一撃に……)
レイナの全てがただ1つの拳に集約された。
「これが私の全てです!!」
アーシャの光剣がレイナに当たる僅か数センチ……拳閃が全てを貫いた。
魔神拳
クリスマス投稿間に合わず……残念です。
今回の話は今までにないくらい、何回も書き直しました。書いては消して、書いては消して……かなり頑張ったつもりです。
そしてついにレイナの技が崩龍➡魔神へと至りました。これはかなり初期から考えてました。
一応、神国・大戦?編はクライマックスです。戦闘だけだからかなり短めでしたね。
そして無駄に多い騎士達……ハッキリ言って要りませんでしたね。
戦争描写って難しいです。脳が大人数を動かすの拒否しました(笑)
追伸
読み返してて気付きました。
1番最初からなんですが……ララとルルの服装を表記してませんでした!アホでした!(最近になって書きましたけど……)
という訳で、ウサミミちゃんのララとルルは基本、巫女服で!!たまにメイド服!!これでいきます!!ヨロシク!!




