堕竜と風光③
間が空いてしまいました。申し訳ないです。
「魔族がぁ!」
光王ハクアは一太刀目と違って、闇雲に剣を振るっていた。
「おっと」
対するゼノは言葉とは裏腹に、苦もなく軽々とその太刀を躱し続けた。
ゼノの双剣はAランクの神器で確かに周りと比べると攻撃力に難があるが、それでもゼノ自身はSランク。未だAランクのハクアの攻撃は然して気にする程ではなかった。
「くそっ、魔族がぁ!!」
ハクアは更に力強く剣を振るった。その顔は焦りと怒りから、どんどん険しいものへとなっていった。
「…………やれやれ」
ゼノは溜息混じりに双剣を軽く振るい、ハクアの剣の軌道を反らした。最早、その場から動くこともなく軽くあしらい始めた。
そんな2人の様子を見る騎士達は落胆の色を見せ、反対に魔族達の士気はどんどんと上がっていった。
「もうやめないか? これ以上は無駄だ、結果は……変わらない」
「黙れ! 魔族の分際で!」
最初の勢いと打って変わって、ハクアは既に肩で息をし始めていた。
「光の太刀・二文字!」
ハクアの剣はその能力【分裂】により2つとなり、両の手に握られた。そして、交錯させるように両剣を横薙ぎに振るった。
「無駄だっての……双天剣技・沙羅双樹」
ゼノは掬い上げるように双剣を振るって、ハクアの剣を弾いた。
弾かれた剣は元の1本の剣に戻り地面へと突き刺さった。ハクアはその場で膝を折った。最早、誰もが決着が着いたと感じていた。
「勝負は着いたな」
「…………そ、そんな……」
ゼノの言葉にハクアは項垂れた。
「ルキと風王も恐らく、さっきので決着が着いた筈だ」
ゼノは地面に出来たルキの技の跡を見ながら、双剣の神器を解除した。
「あんたは強かったよ。今の俺だから分かるが、あんたはSランクに近い……戦ってみて他のAランクとはレベルが違うのがよく分かる」
「っ、同情などいらない! 敗ければ何の意味もない……殺せ」
ハクアは必死に悔し涙を堪えていた。
「悪いがそれは出来ないな」
「何だと……?」
「あんたら七極聖は、竜斗の前に連れていく。【変われる】のか竜斗のスキルで確認しないといけないんでね」
ゼノは敢えて【神眼】とは言わなかった。もし万が一を考えて情報漏洩を防いだ。
だが……ハクアはある言葉を聞いて体を振るわせた。
「リュウトの前に……連れていく……だと…………ふざけるな!!」
兜で顔は見えなかったが、ハクアの顔は怒りで満ちていた。
「……おいおい、急にどうした?」
ゼノは少し焦ったように尋ねた。
「だったら……だったら、何故殺した! 私の事は生かそうとして、何故あの人達を殺した!! 答えろ、魔族!!」
ハクアは叫んだ。
「一体何のことだ?」
「惚けるな魔族! 私はあの人(アーシャ様)からちゃんと聞いたんだ! お前達が私の大切な人達を殺したと!」
「だから、誰の事を言ってんだ?」
「忘れたとは言わせないぞ…………私は……お兄様を……お前達、アルカディアの魔族に殺されたんだ!!」
ハクアはゼノを鋭く睨み付けた。
「お兄様…………あんた、まさかっ!?」
「やっと思い出したか……私の名前はハクア・ホーク…………オークス・ホークは私の兄だ!!」
「そう、か……」
ゼノは一月前のアルカディアを襲撃した、ギルド【魔族狩り】の首謀者オークス・ホークの妹だと理解した。
「ああ、そうだ……オークスお兄様は私のたった一人の家族だった……それに、ジェガンさんとバアルさんまでっ! 」
「それで?」
「なっ!?」
ゼノは淡々と答えた。
「悪いけど、これは戦争だ。あいつらを殺したのは、あいつらが攻めてきたからだ。で、あんたを殺さないのは、それがアルカディアの策だからだ」
「そんな貴様らの都合でっ!!」
「お前こそ何言ってんだ?お前ら人間こそ、そうやって今まで自分等の都合で魔族を殺してきたんだろ?それこそ確かじゃない神話なんかを信じて」
ゼノは、地面に膝をつけたままのハクアを見下ろしていた。それは今まで見たことがない程の冷徹な眼で。
「黙れ、魔族がぁ……!」
ハクアは勢いよく立ちあがり、地面に突き刺さった剣目掛けて駆け出した。剣を手にすると再びゼノに斬りかかった。
「光の太刀・十文字!!」
再度、剣の能力【分裂】で剣を増やすと、今度は縦と横に斬りつけた。
「……一天剣技・十字砲火」
ゼノはSランクの剣の神器を発動させ、双剣さながらの速度で十字に斬った。
「くそっ、くそっ、くそっ、くそっ!」
ハクアは即座にその剣が驚異であると感じとり、互いの剣がぶつかる前に能力にて更に剣を増やした。
ハクアの懸念は当たっていた。案の定、剣がぶつかるとハクアの剣は脆くも砕けていった。
「くそっ、くそっ、光の太刀・大文字!!」
増やしては砕け、増やしては砕けていった。それでもハクアは攻撃の手を緩めなかった。
だが奇しくもそれが功を奏したのか、ゼノの腕はみるみると真っ赤に染まり熱を帯びていった。
「つぅ……」
ゼノはハクアの剣技を軽く足来つつも、表情は段々と歪んでいった。
「……どうやらマイナススキルを持っているようだな。わざわざ腕を焼くように(神器を)創造はしてない筈だ」
ハクアは少しだけ冷静さを取り戻したが、依然として攻撃の手は緩めなかった。
「ちっ、めんどくせぇなぁ……竜斗の言った通りそろそろSランクの双剣が欲しいところだな」
ゼノはハクアの攻撃を強く弾くと、後方へと飛翔しハクアと距離をとった。
「逃がすかっ!!」
ハクアは好機とみて、空かさず距離を詰めようとした。
だがゼノは既に剣を構えていた。剣先を相手に向け、剣を右顔前に構える独特的な構えだった。今から突出すと言わんばかりであったが、対するハクアはお構いなしに突っ込んできていた。
「腕が持ちそうにないんで本気で行くぜ」
ゼノは羽を羽ばたかせ、ハクア目掛けて低空で飛翔した。
「双天秘剣……」
ゼノは剣の能力【伸縮】を発動させた。剣を突き出すと同時に、刀身はハクア目掛けて一気に伸びていった。
「!? くっ!!」
ハクアはその場で足を止め、辛くもこれを躱したが、
「しまっ!?」
「遅い! 天・」
ゼノは既にハクアとの間合いを詰め、眼前に立っていた。その手には双剣の神器が握られていた。そして双剣を袈裟斬りで振るった。
「がっ」
ハクアの体は、斜めに十字の傷がついた。しかしゼノの攻撃はそこで終わらなかった。
「火・」
ゼノは瞬時に双剣を解除し、再び【業炎魔】を発動させ何度も斬りつけた。
「無・」
ゼノは双剣と剣の神器を、代わる代わる交換しながら何度もハクアを斬った。
「双!!」
剣閃が舞った。炎と光と闇の乱舞。
最後にハクアの腕は斬り裂かれ、ハクア自身もその場に倒れた。
「やれやれ、竜斗を見習って瞬時に神器の解除と発動を繰り返してみたけど……やっぱ【双天秘剣・天火無双】、キツいな……」
ゼノは腰に手を当て、天を仰いで大きく息を吐いた。
「……がはっ、ぐ、ぐぞっ……ま、魔族……が…………ご、ごろじでやる……」
ハクアは辛うじて意識はあったが、出血多量で今にも……な状態だった。既に纏っていた鎧もボロボロで、兜も砕けていた。綺麗な銀色の髪は乱れて、顔も土と血で汚れていた。
「……悪いな。あんたの言った通りマイナススキルがあるんで、本気で行かせてもらった」
ゼノの腕は未だ赤みを帯びていた。
「ごろじてやる……ごろじてやる……ごろじてやる……」
「悔しいだろうが、あんたは竜斗の前に…!?」
ゼノが言い終わる前にハクアの姿はその場から消えた。
「今のは……ゼータか?」
ゼノは違和感を感じた。確かにハクアは倒れ予定通りゼータの神器で転移させるつもりだったのだが、妙な違和感を感じた。
「ぐわぁぁああ!!」
風王と光王が倒れても戦闘は止まらなかった。混戦の中、魔族の悲鳴が上がった。
「ちっ、考える暇もないか!」
ゼノは双剣の神器を発動させて、仲間の救援に向かった。
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周りに誰もいない静かな場所にて一人の人物が立っていた。漆黒のローブに身を包み、その腕には傷つき気を失っているハクアが抱き抱えられていた。
「ふふっ、悔しいでしょう。ですが嘆くことはありませんよ。貴女はこれからもっともっと強くなる。それもランクの壁を超える、ZEROの領域に……ね」
ローブの人物は不敵に笑っていた。
「……しかし、あいつらが集結していたとは思いませんでした……【サタン】に【ルシファー】……いや、全員か…………【ベルフェゴール】は始末したつもりだったが、兄の方に引き継がれていたとは……」
目視してもそこには誰もいないのだが、ローブの人物は戦場があるであろう後ろを少しだけ振り返って見つめた。
「……まぁいいです。貴重な人材は確保したし、今はこちらも動けません。寧ろ1ヵ所に集まってくれた方が好都合です……………だがっ!いずれはっ!全員必ずこの手で葬ってやるっ!!」
ローブの人物は少しだけ声を荒げた。その声に憎悪にも似た怒りの感情を込めて。
「神の名の下に」
そう言い残してローブの人物はハクアと一緒に姿を消した。
ふむ、作者のテンションアゲアゲの話です。ゼータが帝国追放になった話以来かな?
まぁこの2人は当分出番なしです(多分)。