暗殺者?と信じる心
アルカ大森林
「はぁ、はぁ、はぁ…………もう嫌だ……」
騎士の一人は息を切らしながら体を震わせていた。
「…………」
俺は息を潜めて茂みからじっと騎士の一人を見つめる。
「…………ゴクリ」
騎士の息づかいがよく分かる。唾を飲み込み必死に前へと進もうとしている。
「…………!?」
騎士はバッと後ろを振り返った。
「遅いよ、水無月」
俺は騎士の苦手とする属性を刀に纏わせて静かに突き刺した。
「ふぅ…………」
俺は横たわる騎士を横目に刀を鞘に納刀した。
「お疲れ様、竜斗ちゃん」
不意に声を掛けられた。
「お疲れゼータ、そっちは?」
「粗方転移させたわ」
「了解……」
「? どうしたの、何か気になることでも?」
「う~ん、俺って何に見える?」
「何その質問?……まぁ色々有るわよ。【異世界転移者】【ランクZERO】【ルルちゃん曰く変態】【婚約者が魔族】【化け物】【人間】【鬼畜】【可愛い男の子】【剣士】とか?」
「……何か間に変なの混じってるぞ」
「そお?」
「でも一応はやっぱ剣士だよな?」
「そうね、刀の神器使ってるし。先天スキルに【剣聖】があるし、そうでしょ」
「でも、今の俺はどう見ても暗殺者じゃね?」
「…………無音スキルもないのに大したものよね」
「そんなスキルあんの?」
「ええ、あるわよ」
「ふ~ん…………でもやっぱ正面から戦いたいな。こそこそと戦うのは何かちょっと……」
「ヒュースの作戦なんだし仕方無いわね…………それにこれは戦争よ」
「そうですよ竜斗様」
「ルル?」
気づくと森の茂みから見知った女の子が現れてきた。
「ナスカとイヨを含む兵達が森に散っているとはいえ、現にこうして何人もの神国兵が森に入ってきてますし、アルカディア国までかなりの距離があるとはいえ油断できませんよ」
「そうよ竜斗ちゃん」
「てか俺が最初から全員まとめて斬ったら問題なくない?」
「まぁ私もそうは思いますが……」
「仕方無いじゃない、レイナちゃん達が(七極聖と)戦いたいって言ったんだし」
「…………」
「まぁ変わりに聖都へは竜斗ちゃんが攻めるんだから、魔力はきちんと残しときなさいよ」
そう。作戦の段階でも俺が神国兵……七極聖を含む極聖隊全員を相手にしようかと言ったんだけど却下された。俺に頼りすぎるのは駄目だとか何とか言われた。
まぁ神国との戦は俺がこの世界に召喚?された理由でもある訳だけど……やはりレイナ、ガオウ、ゼノはこの侵攻に対してだけは自分達で決着をつけたいみたいだ。
で、俺はそれを渋々承諾した訳だ。でもやっぱ皆が傷つくのは見たくないのが正直な意見だ……
「…………ああ、くそっ!」
「きゅ、急にどうしたの竜斗ちゃん!?」
俺が不意に叫ぶとゼータとルルは吃驚していた。
「駄目だな俺って……俺一人で何とかしようとしてる……」
「それは……」
「ああ、分かってるよルル……結局、皆の力を信じきれてないんだ」
「まぁ竜斗ちゃんはランクZEROだし、皆より強いのは間違いない訳ですものね」
でもそれじゃあ駄目な気がする……よく分かんないけど俺はそう感じた。
するとルルが俺の手にそっと自分の手を添えてきた。
「ルル……?」
「信じましょう竜斗様」
ルルは優しい笑顔で微笑んでくれた。
その一言だけで俺の目頭が熱くなった。そして分かっているのに、女の子にそれを言わせた自分が情けなくなった。俺は恥ずかしさを隠すように目をゴシゴシと擦った。
「ごめんルル、もう大丈夫」
俺はそっとルルの手から離れた。
「……うん、皆を信じるよ。俺は……俺が出来ることをする」
俺の決意に、ゼータとルルは互いの顔を見合わせた後、小さく微笑んだ。
「そうですよ竜斗様、皆さん竜斗様が選んだ人達です!きっと負けません!」
「そうよ、それに……」
「それに?」
「レイナちゃんが負けるとは思えないわ」
「でも相手はアーシャだろ?SSランクに近い……」
「そうね……多分だけど既にレイナちゃんと同じSSランクになってると思うわ」
「なら、どうなるか分かんないんじゃ……」
「それでもよ」
「?」
「まぁ理由は……この戦争が終わったら説明してあげる」
「なんだそれ?」
「私も確信は持てないんだけど……多分竜斗ちゃんが皆を選んだ理由と同じよ」
俺が皆を選んだ理由……?それってーー
「す、すみませんっ!!」
突如、兵士の一人が慌ただしく駆けてきた。
「どうした!?」
「森の中で騎士達と交戦中なのですが……イヨ様、ナスカ様共に苦戦しておられて……救援をっ」
「了解よ!行くわよ竜斗ちゃん!」
「お、おう!」
考える間もなくゼータの転移を使って俺は次の戦場に向かった。