開戦と散開
いつの間にやらブクマが250越えました。
感謝感激雨霰。
過去最長話……かな?
「ちっ!」
舌打ちをしながらヒレンは被害のあった場所……アルカ大森林の方に向かって駆け出した。
「…………」
それを見たライガもヒレンの後に続いた。
「貴方達!?」
二人を制止させようとクリスティーナが叫ぶが、既に遅く2人は他の七極聖達の視界から姿を消していた。
「……全く……隊長2人が事態を把握しない内に動くなんて……」
クリスティーナは2人の軽率な行動に嘆いた。
「アホ、バカ、クズ……2人共脳筋……」
プリンガはため息混じりに呟いた。
「仕方ありませんね。お二人共、勇猛果敢で猪突猛進ですから。ヒレンさんは兎も角、ライガさんは久しぶりの戦場……高揚しているのでしょう」
アーシャは小さく笑った。
「ガーハッハッハッ!あやつらもまだまだじゃの~逸る気持ちを抑えれぬとは」
ガイノスは顎髭をさすりながら盛大に笑っていた。
「し、しかし……よ、宜しかったのでしょうか?」
ハクアは兵達には悟られないようにしていたが実際にはかなり動揺していた。
「……まぁ恐らく敵襲でしょう。どこからか情報が漏れていたのでしょうね」
クリスティーナは淡々と状況を整理していた。
「……帝国?……にしては変…………なら魔族?……でもどうやって?……」
プリンガも冷静に相手が誰なのかを分析していた。
「ふむ……どちらにせよ、儂らの進軍に気付いての待ち伏せなら、罠があると見て間違いないのう」
ガイノスは森の方を見ながら冷静に呟くが、内心はまだ見ぬ敵に心踊らせていた。
瞬間だった。
混乱する騎士、ヒレンやライガに続く騎士、状況を確認しようとする騎士、判断を仰ごうとする騎士、話し合う七極聖……そんな混雑した状況の中、ふとその場に残った七極聖の前に1人の女性が立っていた。
その女性はその場には余りにも似つかわしくない格好をしていた。竜斗のいた世界で言うところの、上はノースリーブ・下はミニスカート・腰には女性水着にあるパレオみたいなものが巻かれ・腕には肌にピタリと張り付くようなロング手袋・脚にはニーソックスが履かれていた。
なんとも珍妙な格好だった。
だがその女性に気付いた幾人かの騎士達は眼を奪われた。珍妙な格好とは裏腹に女性はただただ美しかった。それは心の中で思うだけでも不敬だと解りつつも、そう思わずにはいられなかった。
「初めまして神国・七極聖の皆さん。私の名はレイナ・サタン・アルカディア。貴殿方が攻めようとしている魔族が住まう国・アルカディアの王にして、七大悪魔王の一角。よければ以後お見知りおきを」
レイナは一礼すると、真っ直ぐに七極聖を見つめた。
「…………ガーハッハッハッ!こいつは面白い!まさか大将が単身、敵陣ど真ん中に現れるとは!こいつは一本取られたわい!」
少しの間の後ガイノスは大笑いした。
「が、そいつはちと……愚策よのう!」
ガイノスは即座にレイナ目掛けて駆け出した。
ガイノスはレイナを掴まえる様に勢いよく豪快に腕を突き出した。しかし、それは別の人物によって阻まれた。
「む!?」
ガイノスは自身の腕を正面から掴む別の者の腕を見つめた。
「誰じゃい?」
ガイノスは怪訝そうに尋ねた。
「アルカディア国・七大悪魔王が一角……ガオウ・レヴィアタン。我らが王には指一本触れさせぬ」
ガイノスの腕を掴んだのは黒い鎧を身に纏う金色の体毛を風に靡かせる獅子族の男であった。
「ほう……魔族にしておくのが勿体無い色男よのう」
ガイノスはニヤリと小さく笑った。
「一体いつの間に……」
二人の魔族を見てクリスティーナは周囲を見回した。
「敵……魔族…………好都合……」
プリンガは森に入るのが嫌だったのか、つい本音が出た。
周りにいた騎士や七極聖が2人に警戒する中、アーシャだけが黙り混んでいた。
「ギルマス殿?」
少し様子がおかしいと感じたハクアがアーシャに尋ねた。
「…………何やら見知った魔力を感じます……これは……もしかして……」
アーシャはブツブツと呟いた。
その瞬間、アーシャとレイナを残し、七極聖とガオウの姿がその場より姿を消した。
「「!?」」
「これは!?…………なるほど……ゼータの仕業ですね」
アーシャは瞬時に何が起きたか理解した。
「……流石ですね、一瞬で見抜くとは……」
「まぁ彼とは何度も戦った事のある仲なので。それにしても……七極聖に気付かれずに転移を行うとは……流石、転移のスペシャリスト」
「ええ、私も驚いてます」
「ふふっ、こちらの方が驚いてます。まさかあのゼータが魔族に味方するとは……やはり私の予想は当たっているようです」
「予想?」
「ええ、前にも言いましたよね?世界が変わろうとしていると。まさか魔族を味方する人間が現れようとは思ってもみませんでしたが……ふふっ、これは楽しみが1つ増えました」
アーシャとレイナの会話の様子を、周りにいた騎士達は各々神器を発動させ警戒しながら聞いていた。
「それで?」
「?」
「策なのか思惑があるのか知りませんが、わざわざ私と一対一になった理由をきいているのです」
「……簡単な事です。神国側で一番強いのは貴女です。貴女とまともに戦えるのは竜斗様か私しかいません。ですから私がお相手するだけの事です」
アーシャは少しだけ呆気に取られた。
「……は、ははっ、ははっ!まさか……まさかこの私に正面から戦いを挑むとは!【四傑】や【六花仙】ですら、まともに私と戦うことを避けてきたのに!よもや魔族如きに「まともに戦える」なんて言われる日が来ようとは!」
アーシャは予想外もしない答えに驚き笑うしか出来なかった。
「愚かっ!愚かっ!愚かっ!愚かっ!愚かですよレイナ・サタン・アルカディア!!私は人の領域を超えし超越者!Sランク如きでは到底届かない領域にいるのです!身の程を知りなさい!!」
アーシャは叫んだ。それは普段の彼女を知る者からしたら想像も出来ない程、感情を顕にした姿であった。
人の領域を更に超えたアーシャにとって下位の存在に舐められる程、屈辱的な事はなかったからだ。
「では折角なので身の程を教えて頂きましょう」
レイナはそんなアーシャの様子を見ても冷静さを保ち、淡々と答えた。それは強がりでも何でもなくアーシャと同じ強者としての自負からくるものだった。
「……この戦も私にとってはただの遊び。少し痛めつける程度で引こうと思っていましたが…………いいでしょう、格の違いを思い知らせて差し上げます」
「「………………」」
一瞬の静寂の後、アーシャとレイナはお互いに向かって駆け出した。その速度は凄まじく、駆け出すだけで他の騎士を圧倒し瞬時に互いの間合いに入った。
「「発動!!」」
2人は同時に神器を発動させ、相手に向かって容赦ない攻撃を繰り出した。神器がぶつかった瞬間、辺り一帯にとてつもない衝撃が走り、他の騎士達はその衝撃波だけで吹き飛ばされていった。
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アルカ大森林に向けて進軍する神国の騎士達を一塊とすると、その中心ではレイナとアーシャとの戦いの火蓋が切って落とされていた。
そして、その一塊の外周では等間隔に七極聖がゼータの手によって散り散りに転移させられていた。
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「おい!」
「は、はい……!」
ヒレンは近くにいた騎士に、若干強い口調で尋ねた。
「最初の攻撃はあいつらがやったのか?」
「い、いえ……ち、違います!さ、最初の攻撃を繰り出した……黒服の少年は……す、すぐに森の中へ姿を消しました。あの2匹は後から森より現れたのです……」
「ふ~ん……なんか珍しい魔族だな」
「ああ、機人族に……もう1匹は蟲人族か?」
ヒレンとライガの前には2人の魔族が立ちはだかっていた。
「名乗ろう……七大悪魔王が一角、アトラス・ベルフェゴール。貴殿らが七極聖か?」
「同じく七大悪魔王が一角、バアル・ゼブル10世だ……なんか思ってたより馬鹿そうな奴等だな」
アトラスは着物の上に羽織を羽織った姿……いつも通りの格好で現れた。バアルも普段通りの赤い炎の刺繍が織り込まれた黒い服を纏っていた。
「ああん?魔族如きが……」
「止めろヒレン、挑発だ。それに片方は知らないが、もう片方は機械王だ、注意しろよ」
ライガは今にも突っ込もうとしたヒレンを制止させた。
「それがどうした……相手が機械王だろうが賞金首だろうが関係ねー!敵はぶっ殺すだけだ!」
「…………やれやれだな。まぁお前ではないが俺も少々頭にはきている。たかが2匹で俺達2人を相手にしようとする、その舐めた態度にな」
「なんだ今日はやけに気が合うじゃねーか」
「ふっ、たまにはな」
ヒレンとライガは内心怒りながらも、余裕の態度をとっていた。
「てめーらに敬意を表して名乗ってやる……七極聖・炎王 ヒレン・シュティンガーだ」
「同じく七極聖・雷王 ライガ・ヴァーミリオン」
2人は淡々と名乗りながら神器を発動させた。ヒレンは大剣の神器を、ライガは大太刀の神器を。
普段は決して仲良くない2人を知る周りの騎士達だが、この時は七極聖2人の共闘が見られると興奮していた。
「……来るよ」
「……了解だ」
バアルとアトラスも臨戦態勢をとった。その手に、杖と銃の神器を発動させて。
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「ガーハッハッハッ、確かガオウと申したか?」
「いかにも……貴公の名を伺っても?」
「おお名乗ってなかったか……ガイノス・シュティンガーだ。七極聖筆頭・地王ガイノスだ」
「名乗っていただき感謝する。倒した相手の名を知らぬのは些か失礼に当たるので……」
ガオウは軽く一礼した。2人は既に互いの腕を放し一定の距離で対峙していた。
「ガーハッハッハッ、言いおるわい!じゃがこの老骨、中々にしぶといぞ」
ガイノスは顎髭を擦りながら、ニヤリと笑っていた。
「承知!では参る!!」
「こい!小童!!」
ガオウは巨大な斧の神器を、ガイノスはハルバートみたいな形状をした槍の神器を発動させた。
そんな2人を取り囲む他の騎士達も何故か武骨そうな奴らばかりだった。
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「……どうやら散り散りに転移させられたようですね」
クリスは辺りを見渡して状況確認に努めていた。
「へぇ~相手は女の子2人か~こりゃ手加減しないと……イテッ!?」
「何の反省も出来てないではないか!!」
対峙する2人の騎士を見た男がチャラチャラした発言をすると、隣にいる女性は即座に太腿の裏を蹴り飛ばした。
「いって……マジで蹴んなよルキ……仲間に倒されるとか洒落にならないぞ」
「お前がそんな態度だからだゼノ!何のために竜斗が…!?」
「分かってるよ」
「…………わ、分かってるならいいんだ」
ルキはそれ以上ゼノに何も言わなかった。横目にゼノの真剣な表情が窺えたからだ。
ゼノは以前のラフそうな格好ではなく、白と青を基調としたコートみたいな服装になっていた。竜斗曰く、〇スタードみたいとのことだった。
ルキは新調した紅い鎧を上半身だけ纏っており、腰より下は白のロングスカートを履いていた。
「……茶番は終わりましたか?面倒くさいので即刻終わらせます」
クリスティーナは呆れた様子で2人を観察していた。
「(ギリッ……)魔族風情が……」
ハクアは歯軋りしていた。
「一応自己紹介しとくか?俺は七大悪魔王が一角、ルシファー・ゼノブレイズだ。悪いけど手加減はしねーぜ」
ゼノは双剣の神器を発動させた。
「七極聖・風王クリスティーナ…………悪いけど遊んでいる暇はないの」
クリスも神器を発動させた。それはゼノの双剣より刃が短い双剣の神器だった。
「七大悪魔王が一角、竜騎士マモン・ルキウス・ドラグナーだ」
ルキは槍と盾の神器を発動させた。
「七極聖が一人、光王ハクア・ホーク……魔族は全て狩り尽くす!」
ハクアは再度、号令時に発動させた剣の神器を発動させた。
「いきますよハクアさん!」
「はい、クリスティーナ様!」
「行くぜルキ!」
「了解だ!」
4人はそれぞれ己が戦う相手を見定め、その相手に向かって駆け出した。
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「あらあら、私の相手は随分可愛らしい人なのですね」
サラは黒く長い髪を風に靡かせ、いつも通り桃色の着物を着ており、いつも通り妖艶さを醸し出していた。
「むか…………魔族のくせに…………」
プリンガは少しだけ不機嫌さを顕にした。
「ですがいくら小さくても七極聖……手加減はいたしませんよ」
「むっか…………プリンガ小さくない……」
プリンガは更に不機嫌になっていく。
「……そうですね、レディに対して失礼でしたね」
「かちん…………舐めてる?」
プリンガはいよいよ怒りを顕にした。これを見た周りの騎士達は全員がゴクリと唾をのみこんだ。
何故この魔族は七極聖で一番、怒らせてはいけない人を怒らせるのだろうかと。
「舐めてませんよ、ふふっ」
「嘘つき…………これだからオバさんは……」
その場だけが一気に凍りついた。
「上等です……口の悪い子は、お仕置きするのが世の常です」
「こっちのセリフ……乳魔は根絶……プリンガの使命……」
若干間の抜けた空気感にはなったが、当の本人達は至って本気で、相手を睨み付け、この中で誰よりも殺意を放っていた。睨み殺せるのではと感じさせる程の殺意を込めて。
騎士達は身動き1つとれないでいた。
そんな互いが発動させた神器は奇しくも同じ鎌の神器だった。
サラの神器は巨大な鎌なのに対して、プリンガの神器はサラの鎌の半分くらいの大きさで片手で持てる2本の鎌であった。
「うざっ……」
「こちらのセリフです」
2人とも少しだけ上体をユラユラと揺らし、刃を地面に引き摺りながら徐々に互いの距離を詰めていった。
騎士達はただただ恐怖した。眼前の女性が2人とも物語に出てくる死神の様にしか見えなかったからだ。
内容は変わりませんが徐々に改稿していきますよ。
誤字脱字、三点リーダ、「~。」⬅これとか、をです。