残酷と無慈悲②
【ナスカ・クラウド視点】
バアルさんが吹き飛ばされた後、無傷な【七大悪魔王】の皆さんは戸惑っている様子だった。
「……なんだ、皆少しは覚悟した顔つきになってたから真剣になったと思ったのに……全然駄目だな…………全然……駄目だな……」
竜斗さんはそう呟かれた。
その表情は普段の竜斗さんからは想像できない程、冷たいものだった。まるで私が今まで見てきた……神国の女王が魔族に向ける眼差しに近いようにも感じた。
するとハッとしたゼノさんとルキウスさんの眼差しが真剣なものとなり、即座に行動に移した。
お二人はまるで申し合わせたかのように、竜斗さんの前後から挟み込むように挟撃した。
お二人の攻撃は凄まじかった。
ルキウスさんは槍の神器【竜槍<紅>】で竜斗さん目掛けて何度も突きを繰り出し、反対にゼノさんは双剣の神器【光闇双剣】で何度も竜斗さんに向かって斬りつけていた。
だが、お二人の攻撃が竜斗さんに当たることはなかった。
竜斗さんはその場から最小限の動きで、お二人の攻撃を躱し続けた。時折、刀の神器でお二人の攻撃の軌道を逸らしてる様にも見えた。
実際には三人の動きは殆ど見えず、攻撃を躱されバランスを崩したゼノさんとルキウスさんの動きが一瞬だけ止まったのを見て、そうだろうと判断するしかなかった。
実際には極僅かの攻防であったが、私にはとても長い時間そうした攻防を繰り広げていたかのように感じた。
【上段の構え】+【雷・地属性】
「上段……」
竜斗さんが小さくそう呟きながら、ゆっくりと刀を天高く振りかざした。
ゼノさんとルキウスさんは激しい攻防の最中、突然ゆったりと刀を翳す竜斗さんの動きに戸惑ったのか、攻撃の手を緩めてしまった。
突如お二人の神器が竜斗さんの刀に吸い寄せられる。お二人は神器を必死に抑えようとされていた…………が、竜斗さんは刀に引き寄せられる、自分の神器を必死に抑えるお二人に向けて、無情にも刀を降り下ろした。
「……磁の位 イプシロン!」
竜斗さんの鋭い一振りが一閃!
だが竜斗さんの一振りがお二人に当たることはなく、お二人の間の空を斬り裂いた。
「えっ?」
私だけではなく他の隊長達も訳が解らずその光景に戸惑った。
が、一番戸惑ったのはゼノさんとルキウスさんのお二人だろう。お二人はその一振りにつられるように地面に叩きつけられた。
「がはっ!?」
「つっ!?」
そして竜斗さんは下段の構えをとると、今度は真上に向かって刀を振り上げた。
【下段の構え】+【雷・地属性】
「下段・磁の位 ガンマ!」
その一振りはまたしても空を斬り裂くものだった。だがお二人は見えない何かに引っ張られるように【修練の間】の天井に叩きつけられた。
お二人は力なく神器から手を離しそのまま地面に落下していった。私が天井を見上げるとお二人の神器は天井に埋め込まれるように貼りついたままだ。
「……い、一体どんな属性なんだ?」
私は思わず呟いた。だが返答が返ってくることはなかった。その筈だ。恐らく竜斗さんのスキル【合魔】による新属性だろう。なら誰も知るはずがない。
竜斗さんは冷たい視線で地面に倒れ込むお二人を見下ろしていた。
(怖い……)
容赦がない。いつもこれ程の修練を行うのだろうか?Sランクの皆様だから耐えられるのだろうが、私達が喰らえば一溜まりもないだろう。だが私は心のどこかで安心した。
(終わった)
……と。だが竜斗さんの攻撃が止まることはなかった。
【脇構え】+【炎・雷属性】
「陽金・爆の位 サーモバリック!!」
竜斗さんは、お二人ごと纏めて地面を抉るようにして刀を斜めに振り上げた。
修練の間に物凄い爆発音が響いた。多量の土煙、土砂物が舞うが煙は直ぐに霧散していった。そして傷だらけでボロボロになったお二人が、気絶したまま吹き飛ばされ、弧を描くように地面へと落下していった。
……い、いくらなんでも……や、やりすぎでは…………
【イヨ・セイレン視点】
気絶したまま地面に落下していくお二人を空中で受け止めたのはサラ様とガオウ様だった。
ガオウ様はその巨体で跳躍しゼノ様を受け止めると勢いよく着地された。サラ様はその羽を羽ばたかせてルキウス様を受け止めるとゆっくり地面へと着地された。
お二人とも、ゼノ様とルキウス様を優しく横たわせると、竜斗様を鋭く睨み付け駆け出した。その手には斧の神器【グラヴィトンバスター】と鎌の神器【絢爛黒華】が握り締められていた。
「だから……遅いんだって!」
竜斗様は憤慨されていた。
私には竜斗様が何に対して「遅い」と言ったのか分かりません。攻撃に参加され始めたのが?それともお二人を優しく横たわせた事?……私には判断できない。
いずれにせよ竜斗様は既に攻撃をされていた。
【居合の構え】+【炎・地属性】
「抜刀・鋼の位 ロンズデーライト!!」
能力により巨大となった刃を、お二人目掛けて竜斗様は横薙ぎに一閃される。
ガオウ様は勢いよく駆け出した足を止め、斧を地面に突き刺し、巨大な刃を神器にて必死に受け止められた。
「ぬぐぅぅぉぉおおおおぁぁぁぁああああ!!!!」
鬼の形相の如く必死な叫びだった。
すると竜斗様はこの修練?が始まってから、初めて体勢を崩された。体勢と言うよりかは巨大な刀を持てなくなった様子だった。
「……重力操作か……」
竜斗様が小さく笑いながら呟かれた。
あれ?少し嬉しそう?……ううん、きっと見間違い……だって今日の竜斗様からはいつもの優しさが感じられない…………でも確かに小さく笑われた。
竜斗様は即座に刀の神器を解除し、元の大きさで発動し直した。
は、速すぎる……神器とは、かくもあのように解除と発動を行えるものなのだろうか……それは一瞬を半分にしたような短い一瞬だった。
そして竜斗様は片手をガオウ様に翳した。
「!?」
もしやあれが噂にきく属性付加?……いや竜斗様自身はいつも属性付加を行っている。だが他人にしようとされるのは初めて目にする。
刹那、竜斗様とガオウ様の間に割って入られたサラ様。するとサラ様の鎌から暴風が吹き荒れた。
「ふふっ、なんとも……猛々しい風です……」
サラ様は苦笑しながら鎌を肩に担ぐように斜めに振りかぶっていた。
す、凄い……ガオウ様の苦手とされる風属性が付加されると読んで、自身の神器に付加させるなんて!?
サラ様と竜斗様の距離は近い……サラ様は竜斗様の首目掛けて鎌を振るった。
「秘技 花鳥風月・颪」
サラ様の得意技、花鳥風月の豪風版とでも言うべき技が一閃する。普段の華麗な一撃とはうって変わって荒々しい一撃でした。
しかし、そんな一撃すら竜斗様は意にも介さず軽々と受け止められた。
刃を下に向け片手だけで刀を持って受け止められた。
サラ様のあの一撃でも駄目だなんて……
両者の鍔迫り合いの最中、竜斗様は何やら小さく呟かれた。
「うん……いいね…………でも…」
何て仰られたのか、ここからでは聞き取れなかった。そしてまた竜斗様が小さく笑われたようにも見えた。
そんなことを考えていたら、突如サラ様は丸い球体に包まれた。
「こ、これはっ!?」
サラ様から焦燥の色が見える。
あれは、以前アルカディア国民を護ってくれた、盾の神器【魔名宝空】。盾とは想像もできないその羽から吹き荒れる風で護ってくれる神器です。
でも何故それをサラ様に?しかも翡翠色をした風はいつもと違い、うっすらとだが紅く見える。
「まさか!?」
「そう、炎の……結界かな」
サラ様と竜斗様の一瞬のやり取りから予想した。恐らく魔名宝空に【炎属性】を付加させたと思われる……いや、しか考えられない。
サラ様の苦手とされる炎属性で動きを封じるなんて……現にサラ様は身動きがとれないでいた。
しかし護る神器で竜斗様はどうされるのでしょうか?これまで手心を加えなかった容赦ない竜斗様が急にいつもの優しい竜斗様に戻られた。
かに思えた私は浅はかでした……。
竜斗様は中段に構えると、一気にその刃をサラ様に突き刺しました。
【中段の構え】+【炎属性】
「中段・炎の位 火紅天!」
竜斗様の鋭い一突きは、自身で形成させた炎の結界ごと、サラ様の水下辺りの腹部を貫きました。
そ、そんなのあり?
護る神器で動きを封じ、最強の神器で結界ごと貫くなんて……それに属性付加によりあの結界は恐らくSSランク並の筈……そのような神器で封じられては生半可な手段では結界なんて破れるわけがない。
しかも盾の神器を解除することなく竜斗様は貫かれた。竜斗様なら解除した一瞬の間で突くことも出来た筈だ……。
にも関わらず、相手に少しの手段も与えずに自らが発動させている神器ごとやるなんて……どこまで容赦ないのだ……
炎の結界がまるで鏡が割れるように砕けていく。そして炎に焼かれるサラ様は力なく膝から崩れた。
そんなサラ様を見下ろしながら竜斗様はサラ様から刀を引き抜く。
サラ様から血飛沫が舞う。
竜斗様は片手で刀を突き上げると、そのまま白刃をサラ様目掛けて降り降ろした。
もう……やめて…………
あれ?話が進んでない……申し訳ありませんが、もう少しだけお付き合いお願い致します。これが終わればいよいよ【神国・大戦編】です。
ネタバレ?を少しさせて下さい。
まぁ遥か昔に記載した一番書きたい話は大戦の次の【神国・聖都編】です。これは残酷描写?にしたいと思ってます。
これからも今まで通り延々とバトルが続く予定ですが、【王国編】か【帝国編】では作風を少し変える予定です。
注:この2つは今までと違い全く話の構想を考えていません!今までより更に辻褄が合わなくなるかも……だって仕方がない、この小説を書こうと思ったキッカケが神国編ですから!
それから、少しずつ改稿も出来たらいいな。結構、誤字脱字があるので少しずつ直していきたいです。




