駄々っ子と可愛い子
ルルとの密会?の翌日の朝早く、俺は今……捕まっていた。
「やだ!」×2
エルフ族のソラちゃんと、竜人族のルークだ。2人は俺の足を、小さな両手で必死に捕まえていた。
(困った……)
俺の今日の予定は【修練の間】に行って、皆と修練をしなければならないのだが、小さな2人が離してくれない。
ここは城の外の簡易テントが建てられた場所で、俺達の修練の為、城の地下から追い出された多くの魔族(全アルカディア国民)が寝ている。そして2人の大声で皆が眠そうに何事かと起きてくる。
本当に申し訳ない……
「今日はお兄ちゃんと遊ぶ!」×2
2人が更に大声で叫ぶ。
すると状況を何となく理解した皆が微笑ましそうにこちらを見つめてくる。
(本当に困った……)
無理矢理2人を剥がすのも申し訳ないし、今のこの国の状況を説明しても分からないだろう。どうやって納得してもらおうか本当に困っている。
「いい加減にしなさい!」×2
突如、大声でソラちゃんとルークを怒鳴ったのは、ソラちゃんの母親であるマナさんと、ルークの姉であるルキだった。
怒鳴られた2人は一瞬体がビクッとなったが、直ぐに又、俺の足を力強く捕まえてきた。
「……だってお兄ちゃん約束したもん!前に一緒にお風呂行こうって……言ったもん!」
「銭湯直ったって聞いた!それにまた遊ぼうって言った!」
(確かに言ったもん。だけどなぁ……もう少しだけ待って欲しい……もん。)
てか、ラスとカルの2人はもう銭湯を直したのか……仕事が早い。それで、それを聞いた2人が俺を引き留めてるわけか……こんな朝早くに……。
「竜斗さんには、やるべき事があるのです!それは、あなた達の為の事なのよ!」
「いい加減にしないかルーク!お前は竜人の王になるべき男なんだぞ!」
マナさんとルキが怒鳴る。が、その怒り方は駄目なパターンだ。小さい子には関係ない。今を全力で楽しみたいだけだ。
「分かった。なら今日は1日……2人と遊ぼう。」
俺は2人の頭にそっと手を置いた。
「お兄ちゃん!」×2
2人の顔がパアァと明るくなった。
「竜斗!?」
「竜斗さん!?……いいんですか?」
「まぁ……神国が攻めてくるまで、まだ何日かありますし……修練は夜すれば大丈夫かな」
俺がニマッと笑うと、マナさんは「はぁ……」とため息をついた。
「そんな訳だからルキ、皆には夜に修練をしようって伝えてくれ」
「私は構わないが……いいのか?神国との戦争まで後1週間だぞ?」
「う~ん、まぁ俺よりかは6人……次第なんだけどな」
「うっ……そう、だったな……」
いつの間にかソラちゃんとルークは俺から離れて喜んでおり、マナさんはそれを見て呆れていた。皆も未だ朝早いので、再び眠りにつこうとしていた。
まぁたまにはいいか……ジェガン達が襲撃した日から、2人とはほとんど一緒にいられなかったし、2人も怖い思いをしたんだ、こんな日があってもいい。
「じゃあ今日は何して遊ぶ?」
「修行!」×2
「………………は?」×全員
その場にいた全員が呆気にとられた。
あれ?聞き間違いかな?今、修行……って言ったのか?てかそもそもさっきまで遊ぶって言ってなかったか?あれ?
「今日はお兄ちゃんと修行して遊ぶの!」
「それなら、お兄ちゃんの邪魔しないで一緒にいられる!」
ソラちゃんとルークは意気揚々としていた。
なんか想像してたのとは違う1日になりそうだ……。
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アルカディア城、地下1階【修練の間】
「と言うわけで……今日は2人と修行することになりました」
俺は皆に説明した。
「……何が、と言う訳なのかさっぱりだ」
ガオウが呆れている。
「ふふっ、可愛い戦士ですね」
サラは微笑ましく笑っている。
「君はこんな小さい子を戦わせるのか!?」
バアルは怒っている。
「呆れたものだ……子は国の宝だぞ」
アトラスは嘆かわしそうにしている。
「すまない皆……愚弟が……」
ルキは疲れたようにグッタリしている。
「まぁ息抜きにはいいんじゃないのか?」
ゼノは楽しそうにしている。
「例のアレ、どうするんですか竜斗様?」
ルルが小声で話しかけてきた。
「うっ……まぁちょっと様子見ってことで……なんかそんな雰囲気じゃないし……」
「…………ですね」
昨日ルルと話して修練の際に、あることをするつもりだったのだが、現状でそれは無理そうだ。修練の間に来てから皆ほのぼのしている。
まぁこんな時に例のアレを行えば皆、気が引き締まると思うのだが……ソラちゃんとルークがいる前でそれはしたくない。
「でも何故急に修行なのです?」
病み上がりのレイナが走り回っていた2人を呼び止めた。
「えっとね……皆を守りたいの!……です」
「お兄ちゃんみたいに強くなりたい!……です」
ソラちゃんとルークの眼差しは真剣だった。
そしてレイナに対して敬語を忘れていない。えらいぞ。
「いい志です。では2人とも剣を学びたいのですか?」
レイナは微笑みながら2人に問いかけている。
「ソラは、じょーおー様と同じ【ほーりゅーけん】がいいです!」
「僕は、お兄ちゃんと同じ【けんどー】がいい!です。」
2人はどこで聞いたのか、明確に学びたい技を提示してきた。
「ちょっと待てルーク!?お前は竜人族なんだぞ!学ぶなら槍術にするんだ!」
「いやです姉上!」
ルキの反対意見を即座に嫌がるルーク。
「なっ……」
ルキはショックを受けていた。ショックのあまり、それ以上言葉が出てこない様子だ。
「僕はお兄ちゃんみたいな剣士になりたいです姉上!」
ルークの意志は固いようだ。
「ドラグナー家に伝わる槍術を……まさか弟が拒否するなんて……亡き父上になんと言えば……」
ルキは本当にショックを受けている。今にも膝から崩れ落ちそうだ。
「まぁ良いではありませんかルキ。本人が学びたいものを学ばせてあげた方が良いのでは?」
レイナがルキを説得しようとしている。
「くっ、他人事だと思って……大体レイナはいいじゃないか……自分の拳技を学びたいと言われたのだからなっ……」
ルキがレイナに対して僻んでいる。
つまりルキは単純に自分と同じ槍術を誰かに教えてあげたいだけなのだ。結構可愛いところがある。
「なら俺に槍術教えてくれよ。前から結構興味あったし」
「竜斗!?」×全員
「……馬鹿にしているのか竜斗?」
ルキが少し怒った顔でこちらを睨んでくる。
「いやいや馬鹿にはしてないよ。だって槍ってカッコいいし。それに俺も○イヤルセイバー放ってみたいし」
俺はいい笑顔で答えた。
「…………前から言おうと思っていたが……そんな技はない!!」
ルキの怒鳴り声が修練の間に響いた。
はい、怒られました。
まぁなんやかんやあって、俺達は修練の間をランニングし、入念にストレッチを行い、軽く筋トレを行った。ソラちゃんとルークも頑張ってついてきている。
まぁ内容はかなり2人に合わせているけど、それでも2人は頑張っている。眼差しも真剣そのものだ。
病み上がりのレイナは見学し、ルルはレイナに付き従っている。
そして筋トレを終え、小休止をとると、各々修練に励みだした。ルキとサラ、ガオウとゼノは互いに模擬戦を行い、アトラスとバアルは1人で技の練磨に取り組みだした。
で、俺の隣にはレイナとルルが横並びに立っており、目の前にはソラちゃんとルークが、ちょこんと座り込んでいる。
ルークの手には小さい木刀が握られ、ソラちゃんの手には革で出来たボロボロのグローブが嵌められている。
「これは?」
ソラちゃんはボロボロのグローブを眺めている。
「それは私が今のソラちゃんと同じ年の頃、お父様に頂いた修練用のグローブです。」
レイナが懐かしそうに話している。
「いいんですか?」
「ええ。倉庫で埃を被っているよりソラちゃんに使ってもらった方がグローブも喜びます。」
「だ、大事に使います!」
ソラちゃんがギュッと拳を握りしめていた。
「ふふっ、修練用なので大事に使わなくていいですよ。私も何度もボロボロにしたので、その都度マナさんに直して頂きました」
「ママが?」
「ええ、そうですよ」
レイナがニコッと微笑んでいる。
(えっ、何この心暖まるいい話……)
胸にジーンとくる。
そうしてレイナは崩龍拳の基本的な型をソラちゃんに教えて、突きの練習をし出した。
改めて見ても中国拳法とは似てるようで似てない技だ。構えなんかは何となく似なくもないが、空手に似てなくもない。
(よく分からん……)
一方俺の方はルークに剣道の中段の構えを教えて、ひたすら素振りさせている。ソラちゃんもそうだがルークも楽しそうにしている。
うん、楽しくやるのが1番だな。戦争じゃなかったらもっと楽しく練習出来るのにな。
そしてさっきから、ちらほらこちらに向けてくる視線がウザイ。
「……ルキ、集中しないと意味ないぞ」
俺は視線を向けてくる相手に注意した。
「うっ……すまない……」
「そうですよ?さっきから私相手に何本取られてるんですか?」
模擬戦の相手であるサラも流石に呆れている。
「うっ……すまない……」
ルキが申し訳なさそうにしている。
てか、何本も取られてるんだルキの奴。これはダメだな。全然集中出来てないみたいだ。まぁ身内だし仕方ないけど……それに皆もどこか微笑ましそうにしており、全員集中出来てない。
やっぱ、本気の修行は夜だな…………さてさて皆にはかなり痛い目を見てもらいますか……