深夜と密会?
久々更新です。すみません……
レイナが目を覚まして2日後……外は暗く、生き物が寝静まる時間帯、俺は大きな扉を開け、階段を昇ろうとした。
身体中汗だらけで熱気を帯びているのに、気温が低いため、汗が蒸発し体から湯気が出ている。
「うえっ、気持ち悪……」
俺はシャツだけ脱ぎ、それを肩に掛けると、そのまま一気に階段を掛け上がった。階段を昇りきろうとした時だった。
「きゃっ!?」
「うおっ!?」
ルルとぶつかりそうになった。
「りゅ、竜斗様!?」
「ごめん、大丈夫だったルル?」
「は、はい……私は大丈夫です……って臭いですっ!?」
ルルは鼻をつまみ出した。
「あっ、ごめん……さっきまで1人で修練してたから……」
俺はそう言い残してその場を立ち去ろうとした。早くシャワーが浴びたい。女の子に臭いとか言われたらマジで凹む。
「…………あの!」
ルルが強い声で俺を呼び止めた。
「ん?」
「……あ、汗を流してからでいいので……す、少しだけ時間有りますか……?」
ルルはいつもの強気な感じではなく、何やら畏まっている。
「え、ああ……別に大丈夫だけど……」
「では……城の外で待ってます……正面とは反対の裏口……は分かりますか?」
「ああ、知ってる。最初の迷宮行く時に使ったから分かるよ」
「ではお待ちしてます」
ルルはそのまま外に向かっていった。
俺は城の1階にある水洗い場を目指した。夜はかなり冷えるけど、汗をかいたままよりマシだと感じた。
俺はさっと体を水で流してタオルで拭くと、持っていた替えの服に着替えた。そして俺も裏口を目指した。
扉を開けると空が……黒雲に包まれていた。普通そこは綺麗な夜空が見えるべきなのに、異世界の気候は空気を読まない。
扉のすぐ傍には壁に凭れ掛かる様にし、体育座りで俯いてるルルが待っていた。
「ごめん、遅くなった」
俺が声を掛けるとルルが顔を上げて、首を横に振った。
「で、どうしたの?」
俺は扉を閉めるとルルの横に座った。嫌がるかもと思ったけどルルは気にしていない感じで微動だにしなかった。
「…………」
ルルは黙ったままだった。
「……夜遅くまで大変だね、レイナのお世話も」
「いえ、大丈夫です……姫様は……私とお姉ちゃんの命の恩人ですので、これぐらいは何ともありません」
「そうなんだ」
「はい…………聞いてるかも知れませんが、私とお姉ちゃんは元々…………奴隷でした……」
ルルの手が服を強く握り締めていた。シワになるんじゃないかくらい強く握り締められていた。
「……うん、前にレイナから聞いた」
なんて答えようか迷ったけど、正直に答えた。
「でも、俺が聞いたのはそこまでだよ。レイナはそれ以上は言わなかったから……」
「そうですか……」
「うん」
「私とお姉ちゃんは……スレイヤ神国の奴隷でした」
「えっ!?」
「スレイヤ神国の……ある貴族の……奴隷でした……」
「スレイヤ神国って奴隷はいないんじゃ?」
「はい。普通はいません……でも中には私達の様に、神国の女王から隠すように地下に幽閉されている魔族はいました……ナスカもそうだと思います……」
「…………そっか……」
ルルはゆっくりと続きを話してくれた。その言葉は弱々しく、普段の毒舌っぷりがどこにいったのか分からない程だった。
「両親を含めて私達4人は……毎日拷問の様な日々を過ごしていました……私とお姉ちゃんは幼かったからか余り酷い目にはあいませんでした…………ですが……ある日……両親は処刑されました……神国を上げての大々的な処刑だったそうです……私達を飼っていた貴族は、女王から褒美が貰えたと喜んでいました……」
ルルは思い出して歯軋りしていた。
「私達が最後に見た両親の姿は……酷いものでした……何度も何度も槍で突かれたのか……身体中が……穴だらけでした……」
ルルはまた少し俯いた。
「それから更に地獄が続きました……両親がいなくなって……今度はお姉ちゃんが酷い目に……あうようになりました……貴族から呼び出され連れていかれた時の間は分かりません……お姉ちゃんは話してくれなかったので……でもお姉ちゃんはいつも「大丈夫」と笑顔で答えてくれました。私にはそれが1番辛かったです……」
「ルル……もういいよ」
俺がそう言うとルルは首を横に振った。最後まで聞いて欲しい、そんな目で見つめてきた。俺は黙って聞くことしか出来なかった。
「……ある日、お姉ちゃんはボロボロになって地下に戻ってきました。私はお母さんがくれた神器を指に嵌めて「お姉ちゃんを助けて」と強く念じました……その時初めて私は治癒の力があるのだと気づきました……」
俺は少しだけ安心した顔をしてしまった。だけどルルは苦虫を噛むような顔をしていた。
「それを見た貴族は……更に……お姉ちゃんと私を傷付けました……どうせ治るんだろ?みたいな顔をして……下卑た顔をして……気持ち悪い笑顔で……段々とエスカレートしてゆきました……」
「…………」
「そんなある日です……私達を飼っていた事が女王にバレそうになった貴族は、私達をホウライ王国へ売ろうとしました……あの時の貴族の顔は、今思い出すと少し笑えます……」
ごめん、全然笑えない……
「余程焦っていたのでしょうね……奴隷商人との待ち合わせ場所や、警備もザルで……私とお姉ちゃんは、姫様とガオウ将軍、ゼノ様に助けられました」
俺は今度こそ本当に安心した。
「幸せでした。姫様に助けられてから私の世界が変わりました。暗く重たい世界が一変しました。こんなに幸せでいいのかと思う毎日でした。」
「そっか」
俺は笑顔で答えた。
「そして……竜斗様が来てから私達の世界はまた大きく変わりました」
「えっ?」
「……なんて言ったらいいのか……希望と不安が入り交じったような……そんな変な感覚です……」
「そ、そっか……なんか、ゴメンね……頼りなくて……」
やっぱ頼りないのかな?俺はそんな風に感じた。
「ち、違うんです!竜斗様が来てくれてから沢山の魔族が救われました!心強い人達も集まってきました!ですが……何か私の理解できない所へ……未来へ向かっていく感じが……堪らなく不安なのです……」
あっヤバイ……話が難しくなってきた……なんて答えよう……
ルルは俺からの返事を待ってるみたいで、じっと見つめてくる。俺は馬鹿なりに自分の素直な気持ちを言葉にした。
「俺はただ……皆が幸せになればと思ってる。魔族の皆がいて、人間もいて、奴隷なんてものがなくなればと思ってる……ちょっと違うかな?……全ての人間の【魔族は奴隷】って意識が無くなればと思ってる。」
「それは……」
「そうだね、凄く難しい事だと思う。」
「いえ、それは大丈夫だと思います」
「えっ?」
ルルから意外な言葉が返ってきた。
「竜斗様と姫様が居てくれたら多分出来ると思います。私はそう信じています。」
「ルル……」
「私が不安なのは……竜斗様と姫様がいなくなってからの事です……お二人は魔族と人間との共存の道を選んでおられます。もし、お二人がいなくなられたら……その時また人間の、魔族に対する扱いが戻ったらと思うと……それが不安なんです……」
「そこも信じようルル!」
「竜斗……様?」
「確かに未来は誰にも分からないけどさ……けど魔族も人間も変われるって俺は信じてる、きっとレイナも信じてる……もし仮に俺やレイナがいなくなったとしても大丈夫。その為に魔族を1つにしてるんだし、皆がいれば乗り越えられるって信じてる」
うん、何の根拠にもなっていない。でも俺はそう思ってるから、そうとしか答えられない。
俺の顔を見てルルがクスッと笑った。
「ふふっ、何の根拠にもなってませんよ」
バレてたか……
「……でも……信じてみます……私も……お姉ちゃんみたいに……竜斗様を信じてみます……」
「えっ、今まで信じてくれてなかったの?」
「ふふっ、そうですね。小指の爪程度は信じてましたよ」
「うわっ、結構酷くね?」
「でも今は信じています。」
「あ、でもさ……気づいてる?」
「何がです?」
「こっちの世界の人間達が魔族を数える時って【何匹】で数えるけど、ネムやレインバルト、ゼータは今【何人】って数えるだよ」
「そ、そうだったん……ですか?」
ルルは気づいてなかったみたいだ。
「まぁこれだけで判断するって訳じゃないけど、結構大事な事だと思うよ」
「やっぱり竜斗様は凄いです……こっちの世界に来てまだ数ヵ月なのに……見ているものが違うんですね」
「そ、そうかな……?」
ルルに誉められるとなんか照れるな。
「ちょっとだけ……ほんのちょっとだけ……姫様が羨ましいです……」
「えっ?」
「私もいつか……素敵な人が出来るかな……」
ルルはボソッと呟いた。
「絶対できるよ!ルル可愛いし……まぁレイナ程じゃないけど」
「うわ……ホントに最低ですね……最後のは要らなくないですか?」
「ごめん……」
「ノロケも大概にして下さいね」
うん、段々ルルもいつもの調子に戻ってきた。でもそうか……ルルもやっぱ恋とかしたいんだ~……さしあたって、
「バアルなんかどう?」
「……いきなりですね……バアルさんですか?」
「うん。気づいてた?バアルってルルにだけ【さん付け】なの」
「言われてみれば……確かに……」
「多分、ルルの事を気にはなってると思うよ。」
「はぁ……そうですかね……」
ルルは首を傾げている。いまいちピンときていない感じだ。
「後、俺が気になってるのは……ゼノとルキだな。ガオウがサラの事好きなのはバレバレだけど。」
「……ホント、よく見てますね……」
何故かルルは呆れていた。
「あっ!ララとシューティングスターもかな…」
俺は言って後悔した。
口は災いの元とはよく言ったもんだ。ルルがメッチャ歯軋りしている。可愛い顔が台無しだ。
「あいつホントなんなんですか!いい加減お姉ちゃんに告ればいいのに、いつまでもウジウジウジウジと!」
「……ルルさん?」
「あいつ○○ついてるんですか!?見てくれは堂々としてるのに、内面はビクビクして!竜斗様知ってますか?あいつ、お姉ちゃんに会う為だけに、神器を【神器の間】に預けてるんですよ!?信じられますか!?お前戦士だろっ!!って言ってやった方がいいですよ!!」
ルルが怖い……そしてシューティングスターの情けなさが、よく伝わってくる。
「私……お姉ちゃんには幸せになって欲しいんです……辛いこと沢山有ったから……本当に幸せになって欲しいんです……」
「そうだね……」
「だから竜斗様がレイナ様に言ったように「お前が欲しい!」くらいは言って欲しいんです!」
あっ、それはやめて……それに、そんなGガ○ダムの主人公が最終話で叫んだみたいな感じでは言ってない。うん、言ってない。
「まぁ、2人の問題だからね……そもそもララはシューティングスターの事好きなの?」
さりげなくシューティングスターのフォローをしておく。
「…………さあ?」
ルルは本当に分からないって顔をしている。
頑張れシューティングスター!
「でも変な感じ……ルルとこういう風に話すの」
「……ですね。私もここまで話すつもりではなかったのですが……」
「でも良かったよ。割と俺の周りって年上ばかりで……同い年くらいなのってルルと、リリスとネムとテトラとイヨとアザゼルとナスカくらいで……ルルとリリスを除いたら皆、部下みたいな感じだし……」
「……竜斗様こそ気づいてますか?リリスとガーベラが……」
「えっ?」
「……いえ、何でもないです……」
変なルルだ。
するとルルがお尻をパンパンとはたきながら立ち上がった。俺も立ち上がって扉から離れた。
「すみませんでした、こんな遅い時間に話を聞いてもらって……」
「いや、いいよ。ルルの気持ちも知れたし……思い出したくなかったのに、何があったのか話してくれてありがとう。」
「こちらこそ、ありがとうございます」
ルルは黙りこんだ。あれ?帰らないのかな?
すると、ルルが突然俺に近づいて来て、一瞬だけ俺の頬に口づけした。
「…………えっ?はっ?えっ?なっ……?」
俺は訳が分からなくなった。ルルは少しだけ頬を赤らめて耳をピコピコさせていた。
「……感謝の気持ちです……それと……ほんのチョットだけ……好きでしたよ……」
ルルはそう言い残して、そのまま城に入っていった。
俺は頬に手を当てて呆然としていた。いきなり過ぎて意味が分からなかった。
そして、そこは嘘でも「か、勘違いしないでよね!今のは感謝の気持ちで……す、好きとかそういうんじゃないんだからね!」と言って欲しかった。
実は少しだけ、書くの飽きてたと言うか……めんどくさいなぁとか感じていました……。イラストも書きたいなぁとか……新年度で仕事もしなくちゃとか……色々あって、色々めんどくさい時期でした。
そして仕事の方が落ち着いてくると、不思議と書く気が湧いてくるもんですね(笑)また、ぼちぼち更新してゆきます。
別作品、「目覚める時計魔人」もあるので暇潰しに読んでみて下さい。