元・光王と判明
例の如く夜勤から更新(笑)
突如【神王の間】に現れた賊に七極聖の5人は身構えた。女王親衛隊でもあるクリスティーナとライガは、ディアネイラを護るように即座に傍に移動した。
「何者だテメェ……」
鋭い眼光と魔力を飛ばすのはヒレンだった。
「ふふっ、さすが七極聖……中々良い魔力を放ちます……ですが……」
白ローブの女性は不敵に笑った。
「その程度では私はおろか、あの国にいる魔族にすら勝てませんよ」
「……上等だテメェ……」
ヒレンは神器を発動させようとした。
「やめなさい」
その声は小さいが、ヒレンの動きを制止させるには充分な圧が込められていた。
「し、しかし陛下……」
ヒレンは戸惑った。その言葉を発したのが、他ならぬ女王によるものであったからだ。
「この者は顔見知りです、問題ありません……それに……」
「そ、それに?」
「それより何の用かしら?」
ディアネイラはヒレンとの会話を止め、賊の女性に視線を戻した。
「そうですね……その前に女王と七極聖の面々を残して大臣の皆様方には退出して頂きたい」
「なっ!?」
突然の申し出に大臣達はみな戸惑った。
「無礼な……我らはこの国の……」
「いいでしょう」
「なっ!?陛下!!賊の言うことを…」
「顔見知りと言った筈です、いいから下がりなさい」
ディアネイラは大臣達の言葉を遮り、早々に退出させた。大臣達は歯軋りする思いだったが、ディアネイラの冷たい視線を見ると渋々ながら【神王の間】を後にした。
王の間が静まり返るととディアネイラは再び口を開いた。
「で、何の用ですか?ギルド【魔族狩り】、ギルドマスター」
「!? この者が!?」
言葉を発したのはヒレンだが、七極聖全員が驚いた。
「ほう?こやつが、あの有名なギルドのギルマスか……」
ガイノスは顎髭を擦りながら賊を見つめた。
「プリンガ知ってる……国に属さない……最大独立ギルド……」
プリンガも、ジッと賊を見つめた。
「一応、我が国の全ギルドの代表を任されています」
「なっ!?我が国のだと?独立ギルドの分際で、神聖な我が国のギルド代表を担うとは……」
ライガも鋭くギルマスを睨み付けた。
「おや?ご存じなかった?最近ではギルド間でも割りと有名ですよ。神国のギルド代表は【魔族狩り】のギルマスだと……ふふっ、少々自惚れてました…自分では結構有名なつもりだったのですが……」
白ローブの女性は小さく笑った。自虐しているようで、その実、七極聖の情報力の無さを馬鹿にしていた。
当然、七極聖もそれに気づき、約2名程歯軋りした。
ヒレンとライガであった。
「「上等だ……」」
2人は同時に攻撃を繰り出そうと襲いかかろうとした。
だが、その瞬間、白ローブの女性は自分のフードに手を当て、素顔を晒し出した。
「「「!?」」」
当然、誰もがその素顔を目にし驚愕した。
「おいおい……嘘だろ……」
「なんともまあ……これには驚いたわい……」
「プリンガも……」
「なんてことだ……」
「し、信じられません……」
「ふふっ、お久しぶりですね皆さん」
素顔を見せた女性は、ディアネイラとネムリスと同じ栗色に、白のメッシュで染められた髪色をした女性であった。
「「アーシャ様っ!!」」
全員の声が揃い、その場で一斉に跪いた。
沈黙が流れる中、ディアネイラとアーシャは見つめあった。
「……良かったのですかアーシャ?皆に素顔を見せて……」
「ええ……問題ありません、ディアネイラお姉様」
「そう……ならいいわ」
「し、知っておられたのですか陛下……?」
親衛隊として常に傍にいたクリスティーナでさえ知らない事実であった。
「ええ……この娘が無断で【光王】の座を降りて、剰え王族権を放棄した時は流石に驚いたけど……何年か前にギルマスになって顔を見せに来た時も驚いたわ……」
「ふふっ……それに神国側のギルド代表を命じたのは他ならぬディアネイラお姉様なのよ、ライガさん」
「そ、そうだったのですか……」
ライガや他のメンバーも息を飲んだ。
「それで、素顔を晒してまで何の用ですアーシャ?まさか今更【光王】の座に就くとは言いませんよね?」
ディアネイラは、その場が落ち着くと再び話を戻した。
「そこまで落ちぶれたつもりはありません、お姉様。それにこう見えてもギルドの長、お姉様程では無くても人を束ねる身、部下達を見捨てることは出来ません」
「それならいいわ……光王の貴女よりギルマスの貴女の方が、良質な情報を持ってきてくれるから、妾としては助かるわ」
「それは良かったです……ですが【光王】の後釜はまだお決めになられないのですか?」
「……才能の有りそうな子は何人かいるのだけれど、貴女の後となるとどうしてもね……」
「私の方でもゼータに声を掛けてみたのですが、あっさり断られてしまいました、ふふっ」
アーシャは肩を竦めた。
「なっ!?ゼータとは、帝国の薔薇の事ですかアーシャ様!」
信じられない名を耳にし、ヒレンは叫んだ。
「ええ、そうです。属性を考えてゼータには【水王】の座を確約させようとしたんですが、迷宮攻略まで手伝ったのに断られてしまいました……何でも会いたい人達がいるそうで」
「プリンガ心外……ゼータ戦線離脱……迷宮攻略してるなんて……プリンガ達舐めて欲しくない……」
長年、アルカ大平原にて争ってきたヒレン、プリンガは歯軋りした。戦争中にも関わらず迷宮なんかに挑むなんてと憤慨した。
「プリンガ達は知りませんでしたか?【薔薇のゼータ】、【竜胆のオルス】、【百合のイルミナ】は、ある者に破れた為、戦線を離脱したのです」
「バカなっ!?」
ヒレンは声を張り上げた。
「なんと……儂らが長年争ってきた、あの3人を倒す猛者がおるとは……」
「プリンガ……ショック……イルミナ……プリンガが倒す予定だった……」
「そうでした。あなた方は知りませんでしたね……この国では既に噂になってました。」
「3人が戦線離脱した事と、新たな魔族の国が見つかったからお前ら3人が呼び戻されたのだ」
説明したのはクリスティーナとライガであった。
「一体どこのどいつだ!?」
ヒレンは声を荒げた。
「ふむ……まさか【英雄】が動いたか?いや……それはないな…………それならアーシャ様が?」
ガイノスは顎髭を擦りながらアーシャを見つめた。
「いえ、私ではありません。それに私が動けば、それこそ【桜花】が出て来ることでしょう……ギルドの長としては益にならないことはしません」
「…………」
七極聖はアーシャの言葉に少なからずショックを受けた。この人は本当に、もう七極聖ではないのだと。
「貴女がここに来たのはそれが理由ですか?」
「まさしくその通りです、お姉様」
「……もしや、以前話していた人間と関係が?」
「ふふっ、流石お姉様です。相変わらず頭が切れますね。」
「?」
七極聖は会話の内容が理解できなかった。
「そうです。薔薇、竜胆、百合を退けたのは、ある人間の男の子です」
「!?」
「その者が直接撃退したのはゼータだけで、オルスとイルミナは完全に敗けたわけではないそうですが……」
「……それにしたって六花仙のNo.2を……」
クリスティーナの額を汗がつたった。
「しかしオルスとイルミナは軽く手傷を負い、駐屯していた城も真っ二つに破壊され、その剣技は凄まじく、余波で兵の殆んどが全滅したそうです」
「…………」
「戦線を維持出来なくなった2人は帝国に帰還し、激怒した皇帝に六花仙の称号を剥奪されたそうです」
「…………」
「2人が敗けた?後、その者は兵士達の前でゼータを圧倒し、ゼータの城も真っ二つにしました」
七極聖は絶句した。本当なら疑うところだが、アーシャが嘘をつくとは思えなかった。事実六花仙の3人は戦線より撤退しており、正確な情報通で有名な【魔族狩り】の長の言葉を疑う余地がなかった。
「に、してもだ……一体どこのどいつなんだ?まさかホウライの手の者か?」
「……プリンガも心当たりない……そんな強い子……すぐに正体が判る……はず……」
「ガーハッハッハッ!是非とも仲間にするか、敵なら手合わせ願いたいものじゃ」
「ガイノス……それは……不謹慎……」
「…………まさか……?」
「おや?クリス気づきましたか?」
アーシャは小さく笑いクリスティーナを見つめた。
「まさかですが……レインバルト殿を殺したのもその者なのですか?」
その言葉に全員がクリスティーナに振り向いた。
「……ふふっその通りです。」
「なっ!?」
「ただし!レインバルトさんが殺されたかは定かではありません。部下に調べさせたところ、ダーラの町北東部で戦闘の跡がありましたが、死体はなかったそうです。」
「なら……生きてる可能性もある訳か……」
ヒレンは小さく呟いた。
「ええ、その可能性もあります」
アーシャはそう言うとディアネイラに視線を移した。
「これからが本題です、お姉様。その者は、これからお姉様が攻めようとしている魔族の国にいます。」
「なんですって……」
「しかもその者は手配書の魔族を次々と仲間にしており、確認しただけでも、最低6匹は強い魔族がいます。」
「アーシャ様それなら好都合です、Aランクの魔族が何匹いたところで物の数ではありません。魔族は根絶やしにして、その人間も七極聖全員で捕らえればいいだけです」
ライガは不敵に笑って答えた。
「……それは難しいでしょう」
「なっ!?……アーシャ様……それは少々聞き捨てなりません」
「そうです!如何にその人間が強くても、たかが一人に七極聖が遅れをとることなど……」
ライガとクリスティーナは少なからずアーシャの言葉に怒りを覚えた。
「あなた方が弱いと言っている訳ではありません。」
「それならっ……!」
「あの国にいる魔族が強いのです。手配書の魔族は全員もれなくSランクあり、七極聖と対等といってもいいです」
「バカな……!?」
ライガの額を汗がつたった。
「……そうか!6匹もおるのじゃ、迷宮でも攻略すれば少なからずSランクになれる魔族も出てくる訳じゃ」
ガイノスは顎髭を擦ったまま答えた。
「プリンガ驚愕……それにしても……Sランクが6匹なんて……」
「ええ、その通りです。数だけで言うなら、最早3国より多いと言えるでしょう」
全員が再び黙り込んだ。
「それもこれも全て1人の人間が現れてからです、お姉様」
静まり返っていた【神王の間】でアーシャは小さく呟いた。
「何者なのです、その人間は?」
ディアネイラも小さな声でアーシャに尋ねた。
「分かりません……本当に降って沸いた様にその人間は突如現れたのです。我がギルドも手痛くやられました。」
アーシャは首を横に振った。
「分かっているのは名前と扱う神器のみです」
「…………なんというのです?」
ディアネイラがアーシャに尋ねると七極聖は息を飲んだ。
「その人間の名はアマハラリュウト……Sランクを軽く越える剣士です」
竜斗、ガオウ、サラがドラグナー国に向かう際、竜斗が二人とはぐれて、その間に竜胆と百合の城を斬る話を、きちんと書かずにここまできてしまいました……orz
一応33部【新属性と裏奥義】にて、少しだけ書いてはあるのですが、まさかこんな事になるとは……orz
やはり思いつきで書いてはいかんのですね……