神話と懇願
扉を開けると、レイナとガオウ、それに見知らぬ青年が立っていた。部屋自体はそれほど広くはなく、会議室といった感じであった。
だが、そんなことはどうでもいい!
イケメンがいる!!
青年の顔はどこか日本人風ではあったが金髪がよく似合い、青眼は吸い込まれそうな程、透きとおっていた。一見ラフそうな服ではあったが、よく見ると丈夫そうで、手甲や脛当てみたいなのを身に纏っていた。
歳は自分よりも少し上くらいで、背も高く細身ではあったが、しっかりとした鍛えられている筋肉も服の隙間からうかがえた。
何より背中からは6枚の白と黒の羽が生えていた。
レイナの悪魔っぽい羽とは違い、少し鳥みたいなフワフワしてそうな綺麗な羽であった。
一目で理解できた!
「天使!」
「残念! 違うんだな~」
俺が言うのとほぼ同時くらいに目の前のイケメンは俺の発言を否定してきた。声もイケメンだった。
「あっ……何かスミマセン……」
俺は咄嗟に謝ってしまった。
「まぁ、気にすんな。あながち間違いでもないしな(笑)」
「はぁ……」
なんか喋り方チャラいな……
ガオウが「んんっ」と咳払いを1つした。
「あっ、俺は天原…」
「竜斗だろ。知ってるよ。色々聞いてるぜ。俺の【迦楼羅】を派手にぶっ壊したってな」
「えっ!? あなたのだったんすか? スミマセン」
「ああ別に責めてる訳じゃないから。作ったのはいいけど神珠の種類が【刀】だったから、どのみち俺には必要なかったしな」
「はぁ……」
なんかチャラいな……
ゼノの第一印象は【チャラい】だった。
別にチャラい行動をとってるわけではないのだが、俺は勝手にチャラキャラに認定した。
「えっと……俺に会いたい人がいるって聞いたんですけど、もしかしてあなたですか?」
「ああ、そうだ。悪かったな。こんなとこまで来させて」
「いえ、それは別に構わないんですが……」
俺はそっとレイナの方を見た。
「竜斗様、この者はルシファー・ゼノブレイズ。種族は堕天族で、我が軍が誇る最強の堕天使です。勿論ランクも私たちと同じ【A】ランクです」
レイナが紹介してくれる。
「気軽にルフかゼノって呼んで構わないぜ竜斗」
「はぁ分かりました……ってやっぱ天使じゃん!?」
やはりどこかチャラい。
「違うって言ったろ……てか姫さん、もしかして【天魔戦争】のことも話してないのか?」
レイナはニッコリと微笑み、ゼノから目をそらした。
「全くうちの姫さんはどんだけせっかちなんだ。こっちの世界の事もろくに説明せずに竜斗を迷宮に連れてくなんて。そもそも俺がいない間に竜斗を召喚してるし。俺が帰ってくるまで待ってろって言ったろ?」
「…………」
レイナは若干すねたように黙秘を続けた。
「うわ、黙りかよ! ガオウのおっさんもなんで姫さんを止めなかった?」
「うむ……一応止めたんだがな……」
ゼノは、やれやれといった感じで、それ以上レイナを問い詰めるのを止めた。
俺は3人の会話についていけず、戸惑っていた。
「悪かったな竜斗。俺がこの世界について、もうちょっと詳しく説明してやる。2人に任せてたらお前が困るからな」
それはそうだ。
確かにこのままでは命がいくつあっても足りない。訳もわからず、そのまま異世界で御臨終なんてこともあり得る。
俺が同意すると、みな部屋に置いてあった椅子に腰掛けた。
長くなりそうだ……
◆
「この世界には昔、神と人と天使と悪魔だけが存在してたんだ。人ってのは神樣が作った存在で、天使と悪魔は神さまの兵隊だったんだ。だが悪魔にとって人ってのは極上の肉だったらしくて悪魔は人を喰いまくったんだ」
案の定、難しくて長い話になりそうだ。
「それに怒った神樣は悪魔を殲滅しようと、悪魔に天使を差し向けるんだ。この時起こった戦が、さっき言った天使対悪魔の戦争……【天魔戦争】だ」
「……どうなったんすか? その【天魔戦争】は?」
「まぁ結果的に言ったら引き分けだな」
「引き分け、か……」
ゼノは少しだけ黙った。
「……戦争は苛烈を極めて、ついには天使と悪魔は全員肉体が消滅したらしい。魂だけになった悪魔は人以外の種族、いわゆる【魔族】に、天使は【迷宮】にそれぞれ転生したと言われてるんだ……と、まぁここまでがこの世界の神話であり、御伽話みたいなもんだ」
なんだか凄い昔話だなと思っていたらふと、俺はあることに気づいた。
「も、もしかしてだけど……人間が魔族を迫害したり、奴隷にしたりするのって……」
「……竜斗お前、割りと頭の回転早いな。そうだ。その神話を元に魔族を迫害しようって思想が人間たちには深く根付いてるんだ」
「この思想ってのが2つあって、1つめが天使が転生した迷宮は人にとって試練で、攻略することで神様からの恩恵【神珠】が与えられるってやつだ。そして2つめが神様を怒らせた悪魔は決して許せる存在ではなく、悪魔が転生した魔族たちは忌むべき存在だって考え方だ」
俺はゴクリと唾を一飲みした。
レイナとガオウは一言も喋らず黙って聞いていた。
「ちょっと話は変わるんだが現在この世界は、大きく分けると4つの国が存在してる。
1、魔族を軍の兵隊や、労働奴隷にしている【アーク帝国】。
2、魔族をペットみたいな愛玩奴隷や性奴隷にしてる【ホウライ王国】。
3、神様を崇めてて、さっき言った2つめの思想が最も根深い【スレイヤ神国】。
4、【アルカディア国】みたいな各地に散らばる魔族の国々。
大まかにいったらこの4つだな。【帝国】と【王国】は前者の思想が強くて魔族に対する扱いもまだましな方だ」
ゼノが説明し終わるとガオウが重たい口を開いた。
「ゼノが言った【スレイヤ神国】。ここは後者の思想が強く……相当危険な国だ。我が出会った時に話した【奴隷になった魔族の末路は悲惨】だと言ったのは、主にこの国のことだ。そして我が【スレイヤ神国】を偵察した結果、【神国】はそう遠くない未来、ここアルカ大森林を探索する軍を編成し、遠征してくるらしい」
「!? それってかなりヤバイんじゃ……」
「ああ、かなりヤバイな。ただ今すぐどうこうと言うわけではないのだ。【スレイヤ神国】にも色々と事情があるらしく、遠征に関しても意見が割れているらしい」
「それなのにそこの姫さんは焦って、この国にある秘宝中の秘宝、この国に1つしかないランク【SS】の神器を発動させたんだ」
「まさかそれって……」
俺はゆっくりとレイナに視線を向けた。
「はい。扉の神器【変わる世界】、属性は【次元】、能力は【召喚】、ランク【SS】の最上級の神器でした」
「でした?」
「竜斗様を召喚した後、粉々に砕けてしまいました。今は欠片だけを所持しています」
「…………」
ゼノはレイナの頭にチョップを入れた。
「いたっ!?」
「全く……無茶すんなよな。あんたは一応俺たちの大将なんだ。何かあったらどうしてたんだ」
「……スミマセン」
そんなやりとりを横目に俺は腕を組みながら、頭の中で話をまとめていた。
「1ついいかな?」
「どうしました?」
「確かに【スレイヤ神国】がここに遠征しに来るのは、かなり危険だってことは分かった。だけど、それって貴重な神器を使って異世界人を召喚するほどなの?」
3人は黙った。
あれ?
俺なにかマズイこと言った?
「竜斗様には申していませんでしたね……」
重苦しい空気だった為、「申してないことだらけだから!」とは突っ込まなかった。
「現在この世に存在する種族の中でランク【S】を超える者は存在していないのです」
「えっ、そうなの!?」
「人間達の中にもランク【SS】の者は存在しておらず、各国に【S】ランクの者が数名と言ったところです。ただ重要なのはそこではなくてですね……魔族の中には【S】ランクの者さえいないのです」
「そうなんだ…………えっ、それってそんなにマズイの?」
「……かなりな。敵軍の中に【S】ランクの人間が1人でもいたら、今この国は終わる……現状魔族は数でもランクでも人間に勝てていないんだ」
「だから、姫様は【SS】の神器【変わる世界】を使いお主を召喚したのだ。恐らく【SS】相当の力を持つであろう者が召喚されると希望を込めてな」
「ふ~ん」
「ふ~んって……おいおい竜斗、随分と軽く考えてないか? お前という希望は得たが、実際魔族が人に勝てないのに変わりはないんだぜ」
そう。
俺には今いちピンと来ない。
Sランクの人間を見たことないのもあったけど、人間である俺には目の前の3人やドラゴンの方が強そうに見える。
その事を3人に話したら笑って呆れていた。
◆
竜斗には思うところがあった。
英雄といわれた【S】ランクのトウマがランク【ZERO】には勝てなかった。
だがランク【A】であるはずのレイナとガオウは、自分が倒したのもあるが、あのドラゴンから生き残った。
レイナに至っては魔力がほぼなくなりはしたが、ランクが上であるはずの【SS】の神器を使用して死ななかったのだ。
そんな強力な神器を使用して死なないものなのだろうか?
目の前にいる3人は本当に【A】ランクなのだろうか?
竜斗にはそれ以上のような気がしてならなかった……
◆
「と、まぁこの世界についてはこんなとこだ。聞きたいことがあったら、また聞いてくれ。それよりここからは俺の話をしていいか?」
ゆっくりと話を纏めたかったが、俺はゼノの話を聞くことにした。
正直いうと結構疲れてきたが……
「さっきまでの話と関係あることなんだが、俺はランク【S】以上の魔族、或いはランク【S】になる為の手段を長いこと探している」
「それで最初この城にいなかったんだ」
「ああ、2人とはある神器を使って連絡はとりあっていたが、帰ってきたのはさっきだ。2人にはさっき話したんだが結果的に言ったら前者はダメだった」
「そうですか」
「そこで俺は最後の希望にかけて、特殊スキル【神眼】を所持する者を探すことにしたんだ」
「……それって俺が持ってる?」
「そうらしいな。【神眼】には、あらゆるものを見通す力があると言われている」
ゼノは突如両手で俺の肩に手を置き、覗きこむようにして俺の顔、いや瞳を見つめていた。
「竜斗、お前は【神眼】の持ち主だと聞いた!」
「えっ!?」
「今ここで俺に【神眼】を使ってみてくれ!! やはり【S】ランクの魔族は存在しなかった。なら後は俺たち自身が【S】ランクになるしかない!! だが方法が分からない……【神眼】を使えば何か分かるかも知れない」
ゼノは、藁にもすがるような思いで俺の肩を握りしめていた。
「……えっと、はい、出来るか分かんないっすけどやるだけなら……」
「ありがとう」
ゼノは俺から距離をとった。
俺は右眼を集中させてゼノを凝視した。
右眼が熱くなるのを感じた。
「おお……それが金色の瞳、【神眼】か……」
ゼノの反応からすると、どうやら自分の意思で発動には成功できたみたいだ。
だがゼノを見ても特に何の変化もない。
「……あの~別に変わった様子は…………えっ!? なんだこれ……」
突如ゼノの近くに文字が浮かび上がってきた。
俺はそれを読み上げた。
名前
【ルシファー・ゼノブレイズ】
種族
【堕天族】
クラス
【堕天使】 潜在【明けの明星】
ランク
【A】 潜在【SS】
先天スキル
【属性<光闇>】【業火】【飛翔】【剣才】
後天スキル
【??】【??】
特殊スキル
【魔眼<天>】
神器
【光闇双剣】<双剣/?/?/A>
【バースト・レイ】<籠手/?/?/C>
【ダークロンド】<籠手/?/?/C>
【迦楼羅(壊)】<刀/?/?/B>
【??】
【--】
【--】
説明回です。