過去との邂逅。
みなさんこんにちは、そしてこんばんは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す。元気だったかな?
今回で抜刀できない少女と騎士道ガールは最終話です。
いや~駆け抜けたね。ハイペースでがんばったよ間宮冬弥は。
では、さっそく最終話をお楽しみください。それではっ!
「那凪ちゃん。ホントにいないんだ」
月曜日。空は雲が陰りどんよりと曇り空。テレビの天気予報では午後から晴れるとの予報なので傘は持ってきてない。
新京連線 前原駅。
ここでいつもなら那凪ちゃんと待ち合わせて、電車に乗っているけど昨日メールで書いてあったとおりに那凪ちゃんはいない。
「ひとりで乗るのってなんか初めてかも」
入学してからいままでずっと那凪ちゃんと一緒に登校してたからなんか……寂しいな。
◆
新妻沼に着いてJP妻沼で総武線に乗り換えて、西船橋で降りて徒歩で学校へ向かう。
「よし」
そして、通学路で学校まで1.5キロメートルで止まる。
「この前はポイントゲットできなかったからな」
カード型学生証端末を起動させ、ポイントをタップ。そしてシューティングを選んでフィールドはそのままに設定。難易度はいつも通りにノーマルで。
武器これまたいつも通りに刀を選択。もちろんオプションで鞘も追加。
そして空想具現武装端末をカバンから取り出し、AボタンとトリガータイプのBボタンを同時押しして刀へと変化させる。
「ふぅ……」
カバンからホウキのキーホルダーをはずし空へ投げる。スターブルームへと変化したキーホルダーにわたしのカバンをくくり着けて準備は完了。
「よし、いくぞっと!」
クリアパネルのスタートをタップしてシューティングを開始した。
「はぁっ!」
動いていない球体と動く球体。それらをどんどんと割っていきポイントが加算されていく。
お腹の痛みはまだ引いてないけど、なんだか今日はすこぶる調子がいい。
「よし、これで最後!」
最後の球体を割ってシューティングが終了。クリアパネルには『パーフェクトクリアボーナス30ポイント』と表示されていた。
「あ、初めてパフェ取った」
初めてのパーフェクトで喜んでわたしのポイントフィールドが終了した。
「やっぱり先輩いないんだ」
『今日も』志々倉先輩はいない。今日も? ……おかしな。なんでわたしは……なにかを期待してるんだろう?
昇降口でポイント端末に学生証かざし、登校ボーナスを得て教室へと向かう。
でも、この時のわたしは知らなかった。放課後に那凪ちゃんと『本気』で戦うことになるなんて……
◆
放課後。午後三時。わたしは下校ボーナスを得て、校門をくぐる。
出たところで那凪ちゃんに『学校出たから、今から行くね』とメールを打った。
そして、電車を乗り継ぎ、歩き、昨日の公園へと着いた。
「那凪ちゃん。まだ来てないのかな?」
噴水の前で那凪ちゃんを待つ。そういえば待ち合わせの時間は決めてなかったけ。
おもむろにスマホを取り出しメール作成画面を立ち上げる。
「今、どこにいるの? わたしはもう着いたよっと」
打ち終わり送信ボタンに指を伸ばす。
「お久しぶりですね。姫乃木さん」
指が固まる。そしてわたし自身も固まった。
この声は……聞き覚えがある。忘れるはずもない。忘れられるはずがない……
「……なんで?」
頭の中が真っ白になる。胸が急激に上下する。胸の鼓動が高鳴る。心拍数が急上昇するのが自分でもわかる。
そして目の前の『人物』を恐る恐る認識する。
「二年ぶりだね。元気だった?」
「……あぅ」
そこには車いすに座ったセミロングにサイドテールの髪型の女の子……わたしが彼女の武士道を終わらせてしまった『霧島かなた』がそこにいた。
「突然ごめんね。でも、どうしても伝えたい事があったから、兄さんに手伝ってもらって姫乃木さんの入った高校を探しちゃったよ。あ、後ろにいる無愛想なひとが兄さんね」
チラッとみる。後ろにいる男のひとはじっとわたしを睨んでいる。
「兄さん。そんな目で姫乃木さんを見ないで。姫乃木さん怖がってるでしょ」
「……すまん」
「なんで……ここに……?」
「? ああ、それは姫乃木さんの幼なじみさんに手伝ってもらったからだよ」
「幼なじみ……那凪ちゃん……が?」
どうして、那凪ちゃんどうして……
わたしは背を向けその場を逃げ出ように早足で歩きだす。
「姫乃木さん。逃げないで!」
「……で、できないよ。だって、わたしは霧島さんにあんな目をあわせたわけだし……」
背を向けうつむき、言葉を吐き出す。
「その事? なら気にしないでいいよ。もう終わったことだよ。それにあれは事故で負けたのは私が弱かっただけ」
「でも、わたしのせいで……霧島さんは……下半身不随で……車いすでの生活になって……わたし、わたし」
わたしは泣きたくなる思いを必死で堪える。
「……大丈夫だって。二年かかったけど直ったから。見て。ほら」
向き帰り霧島さんを見た。
霧島さんは車いすの手すりに両手をかけて立ち上がっていた。
「治って立てるようになったんだよ。だから大丈夫だよ。あっ!」
「無理するなって!」
バランスをくずし倒れそうになるのを後ろのお兄さんが受け止める。
「ほら、ゆっくり座れ」
「ごめん、兄さん」
車いすに座り霧島さんが口を開く。
「ホントに……?」
「うん、大丈夫だよ」
「よかった……ごめん。わたし……ごめん」
治った……治ったんだ……ホントに。目の前の霧島さんは治ったんだ……
堪えていた目から大粒の涙が溢れる。
「ほら、涙拭いて」
車いすを自分で引いて姫乃木さんはわたしの目の前まで
来てハンカチを渡してくれた。
「何度も病院に行って謝ろうと思った。でもあの一回が限界だった……怖かった。怖かったんだよ……」
「もういいよ。ほら泣きやんで」
「ごめんなさい……ごめん……なさい!」
ごめんなさい……もうこの言葉しかでない……
◆
「落ち着いた?」
「うん……ごめんなさい」
自分でもわからないくらい泣いた。たぶん数十分。でも、霧島さんはずっとわたしの隣で黙って泣き止むのを待ってくれた。
「ねぇ、姫乃木さん。落ち着いたところでごめんだけど、姫乃木さんは私のせいで武士道をやめたの」
「それは……」
「答えてくれる?」
真剣な眼差し。その真剣さがわたしの心を思いっきりえぐり取る。
「うん……」
「なら、いますぐにここで復帰して」
「それは……でも……」
「私のことが後ろめたい? さっき見たでしょ? 私は大丈夫直った。来週からリハビリも始める。そして必ず武士道を再開して……姫乃木紫苑。あなたを倒す!」
「霧島さん……」
「でもね。そのときあなたがいないと困るの? なんでかわかる? 私の復帰戦は姫乃木さんって決めてるから。勝手だと思う? 思ってもらって結構。だから武士道をやめないで。ううん神夜さんから聞く所、完全にはやめてない。違う?」
「……それは……」
答えに迷う。辞めたといっても基礎鍛錬は続けているし、納刀状態での技の練習もしてる……
「隠さないで。神夜さんから全部聞いてる」
「……うん、完全には辞めてない」
那凪ちゃんから聞いているのなら隠してもしょうがない。正直に言おう。
「そう、なら姫乃木さんの復帰戦。今からしようよ」
「えっ!?」
わたしは驚き霧島さんを見た。できるはずがない……だってまだ完全には立てないはず……?
「と、言っても見ての通り今の私には無理。本当なら姫乃木さんの復帰戦は私が努めたいんだけどね、今回は譲るわ」
「……譲る?」
譲るって誰に……? 誰に譲るの?
「……遅いなぁ……もうそろそろ来てもいいのに」
「あの、来るって誰が?」
「姫乃木さんのよく知るひとだよ」
「よく知るひと……?」
よく知るひとって……
「あ〜遅いよぉ。待ちくたびれるところだったよ」
「ごめん。思ったよりも時間がかかっちゃったんだ」
「……えっ」
霧島さんの視線が噴水の後ろへと移る。そしてこの声。わたしはよく知っている。子供の頃から聴いている知る声。童顔や幼児体型。背が低い。胸が小さい。そんな事を言うと不機嫌になるわたしの幼なじみの女の子。
「な、那凪ちゃん……」
「オッス紫苑」
紺のブレザーと紺のスカートの制服に赤のネクタイ。灰色のセーターを着て、二個のソードホルダーを持った背の低い女の子。見方によっては中学生に見えるその子は燃えるような赤い髪のポニーテール。そして、今日はスカートの下にスパッツ? みたいなのを履いている。
名前は神夜那凪。幼なじみの女の子がそこに居た。
「那凪ちゃん……?」
「ごめんね紫苑、騙すようなマネして。でも結果的に過去を吹っ切れたでしょ?」
「……ひどいよ……那凪ちゃんが仕込んだんだね」
「あはは、まぁ否定はしないよ。ほらこれ」
「咲夜?」
那凪ちゃんはソードホルダーからわたしの愛用していた刀『双樹咲夜』を取り出し、わたしの渡してきた。
「布が……」
白い布がはずされている……
「いつも行く教会に神父さんがいなくてね。かわりに新人のシスターさんに施してもらったから手間取っちゃってさ。でもかわりにタダにしてくれたからめっけもんかな」
「教会に? じゃあ」
「うんそう。紫苑の咲夜に『マナの祝福』を施してもらってきた」
「そうなんだ……」
あの布には誓いや思いが込められてたんだけどなぁ。
「……本当なら紫苑が自分ではずして欲しかったんだけど、どうしてもマナの祝福を施すには『抜き身』である必要があるから……ごめん」
「……いいよって、あれ?! じゃあもしかして、わたしの部屋に入ったの!?」
「入ったよ?」
「ええええぇえええええぇええっ〜〜〜〜〜〜〜!!」
ちょっと待って! えっ? ホントに!?
「なに驚いてるの? 小学生の時はよく紫苑の部屋で遊んでたじゃない?」
「ううっ〜〜そうだけどぉ〜じゃあ、クローゼット開けたの?」
「うん、だってあんたって昔から大事な物をしまうのはだいたいクローゼットでしょ? だから一発でわかったよ」
「ううっ……どうだった?」
「ん?」
「クローゼットの中。那凪ちゃんから見てどうだった?」
「……そうだねぇ、汚くて整理整頓できてなくて……ひと言で言えばひどい有様」
「ううっ……ひどい言われようだよぉ」
やっぱり……汚いんだクローゼット。
自分でも薄々気づいていたけど……ひとに言われるのはかなりこたえるなぁ……
「あ、そうだ」
那凪ちゃんは地面に置いたカバンにかけより中身をゴソゴソと探る。
「はい、これも」
「あっ……」
渡されたそれは、咲夜を固定連結させるための腰の巻くベルトだった。
「ベルトまで……」
「ごめんね、勝手に部屋をあさるようなマネして。でも紫苑のお母さんと一緒に探したから許してね」
「ううん、いいよ」
「よしそれじゃあ、やろう。『復帰戦』」
那凪ちゃんがソードホルダーから『セルシウス』を取り出し、鞘から抜く。
まったく。気が早いな……まだ戦うなんてひとことも言ってないのに。
「……でも」
迷う。本当に咲夜を抜いていいのか……そして自然と視線が霧島さんを捕らえる。
「紫苑?」
「神夜さん。すいません少し時間をくれる」
霧島さんが……わたしを見据える……
怖い……怖いよ……
「姫乃木さん。これから三分間考えて。自分がどうしたいのか」
「えっ?」
「迷っているなら、三分間で全力で考えて、そして答えを出して。私は姫乃木さんが下した決断に従う」
「……」
たったの三分間……
「抜きたくないならそれでいいし、復帰もしたくなければしなくていい。だから三分間だけ、自分と向き合って」
「三分……」
短いよ……たったの三分だなんて……
「……」
那凪ちゃんは黙ってセルシウスを鞘にしまい、踵を返して、わたしに背を向けて霧島さんの元へと歩きだした。
「……」
わたしは……どうしたんだろう? どうなりたいんだろう?
霧島さんはもう治った……だからもう……大丈夫なんだよね……だからわたしは……『思いっきり戦って』もいいんだよね……
でも、もしまた霧島さんのように相手に怪我を負わせてしまったら……それを考えると……
「咲夜……」
わたしの愛刀は答えてくれない。答えをくれない
どうなりたいんだろう? わたしはどうしたいんだろう……
『紫苑はなんでまだ、納刀状態のだけの練習をしてるの?』
那凪ちゃんの言葉が思い出される。
「武士道がしたいからだよ……辞められないからだよ」
『武士道に未練がおありですか?』
志々倉先輩の言葉がよぎる。
「未練……ありまくりだよ……」
どうすればいいの?
『願わくば姫乃木さんの一生で一度の高校三年間が『後悔がなく』有意義になることを祈ってます』
後悔がなく……一生に一度の高校三年間……
「うん。そうだね。もう……昔から答えは出てるんだ……後悔しないために……」
咲夜の柄を強く握り、咲夜を少しだけ抜く。
「マナの福印は……ある」
刀身の根本に金色に光る魔術刻印。これがマナの祝福を施してある証拠の印。『マナの福印』
「よし……」
腰を落とし半身の状態になる。
「那凪ちゃん。やろう!」
霧島さんのとなりで何かを話していた那凪ちゃんに声をかける。
「やっと、決心がついたのね。遅いわよ」
那凪ちゃんがセルシウスを抜きゆっくりと歩み寄ってくる。
「うん、後悔をしないために!」
志々倉先輩……あなたがいなければわたしは……きっとまだ……今はとにかく! ありがとうございます!
「お腹大丈夫?」
「うん、すこし痛いけどもう大丈夫」
さする。うん、大丈夫だ! 攻撃されなければ痛みは感じない。
「そう、よかった。で、咲夜。抜かないの?」
「那凪ちゃんは知ってるでしょ? わたしスロースターターなんだよ」
「ああ、そうだったわね。『二年間もエンジンに火を入れてなかった』からね」
「うん、だからわたしのエンジンに火をいれてね」
「まったくワガママね。いいよ」
那凪ちゃんがセルシウスを引き騎士道独特の構えを取る。
「じゃあ、そろそろ」
「うん」
お互いに見据える。
「正々堂々と……」
「いざ尋常に……」
「「勝負!」」
駆け出し、那凪ちゃんとの二年ぶりの本気の戦いが始まったのだった。
◆
「よし」
昨日、那凪ちゃんとの本気の戦いを終えて迎えた火曜日の放課後。
わたしは今、武士道同好会の練習場である校庭にいた。
「えっと……」
見渡すと校庭の端の方で武士道着を着て刀の素振りをしている四人の女生徒を見つけた。四人のうちのひとりはわたしがいまから会う人物。志々倉真乃先輩だ。
「あら、姫乃木さんじゃないですか?」
「どうも」
「ごめん、少し抜けるね」
わたしに気付いた先輩がこちらへと向かってくる。
「どうしましたか? あ、遊びにきましたか?」
「いえ、違います。入部しに来ました」
「えっ……本当ですか?」
先輩はすこし戸惑いながらそんなことをわたしに聞いてくる。先週の今日だし驚くのは無理ないかな?
「はい。この武士道同好会に、いえ武士道部に入れてください」
「ホントのホントなんですか?」
「はい。ホントのホントです!」
先輩はまだ、少し疑っているようだ。
「ありがとう姫乃木さん。私は喜んで歓迎いたします。で、姫乃木さん。ひどい顔ですね」
「あ、はい。まぁ……」
顔には昨日那凪ちゃんとやりあった傷跡がくっきりと残っている。バンソウコウを貼ってもまぁ、目立つよね。
「顔に傷がありますよ。それに手にも。誰かは知りませんが、だいぶ痛めつけられたようですね」
「はい」
「痛めつけられたのにすいぶんとすっきりとした顔をしています。どうやら過去との決別を果たしたようですね」
「先輩のおかげです」
「? 私は何もしてませんよ?」
「いえ、わたしと出会ってくれました。ありがとうございます」
「言っている意味がわかりませんが……」
「今日からよろしくお願いします!」
わたしは大きな声で先輩に頭を下げた。
「わかりました。では、ようこそ武士道同好会……いえ、武士道部へ!」
後悔しないために……わたしはここから一歩踏み出した、歩き出していくんだ。
抜刀できない少女と騎士道ガール・完
●おまけストーリー『騎士道少女とサムライガール』に続く。
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。間宮冬弥です。
今回で最終話です。ですが、最後まで読んで頂いた方はご存知でしょうが、まだ「おまけストーリー」として続きます。紫苑と那凪のバトルの決着までを描きます。
新規としてではなく『抜刀できない少女と騎士道ガール』の第十話としてアップしますのでしばらくお待ちください。
なんでオマケストーリーにしたかと言うと、主人公も視点も紫苑としてではなく、那凪の視点で描くからです。
主人公が変わると『抜刀できない少女と騎士道ガール』ではなくなってしまうと思ったから本編ではなく『騎士道少女とサムライガール』としておまけストーリーとしました。何話で終わるかまだわかりませんが、そんなに長くならない予定です。
では、少し長くなりましたが、これで失礼します。