駆ける痛み。
おはようござます、こんにちは。そしてこんばんは。
作者の代弁者の紫乃宮綺羅々でぇ~す。元気してた?
最新話の第八話ができたのでさっそくアップしまっす!
いよいよ物語も佳境! 最後まで括目してね!
んで、先日、間宮冬弥に『ベホイムちゃんの憂鬱』で軽く怒られました。勝手に次回作決めないでってね。と、言うわけでごめんね。次回作は未定でぇ~す。
では、第八話をお楽しみください。それではっ!
「うそっ!!」
那凪ちゃんが叫んで駆けた。そしてその迅さは、わたしの視界からの認識がはずれて……再認識したときはすでに目の前!
「は、迅い!」
志々倉先輩の抜刀術よりも……はるかに速い神速の駆け一閃!?
「くっ!」
とっさに真上へと跳躍してこれを回避。
対処法が跳躍。これはまずい……かも!?
「空へと逃げたわね!」
駆け抜けた那凪ちゃんはすぐに振り返り、剣を引いた……?
「!!」
那凪ちゃんの口の端がつり上がって……直撃させる気満々の笑みへと変化している?!
「舞い上がれ!」
引いた剣を腰を落とし、脇を締めて……回転を加えて突き出した! 会心の紫電がくる!
「雷光一閃・紫電!」
「この状態!?」
空中で体勢が立て直せないけど、あの紫電の速さならなんとか防げるはず!
「えっ……? うそっ……!」
剣の、突きの軌跡が見えない!? さっきの紫電より……迅い!?
わたしはとっさに咲夜の柄を握る。
「あ……れ?」
布でガチガチで巻かれた咲夜は抜くことができなかった。
「そっか……ぐっ! ……はっう!」
突きは腹部に思いっきり直撃。
「うっぐっ……」
ふっとばされたわたしは背中から地面に直撃。
「いっ……たぁ〜」
片膝を着き、お腹を押さえ鞘に収まった咲夜を杖にして倒れそうになるのを必死でこらえる。
「どう紫苑? 私、強いでしょ?」
痛みをこらえて、伏せているわたしに那凪ちゃんが見下す。
「ゴホっ……うん、強いね……」
見上げ、那凪ちゃんの顔を見る。
まったく、もう……ホントに強いなぁ。
「ありがと」
痛みで……油断したら……意識が……
「気絶ちる前に聞いて。抜刀した紫苑こんなもんじゃない。もっと強いの」
「そう……なんだ……」
あ、もう……ダメかも。
「那凪ちゃんごめん……わたし」
「……わかった」
咲夜がするりとわたしの手から離れて……
「痛かったでしょ? ごめんね」
「少しは手加減してよね……」
「あんたは手を抜きすぎよ。納刀だけじゃ私には勝てないよ」
「もう、言い方がキツイよ……」
倒れ込むわたしを那凪ちゃんは優しく受け止めてくれた。
わたしの意識はその後、痛みで気絶した。
◆
「うっ……ん」
「おはよう紫苑」
そして目が覚めたのは那凪ちゃんによると一時間後だったらしい。
午前九時四十五分。
那凪ちゃんの紫電の練習はこの時間をもって終了を迎えるのだった。
◆
「じゃあ、私はこのまま妻沼に行くから」
「妻沼に?」
ロッカールームで帰り支度を済ませたわたしと那凪ちゃん。
「うん、お母さんがまたボノボルを買ってきてってさ」
「その格好で? 妻沼まで行くの?」
「……そうだけど? 何で?」
「そ、そんなんだ……」
う〜ん、あの上下『ばなっしー』モチーフのウェアで行くのか……
「この前のお店? ならわたしも付き合おうか? あ、いっつぅ……」
「いいよ。紫苑はまだお腹痛むでしょ?」
「あ……うん」
お腹をさする。痛みはまだ引かない。というかむしろ時間が経つにつれて痛みは強くなっていく。
「いいから紫苑はまっすぐに家に帰って休みなって」
「ごめんね」
正直、痛みが引かなくしゃべるのもつらい。
「謝らなくていいよ」
「うん、じゃあお言葉に甘えて」
「それでいいよ。じゃあね」
「うん、また明日。駅でね」
「オッケ〜」
こうしてわたしは家へ、那凪ちゃんは妻沼へと向かうのだった。
◆
「スーパーサイヤ人になれるのに……ならないサイヤ人」
神夜那凪。彼女は幼なじみである姫乃木紫苑をそう揶揄している。
姫乃木との練習が終わった現在の彼女は、母親から頼まれたお菓子を買うために、妻沼のモルボルにある『お菓子タウン』へと向かう途中だ。
そんな神夜は父親がゲーム好きの影響で神夜自身もゲームが好きになった。
ある日父親とプレイした格闘ゲームを思いだして、姫乃木を先の『スーパーサイヤ人になれるのにならないサイヤ人』とそう表現しているのである。
「いつになったらあんたの抜刀を見られるの?……ねぇ紫苑」
いない相手に問いかける。もちろん答えなんて返ってくるはずがない
新京連線・新妻沼駅からモルボルに行くには必ずと言っていいほど、JP妻沼駅の構内を通らないといけない。しかしモルボルへの行き方はいくつかあるが悲しいかな神夜はJP妻沼駅経由ルートしか知らなかった。
「あの、すいません」
駅の改札通りを通り抜けようとしたときに神夜の耳に声が入った。
「ふぇ?」
神夜は後ろから話しかけられたのか後ろを振り向くとそこには『車いす』乗った神夜と同じくらいの女の子。
その後ろには年上の男性が車いすを引いていた。
「えっと、わたしですか?」
「あっ、えっとぉ〜」
車いすの少女はなんだか歯切れの悪いたどたどしさで神夜を見ていた。
「なんですか?」
「あ、えっと、ごめん中学生だよね? ごめんね」
「違います。高校生ですけど? なにか?」
「えっ!? そうなの?」
「……身長はこれからどんどん延びますから。成長期ですから。で、なんか用なんですか?」
神夜はかなり機嫌が悪くなっていた。そして、自分と同じくらいの身長の母親を思い出し、母親も当時は同じ事を言っていたのかなと思う。
「はぁ……はい……あの突然でごめんなさい。えっと失礼ですけど、この女の子を探しているんだけど知りませんか? えっと……あ、あれ?」
車いすの少女は持っていたカバンを開け中を探る。
「ほら、こっちのポッケにはいってるぞ」
「あ、ありがとう。兄さん」
そして、神夜に見せられたのは中学生くらいの女の子がひとりで写っている一枚の写真だった。
◆
「いつつ……まだ痛むや……これはしばらくは引かないな」
お腹をさする。やっぱり時間が経つたびにお腹の痛みは増していく。
「お昼ご飯……食べられるかなぁ……」
自宅の自室に戻り、ゆったりした少し大きめの部屋着に着替える。
「う〜ん……これは、やっぱりしばらくかかりそうだなぁ……いっつつ〜」
上着を脱いで姿見の鏡を見る。お腹にはくっきりと青あざができている。
「いたっ! いたたっ! 痛いっ!」
自分でも何回言ったかわからないほど『痛い』という単語を繰り返し言葉にして吐き出す。
「ふぅ……」
なんとか着替えが終え、壁に立てかけている咲夜を手に取る。
「……最後の紫電……わたし無意識で抜刀しかけてた」
那凪ちゃんとの練習を思い出す。手合わせの時に見せた最後の紫電。あれは今日見た中で一番迅かった。
もし、布が巻かれてなかったらわたしは前科者になっていたんだと思うと、ちょっとゾッとする。
「無意識に……抜刀……か」
抜刀しないと対応できない。わたしの身体が、脳が、経験がわたしの意志に関係なく無意識でそう判断したんだ……
「……」
武士道をやめて二年……二年間は穏便に過ごせたのに、陽奈森高校に入って……志々倉先輩に出会ってから……何かが変わった気がする……歯車が噛み合ってない気がする。……違うかな? 今までが噛み合ってなかったから噛み合ってる?
「もう、なんだかわかんないや」
考えるのをやめて、咲夜をクローゼットに入れてわたしはリビングへと足を向けるのだった。
◆
「あっ、くぅ〜もう少しだったにのぃ!」
午後七時頃。特に見るテレビがないので部屋に戻ってスマホでリズムゲームをプレイ。
「あう〜ラブラーストーンを使おうかな……」
画面には『ラブラーストーンひとつ使ってコンティニューしようよ』と、女子高生アイドルの子がすすめてくる。
「どうしようかな〜」
決して多くないラブラーストーンをひとつ使う。無課金で進めているわたしにとっては結構考える所だ。なくなれば課金して増やせるけど、それはしてない。
「いいや、別の曲をやろっ!」
結論つけて、『いいえ』をタップ。
那凪ちゃんが教えくれたこのリズムゲームは結構おもしろい。無課金でも結構楽しめる所がとてもいいよ。
「どれにしようかな……ん?」
曲を選んでいるとスマホから着信音がなり、画面上部からお知らせウインドウが降りてきて『メールあり 那凪ちゃん』と表示された。
「那凪ちゃんから?」
リズムゲームを切り上げ、メールアプリを立ち上げる。
「明日、学校が終わったら今日紫電の練習をした公園に来てって……」
本文にはそれだけしか書かれていなかった。
「何の用だろ? また紫電の練習かな?」
返信で『また紫電の練習?』と打ち返す。
「おっ、早いな」
わずか数秒で返信が来た。
「学校が終わったらメールしてって……質問の回答になってないよ?」
返信で、『何の用なの?』と打ち返す。
「おっ、早いな」
ものの数秒で那凪ちゃんから返信がくる。
「とにかく公園に来てって……何の用かも言えない用なのかな?」
わかった、けどホントに何の用なの? と打って返信。
「来た」
那凪ちゃんの返信メールには『明日、朝練になったから一緒に登校できないんだ。ごめんね。んで、早いからもう寝るから』との一文。
「……何だろ? また手合わせしてって言ってくるのかな?」
なんだか不安が残るけど、那凪ちゃんからこれ以上の返答は望めなかったのでわたしはリズムゲームに戻るのだった。
第八話・完
最後まで読んで頂きましてありがとうございます。間宮冬弥です。
楽しんでもらえたでしょうか?
第九話ですが、まだ出来上がってないので、遅くなると思います。期待せずに待っていただけるとありがたいです。
では、これで失礼します。