第参話 玄武同盟
深夜、月明かりの下で互いの胸中を打ち明ける水奈月と奏人。二人の夢は実現できるのか……。
そして幹部内で蟠りを抱える白虎乃國はこの先どうなっていくのか。
その日の晩のことだった。奏人は夜中に御不浄へ行こうと部屋を出た。そして大広間を抜け反対側の廊下へと進む。
すると、その先にある庭園で水奈月が空を見上げ歌を歌っていた。
「る――るる――るるら――」
歌詞は特になくただメロディを口遊むだけ。
「(あいつ、こんな夜中に一人で何してんだ?)」
そう疑問に思ったものの、彼女が歌うそれがあまりにも美しく、つい聞き入ってしまい、本来の目的も忘れてしまった。と言うより生理衝動が収まってしまった。
如何いった構造なのかはよく分からないのだが、この庭園は天井吹き抜けになっており地上から月の明かりが入るようになっている。彼女の黒髪がそんな月明かりを反射してきらきらと新緑のように煌めいていた。
「るるる――るる――」
そこで彼女は口を閉じた。歌が終わったようだ。
パチパチパチ。と手を叩きながら、奏人は水奈月の元へと歩み寄って行く。そこで向こうもこちらに気付いたらしくハッと顔を向けてきた。
「み、見ていたの――」
少し恥じらうように顔を赤らめている。その表情に奏人はドキッとした。
「あ、ああ。綺麗な歌だな」
「ありがとう。これ、昔兄さまが歌っていたものなの」
「兄がいるのか?」
そう問いかけると、水奈月は俯いてしまった。
「正確には、いた、だわ」
今は? と再び問いかけようとしたが口を噤んだ。もしかしたら訊いてはいけないことかもしれない。
しかし、彼女は自分から語りだした。
「五年前に兄は『戦国の先にある世界』というものを目指して旅立ったの。物心ついた時から兄と二人きりで、両親の顔なんてしらなかったウチは彼がいなくなって心の拠り所がなくなったの。このお店は祖母が切り盛りしていた店で二年前に亡くなられてからはウチが一人で経営してる」
彼女は言葉足らずに紡いでいく。奏人もしゃべり方のニュアンスから水奈月がいかに寂しい日々を過ごしてきたのか何となく分かった。
「……菊子に聞いたわ」
そこで突如話題を変えてきた。
「貴方の故郷、滅ぼされたらしいわね」
「ああ。俺の生まれ育った村はもうないんだ」
二人の会話が影を帯びていく。そんな感情を読み取ったかのように、月も雲の中へ隠れて言ってしまった。
「菊子が元盗賊だというのは聞いた?」
「ああ。だがそれと何の関係が――」
水奈月は少しの間口を閉じた。
そして、息を一つ憑くと再び話題を切り出した。
「彼女実は東国の大名家の姫君なの」
「……は?」
奏人はすぐにそれを呑みこむことが出来なかった。大名家? 姫君? 何の話をしているのだ?。
「日ノ本の東の果てにある国、青龍国。彼女はそこの生まれだった。しかしその国は隣国を食い物にし、暴虐的な政治を行っていた。それに嫌気がさした菊子は自分の付き人と共に国を出た。そしてこの雲麻周辺に辿り着き、盗賊のふりをして放たれていた追手の目を欺こうとしたのよ」
「それで、そのあとどうなったんだ?」
「結局追手に見つかってしまい、交戦した。付き人だった人は行方不明に。そして刃を交えて傷を負った彼女が川辺で倒れていたところをウチが偶然発見してここに匿ったんです」
如何やら彼女らの出会いにはかなり複雑な経緯があったらしい。奏人には想像もつかないようなことであったが、二人とも過去に哀しい記憶と傷を背負っていることは十分に分かった。
そしてもう一つ分かったことがある。何故昼間、菊子が自分に懺悔を繰り返してきたかだ。
「俺の故郷を滅ぼした軍勢は、あいつの国の連中だった、てことか――」
そう呟くと、隣で水奈月が小さくこくんと頷いていた。
しばらくの間二人を沈黙が包んだ。如何話を切り出すべきか分からない。
「そういえば、このギルドってもう一人メンバーがいるんだよな? そいつは如何いう奴なんだ?」
とりあえず彼は自分が疑問に思っていたことを適当に吐露してみた。
「ジラのこと?」
「ああ。多分そいつだ」
「彼女は、この日ノ本の人間ではなくて遠い、海の向こうにある異国からやってきたの」
水奈月が淡々と語り始めると、奏人はそれを黙ったまま聞いていた。
「その国の商船に乗って日ノ本へ来たらしいのだけれど、途中で船が嵐に会って、そのせいで仲間はほとんどが海に放り出されて行方知れずに。その後河菜にある港へ辿り着いたらしいわ。そのころには船に残っていた仲間ももう死んでいた。そりゃあね。漂流していた期間は五日はあったらしいし。そのうちに大体の人間が飢えて死んでいった。結局生き残ったのは彼女だけ。そして漂流先の地域を旅している内に雲麻へやって来て、このギルドに身を置いたってわけ」
「そうなのか。皆ろくなモン背負ってねぇな……」
ここまで話を聞いてきた奏人はあまりにも重く辛い現実に打ちのめされそうになった。唇を固く結んで上を見上げる。
「奏人くん。如何かした?」
「ああ。ますます思えるようになったよ。人々に悲しみばかりを背負わせているこの戦国を早く終わらせないといけないって。そのためにもっと強くなって自分の意見を貫き通せるような存在になりたいって」
「そうだよね……。ごめんなさい、ウチにそんな力がなくて」
水奈月は俯いた。見ると相貌が光を放っている。涙を溜め込んでいるのだ。
「何を言ってるんだよ。あんた強いじゃないか。全国七位なんだろ? それほどの力があればきっと何処までも通用するはずだろ――」
「ううん。ウチは弱い。器用には生きられない」
何でだよ⁉ と奏人はつい声を荒げてしまった。深夜なので辺りの音は何もなく、虚しいくらいにその声が響いた。
「ウチがどうやってここまで上り詰めたと思う?」
「それは――。いろんな依頼を受けてこなして、とかじゃあ?」
「いいえ。それだけでは全国序列の中で一桁台になんてなれっこないわ」
その言葉を聞いて、彼はまさかと思った。この花札戦国の時代、序列を上げる方法は様々だが、その中で最も手っ取り早いもの。それは――。
「他のプレイヤー達と戦って、全国七位まで来たのか?」
「その通り。流石に命を取ったりしたことはないけれど、それでも十分ウチは他人の希望や未来を壊してきた。それはもう殺したと同じ事。だからウチは君に尊敬される筋合いはない。悲しみなんて、いくつも背負わせてきた」
奏人は絶句する。言葉が出てこない。一体彼女に何と声をかけてやればいいのか。
再びこの場に沈黙が訪れた。この間、奏人はこれまで水奈月に語られたこのギルドの暗い過去を頭の中で反芻した。行方不明の兄を探す水奈月。祖国から逃げ出して新たな人生を歩もうとしている菊子。異国の地に独りぼっちで放り出されておきながらその地で生きようとするジラ。そして滅ぼされた故郷を蘇らせたい奏人。
事情はそれぞれ違えど、みんな辛い過去を背負っている中、必死に未来を切り開こうとしている。生まれ育ちも、身分も、バラバラではあるものの何処かに似たようなものを感じて惹かれあっている。そんなメンバーで構成されたこのギルドに入ることが出来て彼は嬉しく思えた。ここなら自分の本音で語れるだろう。何も偽ることはない。
「俺は、お前と約束する」
今度は月を見上げ、彼女のことを横目に見ながら。ではなく。しっかりと彼女と向き合ってその眼を見つめて宣言した。
「このギルドを日ノ本一にする。そして、争って哀しい想いをする人をなくしてやる」
「出来ると思っているんですか?」
水奈月は呆れたように聞き返してきた。彼女の言うことももっともだろう。底辺が突然こんな宣言をしたところで何にもならない。
だが奏人は本気だった。その言葉に迷いはなかった。
「俺一人じゃ無理かもしれない。けれど、このギルドが力を合わせれば出来る。そんな気がする。お前はどうなんだ?」
「ウチも――そう信じたい。そして貴方の願いを現実にしたい。これって間違っていないよね?」
「ああ。間違いなんてあるもんか」
そう言って小指を立てた右手を差し出した。すぐにピンと来たように水奈月が同じように手の形を作って指を絡めてくる。
「約束だ」「約束です」
全く同じタイミングで二人はそう発言した。それがつい可笑しくて一緒になって笑った。
この時二人はまだ、心の中に希望と余裕を持っていた。
✿✿✿
奏人と水奈月がそんな風に語り合っていた時とほぼ同時刻。
河菜の国。『白虎大軍』本陣。合戦跡に作られたばかりの、旗で辺りを囲っただけのものである。その中心には総大将、百庫華菜が構えていた。まだ幼い、十を過ぎたばかりの童女である。そんな彼女の白銀の艶のある髪は月明かりを反射し、相貌は赤く不気味に光っている。
「河菜は完全に抑えたのか?」
彼女が口を開いた。問いかけている相手は『白虎大軍』の幹部四人。通称『白虎乃國』のメンバーである。
「はい。ただ、農業国であるにも関わらず戦にて多くの田畑を焼いてしまいました。申し訳ありませぬ」
最初に応えたのは中央に居て、他の三人よりも一歩手前に出ていた女だ。真っ白な肌と、長い黒髪を結わえている林檎をあしらったかんざしが特徴的だった。
「鏡の言うとおりじゃ。それに、民の多くも傘下に入り再び土地を潤そうと行動を起こしているからのお」
次に口を開いたのは後ろの三人の中心にいた大男。
「わたくしの部隊は港方面を仕切らせております」
華菜から見て右側に侍っていた女性もそう続けた。
「わたしはまだ目立った業績は出せておらず。お恥ずかしいものです」
最後に左の青年がそう言い切った。
四人の報告を聞いて、総大将はふんふんと首を縦に振る。理解したのかどうか怪しくなるような仕草だった。
「分かった。各々、ご苦労である。今日は休むがよいぞ」
「「「はっ!」」」
そう言われ、三人は声をそう張り上げた。しかし、一人だけそれには賛成しなかった。
「まず、今度決行する雲麻攻めについて話し合っていた方がよろしいのでは?」
全員の視線が、そう発言した人物に集められる。
長い髪を人房に結わえた、線の細い青年だった。
「茨木。そう申すからには何か策があるのだな?」
華菜がそう問いかけた。
「もちろんのことです」
先程から発言しているのは、『白虎乃國 知将』と称される茨木氷睡。頭の回転が非常に速い男で、戦場には滅多に立たないもののその頭脳で陣を巧みに操る人物である。
「最初に、雲麻南門より塔上どのと仄どのが突入。相手国との全面的な戦闘に入っていただきます」
「儂らがか⁉」
「まあ、妥当と言えば妥当でしょう」
『豪将』塔上初摩。慎重二メートルを超す、筋骨隆々とした巨漢である。年齢は三十と、四人の中では最年長となっている。
『特攻将』仄硝子。二十代前半の小柄な女性で、戦闘力に秀でているため先鋒を務めることが多い。
「その間わたしが東門より潜入いたします」
「馬鹿を言え。東門の先は雲麻裏街だぞ。国とは隔離されたに等しい無法地帯だ。そんなところから攻め入ることが出来ると思って?」
茨木の意見に反対した彼女は、『副将』鏡白雪。華菜の幼い頃からの側近でこのギルドの第二権力者である。
互いに頭の切れる鏡と茨木はあまり仲が良くない。意見の対立は多々あることだった。
「その件ならば関係ない。既に協力を得ている」
「如何いう意味だ?」
「雲麻裏街には非常時の戦闘集団がいる。特定のギルドには属さず、依頼を受けて一時的にその依頼主の傘下におさまる。そんな連中だ」
「まさか、貴様!」
「ああ。買収済みだ」
茨木は鏡から華菜の方へと向き直った。
「独断専行をお許しください。しかし、これで雲麻攻めはさらに簡単なことになったかと。万一に備えわたしの部下が手引きにより潜入しております。今のところ裏切る様子はなしとのこと」
「そうか。影の活躍ご苦労だ」
華菜はそう告げたものの、鏡は不満そうだった。
「(何を考えているのか読めない奴だ……。お嬢に変な真似をしなければいいが……)」
そんなことを考えながら彼の横顔を見つめていると、突如彼の視線がこちらへと移された。その瞬間全身の毛が逆立った。
とてつもないくらいの殺気を感じ取ったのだ。
「(何なんだ、こいつ⁉ 仲間である僕に対して何故ここまでの殺気を放っている⁉)」
その気配に、塔上と仄は気づいていないようだった。今は鏡に対してだけそれが向けられているようだ。
恐ろしくて膝が笑い始めていた。冷や汗が頬を伝うのを感じる。
「(怯えていると言うのか、この僕が! あんな奴に……! ありえない、いや――)」
認めたくはないが、自分は茨木氷睡を恐れている。鏡はそう実感した。このギルドにおいて自分は最も古株なはずなのに。あんな数年前に幹部に取り立てられたばかりの新参者に対して、何故? そんな風に考える。
彼は四、五年ほど前に『白虎大軍』に入り、その才能を見抜かれ幹部である『白虎乃國』のメンバーに居座った。彼の智謀は他の誰よりも飛び抜けていて、ギルドは大助かりしていた。そして彼は取り立ててもらった礼だと言って華菜に『妖刀 人間道』と言う名の花札を献上した。レジェンドレアクラスであり、まさに最強の一振りと呼ぶに相応しいものだった。それを使ってギルドは瞬く間に近隣諸国を制圧。日ノ本全国へと乗り出したのだった。
「(一国の中規模ギルドでしかなかったここを日ノ本最大にまでしてくれたのは間違いなくこいつの力だ。だからって……、自分以外はお嬢のサポートに着かなくていいとでも言うのか? 自惚れ過ぎだ野郎が!)」
先程から心の中で散々悪態をついているが、それを悟られたのか茨木の視線はさらに冷たくなった。
「じゃがしかし……。本当に儂らが真っ先に突入するのか? 流石に無謀すぎるような気もするのじゃが」
ここで塔上が手を挙げて意見した。
「部下の数にもよるが、流石に一国に攻め入るには如何かと思うがの。万一にそなえ本陣にも兵を置いて行かねばならん。そう考えると儂らと共に攻め入ることが出来るのは精々一五〇人くらいになるぞ。いかがします百庫さま」
彼の意見にも華菜は耳を傾け、思考する。
そして塔上、仄を見て言った。
「私は大丈夫。そなたらには二百の兵を遣わす。思いっきりやりたまえ」
「百庫さま⁉ でも、それでは貴女の下が……!」
仄は首を振りながらその提案を断ろうとした。だが華菜は再び大丈夫と呟く。
「私の下には白雪がいる。安全だ」
「お嬢――! そんな、勿体なきお言葉――!」
主の言葉に感激した鏡は思わず嬉し涙を流してしまった。そして今度はこちらから、茨木を睨み返してやる。
「(ほら見ろ。僕の方がお嬢からの信頼度は高いんだよ!)」
相手もそんな感情のこもった視線に気づいたのか、一瞬目を合わせて俯いた。
そんな彼女らの様子を観察している華菜は、呆れかえっていた。
「(確かに皆、力のある頼もしい者達だ。だが、こうも不仲だと日ノ本統一など……)」
それぞれの能力が高く、もはや最強と呼べるメンバーで構成されているこの『白虎乃國』だが、四人とも各々の個性が強すぎて対立が絶えない。中でも茨木氷睡は他の三人の顰蹙をよく買っていた。
華菜はギルドリーダーである以上、自分が彼らを纏めなければと思っているのだが、如何しても言い出すことが出来ない。こんなことでは駄目なのに。自分には、野望がある。『自分の一族を再び日ノ本の象徴として君臨させる』という野望が。それを叶えるためには彼らの力が必要不可欠なのに。
「いかがなさいましたか百庫さま?」
気落ちしているのを茨木に見破られてしまった。『知将』の名はやはり伊達ではない。戦の状況や、他人の表情を読む力に秀でている。
「いえ。私は本当に、再びこの国の頂点に立てるのでしょうか、と」
「それならば問題ございません。この『妖刀六道』の花札が全て揃えば貴女は無敵です」
彼はそう言ってくるが、華菜は如何してもそれを信じることが出来なかった。そんな花札の力だけで天下を手にすることが出来るのだろうか? やはり『プレイヤー』自身に実力がないと生き残っていけないのでは? と思ってしまう。
「『妖刀六道』のうち、『人間道』、『畜生道』、『餓鬼道』はこのギルドが所持、『修羅道』は雲麻で存在を確認。部下に持ってくるように命じました。これで残りは『天道』と『地獄道』の二振り。これさえあれば貴女様はこの戦国時代、いや、さらにその先の世界までも手にすることが出来るでしょう」
氷睡は語る。華菜を含め、この場に居る全員がそれを胡散臭そうな目で見る。だが彼はそれに気づいてか、淡々と続けた。
「確かに我々は不仲だ。しかし貴女を日ノ本の女王にしたいという思いは同じ。そのためにであれば身も心も全てなげうつ覚悟は皆持っております」
その言葉には、鏡、塔上、仄も同意し、頷いた。三人とも内心では「何故こいつに我々の願いを語らせなければならないのだ……」といった想いを抱えていたのだが、そこは黙っている。
しかしその想いは華菜にも伝わっていた。
「(同じ志ならば気持ちを一つに纏められるはずなのに……。如何してわざわざぶつかり合うの?)」
この状況は、大将としては息が苦しい。自分が彼らを信頼していること同様に彼らにもお互いに信頼関係を築いてほしいのに……。
どれだけ自分が努力しても改善される気配はない。華菜はとてもそれが不甲斐なく思える。自分はかつてこの日ノ本の象徴にあった一族の末裔なのに。仲間の仲を保つことすら出来ないのにこんなことで象徴なんて語れるのだろうか。
一人で考えたくなった。
「みな、今日はもう休んでよいぞ。私ももう休む……」
そう言って解散するように促した。
「お嬢。寝台までご一緒します」
他の三人は何処かへと去って行ったが、唯一鏡はこの場に残り、華菜の御供についた。本陣の奥に建てられている小さなテント。そこが現在の華菜の寝床だった。
「白雪。貴女も私に着き切りではなくて、ちゃんと自分の時間を過ごしてもいいのよ?」
彼女がずっと護衛に付いていてくれていることは知っている。だが、あまり自分にばかり時間を割いてほしくない、と華菜は思っていた。大切に扱われるのは嬉しいが、かと言ってあまり部下を縛り付けておいてしまうのは嫌だった。
だが、鏡はそんな華菜に笑いかけて言った。
「僕は生涯を貴女に捧げると誓いました。もうそれは心に深く刻み込まれており、揺るぐことはございません。寝ている時が一番無防備なんですよお嬢は。僕が付いていないと暗殺されかねませんよ」
それは紛う事なくなき彼女の本心だった。鏡はこのギルドで唯一、華菜の幼馴染である。他のメンバーが彼女に心酔している中、鏡だけが信仰心などではなく純粋な心を寄せていた。
優しく、主であり、妹のような彼女の頭を撫でる。すると、少し鬱陶しそうに払われてしまった。
「子供扱いしないで……」
「僕から見ればお嬢はまだまだ子供ですよ」
しかしめげずにまた撫でてやる。
「……白雪」
「はい?」
「一緒に寝よう?」
「如何したんですか。急に甘えて」
華菜の幼い発言に、鏡は笑った。子供じゃないと言ったばかりなのに。すると華菜は瞳を潤ませて見上げてきた。
「私怖い。ただ、ご先祖様の頃の栄光を取り戻したいだけなのに。それなのに他の国を壊していってしまっている。こんなんじゃあきっと誰も私に優しくしてくれない。ご先祖さまみたいに皆に愛してもらえない。怖いよ――」
どんどんその声はか細くなる。鏡はぎゅっとその幼い身体を抱きしめた。
「大丈夫ですよ。例え世界中の誰もが貴女を恐れてても僕がずっと傍にいます。僕は死ぬまで貴女を護ると決めているんです。だから、安心して。今日はずっと寄り添っていてあげるから……」
「うん」
そう言って二人はベッドに潜りこんだ。温かい、人肌のぬくもりが伝わり合う。
悪魔のように恐れられたとしても、彼女らは人間だ。愛のあるぬくもりなしに生きていくのには耐えることが出来なかった。
更新が遅れました。
続けて読んでいただけていたら幸いです。