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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
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反抗

「……ただいま」


授業が終わり、寮に帰ってくる。


いつもなら図書館などに行くところだが、学校中で召喚士が何を召喚したかの話題でもちきりになっており、いたたまれなくなりすぐに帰ってきた。


確かに1年に1度しかなく、召喚士自体の数が少ないのもあって注目が集まるのはわかる。


ここで強力な魔物を従魔にした召喚士は、ほぼ例外なく軍部で活躍することになるのだからなおさらだ。


だが、今のラグにとっては拷問に等しい。


知り合いにあわないようにして帰ってきたが、すれ違う人がみな自分を嘲笑っているようにすら感じてしまう。


それもこれも原因は……。


電気をつける。


さして広くもなく最低限の家具だけおいてある質素な部屋。


その中で唯一、ラグが少ない予算で街をかけずりまわって見つけたお気に入りのソファの上に、白骨が横たわっていた。


「………………」


無言でその頭蓋骨を叩く。


1度全身を震わせると、ゆっくりと白骨が体を起こした。


「ただいま」


カタカタカタ、と顎を鳴らして返事(?)をする骨。


これがラグの従魔スケルトンだ。


デュランのように言葉を話すこともなく、思考することもない。


ただ本能に従って行動する最下級の魔物。


ラグの1番最初の従魔。


「スケルトン、なんでお前はスケルトンなんだ……」


今まで何度も言ったこと。


スケルトンはただカタカタと顎を鳴らすのみ。


こちらの言葉を解することはない。


「せめて、君もデュランみたいに話せたらな……」


今日デュランを見るまで思ってもいなかったことだが、見てしまった以上望んでしまうのが人というものだ。


「あれ、デュランといえば」


ふと気づく。


余りのショックにすっかり忘れていたが、スケルトンに名前をつけていなかった。


従魔に名前をつけるということは名付けの儀式と呼ばれ、従魔にする契約をする上で欠かすことのできないとても重要なものだ。


従魔に名前をつけ、それを従魔が受け入れたあと、召喚士が契約の呪文を唱えて契約は完了となる。


名前をつけていないという現状では、スケルトンはまだラグの従魔ですらないということになる。


「僕としたことが、いくらショックだったからって契約を忘れるなんて」


自分の迂闊さに頭を抱える。


いくら最弱の魔物とはいえ、召喚した以上はラグの従魔だ。


召喚士の誇りとして、そこまで違えるつもりはない。


「ごめんねスケルトン、すぐに考えるから」


とは言ったものの、そんなにホイホイと名前がでるはずもなく。


自然と知っているものを参考にするようになっていた。


「えーっと、デュランはデュラハンだからデュランだろ……。じゃあスケルトンだから……えっと……」


しばらく考え込んでいたが、1つ頷くと顔をあげた。


「よし、決めた。君の名前はスケルだ!」


ずっとカタカタと鳴り続けていたスケルトンの顎が止まる。


あまりにも安易すぎる名前だが、考えた本人は満足そうだ。


「うん、やっぱりわかりやすいのが1番だよね。よし、じゃあ早速契約に……」


と言ってスケルトンの方を見てみると。


じっとラグを見つめていた。


「な、なに?」


ラグが聞くと、スケルトンはゆっくりと首を横にふった。


「え、スケルって名前は嫌だった?」


今度はゆっくりと頷く。


「うーん、嫌かぁ。じゃあどうしようかな、スケト、スケン……」


またもや考え込みぶつぶつと言っていたが、しばらくしてガバッと顔をあげた。


「スルト!スルトならどう!?」


これこそ名案とばかりに顔を輝かせる。


スケルトンはまたしばらく固まっていたが、やがて、ゆっくりとかすかに頷いた。


「よし、じゃあ君の名前は今日からスルトだ」


今度ははっきりと頷く。


「ふぅ、良かった。じゃあ契約するよ」


ラグはスルトを正面から見据え、呪文を紡ぐ。


「魔の者スルト、そなたに従属の鎖を与える。これより我が眷属として我に仕えよ」


呪文を唱え終わると、スルトの頭蓋骨の眼窩に青い光が灯った。


これで契約は完了した。


ラグが一息ついてふと時計をみると、すでに随分と時間がたっていた。


「あれ、もうそろそろ晩御飯の時間だな。結構時間たってたんだ。スルト、僕は御飯食べてくるからお留守番お願いね」


カタカタと顎を鳴らすスルトを置いて、部屋を出る。


(従魔の契約は結べた。でもやっぱりスケルトンじゃなぁ……)


部屋から出たとたんにまた絶望感が押し寄せてくる。


さっきは契約を忘れてた焦りで忘れていたが、状況はなにも変わっていない。


(本能で行動するんじゃ複雑な指示は理解できないだろうし、でも戦闘能力なんかそれこそ……)


と、ひとしきり悶々としていてはっとする。


本能で行動するはずなのに、さきほど名前に対して拒絶の意思を示したではないか。


あれは自分で思考していることの証左ではないか。


「もしかして……!」


スルトはスケルトンではないのかもしれない。


スケルトンのことは詳しくないが、突然変異か別の種族なのかもしれない。


思い立ったら我慢できず、ラグは教師を探して駆け出した。


















そんなうまい話はなかった。


「スケルトンも死霊系だからね、個体差が激しいんだよ。一般的なスケルトンは自分の意思を持たないけど、ときどき意思を保ってる個体もいるんだ。生前が意思の強い人間だったんだろうね。そういう個体は普通の個体より能力が高い場合が多いんだ。よかったじゃないか」


普通より高いといったところで、元々の戦闘力が魔法を使えない一般男性並みしかないスケルトンでの話である。


普通の人より運動神経がいいですよ、ぐらいと同義である。


持ち上げて叩き落とされたラグの魂は絶望を焚べはじめるのだった。

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