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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
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「……意外と中は綺麗だね」



ミリアが町へと向かっている頃、ラグ達は坑道内へと侵入していた。


どこから魔物が現れるかわからないため慎重に歩を進めようとしたラグだが、魔物の巣になっていると言う割りには荒らされた様子もなく未だ稼働中の鉱山であるかのような様子に少し拍子抜けする。


そんなラグの様子にリディアーナが鼻を鳴らした。



「何をビクビクしているんですの。この辺りの浅い階層に魔物がいないのは探査魔法で確認済みですわ。魔物が潜んでるのはもっと深いところのはずですわよ」


「あ、そうか。そうだったね」


「全く……。そのように怯えていては本当に魔物が現れた時に戦えませんわよ」


「ははは…………」



先程の衝突の影響が残っているのか、普段よりも少し棘が多い気がするリディアーナだが、ラグに対してはいつもこんな感じの気もするのであまり気にしなくてもいいかもしれない。




「……だが、確かに魔物が潜んでいるにしては余りにも痕跡が少ない。足跡や毛の類いも全くないのはどうもな……。ラグ、やはりどんな魔物の巣かはわからないのか?」


「うーん……動物系なら他に出口がない限りは足跡なんかの痕跡は間違いなく残るだろうから、考えられるとしたら植物・軟体系だろうけど……」



そこまで言ってラグは言い淀む。


ラグが知る限り、鉱山などをねぐらにする魔物は基本的に動物系の魔物だ。


稀に植物系の魔物が根を張ることもあるが、その場合は坑道内が植物で侵食されているはずだ。ほとんど魔物が発生する前の状態を留めている様子からは考えにくい。



「……一番可能性があるのは軟体系だろうけど、軟体系は総じて知能が低い。捕まえた獲物をわざわざ連れ去るような真似はしないで、その場で捕食してしまうだろうから突然変異でもなければ軟体系でもない……と思うよ」


「ということは、やはりどのような種類かはわからないということだな」


「ごめん」


「いや、気にするな。一応確認しただけだ」



そう言ったダンタールぐるりと辺りを見渡し、わずかに眉を寄せて考え込む仕草をする。



「何か気になることでもあるんですの?」


「いや……余りに綺麗すぎると思ってな」


「さっきからお二人とも何を言っていますの?物が散らかり放題ですし、お世辞にもキレイだとは言えないと思いますわ」


「鉱山ならこの程度の乱雑さならむしろ片付いている方だ。俺が言ったのは魔物の巣になっているにしては、全く荒らされているように見えないことだ」


「……そうだね」



最初にラグが感じたことを指摘するダンタール。

確かに、魔物が棲んでいるにしては通り道にしているような痕跡も縄張りを主張する類いの痕跡もない。



「そんなものですの?地上付近には魔物の気配はありませんし、深いところに潜んでいるだけでは?」


「まぁ、他に出口がないとも言い切れないが……」



可能性はあると言いつつも、ダンタールの歯切れは悪い。

それだけ違和感を感じているということだろう。

そして、それはラグも同感だった。



「……慎重に行こう。嫌な予感がするよ」



召喚士として並外れた魔物の知識を持つラグですら正体が全く掴めない魔物に、魔物の痕跡が全くない巣穴。

警戒を強めるには十分すぎる理由だった。



「全く、お二人とも心配性ですわね。私が魔物がいないと言っているのだから問題ありませんわよ」



己の魔法に絶対の信頼を置いているリディアーナは二人の懸念もどこ吹く風だ。



「……リディアーナ。念のため、もう一度鉱山の中を探査してみてくれ」


「……わかりましたわ」



慎重な姿勢を崩さないダンタールに不満げなリディアーナだったが、先ほどの衝突で多少の気まずさを感じているのか、渋々ながら指示に従う。


目を閉じて集中し、地面へと手をかざして詠唱を開始する。


「――――――――――」



「(高速詠唱……!)」



先ほど外で探査魔法を使っている時はじっくりと様子を眺めることができなかったが、リディアーナは高速詠唱を使い瞬く間に探査魔法を組み立てていった。リディアーナの内部で膨大な魔力が練り上げられ、瞬時に魔法へと変換されていく。


探査魔法など学園の授業くらいしか見たことのない門外漢のラグでもわかる。

探査魔法に関して言えば彼女は間違いなく一流――――いや、超一流だ。


十秒とかからず特大の探査魔法を完成させたリディアーナは、溜め込んだ魔力を解放するかのように伸ばしていた右手を大きく払った。


その瞬間、ラグの身体を何かが駆け抜けていく感覚がした。


その波はラグ達を通りすぎると、坑道の中を舐めるように周囲へと広がっていった。



「…………………………」



じっと目を閉じて微動だにしないリディアーナ。


やがて目を開けると、いつも通りの澄ました顔で得意気な顔をラグ達に向けた。



「やっぱり何もいませんわ。今回は念入りに強めの探査を深いところまでかけましたけど、私たちと拐われた子供以外にはほとんど強い反応もありませんもの。いるとしたら虫や小さな動物程度ですわ」


「ふむ……そうか。なら、いいんだがな」


「ありがとうリディアーナ。初めてリディアーナの探査魔法をちゃんと見たけど、本当に凄いね。あれほどの大魔法をあんなに早く組み上げられる人なんて見たことないよ」


「ふふん。当然ですわ。私は誉れ高きレゼンウッド家の人間ですもの。そんなことよりほら、さっさと行きますわよ。今ので拐われた子供の正確な位置もわかりました。今なら周囲に魔物もいませんわ」


「わかった、急ごう」



リディアーナのお墨付きを得た三人は子供のいる場所へと急ぐ。


それを後ろから見つめる影が一つ。


鉱山に入ってからずっと無言だったスルトは、変わらず声を出すことなく己の内でのみ今の会話を反芻する。




「(大きな反応がないから安心、だぁ?なに言ってやがるコイツら)」



足早にかけていく三人をじっと見つめてスルトは思考を続ける。



「(逆だろうが。『魔物の巣穴に大量に魔物がいる』のと『魔物の巣穴なのにオレ達以外に大きな反応がない』じゃあ後の方が異常に決まってる。少なくともガキを拐った奴の反応がないのはどう考えてもおかしい)」



だが、スルトはそれを指摘することはしない。

平静さを取り戻したように見えて、未だ頭のどこかに熱を残した三人を冷ややかに見つめるのみだ。



「(……思っていたよりも酷い。根暗はともかく、お嬢がアキレス腱だな。ウチのマスターはあそこまで鈍くはないはずなんだが)」



あれだけの探査魔法を見せられれば盲信的になってしまうのも無理はないが、それにしてもラグとダンタールがこの程度のことに気付けないはずがない。

明らかにリディアーナの勢いに引きずられてしまっていた。



「(さて、どうなるかね。下手すりゃ、いや下手しなくても誰か死ぬかもしんねえな)」



任務そのものが瓦解しかねない衝突には流石に割って入ったが、するべき思考を止めた者達を諭してあげるほどスルトは優しくない。

ラグだけは生き残らせる算段を考えながら、スルトは三人の後を追いかけた。

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