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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
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沈静

「痛いところ突かれたからって無言で斬りかかるとか怖すぎますわー。キレやすい若者ってレベルじゃないっすわー。権力争いでドロドロしてそうな貴族の位なんて即剥奪ですわ」



小馬鹿にした口調でリディアーナを煽るスルト。


リディアーナもプルプルと身体を震わせ、怒りが再燃していた。



「あれ?なんだっけ?『人の命をなんだと思っている』『貴方には人として必要な物が欠けている』だっけ?いやぁ~その通りですね~。流石、逆上して仲間に斬りかかる人は言うことは違いますわ~」


「う……うるさいですわねっ!何も知らない癖に偉そうな口をきかないでいただけませんこと!?」


「あぁーん?オレは何も間違ったこと言ってねえと思うけどぉ?」



スルトの言うことも最もであり、剣を抜いた事に関しては完全にリディアーナに非がある。


それはリディアーナもわかっているのか一瞬言葉を詰まらせたが、やはり怒りは収まらないようでスルトを睨み付け再び口を開いた。



「べ、別に貴方には関係ないことでしょう!いきなり横から入ってきてわめきたてないでくださいます!?」


「頭を思いっきりぶん殴られて関係ないはずねーだろうが!?いやそれよりも、そもそも俺の言ってることは正論のはずなんだが!」


「貴方に言われる筋合いはないと言っているのですわ!だいたい、死にもしないくせに頭を弾かれた程度で根に持つなんて心が狭すぎますわ!」


「ハァー!?死なないからって、いきなり頭蓋骨吹っ飛ばされても怒らない人間がいるとでも思ってるんですかねぇー!?」


「人間じゃなくて魔物でしょうに!一人前に人間の感情を語らないでくださいます!?」


「おう、千年ぶりにキレちまったよオレぁ。ここまで言われて引きさがるヤツがいるか?いやいねぇよ、こらぁもうどっちかが土を舐めるまで終わることなき仁義なき戦い勃発ってもんよ」


「上等ですわ!いくら戦いが苦手とはいえ、スケルトンごときに遅れをとるわたくしではなくってよ!」


「忘れんなよその言葉!五分後に泣いて謝っても許してやんねえからなゴラァ!」


「それはこっちの台詞ですわ!私に喧嘩を売ったことを頭を探しながら後悔する準備はよろしくて!?」


「ケッ!お前みたいなガキンチョ、オレの右ストレートでこう……あれだ、バーンだからな!バーン!」


「たかがスケルトンの分際で偉そうに!貴方みたいなスッカスカの頭なんか、私の華麗な剣術で遥か彼方までぶっ飛ばしてやりますわ!流れ星の如くパッカーンと!」





ギャーギャーと喧嘩を続けるスルトたちを、ラグは唖然として見つめていた。


二人とも真剣に怒っているのはわかるのだが、どうにも子供の喧嘩じみている感が拭えない。


先ほどダンタールと一触即発の空気でいた者と同じ人間とは思えないほど、リディアーナたちには緊迫した空気というものが欠けていた。


喧嘩をする相手が変わるだけでここまで違うものなのかと、少し現実逃避気味にラグが考えていると、予想外の方向から二人の間に仲裁が入った。



「……二人とも、そこまでだ。幼稚な言い争いはそこまでにしてもらおう」



仲裁に入ったのは、二人が言い争いを始めてからずっと静観していたダンタールだ。


当然のように、現在言い争っている二人から反論が入る。



「おいおーい!そもそもお前がこのお嬢様とやりあってたのが原因なんですけどぉー!?何しれっと第三者気取って割って入ってきてるんですかねぇー!?」


「そ、その通りですわ。元はと言えば、貴方があんな提案をしたのが原因で……」



だが、そこでラグはリディアーナの様子がおかしいことに気付いた。


そのままの流れでダンタールにも噛みついているスルトと違い、リディアーナには先ほどまでダンタールに食って掛かっていた時のような勢いがない。


スルトとの少々幼稚ともいえる言い争いが怒りを発散させ、逆にリディアーナに冷静さを取り戻させたのだろうか。


少なくとも、今のリディアーナからはダンタールと争っていた時ほどの激情は感じられなかった。



「そうだな。リディアーナとスルトが言い争っているのを見て俺も少し冷静になれた。リディアーナをあそこまで追い詰めてしまった俺にも非がある。いくら侮辱されたからとはいえ、触れるべきではないことに触れてしまった」



さらには、ダンタールからも自らの非を認める発言が飛び出した。


リディアーナの表情も驚きの色に染まる。



「い、いえその……私も少々言い過ぎたような気がしますし……」



口ごもりながら自らも非を認めるリディアーナ。


その様子からは、既にダンタールへの敵意は見受けられなかった。



「いやいや、お嬢は何も間違ってねえぜ!軍の任務とはいえ、小隊長も決められてない寄せ集め集団の中で、リーダー気取りで仕切ろうとした根暗が悪いんじゃねえか!」



お前はどっちの味方なんだと言いたくなるほどコロコロと発言を翻すスルトだが、それを意に介さずダンタールがリディアーナの正面に立ち、顔を見据えた。



「スルトの言うことも一理ある。上官が俺達の中で隊長を決めなかった以上、俺達の立場は対等だ。それなのに頭ごなしに提案を通そうとした俺が悪かった。すまない」



ダンタールがリディアーナに向かって深く頭を下げる。


この期に及んで意地を張り続けるのは無様なだけだと悟ったのか、観念した様子でリディアーナも頭を下げた。



「いえ……ベンサム家の者として軍に関わり、私達の中で最も実戦経験が多いダンタールさんがこのチームを仕切るのは当然ですわ。あの提案だって、現実を見据えて私とラグさんに下せない判断をあえて口にしてくださっただけ……。頭の片隅では理解していても、受け入れることができず反発してしまった私の未熟ですわ。あまつさえ、仲間である貴方に剣を向けようとしてしまったこと……何も申し開きができませんわ。申し訳ありませんでした」


「いや、あれは俺が言うべきではないことを言ってしまったからだ。こちらこそすまない」


「事実ですもの。否定しても仕方がありませんわ」




ひとたび冷静になれば、二人とも道理のわからない人間ではない。


お互いに自らの非を認め、先ほどまでのことを謝罪しあった。


ラグも内心ほっと胸を撫で下ろす。



「ラグもすまなかったな。そんな場合じゃないと言うのに、いきなり仲間割れしてしまって」


「ああうん、ビックリはしたけどね。何事もなく収まってよかったよ」


「オレは殴られ損なんですけどねぇ」


「ぐっ……申し訳ありませんわ」


「まあまあ、そのおかげで最悪な事態は避けられたんだからさ」


「ケッ……まぁいいけどよ。せっかく坑道の中の地図見つけてきてやったってのに、ひでえ仕打ちだぜ」



そう言ったスルトの手には、どこから見つけてきたのか一枚の地図が握られていた。



「坑道の地図だと?そんなものいったいどこで」


「入り口の横に管理小屋があるだろうがよ。お前らが喧嘩始めたから、その間に中の様子見て来て見つけたんだよ」


「いつの間に……」


「そんで戻ってきたらアレだ、たまったもんじゃねえよ。なぁお嬢」


「だから!申し訳ないとさっきから謝っているじゃありませんか!」


「おうおう、謝罪は何度聞いてもいいもんだぜ」


「この骨……!」


「おお怖い怖い。それよりせっかくオレが地図見つけてきてやったんだからよ、お嬢の魔法で中の様子を見てみたらどうだ?」


「あ、そうだね。確か、構造がわかれば地中の構造物でも詳しい様子も探れるんだったっけ?」


「え、ええまぁ、そうですわね。本来は構造がわからなくても地中の探知は可能なのですが、私は有機物無機物問わず反応を拾いすぎるので、探知の対象を絞っても地中は情報の選別が難しくて」


「魔法の適性が高すぎるゆえの弊害、といったところか。優れすぎているのも考えものだな」


「難しい理屈はわかんねえけどよ、要は地図があれば探知可能ってこったろ?ならここでピーチクパーチク言ってるよりも、拐われたガキが今どうなってるのか確かめるのが早いんじゃねえの。生きてるならともかく、もう死んじまってたら助けるもクソもないわけだしよ」


「……確かに、その通りだな。まず子供の状態を確認してから、今後の行動指針を決める方が確実だ。リディアーナ、構わないか」


「ええ、異論はありませんわ。まず子供が無事か確かめましょう。地図を貸していただけますか?」




地図を広げ、魔法を起動するリディアーナ。


それを見守りながら、ラグは念話でスルトに話しかける。




「『ねえスルト。ちょっといいかな』」


「『あ?んだよ』」


「『さっきリディアーナを煽ってたのって、もしかして敵意の矛先をダンタールから逸らすため、かな?』」



スルトから返事はない。


構わず、ラグは自分の推測をスルトに向けて語り続ける。



「『剣を向けられた直後にスルトが食って掛かったことでダンタールは気勢を削がれただろうし、その後の言い争いを端から見てたことで冷静さを取り戻すこともできた。リディアーナも敵意の対象がダンタールからスルトに変わったことで、ダンタールと落ち着いて話す余裕ができた。違うかな?』」


「『………………、たまたまだろ』」


「『そうかな、僕はそう思えない。なにより、リディアーナの抜いた剣が偶然スルトの頭に当たったこと。あれこそおかしいよね。僕も気付かなかったけど、スルトはあの管理小屋から地図を持ってきたんだよね?あの小屋はリディアーナ達が言い争っていた時の立ち位置だと僕の後方、リディアーナから見て右手の方向にあった。リディアーナが左腰に帯びてる剣を抜いた時に頭に当たってしまったということは、スルトは小屋から戻ってくる時に何故か森の中をぐるっと大回りして戻ってきたってことに――――』」



「『たまたま、だ。あれこれ勝手に想像するんじゃねえよ煩せえな』」



不機嫌さの極まったスルトの声音に、ラグは言うのをやめる。


それでも上機嫌そうなラグの様子にスルトが苛立つのがわかった。


「『だいたい、お前が仲裁に入るのが遅すぎるのも悪いんだぜマスター。ああいう時は無理してでも割って入って自分も当事者になっちまった方がいいんだ。この中じゃお前が一番仲裁に向いてそうなんだからよ』」


「『うん、それは悪かったと思ってるよ。次からは気を付ける。でも、僕よりもダンタールとかミリアの方が仲裁に向いてそうだけどね』」


「『んなこたねえよ。仲裁ってのは、どちらの立場にも依らずに客観的に意見を言えねえと上手くいかねえ。そのためには弱い立場も理解できる必要があるからな』」


「『弱い立場も、か。確かにそれなら僕向きかもしれないね』」


「『頼むぜマスター。もうガキのお守りはウンザリだ』」


「『…………はは、わかったよ』」




再び上機嫌な様子になったラグに、怪訝な様子ながら不機嫌さを深めるスルトであった。

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