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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
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格差

教室に入る。


一組の視線がラグに注がれた。


意識して気にしていない風を装い、自分の席につく。


「おうラグ。どうだ、従魔の調子は。俺はすこぶるいいぜ」


ニタニタとした笑みを張り付けて小柄な少年が話しかけてきた。


少年の言葉に周りも興味を引かれたようにこっちを見ている。


少年の名前はゲイル。ラグと同じ召喚士だ。


召喚士は人数が少ないため、普段はそれぞれの適正にあわせて普通の魔法使いのクラスで授業を受ける。


ラグの学年の召喚士は、ラグとこのゲイルだけだ。


なので、一緒に授業を受けたり模擬戦や訓練など、二人で同じカリキュラムを行うことが多かったが、ラグはいつもゲイルに馬鹿にされてきた。


ラグと違いゲイルは名門中の名門、ロッテンハイム家の出身だから仕方がないのだが、この前の召喚の儀式からそれに拍車がかかってきていた。


「……別に。普通さ」


「あぁ悪い悪い、スケルトンじゃ調子もなにもあったもんじゃねえよなぁ!ちなみに今どこにいんだよ?」


「……寮だよ。今日は召喚士の授業はないからね」


「はっ、寮だぁ?おいおい、なに考えてんだよ、召喚士は従魔あってこそだろ?それを置いてくるとかマジ信じらんねえ」


ゲイルが馬鹿にするように言う。


ラグはなにも言わずにただゲイルの後ろをチラッとみやった。


「おっ、なになに、俺のデュランが気になっちゃってんの?そりゃそうだよなぁ、超カッケーししょうがねえよ」


得意気にうんうん頷くゲイルの後ろに立っているのは、全身を真っ黒な鎧に身をつつんだ大柄な騎士。


一瞬男性だと思いがちだが兜から覗く顔は紛れもなく女性のものだ。


恐ろしいほどに整った容貌がラグを見下ろしている。


ただ見ただけではどこが魔物なのかわからないが、実は彼女の頭と胴体は繋がっていない。


種族名、首なし騎士デュラハン

死霊系の中でも上位に位置する強力な魔物だ。


「………………」


「どうした?言葉もでねえってか?ま、スケルトンと比べたらそうなるのも当たり前か」


「……教室の中にまで従魔を連れてこない方がいいんじゃない。みんなが怖がるだろ」


「あぁ?」


一転してゲイルが不機嫌になる。


だが、ゲイルがなにか言う前に後ろから声がかかった。


「ゲイル様。確かにラグ様の言う通りでございます。私は廊下に出ていた方が」


「なっ」


ラグは目を見開いて驚愕した。


「喋れるのか!?」


「あったり前だろ、高位の魔物は人語を解するって習っただろうが。俺のデュラン舐めんじゃねぇ」


さっきまでの不機嫌はどこへやら、鼻高々といった様子で語るゲイル。


確かに、ある程度の知能を持った魔物は人語を操るとは聞いたが、実際に見るのは初めてだ。


それに死霊系の魔物は個体差が激しいと聞く。


ラグと同じく、つい先日召喚したばかりなのにも関わらずここまで話せるということは、相当強い個体ということだ。


今度こそ言葉が出なくなったラグをよそに、ゲイルがデュランに話はじめた。


「てかデュラン、お前は俺の従魔なんだから別にいいんだよ。怖がるやつらが臆病なだけだ」


「いえ、普段見慣れない魔物が間近にいるのはどんな方でも怖いものです。それとゲイル様、デュランという名前はできれば変えていただけませんか」


「はぁ?なんでだよ?デュラハンだからデュラン。わかりやすいじゃねえか。なんか問題あんのか?」


「いえ、その…………デュランと名前は、あまり可愛くないではないですか……」


「お前……その図体でそんなこと言うのか……?」


「か、体の大きさは関係ありません!」


ラグそっちのけで騒ぎだしたが、ラグはそれどころではなかった。





家に帰ったとき、スケルトンを見た両親が見せたあの表情。


もしデュランが自分の従魔だったら全く違ったものになったのではないか。


自分に責任を感じさせまいと、必死に励ましてくれたあの痛々しい笑顔ではなく。





彼は、目の前で流暢に人語を操る、しかも確固たる自我まで備えているとおぼしき従魔の姿と。


自分の部屋にいるであろう、物言わぬ骸とを思い比べて。


さらなる絶望にその身を浸すのであった。

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