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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
3/46

希望なし

「はぁ……」


ラグはとぼとぼと学園の正門への道を歩いていた。


学園は全寮制だが、今回の召喚の結果を両親に知らせるために帰宅の許可が出ている。


召喚科では在籍している生徒に対して1度だけ召喚の授業という形で従魔の召喚の支援をしている。


これは、本来、召喚には莫大な資金が必要になることと、そもそも魔物を使役できるだけの才能を持った者がほとんどいないがゆえの措置である。(実際、現在学園にはラグを含めて数えるほどしか召喚士は在籍していない)


これにより自分だけでは魔物を屈伏させられない召喚士たちも自分の従魔を得ることができる。


普通、よほど有力な貴族でなければここで得た従魔の力で野生の魔物を屈伏させ、従魔にするのである。


「父さんや母さんになんて言えばいいんだ…」


ちらりと後ろを振り返る。


カシャカシャと音をならしながらさきほど召喚したスケルトンがついてきていた。


それを見て、もう一度ため息をつく。


「こんなんじゃ軍役なんか絶対に無理……いや、むしろできるお役目があるのかな……?」


そういって三度ため息をついた。


ラグのいる大陸は3つの大国によって統治されている。


ライシナ王国、ハルメア皇国、ヤハナ神国だ。


大陸自体に名前はないが、この大陸以外には小さな島が少しあるだけで他は全て海なので、実質的にこの3国が世界の統治国である。


つまりこの3国は世界の覇権を争いあう仲というわけだ。


ゆえにどの国も軍事力の増強には余念がない。


まあ軍事力を増強するのには魔物のせいでもあり、同じ理由で3国はそこまで緊張状態になっておらず、むしろ協力体制にあるのだが。


個体によっては国を滅ぼせるような力を持った魔物もいるので、人間同士で潰しあっているわけにはいかないのである。


なにしろ、この世界には『神がいない』のだから。


「学園外行きの輸送魔導車、まもなく発車しまーす!」


「あ、すみませーん!乗りまーす!」


ラグは考え事を中断し、輸送車両の発着場へ向けて慌てて駆け出した。














「ふう……危ない危ない……」


なんとか発車に間に合ったラグは座席で一息つく。


スケルトンに驚いた乗組員と一悶着あって危うく乗りそこねるところだった。


「……………………」


ちらり、と正面に座る従魔を見る。


スケルトンは車両の揺れに全身をカタカタと鳴らしながら大人しく座っている。


「はぁ…………」


ラグは既に今日四度目となるため息をついた。








この世界では強さが重視される。


それは、約千年前に起こった【大崩界】に起因する。











かつて、この世界には神がいた。


神は世界を治め、人間を造った。


そして人間に魔法を与え、魔法を与えられた人間たちは【騎士】となり世界を護った。


だが、あるとき神は世界を去った。


神の力で維持されていた世界は衰退を始めた。


かつては無限に広がっていた世界は少しずつ小さくなり、今ではもうラグたちの暮らすこの大陸しか残っていない。








そして、この大陸にまで衰退が迫ったとき、世界は崩壊を始めた。


これが俗に言う【大崩界】である。






崩壊を始めた世界には魔物が跋扈し、世界は消滅寸前にまで追い込まれた。


結局、【大崩界】はとある英雄たちの活躍によって食い止められ、世界はかろうじて存続することになるのだが、その影響は尋常なものではなかった。


【大崩界】はあまりにも多くの命を奪い、また人類がそれまでに築き上げてきた文明の大半を消失させた。


千年経った現在もその時の文明レベルにはとても追い付けていない。


今ラグが乗る魔導車も旧文明の遺産を解析して作られたものだが、【大崩界】以前はこれとは比べ物にならないほど高度な技術で溢れかえっていたらしい。


そして、【大崩界】はそれ以上に致命的な存在を残していった。


魔物。


【大崩壊】の際に生まれた大量の魔物は消えることなく、現在まで人類を脅かし続けている。


ゆえに、この世界では強さが重視され、そのために才ある人々は魔法を磨き、己を高めるのだ。


その強さをもって己を国に売り込み、地位や名誉を得るのである。











ラグの生まれたハルメア皇国は、国に対して一定以上の貢献した者に貴族の位を授ける。


これはつまるところ完全な実力主義だ。


どんなに卑しい身分の者でも貴族になるチャンスはあるし、どんなに身分の高い貴族でも没落してしまう恐れがあるということだ。


実際には身分を手放したくない貴族の保身が多分に入っており、貴族の位を剥奪されることはめったにないが。


それでも貴族でいたいならば、最低限の貢献はしなければならない。


そして一番手っ取り早いのは、やはり軍役なのだ。


「スケルトンじゃ……無理だよなぁ……」


最弱の魔物では軍役どころかなんの貢献もできないに決まっている。


ラグは何度目になるかわからないため息をつくのだった。

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