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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
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試験当日 朝

最悪の気分で目を覚ます。


ラグは汗でぐっしょりと濡れた寝間着をはだけながら、ここが自分の部屋であることに少しだけ安堵した。



「『随分と遅いお目覚めだな。今日は大切な試験なんじゃなかったのか?』」



いつもはラグよりずっと遅くまで寝ているスルトがソファに座って図書館から借りてきた本を読みながら声をかけてくる。


時計を見ると、確かにいつもラグが起きる時間よりも一時間も遅かった。



「スルトこそ、いつもより早いね」


「『お前が今日は試験に遅れないように早く起きろって言ったんだろうが。そのお前が俺より遅く起きてちゃ世話ないがな。さっさと飯食ってこいよ』」


「うん。そうするよ」



びしょ濡れの寝間着から着替えながら、さっき見た夢を思い出す。



























足音も聞こえなくなるくらい激しく降りしきる雨。


その中をひたすら走り続ける自分。


何故かはわからない。


だが、ラグは酷く混乱し、いっそ錯乱と言っていいほど取り乱しながら雨の中を全力で走っていた。


霧がかかっているのか、見通しがきかない中をひたすらに走り続ける。


やがて、目の前に唐突に人影が現れる。


誰かはわからない。


顔が見えたような気がするし、見えなかったような気もする。


その顔をラグはよく知っているような気がしたし、全く知らないような気もした。


夢特有の何もかもがはっきりしない感覚の中で、それでもラグはその人物に会って安堵した。


まるで、見知らぬ土地に独りぼっちで残された子供が、母親を見つけたかのように、心の底から安心した。


ラグはその人物に駆け寄り、何事かを捲し立てる。


だがその人はただ一言、何かを言ったかと思うと。










ラグの胸に、深々と剣を突き立てた。









喉にせりあがる灼熱の感覚。


目の前が真っ赤に染まり、口から同じく真っ赤な液体を大量に吐き出す。


剣を突き立てられた胸はまるで白熱した鉄の棒を突き入れられたかのように熱く、体にあたる雨があたるそばから蒸発してしまうのではないかと思うほどだった。


何も考えられず凍った思考で胸に目を落とす。


真っ赤な液体でその刀身を汚す剣。


その剣を、ラグは知っていた。


その剣を掴む細い指、華奢な腕、そしてその人物の顔へと視線を移す。


その人の顔はわからない。覚えていない。


ラグは何かを言おうとして、何も言えずにただ口からおびただしい血を吐き出す。


代わりに目の前の人物の口が動いた。



「―――――、―――――。――――――」



何を言ったのかは聞こえない。


ラグにその声は届かない。


それでもラグは絶望に塗り潰され――――失意のままに意識を手放した。

























「………………………………」



酷い悪夢を見たものだ、とラグは思う。


だが夢は夢、別に何があるわけではない。


試験の日に、というのは確かに縁起が悪いと言えなくもないが、そんなものは実力でなんとかすればいい。


着替えを終え、部屋を出ようとするラグの目に、スルトに読めと無理矢理借りてこさせられた『未来がわかる! 予知魔法入門・召喚士編』の本のタイトルが飛び込んできたが、特に気にすることなく部屋を出た。

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