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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
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実技試験 前日

スルトが覚醒してから数日。


自室で本のページをめくる自分の従魔を見ながら、ラグは困り果てていた。


あれから、スルトは1度も口を開いていない。


部屋の中にある物をひとつひとつ観察したり、ラグが授業で使っている魔法の教科書などを読んだりしているが、ラグが呼び掛けても答えてはくれないのだ。


「あの、スルト……ちょっと話があるんだけど……」


無言。

相変わらず返事は返ってこない。


ラグは何度目になるかわからないため息をついた。


ラグには明日、とても重要な大会が控えている。


実技試験、という名前になってはいるが実際は学年ごとにトーナメント方式で模擬戦を行う武道大会のようなものだ。


試合の勝敗はもとより、相手からの攻撃に対する対処など状況判断能力などを含め、試合の内容の善し悪しが成績やその後の学外実習の行き先にも影響するので、なるべく勝ち進んで能力をアピールしなければならない。


そのためにはスルトの協力が必要不可欠なのだが……。



「『おい落ちこぼれ』」



無理だろうなぁ、などと思っていたらいきなり声をかけられてラグは飛び上がった。



「あ、え!? な、なに? というか落ちこぼれって僕のこと!?」


「『お前以外に誰がいるんだアホ。それより、ぼんやりとだが俺が生前どんなやつだったのかわかったぞ』」



今まで何度聞いてもうんともすんとも言ってくれなかったのに何故いきなり話す気になったのだろうか。


今話すならラグが聞いた時に話してくれてもいいではないか。


釈然としない思いを抱えるラグをよそに、スルトは喋り続ける。


「『記憶自体はまだほとんど戻ってないが、おそらく俺は学者かなにかだったようだ』」


「学者?」


「『ああ。お前の持ってる魔法の教科書を読んでみたら俺が知っているものばかりだった。それに、うっすらとだが何かを調べていたというか、研究していたような記憶がある…………かもしれない。本を読んでいたらなんとなく思い出した…………気がする』」


「気がするって……」


「『仕方がないだろう。誰かさんがスケルトンなんかで呼び出すから記憶をするはずの脳みそがないんだからな』」


「あう……」


「『……まぁ、そんなことはいい。それより、俺を図書館へ連れていけ。これだけ大きな学園ならそんな感じの施設くらいあるだろう?』」


「え……まぁあるけど……なんで?」


「『は?』」


「いや、なんでいきなり図書館に行くのかなって……」


「『お前……随分と頭が弱いな……』」


「え、えぇ!? なんでそうなるの!?」


「『俺が学者かもしれない、本を読んでたら記憶が戻った気がすると今言ったばかりだろうが……。お前の持ってる本は大抵読み尽くした。なら、次はどうする?』」


「……もっと色んな本を読むために図書館に行く?」


「『わかったらさっさと案内しろ』」


「わ、わかったよ。図書館行くなら今出てる課題も終わらせてきちゃお……」



手早く持ち物をまとめ、スルトと共に部屋を出ながら、ラグはさらに釈然としない気持ちを強めていた。


さっきの会話を客観的に見るとどっちが主なのかわからないので当然と言えば当然だが。


すれちがいざまスケルトンを見てギョッとする他の生徒たちの視線を受けて肩身の狭い思いをしながら、ラグは今まで無視されてでも話しかけ続けてしたかった話を切り出す。



「あの、スルト。明日、実技試験があるから、僕と一緒に出てほしいんだけど」


「『実技試験? なんだそりゃ』」


「えっと……学年の生徒全員で行う大会みたいなものかな。試合の内容で試験の評価が決まるんだ。サボったりすると退学させられたりもするから大変なんだ」


「『はーん。大会ね。面倒なことこの上ないが、構わないぞ。そのくらいならな』」


「えぇ!? い、いいの!?」


「『いいのもなにも、お前が頼んだんだろうが……』」


「いや、絶対断られると思ってたから……」


「『そりゃ俺だって面倒はごめんだがな。俺に供給されてる魔力、学園から支援してもらってるんだろ? お前が退学にでもなって打ち切られちゃたまらないからな。お前のちっぽけな魔力だけじゃすぐ魔力不足で死んじまうよ』」


「なんでそう毒ばっかり吐くかな……。僕一人だってスケルトンの存在を維持するくらいできるさ!」


「『んなわけねえだろアホ。今ですら余剰魔力はそんなに多くないんだぞ』」


「えぇ……そんな馬鹿な……」


魂が宿っているせいか?


確かに普通のスケルトンと比べたら存在の維持に必要な魔力は段違いだろうが……。


「『で、まだか』」


「あ、もうすぐだよ」


もし本当にスルトがそんなに魔力を必要とするなら、魔力を動力にするような魔物とはもう従魔契約できないかもしれないなぁ、などと思いながらラグはスルトを見て驚き身構える司書さんに頭を下げにいくのだった。









なお、さらに様々な本を読んで記憶を刺激されたスルトいわく、「記憶が戻るのはなんか色々ヤバイ」らしい。


何がヤバイのかは全くわからなかったが、達成感に満ちあふれた感じのスルトの話し方から悪いことではないのだろうと無理矢理納得するラグであった。


ちなみに課題はスルトが『記憶喪失の人間にしてあげると良い行動・初級編』やら『忘れてしまった記憶を思い出す方法百選』、『従魔と自分の未来が見える! 予知魔法入門・召喚士編』などといった色々な本を読めとうるさかったのでほとんど進まなかった。






















そして、この日を境に、ラグはたびたび悪夢にうなされるようになった。

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