現実
戦闘の描写が上手く書けない……。
リザードマンに近づかれる前に、アランが手の中の玉をその眼前に向けて投擲する。
リザードマンの顔面にぶつかる寸前、玉は破裂するとともに爆音を撒き散らした。
「グオオオォォ!?」
耳を塞いでいても体を震わせるような轟音を間近で受けた体の大きいリザードマンは、耳をやられてのたうちまわった。
「ラグ、俺がオスはなんとかするからもう一匹を頼む!」
そういってのたうちまわるリザードマンに向かいながらアランは腰に差してあった2本の剣を抜き放つ。
「『エンチャント《ファイア》』!」
アランが魔法の起動呪文を唱えると、両手の剣がみるみる魔力を帯びていく。
その速度は学生のものとは思えない、一流の魔法使いのそれだった。
だが、ある程度魔力が溜まった時、アランが顔を歪めて舌打ちした。
「やっぱ支給品じゃ強度が足りねえか……仕方ねえ!」
未だ倒れているリザードマンの側までたどり着き、魔法を完成させる。
「『ソードガンズファイア』!!」
アランは閃光とともに両の剣をリザードマンに叩きつけた。
「ギャアアアァァァ!?」
先程よりもさらに大きい悲鳴とともに辺りに肉の焦げる匂いが漂う。
エンチャントを起動呪文にしている魔法は付与魔法。
武器に魔法の力を付与させ、属性や威力を変化させる魔法だ。
攻撃魔法のような派手さはないが、自由に性質を変化させることができることから戦術の幅は広く、自在に武器を使いこなすことができる熟練した使い手が使えばその脅威は計り知れない。
アランの魔法剣をまともに喰らったリザードマンは肩から背中にかけて深い傷を負い、その周辺も焼けただれていた。
リザードマンは苦悶の声をあげながらも、目の前の敵に相対すべく素早く起き上がり距離をとった。
それを油断なく見つめるアランの双剣には真っ赤な炎が煌々と燃え盛っている。
にらみ合いは一瞬、すぐさまお互いが敵を打ち倒すべく躍りかかる。
アランの炎を宿した双剣をリザードマンの鋭く伸びた爪が受け止める。
膂力で劣るアランが押し込まれ、耐えきれずに一歩下がる。
そこへ、相方を傷つけられたリザードマンの片割れが怒りの声をあげながら突進してきた。
「行かせないよ!」
すぐさまラグがその間へ割り込む。
リザードマンはさらに怒りの声を大きくし、ラグを押し退けようと加速する。
「『全身活性』!」
ありったけの魔力をもって全身を強化する。
そしてリザードマンへ向けて駆け出した。
のこのことやってきた獲物に対しリザードマンが鋭い爪でその胴を薙ぐ。
「くっ……!!」
左肩を浅く切られながらもギリギリのところでかわし、走ってきた勢いのままにリザードマンの足を切りつけた。
「グオォ!?」
足を切られ体勢を崩し倒れるリザードマン。
すかさずその背に剣を向けるが、切りつけるよりも早くリザードマンの尻尾がラグを襲った。
「が、はっ!!」
ラグの体は軽々と吹き飛ばされ、近くの木へ叩きつけられた。
肺の中の空気が一気に吐き出され、目の前に火花が散った。
ラグを吹き飛ばしたリザードマンはすでに起き上がり、ラグがすぐには動けないのをみると再びアランに向けて突進しようとする。
ラグの渾身の一太刀もリザードマンの足を多少傷つけるにとどまっていた。
「(やっぱり、繁殖期のリザードマンには僕じゃダメージを与えられないか……!)」
いうことを聞かない体をなんとか動かし、ラグが魔力を発する。
「スルト!!」
名を呼ばれた従魔は主の意を汲みリザードマンの側面から体当たりをした。
バラバラにしたはずの敵からの攻撃に驚き、たたらを踏むリザードマン。
スルトは死霊系に属するスケルトンだ。
肉体を持たないスケルトンは、戦闘能力は低いが、浄化の魔法でも使われないかぎり主の魔力によって何度でも甦ることができる。
スルトはそのままリザードマンを押さえ込もうとするが、力においてはリザードマンに全く歯がたたない。
すぐに引き剥がされ、腕の一振りで再びバラバラにされた。
だが、その間に回復したラグがリザードマンへ向けて飛びかかる。
苛立たしげに吼えたリザードマンの腕が振るわれるが、活性魔法をフル活用した反応速度で今度は完全に避ける。
続けて爪、尻尾、腕がラグを襲うが、反撃を考えず回避に徹して避け続ける。
業を煮やしたリザードマンはラグを無視してアランの方へ向かおうとするが、ラグはその時を狙い脇をめがけて剣を繰り出す。
鱗の薄い急所を狙われたリザードマンは足を止めてその攻撃を防がざるを得ない。
先にラグを排除しようともなかなか攻撃は当たらず、かといって無視しようと大きな隙を見せたら急所を狙い撃ちにされる。
さらにそこへ復帰したスルトも加わった。
活性魔法と身体強化魔法を総動員して回避に徹し、どうしても避けきれない攻撃はスルトが身を挺して庇い、ラグはその合間を縫い急所を狙う。
リザードマンは苛立つが、決定的な一撃を加えることはできない。
ここにラグとリザードマンの戦いは膠着状態に入った。
だが、これも長くは続かない。
ラグの魔力は無尽蔵ではない。
いつか魔法の効果は切れスルトは甦らなくなる。
それ以前にそもそもリザードマンとラグでは体力が違う。
ラグの動きが鈍ればいずれあの腕に捕まってしまうだろう。
ラグにリザードマンの鱗を貫く力がない以上、負けはあっても勝ちはない。
それは薄氷の上での膠着だった。
早くも上がってきた息を自覚し、ラグは焦りを覚える。
ラグは苛立ちからか単調になってきたリザードマンの攻撃を躱しながら、アランの方の戦いを伺う。
そちらはこちらと違い圧倒的だった。
地面に膝をつき荒い息を吐くリザードマンと。
それを息を乱さず見据えるアラン。
リザードマンの体は全身が傷つき焼け焦げ満身創痍なのに対し、アランは浅い傷しか負っていない。
「(僕に気を使ったのか家名を教えてはくれなかったけど、リザードマン相手にあそこまで圧倒できるってことは、アランはやっぱり有力な貴族の子息ってことなのかな……。でも、そうなると……)」
アランが戦いが始まる前に口にしたことに違和感を覚える。
助けがくるまで時間稼ぎをするしかないということ。
ラグの目には、どう見てもアランの勝利は揺らがないように思えた。
しかし、そのすぐあとにラグはアランの発言の意味を知ることになる。
止めを刺すべく肉薄するアランと、起き上がり迎え撃つリザードマン。
アランの剣がリザードマンの額に迫り、それをリザードマンが爪で受け止めた瞬間。
甲高い音をたてて、アランの剣が砕け散った。
「ちっ!」
アランはまるでそうなることがわかっていたかのように壊れた剣を捨てると、無事な方の剣を両手で構え直す。
いや、実際にそうなることがわかっていたのだろう。
ラグとアランの持つ剣は成績に装備による差が出ないよう学園から与えられた支給品だ。
決して粗悪な物ではないがアランの魔法のように大量の魔力を宿すようには作られていない。
許容量を越えた水が内側から容器を壊すように、魔力の負荷に耐えきれなくなった剣はその形を保てなくなってしまったのだ。
それをわかっていたアランはリザードマンたちを倒すことはできないと判断し、救援が来るまでの時間を稼ぐために剣が壊れることを覚悟で敵の数を減らそうとしたのだ。
そしてそれは成功をおさめたように思えた。
残る1本の剣でリザードマンに対し連撃を加えるアラン。
斬り、突き、時には剣に宿る炎を散弾のようにばらまく。
その苛烈な攻撃に耐えきれず、再びリザードマンは膝をつく。
そして苦しげに開けられた鱗のない柔らかな口の中へ剣を突き入れようとアランが剣を引き付けたその時。
ラグは、開かれたリザードマンの口の奥にちらつく炎の光を見た。
背筋を冷たいものが駆け抜け、自らが相対するリザードマンのことも忘れ、叫ぶ。
「違うアラン!!息撃だ!!!!」
アランがハッとした表情をし、全力で身を投げ出すよりほんの少し早く。
炎弾がリザードマンの口から撃ち出された。
繁殖期にリザードマンと遭遇した場合、最も気を付けられなければならないのは番かどうかである。
通常のリザードマンは鋭い爪や牙を持ち硬い鱗によって攻撃の通らないやっかいな魔物だが、ある程度の実力があれば倒すのはそう難しくない。
繁殖期のリザードマンは身体能力が上がるがEランクの魔物を倒せるほどの実力者なら危険度はそう変わらない。
だが、そこに番であるという事実が加わるだけで、その危険度は跳ね上がる。
繁殖期におけるリザードマンの番いはオスの個体のみ体内の器官の一部が変質する。
変質した器官は敵に出会うと高熱を蓄え始め、命の危険に晒された時に自らの命と引き換えに莫大なエネルギーを内包する炎弾を撃ちだす。
その威力は魔力で強化された軍の基地の防壁にすらダメージを与えるほどであり、まともにくらえばCランクの魔物と渡り合うことのできる魔法使いですらただではすまない。
炎弾が撃ちだされた時、ラグの目は何が起こったか認識することができなかった。
すぐ脇を凄まじい勢いで何かが通過したあと、爆風によりラグの体が吹き飛ばされた。
宙を舞う体の後ろから鼓膜を破らんばかりの轟音が叩きつけられる。
地面の方向すらわからなくなって木の葉のように飛ばされるラグは木の枝や木そのものいくつもを薙ぎ倒してようやく止まった。
自分が地面に倒れていることをようやく認識できるようになると、今度は全身が激痛に襲われた。
「がっ、ああああぁぁぁああ!?」
全身をかきむしりのたうち回るラグ。
ややあって激痛によるパニックがおさまると、酸素を求め荒い呼吸を繰り返す体を静めながら、あたりを見渡した。
「(風景が……一変してるな……)」
ついさっきまで戦いの場になっていた場所を中心として、周囲の木が薙ぎ倒され、地面は抉れ、焼け野はらのように赤茶けた地面が露出していた。
ぎこちなく起き上がると再び体に激痛が走る。
あちこちの骨が折れているようだ。
内臓にもダメージがあるかもしれない。
「(アランは……アランはどうなった……?)」
アランは炎弾が撃ちだされた時に目の前にいた。
彼は無事だろうか。
のろのろといまだ煙の燻る方へと歩く。
中心近くまで来たとき、べちゃり、とラグの頭に何かが落ちてきた。
同じように次から次へと落ちてくる。
それは原型を留めていない肉塊だった。
「(ま、さか……)」
最悪の想像に背筋が凍る。
だが、降ってきた肉塊の1つに鱗がついているのを見つけた。
リザードマンの息撃は撃ちだす際に自らの体を爆散させる自爆技だ。
これはアランではなく息撃を放ったリザードマンのものだろう。
半ばそう決めつけさらにあたりを見回すと離れたところでひときわ多い煙を上げる物体を見つけた。
もしやと思い、いうことを聞かない体を引きずり近づくと、そこには人間のような何かが転がっていた。
胴にあたる部分は真っ黒な消し炭におおわれており、そのしたにどす黒い色の肉が見える。
その胴を庇ったであろう腕にあたる部分は肉まで炭化している。
右腕は根本から千切れていた。
下半身は焼け焦げた肉の上を真っ赤な血が流れ落ち地面の熱によってすぐさま蒸発し鉄と油の臭いを周辺に振り撒く。
そして、その人間の顔であった場所は…………。
「うっ、げほっ、おえっ!」
ラグは耐えきれず胃の中のものをぶちまける。
空っぽになるまで戻したあとは、両の瞳から液体が流れ出した。
「アラン…………こんな…………うっ、くっ……」
膝から崩れ落ち、呆然とアランだったものを見つめる。
出会ったばかりだが、仲間思いの気持ちのいい少年だった。
スケルトンしか連れていない召喚士のラグにも良くしてくれた。
それなのに……。
だが、ラグが悲しみに浸る間もなく、背後から土を踏む音が聞こえた。
振り返ると、ボロボロの体のなかに目を怒らせ、折れた牙を剥き出し唸る亜人がいた。
伴侶を殺された怒りを湛え、殺意を膨れ上がらせるその視線を受け、ラグは乾いた笑みを浮かべた。
「僕が憎いかい。それはそうだろうね」
ゆっくりと立ち上がる。
「長く連れ添った番を殺されたんだ。出会ったばかりの僕とアランとは違う」
腰の剣を引き抜く。
「別に仇討ちってわけじゃない。僕はこんなところで死ぬわけにはいかないだけさ」
軋み悲鳴をあげる体に鞭打ち、剣を構える。
「目の前で誰が死んだとしても、その屍を踏み越えて僕は生きる」
殺意を放つ目を真っ直ぐに見つめる。
「僕は、デオルフ家を再興させるためにここにきたんだから」
そして前へと、一歩を踏み出す。
咆哮をあげ、リザードマンが襲いくる。
ラグは誰かと同じようにその口の中へ狙いを定め、剣を引き付けた。
二つの影が交錯しようとした刹那。
リザードマンの肉体が巨大な槍によって肉片すら残さず霧散した。
「……………………、」
剣を引き付けた姿勢のまま固まるラグに、声がかけられる。
「無事ですか、ラグ様」
自分の体よりはるかに大きな騎士槍を持ったデュランが動かないラグを気遣う。
無言で剣をおろし鞘に納めたラグに、今度はデュランの後ろから現れたゲイルが声をかけた。
「おい、こりゃどういう状況だ?音響弾の音が聞こえたんで駆け付けたらさっきの爆発だ。いったい何が……」
と、そこまで言ったところでラグの後ろにあるモノに気づく。
「ああ……なるほどな。やっぱありゃリザードマンの息撃か。お前一人じゃリザードマンの番に敵うはずねえとは思っちゃいたが……」
そういってアランだったモノに近づく。
「……この呪法はレインダート家の跡取りか。こんなになっても死ねねえとは、悲惨なもんだ」
ゲイルがぼそりと呟いた言葉に反応しラグが顔をあげた。
そんなラグに、ゲイルは釘をさすように言う。
「変な希望を持つんじゃねえぞ。レインダートみてえに軍の前線で戦うことを生業とする貴族はありったけの魔法や呪いで死霊系並みのしぶとさを持ってるが、そりゃただ死なねえってだけの話だ。ここまでやられちゃもう普通の人間の生活は送れねえ。軍人だったら知識と経験を買われて教師だのなんだのになれる可能性が残るってだけだ」
遠くから大勢の人間が近づいてくる気配を感じる。
どうやら、ようやく救援が到着したようだ。
それを見つめて、他人事のようにゲイルは言った。
「ま、軍人にすらなってねえひよっこが、どうなるかは知ったこっちゃねえがな」
到着した教師たちに助けられ、バラバラになったスルトの残骸を回収し森の外へと出ることができたラグたち。
アランは担架に乗せられ、何処かへ運ばれていった。
ぼんやりとしたまま治療を受け、教師たちの質問の答えていたラグの目に、取り巻きに囲まれた一人の生徒が映る。
その瞬間、ラグは目の前の教師たちを突き飛ばしながらその生徒へ掴みかかった。
「うおっ、なにすんだいきなり!って、あれ、お前あの落ちこぼれじゃねえか。生きてたのかよ」
「キオタァ…………!!」
「なんだその顔。ゴブリンみたいになってんじゃん!マジウケる!」
ギリ、と歯を噛みしめラグは視線で射殺さんばかりにキオタを睨み付ける。
「なんで逃げた!!」
「リザードマンの番と戦うとかバカがやることだろうが。どうせお前もアラン見捨てて逃げ出してきたんだろ?」
「ふざけるな!!僕はお前とは違う!!」
「なに熱くなってんだよ。あーウゼェ」
「お前だっていつか軍に入って魔物と戦うだろ!!そのときも逃げ出すのか!!」
「はぁ?なに言ってんだよ。俺はお前と違って優秀なんだ。魔物と戦うとか頭ワリー真似するわけねえだろ」
「は…………?」
「俺はヘールバズ家の次男だぞ?そんな下積みしなくても中央勤務くらい余裕だっての。てか、お前みたいな落ちこぼれでもない限りこの学園にいる奴らはみんなそうだ」
「中央勤務の方たちは有事の際に出動する軍の主力じゃないか。前線での実践経験もないのになれるわけないだろ」
「ぷっ、おいおい笑わせんなよ。まさかそれ本気で言ってるわけじゃないよな?」
「…………?」
「はっ!マジかよコイツ!」
キオタの顔に明らかな侮蔑の表情が浮かぶ。
「あんなもん一般人から成り上がってこようとする身の程知らずどもを前線に送るための方便だろーが!俺たち貴族はそんな危険なことしなくてもいーんだよ!」
「なっ!そんな馬鹿な!」
「馬鹿はお前だろ」
キオタが取り巻きと一緒になって嘲笑う。
ラグは衝撃を受けながらそれでも食い下がる。
「も、もし仮にそんな不正が罷り通ったとしても、いざっていう時に国を守れないじゃないか!」
「全く、なに熱血してんだよ。そんなんは一般人上がりのクズどもに任せときゃいいじゃねえか」
「自分で国を守ろうっていう、騎士の末裔としての誇りはないのか……!?」
「誇りだぁ!?マジかよ、まだそんな古臭いこと言う奴いたのか!いったいどこの家のもんだよお前!」
「デオルフ家だ!僕は騎士の末裔としてデオルフ家を誇りに思ってる!馬鹿にするな!」
「デオルフだぁ?」
と、それまでラグを馬鹿にしながらも相手をしていたキオタの表情が急速に冷めていった。
まるで興味を失ったかのように踵を返す。
「マジかよやってらんねー。あーあ、あんなクソみてえなとこの人間と話しちまったよ。落ちこぼれの家からは落ちこぼれしか生まれねーのな。マジで今日厄日だわ」
「おいっ、待て!」
ラグがキオタの肩を掴む。
だが、キオタは苛立たしげに振り払った。
「おい、デオルフのゴミクズなんかが俺に触るんじゃねえよ。そもそも、いつまでも貴族の位にしがみついてる乞食みてえな分際のくせになんで学園にいんだよ。アランが気の毒だぜ、こんなカスのために人生台無しになっちまったんだから。まぁ、中流貴族のくせに正義漢ぶって気に入らねえやつだったし、俺に生意気なことばっか言ってたから別に構いやしねえけどな。いやぁどんな顔して殺されたんだろうなアイツ。鼻水垂らして命乞いでもしたんじゃね? でもあの人体模型みたいになったアランはマジ爆笑もんだった――――」
耐えきれなかった。
デオルフ家を馬鹿にされるのも、アランを貶められるのも。
だから殴った。
殴って殴って殴って殴って殴りまくった。
気がつくとラグはキオタの取り巻きに囲まれ取り押さえられていた。
目の前で顔を真っ赤に腫らしたキオタが怒り狂っている。
「テメエ、覚悟はできてんだろうな……!」
怒りをあらわにするキオタを前に、ラグは薄く笑って言った。
「なんだその顔。ゴブリンみたいになってんじゃん。マジウケる」
その言葉を聞いたキオタは剣の柄に手をかけた。
「そこまでだ」
しかし、そこに第三者の声が割り込む。
ゲイルは二人の周囲を囲んでいた取り巻きを蹴散しラグを開放させると、顎をしゃくった。
「おいラグ、いきなり飛び出したもんだから先生たちが困ってたぞ。さっさと行ってこい」
「……わかった」
立ち上がり、キオタには目もくれずに去っていくラグ。
キオタは邪魔をしたゲイルを睨み付ける。
「なんのつもりだ。なんであんな落ちこぼれをかばう」
「別にかばったつもりもねえよ。お前の言う通りあいつはスケルトンしか召喚できねえような落ちこぼれだ」
ただな、と前置きしてゲイルは冷ややかな目をキオタに向ける。
「少なくともアイツは強くなる努力をして自分を磨くことは怠らなかった。弱いくせに努力もしねえ、親の七光りで威張り腐ってるような奴らよりかはマシだと思うぜ」
その言葉に周囲の取り巻きたちが気色ばむ。
キオタも青筋をたてて再び剣の柄に手をかける。
「おい……そりゃ誰のことを言ってんだ……?」
「自覚もないだなんて救いようがねえな」
「てめえっ!」
「やるか?」
槍を携えたデュランが静かに前へ出る。
それだけでキオタたちは目に見えて怯んだ。
「どうした。腰がひけてるぞ」
「……ヘールバズに喧嘩売ってただで済むと思ってんのか?」
「はっ、そりゃこっちの台詞だチビデブ。政治屋のヘールバズがロッテンハイムとやりあってどうにかなると本気で思ってんのか?」
「……覚えとけよ。いつか必ず後悔させてやる」
「おととい来やがれ脛かじり野郎」
捨て台詞とともに去っていくキオタたちをゲイルは歯牙にもかけず見送った。
その日の夜。
治療を受けてベッドに横たわるラグは天井を見つめて思考する。
「(確かに僕は落ちこぼれだ。スケルトンを召喚したという事実だけでそう断じられても文句は言えない。でも、だからどうした。僕の評価でデオルフ家の価値の全部が決まるわけじゃないし、落ちこぼれだからって再興を諦める理由になんかならない)」
今日一日のことを思いだし。
拳を握りしめる。
「(今までの僕は甘かった。みんながみんな国のために戦おうと思ってるだなんて幻想を抱いてた。あんなやつらに任せていたらこの国は終わる。どんなにみっともなくとも、いくら蔑まれようとも、上へいって、家を再興させる。やってやる。ああ、やってやるさ。デオルフ家の名と僕自身の騎士の末裔としての誇りにかけて)」
静かな闘志を胸に、ラグは決意を新たにするのだった。




