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崖っぷちの魔法使い  作者: 地雷ブルー
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遭遇

危険度ランクは1段階上がるごとにレベルが20~30くらい上がるものと思っていただければ。

「全く、基礎実習しか受けてないのに無茶なことばっかりしやがって……。いつか死んじまうぞ、キオタの野郎」


キオタのあとを追いかけながらつぶやいたアランの言葉にラグが疑問の声をあげた。


「基礎実習?」


「ああ、あいつあんまり真面目に訓練とかしねえから、応用実習とってねえんだよ。いくら長男じゃないからってなに考えてんだか……」


「いや、そうじゃなくて、基礎実習とか応用実習とかってなんの事?」


「は?」


アランは思わずといったように足を止め、信じられないものを見るような目でラグを見た。


「お前まさか、あれだけできるのに応用実習とってねえのか?」


「とるとらない以前になんなのかわからない。今やってるのとは違うの?」


「これは全員必修の基礎実習だろうが。マジかお前……」


「そんなこと言われても……今まで召喚士のことばっかりだったから……」


「それにしたって、ものを知らなすぎだ。さてはお前、ぼっちだな?」


「うっ」


召喚士はもともと普通の魔法使いたちとは違う特殊な扱いを受けているので友人ができにくいといえばその通りなのだが、ラグは普段の授業を一緒に受けているクラスメイトたちとも距離をおいていた。


ラグのように没落した貴族は名門ばかりが揃うこの学園で下に見られることが非常に多い。


対等に扱ってくれるのはアランのようにごく少数で一握りの者たちだけだ。


なので、煩わしい人間関係を避けるためにあえて距離をおいている節があった。


言葉につまったラグに、アランはやれやれといった表情になる。


「しょうがねえな、帰ったら色々と教えてやるよ」


「え、いいの?」


「才能が腐ってくのを見るのは嫌いなんだよ。もったいないことこの上ない」


「ありがとう……助かるよ」


「お前もお前で大概だよな……」


アランが疲れたような顔をした時。


森の奥から聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえてきた。


「っ!アラン!」


「ああ!急ぐぞ!」


アランが声の方向へ駆け出す。


ラグもスルトを伴ってあとにつづく。


間もなく、尻餅をついて座り込むキオタの姿が見えた。


その目の前には今にも襲いかかろうとしている魔物。


「スルト!」


命令を受けてスルトが魔物に突っ込む。


突然の闖入者を警戒し魔物は唸り声をあげて後退した。


スルトがキオタと魔物の間に割り込み、魔物と睨み合う。


その間にアランとラグはキオタに駆け寄った。


「キオタ!無事か!?」


アランがキオタを助け起こすが、キオタは視線を魔物に釘付けにしたまま、アランの方を見もしない。


ラグも改めて魔物に目を向けた。


全身を爬虫類を思わせる鱗で覆い、鋭い爪と牙を剥き出しにしてこちらを威嚇している。


リザードマン。


ある程度の知性を持つ亜人系の下位魔物だ。


亜人系の魔物は二足歩行で社会性を持ち、人間の言葉を理解できる、魔物の中でも知性が高い系統だが、リザードマンは人間を敵視しており出会ったら問答無用で襲いかかってくる。


いや、そもそも魔物はほとんどが人間を敵視している。




魔物は、そのほとんどが世界の崩壊に際し、崩れた世界の欠片より生まれた存在だ。


世界を憎み、世界を壊すために活動する世界の敵。


【大崩界】から時が経ち、ある程度この世界に適応してきたものの、神に造られた人間には変わらず強烈な敵意を示す。





リザードマンは亜人系の中でこそ下位に属するが、ザーダンやゴブリンなどとは比べ物にならないほどの危険度を持つ。


「ちっ、リザードマンなんかこの森にいんのかよ。聞いてねえぞ」


アランも余裕のない表情で舌打ちする。


リザードマンから目をそらさないままラグに声をかけてきた。


「ラグ、お前どのランクまでいける?」


「Gは問題ない。Fも油断しなければ。でも、Eはちょっと厳しいかな……」


魔物はその危険度によってS~Gの8段階でランク付けされる。


ザーダンやホブゴブリンたちは最低のGランクだが、リザードマンはEランクだ。


ランクが1段階上がるだけで比べ物にならないほど強さが違うので、ザーダンやゴブリンたちとは別次元の強さと思っていい。


「俺が正面からあたる。ラグは従魔と左から、キオタは右から仕掛けてくれ」


それでも、アランは勝てると思っているようだ。


一番危険な役目を自ら引き受けるという。


「大丈夫?」


「俺の準備が万全ならEランクくらい一人でも余裕だ。ただ、今は装備がちょっとな。まぁ、三人でかかれば問題ない」


その落ち着きようから、ただの強がりではないとわかる。


「わかった。頼むよ」


「よし、じゃあ1、2の3で仕掛けるぞ」


アランがタイミングをはかる。


そして息を大きく吸い込んでカウントを始めようとした時だった。



突然、スルトの体がバラバラに吹き飛ばされた。



「なっ…………!」



現れたのは元からいた方より一回り大きいもう一体のリザードマン。


腕の一振りでスルトを戦闘不能に追い込んだそれは、敵意のこもった視線でラグたちを睨み付ける。


「ま、まさか……これって……!」


「ああ、間違いねぇ……(つがい)だ」


この時期、リザードマンは繁殖期に入っている。


他の生物にもれず、リザードマンも繁殖期は非常に好戦的になり、さらには身体能力も上がる。


だが、リザードマンと繁殖期に戦闘する場合、最もやっかいなのはそんなことではない。


「アラン、どうする」


「どうするつってもな。みすみす逃がしてくれるわけもなし、戦うにしてもおそらく連携をとってくるだろうからさっきまでとは状況が違う。それに今は繁殖期だ。番いってことはアレをやってくるってことだ。俺たちの基礎実習用の装備なんかじゃまず勝ち目はねえ」


「なら……」


「助けがくるまで時間を稼ぐしかねえな」


そういってアランは懐から握りこぶし大の玉を取り出した。


その玉は魔力を込めると大きな音とともに破裂する。


基礎実習において不測の事態が起こった際に使用して教師たちに異常を知らせるためのものだ。


ただし、これはあくまで浅い場所での使用を前提としており、ここまで深くまで入ってきてしまっては効果があるかはわからない。


もしあったとしても場所の特定には時間がかかるだろう。


それまでは、ラグたちだけで耐えきらねばならない。


「やるっきゃねえ。ラグ、キオタ、腹括れ」


アランが覚悟を促す。


ラグも決然として応える。


「ここで死ぬわけにはいかないからね。何としても生き残る」


「よし、いい覚悟だ。キオタもいいな?」


しかし、キオタからは反応がない。


「キオタ?」


怪訝に思ったアランがキオタを見る。


キオタは最初から全く動かないままリザードマンを見ていたが、やがてぽつりと呟いた。


「…………ふざけんな」


「は?」


「ふざけんなよ!繁殖期のリザードマンの番になんか勝てるわけねえだろ!自殺志願者かよお前ら!」


「なっ!」


「んだとっ!?元はと言えばてめえが――!」


「うるせえ!俺はヘールバズ家の次男だぞ!お前らみてえな下級貴族が俺を助けんのは当たり前だろうが!」


言うなりキオタは背を向けて駆け出してしまう。


「待てキオタ!どこへ行く!?」


「逃げるに決まってんだろ!お前らはしっかりそこで足止めしとけ!」


あっという間に姿が見えなくなってしまうキオタ。


そこに一切の躊躇はなかった。


それを見たラグは愕然とする。


「あんなのが……二大貴族ヘールバズ家の次男だって……!?」


「余所見するなラグ!!来るぞ!!」


キオタの動きに触発され、2体のリザードマンたちが突進してきた。


「くそっ!!」


キオタがいなくなった今、リザードマン2体に勝利するのはもちろん、時間稼ぎをするのさえ難しくなった。


だが、こんなところで死ぬわけにはいかない。


ラグの双肩にはデオルフ家の命運がかかっているのだから。




活性魔法を発動させ、アランとともにリザードマンを迎え撃つ。


生き残りをかけた戦いの火蓋が切って落とされた。

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