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stageF『妖精大発生(前編)』

 これは本紙記者が関わった異変の一部始終である


 幻想郷のバランスを崩しかねない出来事ではあったが、二代目の活躍により無事収束した


 まあ、当然と言えば当然ですかね


「新聞記者やってる身として、今の幻想郷はあまりおもしろくないですね……巫女は今日も開店休業ですか」


 博麗神社の鳥居の下、文は暇そうに空を見上げる。


 これだけ幻想郷には多種多様な妖怪がいるのだから、事件や異変は毎日起きてもおかしくないはずだ。


 しかし今のところ、妖怪達にそういった動きはない。


 原因は主に今境内の掃除をしている紅白にあった。


 博麗霊稀、先代博麗霊緋から巫女を継いだ二代目博麗の巫女。


 霊緋と比べて霊稀の方が心身共に強いのもあるが、その能力の影響も大きい。


「霊力を干渉させる程度の能力ですか。自身の霊力を神社から放っていれば妖怪は騒ぎを起こす気にすらならない」


「それでも騒ぎを起こすのはこの烏か?」


「あやややや、いつからそこに……」


「幻想郷が暇だってつぶやいてた時からだ」


 突然後ろから声をかけられて振り向くと、そこにはさっきまで掃除をしていたはずの霊稀が立っていた。


 突然の出来事に驚く文だったが、とっさにカメラを取り出してシャッターを切る。


「く……私としたことが不覚です。しかし、写真は撮れたので今日のところは引き分け、といったところですね」


「写ってたらな」


「え?」


 霊稀は呆れた表情で文のカメラを指差す。


 わけがわからず首を傾げた文だったが、カメラを見回してようやく気付いた。


 レンズのカバーを外し忘れているのだ。


「なん……だと……さっき確かに外したはずなのに!」


「隙がありすぎだ。もう一度ふさぎ直させてもらった」


 それを聞いて文は愕然とした。


 スピードにかけては幻想郷一を自負しているだけに非常に痛い一敗だ。


 膝をついてひどく落ち込む。


「ふ、不覚ぅ……」


「もっと精進するんだな」


 霊稀は置きっぱなしにしていた箒を拾い上げ、また境内の掃除に戻る。


 春先のほんのりと暖かい風が抜けていく神社は、今日も誰も来ない。


 桜の開花はまだ先だし、当分の間は参拝客は訪れないだろう。


 ようやく立ち上がった文はカメラを収めると、境内を植わっている桜の木にそって歩き出した。


「ところで霊稀さん」


「なんだ?」


「本当に何もなくて新聞が書けないのですが」


「そうか」


「つ、冷たいなぁ」


 あの頃はまだ可愛げがあったのにと付け足そうとしたが、そこで言葉を切った。


 彼女は彼女なりに頑張っているのだ。


「そろそろお茶にするか。烏、お前もいるか?」


「だから烏じゃなくて文です! 清く正しい射命丸文! お茶はもらいますけど……」









「そういえば霊稀さん、聞いたことあります? 最近妖精の大量発生がけっこう問題になってるんですよ」


 文は出された濃いめの緑茶を飲み干すと懐からメモ帳を取り出した。


 普通なら妖精は人間、妖怪どちらから見てもさほど脅威にはならない。


 しかし数が増えているとあれば話は別だ。


 何が原因かは不明だが、良くないことの前触れであるのは火を見るよりも明らかだ。


 しかし霊稀はお茶を飲み終わると、今度は愛用の日本刀の手入れを始めてしまった。


「気にならないんですか? どう見ても異変ですよ異変!」


「あまり気にはならないな」


「なんで!」


「本当に異変と呼べるレベルなら真っ先に私のところに依頼が来るからだ」


「ああ、そういえばそうか」


「それに、ここにはほとんど来てないじゃないか」


 そう言って襖を開け放つ霊稀。


 しかし次の瞬間、二人は異常な光景を目にすることになる。


 さっきまで咲いてなかったはずの桜が満開なのだ。


「春ですよー、はーるでーすよー!」


 毎年のことで聞き慣れた春告げ精の声。


 だが今年は何かが違う。


 声が若干ズレて聞こえる。


 それもそのはず、よく見ると春告げ精が3人いるのだ。


「な、なんだこれは……」


 思わず後ずさる霊稀。


「おお、春告げ三姉妹ですか、なかなか珍しい光景ですよ!」


 それに対して文は早速カメラを取り出して撮影を始める。


 二人の様子をしばらく見ていた春告げ精達は円陣を組んで何やら相談し始めた。


「あの二人は春、ですか?」


「ん~違うと思う」


「きっと一生春が来ないタイプの人だよ」


「なるほど~!」


「誰に春が来ないですって?」


 突然割り込んできた声に春告げ精達は振り向く。


 そこには営業スマイルを湛えた文が箒を構えてスタンバイしていた。


「私にだっていつかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 力任せに箒を振り回す文。


 春告げ精達は箒をさっとかわすと、どこかへと飛んで行ってしまう。


「箒でちゃんばらをするんじゃない。箒は掃除道具だぞ」


 箒を振り回して暴れる文の頭を日本刀の鞘で小突く霊稀。


 ようやく我に返った文はその場にへたりこむと、地面を叩いた。


「う~」


「何をそんなに怒ってるのか知らないが、また上がるんなら土を落としてからにしてくれよ」


「霊稀さんっ!」


「な、なに?」


 文は勢いよく立ち上がると霊稀の肩を掴んだ。


「行きましょう、これは異変ですよ、巫女の仕事ですよ!」


「はぁ?」


「異変を解決して私達の春を取り戻しに行くんです!」


「いや、今まさに春なんだが」


「それは季節の春でしょ! そうじゃなくて生理的な意味での春を取り戻して明るい人生を!」


「いや、興味ない」


 回れ右して部屋に戻ろうとする霊稀。


 文はあわてて霊稀の服の衿を掴むと、無理矢理引っ張って引きずった。


「あなたそれでも女ですか! 一緒に行きますよ!」


「なんか話の趣旨が変わってるような……」









「さて、メンツはこんな感じで行きますか」


 文は軽く頷くとメモ帳を懐に戻した。


「で、なんで私まで? 割と忙しいんだけど」


 竹林から無理矢理引っ張り出されたてゐはしかめっつらで文を睨む。


 霊稀も事情を説明したいのはやまやまだが、イマイチ今の状況を理解出来てない。


「いいですかてゐさん。私達に足りないもの、それは!

情熱・思想・理念・頭脳・気品・優雅さ・勤勉さ!そしてなによりもォォォオオオオッ! 春が足りないッ!」


「…………。」


「あと自機キャラ作品と人気投票の票、この二次小説(?)での登場回数も足りてない」


「あんた色々出てるじゃん。というかそういうメタい話はやめた方が……」


「霊稀さんもなんか言ってください!」


 やっぱり話の中身がわからない霊稀は黙っていたが、いきなり文に話を振られてますます困惑する。


「ああ、うん。いいんじゃないかな、それで」


「それ本気で言ってる?」


 てゐが横から霊稀を小突く。


「確かにあんたは二次創作キャラだから人気投票云々って話は興味ないかもしれないけどね、本家キャラからすればけっこう大事な話だよ」


「じゃあなんて返せばよかったんだ?」


「ん…………ん~自分で考えて」


 ちょっと考えて何も思い浮かばなかったのかてゐはそっぽを向いた。


 思えばそういうところは最初に会ってからまったく変わってない。


「何やってんですか! 行きますよ二人とも」


 ここは素直に文に従った方が良さそうだ。


 それを察すると、二人は文の後ろを追いかけた。








「まずは妖精の発生源ですよね。あんまり知られてないですけど」


 いざ調査を開始したはいいが、三人はいきなり壁にぶつかった。


「巫女なら何かわかるんじゃないの?」


 てゐが霊稀に話を振るも、霊稀は首を横に振った。


 そもそもこんな異変は今まで一度も起きたことがないのだ。


「知ってそうな稗田は風邪で寝込んでて会えなかったし、自分達の足で調べるしかないだろ」


 霊稀は笠をかぶりなおすと、ため息をついた。


 今三人は妖精が一番多く出没すると言われる霧の湖を訪れている。


 が、特に変わったところは見受けられず、妖精も普段通りの数程度しか見ない。


「おかしいですね、記者の勘はこの辺りが怪しいと言ってるのですが」


「じゃあお前の勘は当てにはならないということだな」


「霊稀さん、もうちょっと何かに包んで言ってくださいよ。そんなストレートな……」


「役立たず」


「もっとひどくなったぁ!」


 てゐは二人のやり取りを黙って聞いてると、やれやれといったように首を振る。


 その時だった。


 てゐの背後から飛び上がった影が一番目立つ服装をしている霊稀に向かったのだ。


「っ!」


 とっさに文を突き飛ばした霊稀は刀を抜いてそれに合わせる。


「お前が犯人だな! あたいの仲間に何をした!」


 水色の服をまとった妖精は一度離れると、氷で剣を作り出して構えた。


「なんだ氷精ですか、今はかまって……」


「氷精じゃない、チルノだぁ!」


 チルノは文の言葉を遮ると、剣を振り上げて霊稀に接近する。


 相手が氷精とわかった以上、下手に手を出すとやっかいだ。


 妖精の中でも特異的な力を持つチルノは他の妖精を束ねるリーダー、いなくなると妖精の統制が取れなくなる。


 霊稀はチルノの剣を蹴り上げると、返す刃で首を殴った。


「ぐ……うぅ」


「峰打ちだ。しばらく眠ってもらうぞ」


 倒れるチルノを支えると、肩を担いで木の下に寝かせた。


「てゐ、薬草を頼んでいいか? 手加減が足りなかった」


 チルノの横にしゃがみ込む霊稀。


 よく見るとチルノの首、刀が当たった部分が赤くはれている。


「…………。わかった、次からはちゃんと気をつけなよ」








「ん……んん」


「あ、霊稀さん、てゐさん。目を覚ましましたよ!」


「あれ? あたいは……えっと、何してたんだっけ」


 状況が把握出来ていないチルノはまだ痛む首の後ろをさすると、周りを見渡した。


 天狗と妖怪兎、そして……。


「お、思い出したぞ! 確かあたいはあいつに!」


「落ち着きなよ氷精。あんな格好してるけどあれは博麗の巫女、あんたの言ってるやつとは違うよ」


 てゐは無理矢理立ち上がろうとするチルノを押さえ付けると、文と二人でわけを説明した。


「するとかくかくしかじか」


「まるまるうまうまなわけね。それならそうと先に言ってくれればよかったのに」


「あんたが先に手ぇ出してきたんでしょうが」


 てゐはどこか不機嫌そうに返す。


 実はさっきチルノが飛び出した瞬間、押されて顔から転んだのだ。


「で、チルノさん。あなたはどこまで情報を掴んでるんですか?」


「今回の異変の少し前、変な三人組がこの辺りをうろうろしてたんだ」


「三人組か。それで私達を襲ったんだな」


 霊稀は刀を外すと、てゐのそばに座った。


「他に変わった特徴はなかったか? どんなことでもいい」


「このあたりでは見ないやつらだったよ。妖精達を集めてた」


「集めてた?」


「わからない。でもそれっきりその妖精達は姿を消したんだ」


「姿を消した、か。そいつらが今噂になっている増えた妖精だな」


 チルノは黙って頷く。


 霊稀もチルノの様子を見て心境を察すると、それ以上は何も聞かなかった。


 ふと、霊稀は顔を上げると、湖の先に目をこらす。


 霧が出ているせいで何も見えないが、霊稀はふっと口元を緩めるとまた俯いた。








「ばれたかな……」


「だ、大丈夫だよ」


「ねぇ、もうやめた方がよくない? 巫女も動き出したし」


「なら巫女を倒しちゃおう。あの作戦をやるよ!」



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